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True
Vol.4 Book
その2人が出会ったのは別に偶然ではなく、単に場所が一致しただけのことであった。
Skill&Wisdomの図書館は実際はSkill&Wisdom自体よりも古く、この図書館のまわりに学園が建てられたと言った方が正確である。アナトリゼの黒曜図書館にはさすがに劣るが、司書さんいわく『変な本の数ではどこにも負けない』とのことであった。というわけでソーニャも嬉々として入りびたっていたので、自然とミュリエルの目にとまった。
「今年は本好きな新入生が多くて嬉しいわねぇ」
「はい、本当に素晴らしい図書館ですね。みんなあまり利用しないなんて間違ってるわ」
「まあ、新しい本はあまりないしね…」
ソーニャと司書さんのそんな会話を聞いたミュリエルは、何度か彼女に声をかけようとはした。いつものように気後れしてそのままになっていたが。
ソーニャの名前は学年トップとして有名で、ついでに性格が悪いという噂もミュリエルの耳に入ってきている。それでもミュリエルはなんとなく彼女なら自分みたいな女の子でも友達になってくれるのではと、結局向こうから話しかけてくれるのを待っていた。
ソーニャはソーニャで眼鏡をかけたおとなしそうな少女がいつも図書館にいるのは知っていたが、純文学にはあまり興味がないこともあり、知っていたというだけのことであった。2人の最初の接点はもう少しくだらないことである。
「あっ…ご、ごめんなさい」
貸し出しカウンターの前であわててソーニャに順番を譲る少女に、思わずソーニャはきょとんとした。
「あなたの方が先だったでしょう?」
「え、その、あの…ごめんなさい」
「だから、あなたの方が先だったでしょう?なんだって謝らなきゃならないのよ」
「す、すみません…」
司書さんが止める暇もなかった。ソーニャの激高は半分承知の上でやっているのだから始末が悪い。白黒はっきりしなくてはという強迫観念のようなものなのだろうが。
「人を馬鹿にしてるわ!あなた、とりあえず謝っておけばいいとでも思ってるんでしょう。そーいうのはね、思いっきり相手に対して失礼なのよね。だいたい…」
「‥‥‥‥‥‥っ」
ミュリエルにとっては最悪の出会いだった。声にならない声を残して書架の中へと逃げ込んでいく彼女を、ソーニャはしばし呆然と見送っていたが、こほんという咳払いに後ろを向いてあわてて釈明した。
「な、な、なんですかっ!私なにか間違ったこと言いました!?」
「あのねぇ、ソーニャ…」
司書さんは苦笑すると、若い2人にさりげなく橋渡しをするのだった。
なにぶん図書館は広く、ソーニャはかなり歩き回らねばならなかった。ようやく自分と同じ青い紙を見つけたとき、彼女は薄暗い書架の間で小さくうずくまっていた。触ったらそのまま壊れて消えてしまいそうに。
「ミ…ミュリエル」
司書さんから教えてもらった名前を口にする。こんな風に他人に呼びかけるのは、あるいはこの学園に来て初めてだったかもしれない。
はっと顔を上げた彼女の眼鏡は、涙のせいか少し曇っていた。あわてて立ち上がって、おびえたようにこちらを見ている。しばらく2人の間に気まずい空気が流れた。
「えーと…ね」
別に自分は間違ってない、間違ってないはずなのだ。でも彼女が病弱で、そのせいで内にこもりがちだったとは知らなかった。当たり前だが体が弱いのは本人の責任ではない。本人の責任でないことで、とやかく言うことは誰にもできはしないのだ。
「さ、…さっきはごめんね」
そっぽを向いたまま実に渋々とソーニャが謝るので、ミュリエルの方はなんと言ったら良いのか判らなかった。でももう駄目だと思っていたところに、少しだけ希望がさしたように見えた。
「こ、こっちこそごめんなさい。あの…」
「えと…と、とにかく向こうへ戻りましょう」
ソーニャはいきなりミュリエルの手を取ると、視線を合わせないようにして歩き出す。間が持たず、2人とも押し黙ったまま本の間を歩き続けた。
ソーニャはともかくミュリエルはいろいろと話したいことはあった。自分の性格が嫌で、変えたいと思っていたこと。友達がほしかったこと。ずっとソーニャに話しかけようとして、結局最後までできなかったこと…。今はなにも言えないままうつむいてる。でも、もしかしたらこれから話せるようになるかもしれない。
「私はソーニャ・エセルバート」
「し、知ってます…。わ、私はミュリエル・レティーシャっていいます」
「うん、知ってる。それから別に敬語は使わなくていいわよ」
「う、うん…」
これがSkill&Wisdomの才女2人の会話かと思うとお互い今となっては赤面するばかりだが。なにはともあれぎくしゃくと手をつないで歩いてくる2人を見て、司書のリディア・シュレクシオンは心の中でぱちぱちと拍手をしたのだった。
<To Be Continued>
<Muriel Letitia>
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