虹野SS
境マ ネー ジャ

(c) 島本和彦先生










 ここはきらめき高校にあるサッカー部。ここで一人の熱血マネージャーが命がけでクラブに取り組んでいた!
 今回はその一部をつまんで紹介させてもらうことによって、キミもマネージャーの熱い血潮を感じてほしい!!
 すべてのマネージャーがこうだと思ってもらいたい!!




島本風だっ!そう思えっ!!





「主人くん!!この学校に国立競技場の優勝旗を置きたいとは思いませんかっ!!」
「う…うむっ!!」
 彼女の名は虹野沙希。どこにでもいるありふれたスパークするマネージャーである!
 勧誘に勧誘を重ね頭数を揃えた沙希。次の目標は、強敵と戦いそして勝つことであった!
「さっそくだけど来週の日曜、末賀高校との練習試合が決定したわ!よってこれから一週間地獄の特訓を行う!」
「な…」
「なにいっ!!」
 驚愕する一同に沙希の檄が飛ぶ。
「どうしたのっ!相手が強豪だから怖じ気づくの!?そうやって逃げ続けて一生を送るつもりっ!一番を目指さぬ若者はブタに同じよっ!!」
「そういう問題じゃない!」
「テスト期間だ、今週はぁぁっ!!」

 ‥‥‥‥‥‥‥。

「ええい、そんな小さなことを気にしてどうする!?腹の小さな奴ねっ!男ならもっと大きなことにぶつかれっ!!」
 !!!!!!
 一見…
 スポーツに携わるものとして妥協を許さない姿がそこにある。しかし
 はっきり言って部活のマネージャーが言うセリフではない!あきれてモノがいえないのは部員である!!
「無茶苦茶ですっ虹野先輩!」
「みのりちゃん…。自分のワクを越えようとしない奴に勝利はないわっ!!」
「赤点取ったらどうするんですか!部活中止ですよっ!?」
「考えてもみてっ!テスト前に練習などできるチームが全国にいくつある?おそらくはほとんどあるまい!日向小次郎率いる東邦学園すら例外ではない!ピーピー泣きながら机にかじりついている姿が目に浮かぶわ」(失礼なことを想像する奴)
「それってまともな学生のあり方だと思うんですが…」
「ようするによ!テストを捨てることでわたしたたちは誰も為しえなかった偉業を達成することになる…。
 言ってみれば既に全国の頂点に立ったも同じなのよ!!」

 全国の頂点!

 やる気をなくしかけていた部員たちも、その言葉にはさすがに火がつかざるを得なかった!
「本当なんだな虹野さん!」
「今週テストなのを忘れていて、ごまかすために言ってるんじゃないんだなっ!?」
「本当よっ!!はっきり言って歴史に名が残る!!
「そ、それじゃあ…。この歴史の教科書に、俺たちの名前がのるというのか!」
「のるっ!!」

 既に少し前までのサッカー部ではなかった…。沙希のやる気パルスに共振した部員たちは、不屈の魂を持つ戦士へと生まれ変わったのである!
「(さっさすがです虹野先輩。弱気だったみんなの心をあっという間に前向きなひとつの魂にしてしまうなんて…)」
「みんなやるわよ! わたしたちは勝つっ!!」
『ウオオオオオオオッ!!』

 その日からテスト前で早く帰る生徒を横目に、いつもの3倍の特訓が始められた!
「まだよっ!蹴ったボールに魂のすべてを込めてっ!みのりちゃん、これで何倍くらい!?」
「いつもの2.5倍です!」
「ようしあと0.5倍よっ! いくわよ立てっ!!」
「おうっ!」
 テスト期間中もそれは続いた。いやさらに激しさを増したといってもいいだろう!
 そして土曜日の放課後!!

「いよいよ明日ですね、虹野先輩」
「そうね、こうして目を閉じるだけで国立競技場が浮かぶよね…」
「でも末賀高校みたいな強豪がよく試合してくれますね」
「うん、わたしたちがお弁当作ってあげますって言ったら快く承知してくれたのよ」
「…作るんですか、全員分…」
「腕が鳴るわぁ!」(あっはっはっ)
 どんよりと落ち込むみのりに気づきもせず、大股で歩きながらグラウンドへ向かう沙希。しかし途中で同じくらい落ち込んでいる公と出会った。
「主人くん、どうしたの?」
「すまん2人とも…。4科目赤点を取ってしまったぁぁあっ!
えええっ!そ、それじゃ主人先輩試合に出られないんですかっ!」
面目ないっ!
 これだ…これが逆境だ!
 沙希の拳がぶるぶると震える!!
「見損なったわ主人くん!あなたは敵を前にして逃げ出すような根性のない男だったのっ!」
「なにーっ!?ち、ちょっと待て、だって赤点者は部活中止だって先生が…」
「そう、先生が言ったのね。それじゃ…

 先生が死ねと言ったらお前は死ぬんだなっ!!」

 !!!!!
「う…うぁぁあああっ!!」
 強烈な一撃に頭を抱えて悶絶する公!
「ふふ…ようやく自分のおかした過ちに気づいたようね。それでは引き続きダメージを与えるとしよう。
 先生が石を食えと言ったら食うのかっ!! 墨汁を飲めと言ったら飲むのかっ!!」
「うわぁぁああっ!やめてくれ、もう言わないでくれぇぇええええっ!!」
「いーや言ってやる、とことん言ってやるわっ! くつ下の臭いをかげと言ったらかぐのかっ! デートをすっぽかせと言ったらすっぽかすのかっ! 風呂場を覗けと言ったら覗くのかーーっ!」
「うわぁぁーーーーっ!!!」
「美樹原愛と結婚しろと言ったら本当に結婚するかーーーっ!!」

 ピクッ

「する…」
「え!?」
「美樹原さんとだったら…。俺は結婚するぞぉぉぉぉぉっ!!」
「しっ…しまったぁぁぁぁあっ!!」

 ここに形勢は一気に逆転した! ひとつの例えのため、今まで積み重ねていた論理(?)すべてが覆されたのである!!

「俺の言い分が勝ったようだな…。さらば虹野さん」
「くっ…」
「ど、どうするんですか虹野先輩、CFの主人先輩抜きで!」
 公は立ち去った。しかしそんな時にも沙希の目は死にはしなかった!
「ふ、ふふふ、ふふふふふ…。
 今わたしにはわかったわ!もともと彼がいては国立競技場には行けなかったのよ!だから赤点を取らざるをえなかった!大いなる宇宙の意志が彼をそうさせたんだわ!!」
「‥‥‥‥」
「わたしたちのサッカー部はついに天に目をかけられた!はーーっはっはっはっ
「で、結局どうするんですか…」
「もちろん! わたしが出るのよ」
「ええーーーっっ!!?」

 そして部のミーティング。
「無茶だっ!虹野さん!」
「無茶をせずに勝利が得られると思うのっ!」
「無茶のせいで負けそうな気がする…」
「なぜだっ!なぜそこまで自信がある!」
「ふふ、それはね…」
 死ぬどころか、ますますやる気に満ちた目で沙希は言った。
「今のわたしは昨日までとわたしが違うの。やっぱり必殺技があると身も軽いよね」
「新必殺技…?」
「そう、国電の破壊力を持つ新必殺キック…。

 虹野国電キックよ!!」

「な…なにいっ!!」
「国電の破壊力!!?」

 国電の破壊力!!!

「な、何かは知らんが…」
「新必殺技なんだなっ!?」
「新必殺技よ!それじゃわたしは秘密特訓を始めるから」
「秘密特訓かっ!!」
 ボールを抱えて出ていく沙希を、あわててみのりが追いかけた。
「そ、それじゃ先輩。お弁当作るのは無理ですね?」
「いいえ!マネージャーが一度言ったことを引っ込めるわけにはいかないわ!」
「んなっ…。どうしてそこまで無茶するんですか!」
「わたしが無茶をしているのではないわ…。しいていうなら、マネージャーの3つの条件が無茶をさせているのよ!!」
「その条件って!?」
 壁に向かってボールを蹴り飛ばしながら沙希は叫ぶ!

「ひとつ!! マネージャーはいざという時にはやらなければならない!!

 ふたつ!! 今が!いざという時である!!

 そしてみっつ!! わたしは…わたしたちは

 マネージャーなのよっ!!!」



 夜遅くまで特訓した後、翌朝早くから沙希とみのりは弁当を作り始めた。場所は合宿所の台所。
 だいたいにおいて少々無理でも初めの2品くらいはなんなくこなせるものである。しかし3品目からはそうはいかない。
 人間時がたてばおのずと疲労がたまる! 沙希の考えには人間の気力と体力が計算に入っていないのである。
 目の光を失いゾンビのようになりながら、2人は弁当を作り続けた。
「のこり1品とご飯…。なんとか間に合いそうですね先輩…」
「‥‥‥‥」
「先輩?」
 もはや気力だけで動くみのりの声に、やはり憔悴した沙希の眼が光る…。
「みのりちゃん…。そんなに弁当が作りたい?」
 !?
「わたしは…わたしは今無性に料理から遠ざかりたい!鍋なんて見たくないのよ!
 みのりちゃんはどうっ!!」
「そ、そりゃあ…」
「でしょう!作りたくないときに作ってもどうしようもあるまい!」
「そ、それじゃどうするんですか虹野先輩!」
 ‥‥‥‥‥‥

「あえて……寝るっ!!!」

 !!
 唖然とするみのりの前で、合宿所の布団にもぐりこむ沙希。
「先輩、でも時間が…」
「時間が人を左右するのではない…。人が時間を左右するのよ!!」
 無茶言って寝息を立て始める沙希に、みのりにもはや言葉はなかった。そしてその間にも刻一刻と試合の時間は近づいてくる…。
「まだ作らないんですか先輩っ!」
「‥‥‥‥‥‥」
 コチコチコチコチコチコチ・・・
「い‥‥‥いやーっ!もう耐えられないーーっ!」
「今よっ!」
 猛然と布団から飛び出した沙希はガスの火を点した。試合まであと1時間!
「心配かけたわね…。みのりちゃん、わたしについてきてくれるっ!?」
「は…はいっ!」
「いつもの倍のスピードで…。いつもの倍の味で仕上げる!いいわね!!」
 そして2人の戦いが始まった!いつもの3倍は肉体を酷使した。
 人間の限界にいどんだ――。いや!限界を大幅に超えた戦いだった…!
 そして30分後
「虹野さん、みのりちゃん、弁当は…」
 取りに来た部員が見たのは、全員分揃った弁当箱と、床に倒れ伏すマネージャーたちだった。部員は涙を流しながら弁当を持っていった。
 やりとげたという充実感とここちよく激しい疲労が沙希の体をつつんでいた…
「あのー、末賀高校のものですけど」
「はいっ!?」
「お弁当作ってくれるって…」
「あ…はい。ちゃんと今やってます…もう少しだけお待ちください!」
 顔面蒼白となった沙希の気配にみのりも起きてくる。
「虹野先輩?」
「わ、忘れてたわ…。末賀高校の分も作るんだった…」
 小刻みに震える沙希の言葉に、みのりも思わず耳を疑う…。
「そんな…。先輩わたし今弁当なんて作りたくありません!あえて休みましょう!先輩!!」
「バカ者ぉぉぉぉっっっ!!!」
 バン!!!
「やりたくないときにもお昼を作るのがマネージャーってものじゃないのっ!!」
「で…! でも…!!」

「甘ったれるなぁぁぁぁぁああっ!!!!」

「ひえ〜〜〜っ!言ってる事が違〜〜〜うっ!!」
「文句は弁当が仕上がった後で聞いてやるっ!!!」
 ガスの火が点る! しばらくして末賀高校の選手が再度見に来たとき、沙希とみのりは泣きながら料理を作っていた。
「ごめんなさいあと30分!あと30分待ってください!」
 弁当が仕上がったのは2時間後だった。選手は黙って弁当を持っていった。
 やるだけのことはやった。今こそ虹野沙希はやすらかなねむりにつくのだった。

 ‥‥‥‥‥
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!ねっ…寝ちゃったわーーーっ!!」
 飛び起きた沙希は慌ててみのりを揺り起こす。
「試合はっ!」
「んー…。そういえばコーチが3時からに延期になったって言ってましたけど…」
「そう、またも天はわたしに味方したのね!」
「でなくて、相手チームのお昼が遅れたせいだと思うんですけど…」
「とにかく部室へ急ぐわ!」
 しかし沙希とみのりが駆けつけたとき…なぜかそこはもぬけの空だった。
「いったい何が…」
「あ、置き手紙があります。えーっと、弁当を食べた直後になぜか部員たちが苦しみだしたため、現在ひとり残らず病院に連れて行かれてます…」
 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
「せ、先輩。もしかして材料古かったんじゃぁ…」
「あは、あは。あははははっ」
「笑い事じゃないですっ!!ど、ど、どうしましょう先輩!ああああっ!!」


 逆境とは――思うようにならない境遇や、不運な境遇のことをいう!

 これだ…
 これが逆境だ!!!


「うろたえるなっ!」


「せ、先輩。その目は…」

「まだ、わたしのこの右足が残っている!」

 !!!!!
「ま、まさか試合するつもりですかーー!?」
「そのまさかよっ!! 敵に背を向けるなど…マネージャーのすることではないっ!!
「11対1でどう試合しようっていうんですか!」
「織田信長を見なさいっ!奴は桶狭間において3千の兵で2万5千の大軍を打ち破ったわ。それに比べればたかが10人差、ないも同然!!」
「ど、同然って…」
「虹野国電キックがあるわ!」
「結局何なんですそれは!」
 虹野国電キックとは!
 まずキーパーに向かって強烈なシュートをお見舞いする。これが国電上り!
 そしてキーパーが弾いたボールを、反動をつけて蹴り飛ばしキーパーごと粉砕する。これが国電下り!
 すなわち虹野国電キックとは、上りと下りが一体となった無敵の必殺技なのである!!
「それってキャッチされたらおしまいなんじゃぁ…」

 ‥‥‥‥‥‥。

「うわあぁぁぁぁーーーっ!!」
「せ、先輩っ!」
「使う前に必殺技が破られたあーーっ!!」
「お、落ち着いてください!先輩にはまだ不屈の根性があるじゃないですか!」
「根性…。
 もう根性しか残ってないんだわぁぁぁぁぁっ!!」
「(プツン)」
 一気に錯乱する沙希に、とうとうみのりが切れた。
「もう…やめましょう先輩!」
「ぴくっ」
「できるだけのことはやったわ…。試合はやめましょう。とても駄目です!もともと無理だったんですっ!」
「…駄目?無理?…」
「はい!」
「…いいえ…それは違うわみのりちゃん!」(すっく)
「ち、ちょっ…」
「まだ勝つ可能性があるのに、練習もしないでゴタクを並べている暇はわたしにはないのよ!!」
「だってさっき自分で…んーもうっ!」
「わたしはやる!! もう落ち込んでなんていられないわ。
 うおおおおお!! ぶつかってもみないで弱音をはけるかーーっ!

 腕を振り回しながらグラウンドへ向かう沙希! そう!! もうおわかりであろう、この少女こそ本SSの主人公である。きみたちの夢をかなえてくれる不屈の闘志を持つ少女だ!

 それがこいつ! その名も沙希!!

 虹野沙希だっ!!


「(飛行機があんなに高く飛べるのは…。すさまじいばかりの空気の抵抗があるからなのね…!)」
 晴れ渡る空を見上げながら、沙希はひとり、砂煙の舞うグラウンドへと足を踏み出した。その時――
「…って、相手の選手は?」
「なんか救急車が来てますね?」
 よろよろと末賀高校の部員が腹を押さえて出てくる。
「み、みんな弁当にやられて…」
 そう呻くと同時に倒れ、救急車にかつぎ込まれた。去った後には沙希と、青い顔のみのりだけが残された。
「あ、あ、あっちへ持ってったお弁当も悪かったみたいですね…」
「なにはともあれ…わたしたちの勝ちよ!!」
「えーーーーーっ!!?」
「神様が…。わたしたちのために中毒を起こしてくれたのよ! これは神の食中毒よっ!!」


 きらめき高校は勝った!!

 みごと強敵相手に、どうどうと勝ち抜いたのである!!

 ありがとう!!ありがとう逆境マネージャー!!ぼくたちはきみたちに教えられたんだ。絶望にくじけず戦い抜くことの尊さを…!!



「って、全員入院させてそれどころじゃないでしょーっ!!」
「みのりちゃん、いい言葉を教えてあげるわ。これからはそれを胸に生きていってね…。


 『それはそれ』 !!


 『これはこれ』 !! 」


「そ…っ。そうかっ!!」


 逆境を切り抜けるためにマネージャーは常に新たな教訓で戦い抜かねばならない。それはたまに理不尽!!
 しかしそれは、サガなのかもしれない…。
 マネージャーとは前向きに生きるために少しずつまともさを失っていく、悲しき運命を背負ったプロフェッショナルなのである!!

「でもわたしは虹野先輩を信用してますよ!!」(←調子のいい後輩)







<完>





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