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○ebi さん

01 1000と、2年目の夏 (採点:6)
 文章のテンポ、言葉回し等や、ちょっとぴったりとくる言葉が見つからないんですが、独特な会話。しかし、決して読みにくい文章ではありませんでした。
 構造が若干特殊で、聖の話と考えれば内容はそこまで複雑ではないんですが……うーん、私的ではありますが、もう少しわかりやすくても良かったのではないかなとも思いました。おそらく、作者さんはそういったわかりやすさを嫌って(あるいは聖の心情表現も含めて)、独特な文体や会話を用いたのだとは思いますが。

02 無菌室で煙草 (採点:5)
 うーん、私が晴子に対して良い印象ばかり持っているせいなのか、ちょっとこのお話の晴子がしっくりきませんでした。もちろん行動はわからないことはないんですが、でもここまで往人の話を何も聞かないで、一方的に責め続けるだろうかなあ、と。
 観鈴が嫌だと言ったこの世界と、ゲーム本編で展開されたAIRの世界、果たしてどちらが――というのは、なるほどとは思いました。しかし、その強調でキャラクタに違和感も多く感じられてしまったのは、ちょっと痛かったかなあと思います。

03 1000番目の夏が来る前に (採点:4)
 話の筋自体は通っているように思うんですが、往子が訪れる前に来ていた旅人が往人だとするなら、構造上何かおかしくはないかなという感じです。彼は往子に出会っていない往人のはずですから、法術、人形劇を知っている・いない以前の問題として、何で旅をしているのだろう。往子と会わなければ旅をする理由もないし、人形劇とかは無理ですよね……? 私が構造を読み違えているだけとかだとかなり怖いんですが。あ、でも、あれは往人でないのなら、何の問題も(たぶん)ありません(笑)
 それで、私が一番考えてしまったのが、往子母の『ここからまっすぐ行くとお寺があるわ。そこに孤児を預けておきました。引き取りに行きなさい』という発言なんですが。「孤児」っていうことは、それが別に誰でもかまわなかった、っていうことのような気がしてしまって。仮にこの孤児が往人じゃなく他の誰かだったのなら、AIRの主人公は変わるわけで……うーん、それはちょっと往人を軽く扱いすぎ何ではないかなあという感じでした。
 あと、これはもう好みの問題だと思うのですが、ラストの『今度こそ』を斜字体にして強調していたのは、どうにもすべってしまいました。斜字体にするくらいなら、演出で「今度こそ」をもっと強調すれば良かったのではと思います。

04 母のあゆみ (採点:7)
 とても正当派な雰囲気を感じられました。粗も見当たらなく、上手くまとまっていたように思います。
 このときの晴子は、まだAIR本編に比べて観鈴に対して、些細ではありますが心を開いているようで。ラストの一文が混ざった上で、AIR本編に辿り着くまでのことを考えることもできたりで、面白く読み進めることが出来ました。

05 刻の果ての白 (採点:4)
 全体的に書き込みの不足を感じました。間に挟まれる観鈴と晴子の会話は浮いてしまっている印象。『大学生風』の彼らがステレオタイプで、おまけに保育園児相手にその気になるとんでもない人物というのも……うーん。
 話が散らばってしまっているように思うので、もう少し少年と少女に絞った作りにしても良かったのではないでしょうか。

06 新約 (採点:7)
 果たして、あの『始まり』は本当に幸せだったのか。というのが、このお話の主題として帰結するところだと思うんですが、違っていたらごめんなさい。あと主人公の『彼』が誰なのかがちょっと掴みにくくて、彼はあの少年でいいんでしょうか。敬介のようにも思える節があるのですが、私は少年として読ませていただきました。間違えていたらごめんなさい。
 あの少年が「過酷な日々」を往人たちにもたらしたことを後悔し、何とか因果を変えようと試みたのだけれど、途中でそれは間違いではないかと気づく。でも、最終的にその気づいたことは、(羽を介して?)あの日の少年にも届き、少年があの日に言った「さようなら」は「ありがとう」という言葉に組み変わる。これが私がとった粗筋なんですが、大丈夫でしょうか。
 科学的な見解が入ったのはすごく良かったんです。ただそれにともなった西野と少年の結びつきは、少々書き込み足らずというか、何というか。言ってしまえば、西野とのやり取り全般、浮いてしまっているように思えました。科学的な物語があったり、西野との物語があったり、AIR本編に絡む物語があったりで、これらが微妙に関連し切れておらず、結果的に全体のどこが眼目となるのかがわかりにくかったです。
 文章も、雰囲気を作り上げるために狙われてやったのかもしれませんが、それでもちょっと改行が目立ちすぎだなあという気がします。特に後半は、やや陶酔しすぎな印象も受けました。

07 遠き日の夢はゆりかごのように優しく揺れて彼女を (採点:6)
 テンポがすごくよかったです。たぶん、このコンペ内の作品で、最も好みの文体の内にはいります。由紀に設けられた能力なんかも、なるほどと思えました。ちょっと谷渕先生が女性ではなく、男性に思えてしまったりもしましたが(笑)
 ただこの作品、オリジナル設定が非常に強いので、舞台なんかはAIRなんですが、全体的に見ればオリジナル作品色は最も強いのかもしれないと思いました。由紀に備えられた能力っていうのは、AIR本編では欠片も出てこない能力ですので、文字通り完全にオリジナル。AIRの話というよりは、由紀のお話。と考える方が自然な気がします。
 最後に晴子と会話があったりでAIRとも絡むんですが、うーん、少し弱い気がしないでもないです。お話のほぼ中心にあるのが由紀の描写、由紀から見た描写ですので、由紀については深く掘り下げられているんですが、その深さに比べてAIRが浅すぎるんでしょう。AIRとの繋がりが取って付けたものような……うーん、もうちょっと違うような気もしますが、でも、そんな印象を受けました。

08 華厳 (採点:5)
 ほぼオリジナル。そこまで言ってもあながち冗談にはならないのではないでしょうか。AIRへの繋がりを強める意味で、ラストあたりにあの町にたどり着く前の往人とかが流れ込み、人形劇の一つや二つをすれば――とか思ってしまったのですが、きっと作者さんはそういうありきたりに陥るのを嫌ったのでしょう。
 しかしながら、AIRキャラクタへの繋がりを人形でうっすらと示しているこの落とし方は好きで、面白く読ませていただきました。

09 WINTER (採点:6)
 軽さが出すぎていた気もしないでもないですが、オリジナルの裏葉祖父は良い味が出ていたように思います。神奈もすごくよかった。
 全編通してギャグが混じるのはいいと思うのですが、反面、少々落ち着かなかった印象も。最後の章を考えると、もう少しギャグでない文章や展開があっても良かったのではないかと思います。

11 Rainy Rainy Day (採点:5)
 良くも悪くも普通な作品という印象です。雨の日の往人と出来事をひたすら追って、追って、終了。プロットが弱く、物語に見せ場、起伏がなかったように思います。
 文章なんかは、たぶん話に起伏がないこと等を考えて、何度も改行したりしたのではと思いますが……うーん。人の好みではあると思うんですが、文自体はともかく、頻繁な改行ですとか、冒頭の『(反語)』というようなのは私にはイマイチでした。

12 巡夏抄 (採点:10)
 もう点数の通り、本当に面白かったです。トリックが見事で、これは往人が何とか旅の果てに辿り着いて、でも時間的なものなど何らかの異なりが観鈴や世界には起きてしまって、その上にこの話は出来てるのかなあ、とか真剣に思ってました。
 『幸せな夏はもう、終わらない』。これが本当にもう、ああ、彼らはこんな幸せな夏にたどり着けたのかと思うとそれだけでお腹いっぱいで、私もこんなお話が書けたら良かったです。嫉妬も軽く入っていますが、気にしないでいただけると幸いです(笑)
 本当に、面白かったです。唯一の満点を。

13 風のうた - verse of wind - (採点:6)
 文章はしっかりとしているし、キャラの掛け合いにも面白さはあるんですが、どこか乗り切れなかったというか。辛辣に述べると、最後の最後の一番重要な部分であるはずの神奈の語りが、最も退屈に過ぎてしまいました。神奈が喋り過ぎで話がくどく、しらけてしまったのもあると思うんですが、それ以前に、そこにたどり着くまでの過程に問題があったのかもしれません。
 プロットを簡潔に取り出してみれば、そこにあるのは『雲の上で往人と観鈴と神奈が会話をする』ということだけしかありません。会話や地の文、晴子の描写が挟まったり等、面白さで牽引する要素はあるんですが、それでも物語自体に大きな展開はなく、そうなると話が長すぎるように思いました。

14 マジカルを考えよう (採点:5)
 普通に面白かったです。笑いっぱなしというわけではないですが、全く笑えなかったわけでもなく。ネタはほとんどわかりませんでしたが、ノリで笑いました(笑)
 落ちに強烈さがあれば、というのが少し残念な点でした。

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