ロッ○リアという名の、店がある。

 きらめき高校の南に位置する大きなチェーン店だ。

 きら校の住民の中には「呪われた店」と呼ぶものもいる。

 確かにこの店には、呪われたとしか思えないシェーキがいくつかある。
 雪○大福、超バ○ラ、ス○イーティ、etc...

 そして今ここに、新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。



妖しいシェーキが残ってないので普通のシェーキSS(笑)

「反転のス○ベリーシェーキ」




 気がつくと公はロッ○リアの制服を着せられてカウンターに立ちつくしていた。他の店員達はいささか青ざめながら、ちらちらとこちらの方をうかがっている。
『主人君、聞こえるわね』
 公の耳につけられたイヤホンから、結奈の声が流れてくる。彼女はといえば店長室でモニターカメラを使って店内を監視しているのである。
「ひ、紐緒さん!一体何を始めるつもりなんですか!」
『安心しなさい、新しいシェーキの実験よ。今回はスト○ベリーシェーキよ』
「なんか伏せ字にする意味がまったくないような…」
『今日は複数のサンプルを取るため敢えて一般的なシェーキを選んだのよ。ああ、燃えてきたわ!』
 結奈がロッ○リアで怪しげな実験をしているという噂は聞いたことがあったが、まさか自分がその片棒を担がされることになろうとは。良心の呵責にさいなまれる公に、結奈は非情に命令を下すのだった。
『シェーキは全部で7本。効果をより良く確かめるためスト○ベリーシェーキは知り合いに飲ませること。それ以外の客なら他のシェーキを飲ませなさい。わかったわね』
「こ、効果って…一体どんな…」
『秘密よ。それじゃしっかりやりなさい』
「ひ、紐緒さん!?ちょっとっ!」
 それで通信は切れてしまった。どうやら自分はこれから罪もない級友たちに犠牲者の役目を押しつけなくてはならないらしい。今までもいろいろとやばげな事をしてきたが、ついに修羅の道へと落ちるか自分…
「(かくなる上は俺の知り合いが来ませんように…。伊集院なら来てもいいけど…)」
 しかし運命とは非情なもので、最初に彼の所へ来た客は、親友の親友とその親友という最悪の取り合わせであった。
「あれっ、公くんじゃん。こんな所でバイトしてたんだー」
「まぁ主人さん、働き者ですねぇ」
「あ、朝日奈さんに古式さんっ!何故ここヘッ!」
「なぜって…暑いからシェーキでも飲もうかなーって」
「(うわあああああっ!!)」
 よりによって自分は女の子を実験台へと供しようというのだ!こんな事が許されるのだろうか!?
「す、ス○イーティーなんてどうかなっ!超バ○ラも超って感じだし!」
「超って感じって何よ…」
『主人君、死にたい?』
「じ、実は今日のスト○ベリーシェーキはとれたてのイチゴを使っていておすすめ!」
「ふーん、そうなんだ。じゃあゆかりもそれにする?」
「そうですねぇ」
「(…俺も被害者なんだ…2人ならわかってくれるよね…)」
 公はのろのろと店の奥へ入ると、震える手でクーラーボックスから2つのシェーキを取り出す。一見なんの変哲もないピンクの液体だが、その中身は結奈の手による恐るべき仕掛けが隠されているのだ。
「お、お待たせいたしましたぁ」
「知り合いだからまけて」
「206円になりまぁす」
「けち!」
 シェーキを手にした夕子とゆかりは、カウンターに近い一階席に腰を下ろす。いっそ自分の目に見えないところで飲んでくれれば罪悪感も少なくてすむのだが…。
「それにしても、今日は暑いですねぇ」
「ほんと、暑いよね。シェーキでも飲まなきゃやってられないって感じ」
「(ああっ飲むなぁ〜!)」
 公の願いをよそに、2人は同時にストローに口をつけた。そして…そのまま動かなくなる。
「古式さん朝日奈さんっ!?」
 命に関わるとは聞いていなかったが、考えてみれば結奈の言葉ほどあてにならないものはない。自分はこの若さで人を殺めてしまったのだろうか?
「古式さん!しっかりしてくれええ!」
「…まあ主人さん」
 がくがくと公に揺すられてゆかりは不意に口を開く。ほっと一息つく公だったが、どうもゆかりの様子がおかしい。
「どうかなさいましたかそんなにうろたえていては万事事は上手く運びませんよ電光石火の例えの通り何事も素早く決断しなくては」
「こ、古式さん?」
「そうですわたくしは古式ゆかりでございますそれがどうかなさいましたかまぁ夕子さんそんなに呆けていては頭が腐ってしまいます」
「ん〜でもこのシェーキ超おいしいって感じだし〜〜。やっぱクーラーって涼しいからしばらくここで昼寝でもしたいみたいな〜〜」
「何をおっしゃるのですか時は金なりと言うではありませんかこんな所でのんびりしている訳には参りませんさあ出ましょうさあさあ!」
 呆然としている公の目の前で、ゆかりはほけーとしている夕子を引きずって席を立ってしまった。
「では主人さん失礼いたしますお仕事頑張ってくださいませ」
「公くん〜またね〜〜〜」
「‥‥‥‥」
 一人取り残された公の耳に、結奈からの通信が入る。
『見なさい実験は成功よ!やはり私は天才だったわ!』
「ひ、紐緒さん!あのシェーキは一体!?」
『前後を比較すればわかるでしょう、性格を反転させるシェーキよ。あれで気づかないとは愚か者よ』
 どうりでゆかりはせっかちに、夕子はのんびりとしてしまったわけである。そんなものをあっさりと作ってしまうあたり、やはり結奈は天才なのかもしれない。
「し、しかし何だってそんなシェーキを?」
『決まってるわ、あなたの頼りない性格を改善するためよ。そのためにこの紐緒結奈がこれだけ手間をかけてるんだから、せいぜい光栄に思うことね』
 つまり自分は頼りがいのある男として生まれ変わるらしい。どうせろくなものではあるまいが…。
 進むも地獄、退くも地獄。今2人に飲ませたシェーキは30分で効き目が切れるそうだが、完成版のシェーキは一生続くとの事。それを飲まされることを思うと、絶望の淵にずぶずぶと沈んでいく公だった。
「はぁ…こんな作者に書かれたばっかりに…」
「…公くん、いたの」
「げげっ詩織!」
 公の目の前には一番来てほしくない人物が冷たい視線を向けていた。なお悪いことに、後ろには愛と見晴がばつの悪そうな笑顔で立っている。
「げげって…そう、そうなの。私に対する気持ちがよーっくわかったわ」
「ち、違うんだ詩織ぃー!」
「知らないっ!プン!」
 詩織は注文を2人に任せると、カウンターから離れた席へさっさと腰を下ろしてしまった。涙にくれる公に対し、愛と見晴は慰めの声をかける。
「あの…、し、詩織ちゃんも主人さんのこと心配してるんだと思います…」
「そ、そうだよ!彼女と仲直りするためにも、早く紐緒さんと縁切った方がいいと思うな」
「(切れるならとっくに切ってます…)」
 公の心を知るはずもなく、2人は注文を選び始めた。ハンバーガーをいくつかとやはりシェ…
「こ、この暑い日にいきなりシェーキなんて飲んだら体に悪いよね!」
『主人君』
「…というのは冗談で、おすすめはスト○ベリーシェーキさっ!あはは…」
「あの…。そ、それでいいです…」
「公くん何か変」
「や、やだなぁそんな事ないさぁ。あは、あは、あはははは…」
 結局見晴たちは3人分のスト○ベリーシェーキを手に、遠くの座席へと着いてしまった。気が気でない公は、首を伸ばして様子をうかがおうとする。
「(ああっ飲まないでくれぇ〜。俺は幼馴染みまでもその手にかけようというのか…)」
「こらこら、ちゃんとお客の相手しろよな」
「Hi! 奇遇ねー公クン」
「き、清川さんに片桐さんまで!」
 今日に限ってと言うべきか、立て続けに現れる客にもはや公は覚悟を決めた。いくら結奈とて殺しはすまい。
「か、片桐さんて変なものが好きだったよね?スゥ○ーティーシェーキなんてどう?」
「Um- 好きなんだけど発売日にさんざん飲んじゃったしねー。今日はスト○ベリーにしとくわ」
「そ、そう…(ガビーン)」
「あたしはそういうのはちょっと苦手だな。ジャ○ティーでいいや」
「そ、そう!(ホッ)そうだよね、清川さんはそんな女の子っぽいの飲まないよね」
「あ、なんだよ失礼な奴だなっ!じゃああたしもスト○ベリーシェーキ!」
「(ガビガビガビーーン!!)」
 よけいな一言を言ったばかりに罪を重ねることになった公に、紐緒様からお褒めの言葉が贈られる。
『なかなかやるじゃない主人君。見直したわ』
「そんなつもりじゃなかったんですぅ〜!」
『あなた、いい悪人になるわよ』
「違うんだぁぁぁ!…はっ、詩織!」
 慌てて3人の方に視線を向けると、幸いまだシェーキには口をつけず、なにか話し込んでいるようだった。
「ね、見晴ちゃん。せめて話しかけてみようよ」
「うん…わかってはいるんだけど…」
「勇気出して、館林さん。見つめるだけなんて、悲しすぎるよ」
「うん…とりあえずシェーキ飲も」
「(はうっ!)」
 深刻な話に疲れたのか、3人は一斉にシェーキに手を伸ばした。
 
「ハーイそこの彼氏ー!私と一緒にお茶しなーい?」
「あーっ詩織ちゃんずっるーい!その人私が先に目をつけたんだからぁー」
「わたしあなた達に一目惚れしちゃったんですぅ〜」
 やおら立ち上がった3人は、いきなり手当たり次第にナンパを始める。たまたま隣の席に座っていた男子生徒3人は、突然振ってわいた幸運に唖然とするしかない。
「あ、きら校の人なんだー。私A組の藤崎っていうんだけどぉ、最近彼氏ほしいっていうかぁ」
「(詩織ぃぃぃぃぃーーーっ!)」
 公の無言の悲鳴は届かず、黄色い声を耳にした望はそちらを向いて目を丸くする。
「あ、あれ藤崎さんじゃないか?J組の館林さんと美樹原さんも…」
「Really? あらほんと、青春してるわねー」
 彩子だけは落ち着き払って、楽しそうにストローを口にくわえていた。
「あ、あの3人てあんなに積極的だったっけ?」
「フフーン、ようやく人生楽しまなきゃって気づいたみたいね。良きかな良きかな」
 ごくごくごく
「女の子がナンパなんてなんというshameless,恥知らずな!この片桐彩子断じて見逃すわけにはいかないわ!」
 口をあんぐりと開けている望の前で、彩子はどこからか竹刀を取り出すとつかつかと3人に歩み寄った。
「あなたたち!高校生なら高校生らしく清くclearな交際をしなさい!」
「なーによお、優等生ぶっちゃってさあー」
「あのぉ〜、片桐さんには関係ないと思いますぅ〜」
「そうだよねぇー、見晴の勝手ー、みたいなー」
 白い目を向ける3人に、彩子はビシリと竹刀を突き出す。
「Don't say four or five! 四の五の言うな! きら校の風紀はこの私が守ってみせるわよ!」
「ど、どーなってんだこりゃあ?」
 目をごしごしとこすった望は、とりあえず気を落ち着かせようとシェーキを口にする…
「ね、ねえ彩子ちゃん。怖い顔やめてよぉ」
「Shut up! あなたまで風紀を乱そうというの!?」
「ひどい…そんなこと言うと望泣いちゃうんだから…」
 口をグーで押さえてうるうるしている望に頭を抱える公。その体に、誰かが優しく抱きついてきた。
「ねえ公くん、バイトなんてやめて私とデートしましょ」
「しっ詩織!?」
「たまにはいいじゃない、ね?今夜は…帰りたくないな」
「あああっ嬉しいけどあとが怖いよーなっ!」
 絶体絶命のピンチに不意に公の手が引かれる。公が顔を上げると、1個のシェーキを手にした結奈が公の腕を引っ張って走り出すところだった。
「これでシェーキは完成したわ!帰るわよ主人君!」
「は、はいっ!」
「ああん紐緒さんずっるーい!」
「藤崎詩織、そこへ直れ!」
「彩子ちゃん待ってぇ…しくしく」

 しばらく走って息を切らせている公に、そっとシェーキが差し出される。喉が渇いたからという意味では…もちろんない。
「…飲まなきゃダメですか」
「何のための実験だったと思うの」
「さよなら俺の人生!」
 真剣な目で見つめる結奈の目の前で、公はごくごくとシェーキを飲み干した。完成版のスト○ベリーシェーキは公の喉を伝わり、体の隅々まで広がっていく…


 夕日差し込む理科室で、結奈とその下僕は今日も野望へ邁進する。
「さあ、新たな研究を始めるわよ!」
「ハッ!紐緒様!」
 生まれ変わった公の瞳はキラキラと結奈の姿を映しだしていた。熱を帯びた口調に、さすがに結奈は違和感を禁じ得ない。
「(ま、まあ慣れよね…)」
「どうかなさいましたか紐緒様!ご気分でも悪いのでしょうか!」
「べ、別に何でもないわ」
「左様でございますか!紐緒様はいずれ世界を支配する大切な方、下僕の私に出来ることがあれば何なりとお申し付けくださいませ!」
「‥‥そう?」
 違う、何かが違う。
 しかし結奈は天才である。失敗などということがあるはずがない。
「とりあえず新シェーキの開発を進めましょう。あなたには実験台になってもらうわよフフフ」
「ハッ、喜んで!」
「…嫌がらないの?」
「とんでもございません!紐緒様の大望の捨て石となれるなら望外の喜び、この主人公すべての身を捧げ尽くし、もって忠誠の証とする所存であります!紐緒様万歳!」
「‥‥‥‥‥」
 結奈はしばらく額を押さえていたが…渋々と立ち上がると、冷蔵庫のドアを開けた。


「うーん…」
 理科室の机に突っ伏した形で、ようやく公は目を覚ました。何かを無理矢理飲まされたような記憶はあるのだが、その後のことがはっきりしない。
「ようやく気がついたわね」
「あ、あれ?紐緒さん?スト○ベリーはどうなったんです?」
 公の質問に、向こうを向いて実験中の結奈の体がびくんと硬直する。
「あ、あんなのはもう古いわね。今度開発してるのは(ピーーー)シェーキよ」
「またシェーキですか…」
 ふと目を落とした公の視界に、ゴミ箱の中の握りつぶされた紙コップが入ってきた。どうやらロッ○リアのものらしいそのコップには、マジックで何か字が書いてあるのが見える。解…毒…シェ…
「何を見ているの!」
「ひぃっ!」
 いきなりの剣幕に公は飛び上がるが、心なしか結奈は慌てているようだった。ゴミ箱の中に足を突っ込んで数回ぐりぐりすると、公の耳を引っ張って実験場へと連れていく。
「そんなことしている暇があったら実験を手伝いなさい!まったく、これだから愚民は嫌よ」
「す、すみませんっ」
「謝る暇があったらこれを飲むのよ。今回は栄えある最初の実験台よ」
「あ、急に腹の調子が…」
「関係ないわ、飲むのよさあ」
「紐緒さんなんか目が嬉しそうです!」
「何のこと?知らないわフフ。さあ飲みなさいっ!」
「嫌だぁぁぁぁぁ!」
 公の絶叫が響きわたり、きら校にいつもの日常が戻る。さらにシェーキの呪いが解けた詩織が校門前でハリセンを手に待ち受けていることなど、彼は知る由もないのであった。

 ロッ○リアという名の、店がある。
 その行方を知るものは、未だ現れない…


<END>



 後日

「なに?清川さん」
「な、なあ。この前のシェーキ、ちょっとだけ余ってないかな」
「へ?紐緒さんが全部捨てちゃったけど…なんで?」
「あ、いや、なんでもないっ!そ、それじゃっ!」
「(?(^^;))」



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