この作品は「ときめきメモリアル2」(c)KONAMIの世界及びキャラクターを借りて創作されています。
白雪美帆、および隠れキャラに関するネタバレを含みます。

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白雪SS: 嘘の代償






 Zrrrrr
 誰もいないことを確かめてから、鳴っている電話の受話器を取る。
「もしもし。はいっ! はい、大丈夫です。その日はとてもラッキーな日なんですよ。ええそれじゃバス停前で待ち合わせで…」
 くふふ、今回も成功! 我ながら美帆のマネも上手くなってきたわね〜。
 最初はたまたま取った電話が彼からで、それ以来美帆のフリしてデート続けてる。今のとこバレる気配もないみたい。さーて、何着てこうかなっと。
「ふんふんふふーん」
「ずいぶんと楽しそうですね」
「そりゃもうデートだし…って、はあう!」
 なんて言ってるそばから美帆がっ!
「真帆にデート相手がいたとは知りませんでしたね、妖精さん?」
「な、なによう。いちゃ悪いのっ」
「うふふ、そんなことはないですよ。ただ最近私の知り合いと話していると、どうも別の私が会っているような食い違いがあるんですけど…真帆知りません?」
「し、知らないっ。私は全然知らないわー!」
 言いながら自分の部屋に逃げ込む私。うわーやばー! 今回やめといた方がいいかなぁ…。
 ううっ、でも主人くんと一緒だと楽しいし…。
 そうよ、だいたい美帆が主人くんと付き合ってること自体おかしいっての。なんで私に彼氏ができないのに美帆にできるのよ。世の中なにか間違ってるわよ!
 てことでやっぱ行こうっと。双子なら幸せは分かち合わないとね〜。
 さーて、服選ぼ。


 デート当日は期待通りの楽しい一日だった。
「とっても楽しかったって感じ!…ですね」
「そう? じゃあまた誘うよ」
「絶対ですよ〜! 約束ですからね〜!」
 手を振って主人くんを見送る私。でも主人くんはあくまで美帆のつもりなんだよね。いいなぁ、美帆…。
 ま、いじけてもしょーがないや。帰ってご飯食べよ。
 と、振り向いたそこに。
 私と同じ顔があった。


「どええええ!!」
「とぉーっても楽しかったみたいですねぇ」
 見た目は穏やかに微笑んでる美帆。でも私は知ってる、この裏に何が潜んでるかを…。
「いや、あの、これはねっ」
「まあ、そんなに怯えなくてもいいんですよ。『ずいぶんとナメた真似してくれましたね』とか『妹の分際で姉をたばかるとは万死に値しますね』とか『悪魔ブードーの生け贄にしてやろうかこのアマ』なんてことはこれっぽっちも思っちゃいませんから…」
「ち、違うっ! そ、そう、実は私も主人くんと知り合いだったのっ!」
「へぇー。いつ知り合ったんです?」
「そ、それはぁ街でぶつかって…って、そういえば私まだ用事あったんだっ、それじゃっ!」
 ひ〜〜〜〜〜! 寒い空気に耐えられなくなり一目散に逃げ出す私。
 わざわざ美帆と同じ髪型してんじゃあんなウソ説得力皆無だよね。こ、殺される…。いや冗談じゃなくて。
 う〜〜〜〜。
 しばらく外をほっつき歩いたけど、さすがにお腹空くのはどうしようもない。もう真っ暗だし…。
 しょうがないから恐る恐る玄関の扉を開けた。
「ただいま〜…」
「あら、お帰り真帆。遅かったわね」
「あれ…。お母さん夕ご飯は?」
「今日は美帆が作ってくれてるのよ」
 げげ…。
「まあ、お帰りなさい真帆」
 にこやかに台所から出てくる美帆。何よそのこれ見よがしに手に持った包丁はぁ〜。
「ほんと、美帆は家の手伝いもするし偉いわねぇ。それに比べて真帆ときたら…」
「そう言わないであげてくださいお母さん。きっと真帆は遊ぶので忙しいんです」
「な、なによっ。イヤミっ!?」
「いいええ。男 の 子 と 遊 ぶ の で 忙しいんでしょう?」
 ぐあっ…。
「さあご飯ができましたよ。真帆、運ぶの手伝ってくださいね」
「ううっ…」
 とん
 美帆が私の席にみそ汁を置く。
「これ、私の…?」
「はいっ」
「‥‥‥。あ!あんなところに妖精がっ!」
「え、どこどこ?」
 ささっ
 素早く美帆のお椀と取り替える。
「あははーっ、見間違いだったみたい」
「もう、真帆ったらお茶目さんですねっ」
 夕食が並び、家族全員がテーブルにつく。とりあえず毒殺は免れたみたいね…。
「いっただっきまーす」
 安心してみそ汁を一口。
 へぶっ!
 次の瞬間、私はテーブルの上でのたうっていた。
「まあ、汚いですよぉ真帆」
「あ…あ…あんたみそ汁に何入れたぁぁぁっ!!」
 くぅぅ、私の行動は読まれてたかぁぁっ…。
「何を言ってるんだね真帆、おいしいみそ汁じゃないか」
「ほんと、美帆は料理が上手ねぇ」
「違うー! 私のだけ変なのっ! 飲んでみてよこれっ!」
「ひどい…。いくら私のみそ汁を飲みたくないからって、他人に飲ませようとするなんて…」
 顔に手を当ててさめざめ泣き出す美帆。こ、このアマぁ〜〜!!
「ダメだぞ真帆、姉さんを泣かしちゃあ」
「そうですよ、ちゃんと全部飲みなさい」
「ひーーーっ!!」

 うう〜〜〜、死にそ…。自分の部屋に戻る途中、廊下で既に力つきた。たぶん酢か何かね、入れたの…。
「明日は殺虫剤でも入れようかなっ」
「くおらぁ!!」
「くすくす、ただの独り言です」
 笑顔でこういうこと言うヤツ…。
「こ、この陰険女…。あんたって昔からそーだったわよねっ…」
「まあ、何のことでしょう?」
「しらばっくれないでよっ! 私がうっかりノート破ったときは寝てる間にその紙を口に突っ込んだし、あんたの服黙って借りれば翌朝人の制服持ってっちゃうし、ちょっと音量大きくしてラジカセ聞いてたら毎晩隣の部屋で変な呪文唱え始めたじゃないっ!」
「ひどい、言いがかりです…。私がそんなことするわけないのに…」
「あんた以外に誰がやるってのよぉ!」
「妖精さんのしわざです」(きっぱり)
 こっ…こいつ…っ!
「よくもまあぬけぬけとっ!」
「ぬけぬけ…?」
 はあうっ!!
 美帆の目がスッ…と細くなる。
「真帆にそんなことを言われるとは思いませんでしたね。主人さんとのデートは楽しかったですか?」
「いや、その、あれはね…」
「楽しかったですかぁ〜〜?」
「い、いーじゃないちょっとくらいっ! わ、私だって男の子とデートしたいもんっ!」
「え? なんですか妖精さん? そうやって身勝手で自己中で、そのくせ面食いだから彼氏ができないんだ?」
「いらんお世話じゃっ!」
「まあまあ。妖精さんの言うことですから許してあげてください」
「あんたが言ってんでしょうがぁぁぁっ!!」
「無事に明日の朝日が拝めるといいですね。それじゃ…」
 さらりと恐ろしいことを言うと、自分の部屋に入っていく美帆。冗談に聞こえない…。
 とりあえず私も部屋に入って、椅子に腰掛ける。
 ガタガタガタッ!
 そのまま床に転げ落ちた。い、椅子のネジが外されてる…。ホントに殺す気かぁぁっ!!
 い、いや落ち着け真帆。このままじゃマジに死ぬって。この場は謝って丸く収めるのが賢いわよ! 考えてみりゃ私も悪かったんだし。
『あははーっ。ごめんごめん、悪気はなかったの。許して、ねっ』
 ペキねっ。よし、これで行こう。
「美帆、入るわよー…ってうおおぅ!?」
 入った隣の部屋は厚いカーテンで覆われ、暗がりに1本のロウソクが灯る中で美帆が人形に話しかけていた。
「ケロちゃんケロちゃん聞いてください。実は私、心から信じていた唯一の妹にそれはもう手ひどく裏切られてしまって…」
 ぐあっ…。
「私って可哀想ですか? 可哀想ですね? ケロちゃんもそう思いますか?」
「いや、あのね…」
「ああ、よりによって真帆が私の振りしてたなんて…。私の評判は地に落ちましたね…」
「ち、ちゃんと美帆に見えるように演技してたわよぉっ」
「いいえおおかた『超』だの『むかつく』だの下品で教養のない言葉を連発していたに違いありません。何しろ真帆ですから」
 き〜〜っ、超むかつく〜〜〜っ!! ってホントに言ってどーする。
「もういいっ! 謝ろうと思ってたけど気が変わったわ。だーれが美帆なんかに頭下げるもんかっ!」
「開き直りましたね…。どうせ笑ってごまかそうとか思ってたくせに…」
 ぎくぎくぎくっ。
「な、な、なによっ。そっちがそうならこっちにも考えがあるんだからね!」
「まあ…。どんな考えです…?」
 ケロちゃん抱えたままゆらり、と立ち上がる美帆。
「え、え、えと。そうよっ! 美帆のふりして街中でサンバ踊ってやるわっ! とっても恥ずかしいわよっ!」
 と、脅してるはずの私がじりじりと後ずさる。
 悲しげな瞳でにじり寄ってくる美帆。ああっ後ろは壁だぁ〜。
「そうですか、仕方ありません…。それじゃ私は真帆の名義で 新 興 宗 教 でも開きましょうか…」
「シャレにならんわーー!!」
「ええ、私だってそんなことしたくないんです。でもわがままな妹を戒めるためには仕方ありません。これは定説です」
 …夢ね…。私が美帆に勝とうなんて、しょせんは夢だったのよ…。
「ごめんなさいっ!」
 敗北を悟った私は、その場で床に土下座した。
「‥‥‥‥」
「悪かったですっ! 反省してます、もうしませんからぁっ!!」
「ケロちゃんはどう思いますか?」
「ゆーるーしーてー!!」
「私怒ってますか? 怒ってないですよねー」
 ばっ! 期待して顔を上げる私。
「ほ…ほんとに怒ってない?」
「ええ、可愛い妹のすることですから。それに全然気づかなかった主人さんも悪いですし」
「そ、そうよねっ。もーすっかり騙されてんだもん、あははー」
「そうですよねぇ。天使のように純粋なこの私と、こんな頭の悪いイケイケ女を混同するなんてどうかしてますよね?」
「‥‥‥‥」
「なんですかその顔は?」
「いえー! はいー! お姉さまの言うとおりですぅー!!」
「うふふ、人間素直が一番ですよ。いい子いい子」
 しゃがみこんで私の頭をなでる美帆。ふ、複雑だぁ〜。
「それじゃ主人さんにすべて話しましょう。明日の放課後ひび高に来てくださいね」
「はぁ〜〜い…」
 ま、これで良かったのかもね。ウソつき続けるよりは。
 ううっ。主人くん、許してくれるかなぁ…。


 で、次の日の放課後。
「でええ! 白雪さんが二人!?」
 案の定腰を抜かす主人くん。
「あ、あはは。ごめんねっ。実は私…」
「ええ、実は彼女は私の

    ドッペルゲンガー

 なんです」

 …はい?
「ド、ドッペルゲンガーってあのもう一人の自分という!?」
「ええそうですよ。驚きましたか?」
「ち、ちょっと何言ってんのよ美帆! 私は白雪ま…」
 言いかけたとたん、美帆が笑顔を私に向けた。
『死にますか?』
「は〜い、ドッペルゲンガーで〜っす!」(うふっ)
「すごいや、ドッペルゲンガーは本当にいたんだ!」
 気づけよお前も!
「どうですか主人さん? 妖精やサンタクロースを信じる気になりましたか?」
「ああ。ドッペルゲンガーがいるんだから、妖精だっているかもしれないな…」
「うふふ」
 み、み、美帆ぉぉぉ〜〜〜!!
「それじゃ一緒に妖精さんについて語り合いましょう。あ、ドッペルちゃんはもう帰っていいですよ」
「え、あの、ちょっとーっ!?」


 コンコン
「真帆、入りますよ」
 美帆が帰ってきたとき、私は自分の部屋で一人でいじけていた。
「真帆…」
「そ、そりゃ私だって悪かったわよ…。でもあそこまですることないじゃないっ…」
「‥‥‥」
「わ、私だって彼のこと好きなのにぃっ…!」
「ごめんなさい…。でも大目に見てください、今日が最後ですから…」
「え…?」
 さ、最後って…それって…?
「ええ…。もう彼とは会いません」
「ええ!? で、でもっ…そ、それでいいの?」
「真帆の好きな人に、私がちょっかい出すわけにはいかないでしょう…?」
 そう言って微笑む美帆。
 私の…ため…?
「み、美帆ぉ…」
「うふふ。何も泣くことはないです」
「だ、だってぇ…」
「それにあんな程度の男、私の王子様のわけがないじゃないですか…」
「‥‥‥‥」
 ま、まあこれで晴れて公認で付き合えるってわけねっ! よーしさっそく白雪真帆って名乗って…。
「いけません!」
「は?」
「せっかくドッペルゲンガーを信じたのに、その夢を壊すつもりですかっ? そんなこと妖精さんが許してもこの私が許しませんよ!」
「ゆ、夢って、だってウソじゃん…」
「たとえウソでも誰かに夢や希望を与えるならば、それはもはや真実なのです。もし私の言いつけを破ったら…わかってますねぇ?」(くすくすくすっ)
 あ…
 あんたやっぱり怒ってるんやんけーーー!!

 こうして私はドッペルゲンガーとして彼と付き合うことになった…。
「やあっ、待ったかいドッペル美帆ちゃん?」
「は、はは…」
「それじゃ行こうか。ドッペル美帆ちゃん」
「(美帆のバカーーーー!!!)」





<END>





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