【検証】 対米九段作戦 β



 
2000年11月11日、横浜ランドマークタワー13Fの会議室にて行われた戦前船舶研究会主催「戦争方程式座談会」において私じょーぢが見聞した内容の報告です。
 なにぶん私の力不足、また個人的価値観に基づく偏見などから、公平な視点からの論評や記録とは言いがたいものがあります。あくまで参加した個人の感想文程度にお思い下さい。(むろん、これは私の文責放棄を明示したものではありません)
 討論の模様そのものについては戦前船舶研究会正規会員に配布される戦前船舶News紙面において報告されるとのことですので、私はそれを待って補完する形をとりたいと思います。 (平成15年9月現在未だ報告なしだったりします。。。)
 なにしろあしかけ八時間に及ぶ会でしたのでその全てを報告するのはえらく骨なのです。(^^;

 従ってこれから記述する報告内容はじょーぢ本人が会合にて行った質疑応答を中心にしております。まぁお試し版みたいなものです。  会合そのものに対する報告はしばらくお待ちください。(本当は戦前船舶研究会側の公式見解が出てからサイトアップしたかったのですが、これ以上うちのページがコンテンツなしの状態を続けていると奈良 の人とかに陰でナニ言われてるか分かったものでは・・・(ーー;))
 また発言内容については私自身の記憶と私がとった簡単なメモを元に再現しております。よって発言内容はとくに細部において大分異なります。大体のニュアンスであるとお考え下さい。また参加された方の事実関係誤認についてのご指摘などありましたらお願いします。

 内容についての疑問、反論、異論などについては当サイトの掲示板にて(びくびくしながら)受け付けております。(^^;
 なお電子メールでのご意見も熱烈歓迎しておりますが、私が必要を認めた場合には当サイト上にて了解無く内容を公開するなどの対応も考慮してますので、この点だけ宜しくご了解ください。


 ・.論点は<対米九段作戦>の実効性なのだ

 遠藤氏は様々な発行物において

『海上航空ゲリラ作戦<対米九段作戦>に基づいて整備される筈だった海軍艦艇が、海軍長老の陰謀により<漸減邀撃作戦>として知られる水上打撃戦主体の戦略に基づいて整備されてしまい、結果として航空主体の太平洋戦争に対応できる軍備の整備に失敗したこと』

 こそが太平洋戦争敗北の原因であったとしています。
 ただ、(これは遠藤氏の言説全般にいえることですが)執筆時期によりこの主張も内容が必ずしも一定してはおりません。

 『<対米九段作戦>戦略を実際に発動していれば、米軍の太平洋戦略は兵站面の問題から根底より見直され、太平洋戦争の帰趨は変わっていた』 

 という戦争戦略上の問題提起であったり、

 『<対米九段作戦>に基づく海軍軍備の航空対応が計画どおり進んでいれば、太平洋戦争の実態によりよく対応できた軍備が構築しえたであろう』

 という<対米九段作戦>そのものよりも、むしろそれに付随して発生する軍備や軍人の意識改革に重点に置いた問題提起であったりします。

 これらの主張を遠藤氏が簡潔に纏められたものが戦前船舶15号の巻末に掲載された短論「戦争方程式」でしょう。

 この会合では対米九段作戦そのものへの信憑性に対する疑問は一旦置き、遠藤氏の主張に沿い<対米九段作戦>の存在をまずは肯定した形で疑問点を投げかけてみました。




 1.<対米九段作戦>はいかなる局面において発動されるのか?

じょーぢ
『<対米九段作戦>はその
所要兵力(注1)からして日本海軍の総力を結集して行うものであると思います。
  ですが、史実においては(<対米九段作戦>と対をなす)「漸減邀撃作戦」が南方作戦のために所用兵力を転用され、発動が困難な状態となりました。
 このため、予想される米太平洋艦隊の西進を遅延させるために真珠湾攻撃が行われたわけですが、この問題は他の諸条件を史実同様とした場合<対米九段作戦>発動下においても発生したと思われます。
 となれば、戦争全体の推移は史実と大して変わらないものになるのではないのでしょうか?
 また<対米九段作戦>が発動される場合、第一段作戦、第二段作戦、いずれの段階で発動されるべきなのでしょうか?』

遠藤氏
『<対米九段作戦>は基本的に米国との二国間戦争を想定した作戦構想であり、東シナ海、南シナ海の海域制圧までしか想定されていませんでした。史実のような多国間戦争は想定外です』


じょーぢ
『ということは<対米九段作戦>の発動は(史実のごとき多国間戦争では)不可能ということですか?』

遠藤氏
そうですね私が重視したいのはむしろ<対米九段作戦>構想下の海軍で行われただろう海軍士官の意識改革です』 

じょーぢ
『しかし<対米九段作戦>は艦隊の航空化には言及していても、兵站の軽視といった点では従来と大して変わりないように思えますが』

遠藤氏
『米側の兵站線の破壊を重視していますから、史実の第一次ソロモン海戦のような輸送船を重要な攻撃目標として認識しないといったケースは変わると思います』

じょーぢ
『了解しました。しかし、その場合でも商船護衛などの重要性に対する認識は変わらないと思いますが』

遠藤氏
『そもそも戦前の日本に護衛の対象になる海上交通線など無かったのですから、これは仕方ないです』

じょーぢ
『 例えば米国からは最重要戦略物資である石油と屑鉄を輸入していましたが』

遠藤氏
それ以外は無いでしょう。第一アメリカは仮想敵国ですし』

このあと司会者や参加者により南方作戦と商船保護の話題がひとしきり出る。
内容としては、南方作戦こそが第一段作戦の主作戦であるなどという常識的な見解の再確認に終わる。

遠藤氏
『通商保護などについては今後の研究課題にしたいと思います』

  ↓

じょーぢの結論その1
 遠藤氏本人から『<対米九段作戦>は実行不能』という望外の言質を得ました。(そう判断してよいでしょう)
私は内心で「なんてこった! <対米九段作戦>はたった今死んでしまった!」
とうめいていましたが、
不思議なことに会議室にはさほど緊張した雰囲気は感じられませんでした。(^^;

 


 2a.<対米九段作戦>の華と遠藤氏が評価する<超戦艦>による米空母襲撃は可能なのか?

じょーぢ
『続いてお尋ねします。遠藤さんは<対米九段作戦>において戦艦による空母襲撃が提唱されているとし、これを高く評価されておられます。しかしこれは実現不可能ではないでしょうか?』

遠藤氏
『空母は航空機を発進させたあと、その位置にずっと待機していなくてはなりません。当時の空母戦の距離がおよそ200浬ですから35ノットで水上打撃艦隊が突進すれば6時間程度で米空母を捕捉出来ます』

じょーぢ
『待機といっても実際には艦隊は常に移動していて、出撃させた艦載機はあらかじめ打ち合わせていた海域で収容するはずですが』

遠藤氏
『しかし200浬より遠くにはいけないわけです』

ここでT氏が発言。

T氏
「<超戦艦>に水上爆撃機が搭載されている理由が理解できた」
「空母を見失わないように水爆で偵察爆撃を行うつもりだった」

じょーぢ
『(米空母攻撃に向かった水爆は)多分、生きては帰って来れないですね』

T氏
『当時の日本人ならやりますよ』

じょーぢ
『・・・』(いや、確かにそうかもしれんがな)

遠藤氏
『私は空母に対する戦艦での攻撃は非常に優れた着想だと評価しています』

 

 2b.<超戦艦>はそもそも建造可能か?

じょーぢ
『さて、もう一つ根源的な質問があるのです。
 実のところ私には<超戦艦>が当時の日本に建造できたとは思えません。
 学研「翔鶴型空母」に記載されているスペックを挙げますと最大速力35ノット。
 47口径50サンチ砲4連装3基12門を艦橋前部に集中配備。魚雷10発被弾においても戦闘可能とあります。
 排水量は記載されていませんが、おそらく排水量10万トンを越えるものと思われます』

遠藤氏
『しかしそれは私が考えたのではなくて藤本さん(藤本喜久雄造船少将)が考えたことです。藤本さんには何とかできる目算があったのではないでしょうか』

じょーぢ
『いくらなんでもこのスペックは不可能だと思いますが。
 ところで空母が攻撃対象である以上、50サンチ砲は過剰な攻撃力のように思えます。例えば超甲巡のようなものではダメだったのでしょうか?』

ここでT氏が発言。

T氏
『ところがそうではないんです。米空母の護衛には重巡部隊がついています。
 これを突破するのには超甲巡や金剛型戦艦では力不足です』

じょーぢ
『条約型重巡を排除するにしても50サンチ砲は過大では。やはり30サンチ砲でこと足りるでしょう』

T氏
『当時の米軍ドクトリンでは
金剛型に対して八インチ重巡の大部隊を投入して対応するつもりだったらしいです。それが実行されたのが第三次ソロモン海戦ですね』

じょーぢ
『日本が金剛型戦艦と重巡のセットを持っているのに対し、米側は重巡しかもっていない。この戦術的優位から小沢提督の夜戦理論が出たはずです』

T氏
『それなら第三次ソロモン海戦のときに米軍が逃げなかった理由がわかりません』

じょーぢ
『ソロモン海戦のあれは戦艦である比叡、霧島を巡洋艦と誤認したという話もありますが』

T氏
『そうかもしれません。が、やはり超甲巡では力不足です。米重巡に食い止められてしまいます』

じょーぢ
『<超戦艦>の代わりに建造するんですから少なくとも倍の4隻はあるでしょう。大丈夫じゃないですか?』

遠藤氏
『超甲巡ですと進撃中に航空攻撃を受けた場合、とても魚雷10発の被弾に耐えられません。ですからどうしても<超戦艦>が必要です』

じょーぢ
『ということは<超戦艦>に必要な性能は米空母を捕捉可能な速力と航空攻撃に耐える防御力というわけですね。
 攻撃力はそれほど重視されないということですか?』

遠藤氏
『そうですね。砲の大きさはあるいは変わっていたかもしれません。あれが建造できたかどうかは専門家でも評価が分かれるところです』

じょーぢ
『しかしそこまで無理して<超戦艦>を建造するくらいならその分(の予算と資材)で空母を建造したほうが使い勝手が良くないですか?』

T氏
『ところがそうともいえないんですね。
 米側の資料なんですが、40サンチ砲戦艦(おそらく35000トン型)と空母(おそらくヨークタウン型)のコストを比較すると艦載機まで含めた場合、空母のほうが三倍以上 もコスト高です。
 それでいて攻撃力は同等ですから戦艦は言われているほどコストは悪くないです』

(なおT氏はこれより以前の質疑応答で「空母の航空攻撃で沈んだ戦艦は大和と武蔵だけだから、一概に
戦艦が空母に弱いとはいえないのではないか」とも主張)

ここで兵頭氏が発言。
『しかし命中率がまるで違いますよ。それ』

じょーぢ
『空母のほうが色々使えますし。基本的に戦艦は戦艦を沈めるしか能が無いです。その点入れると空母のほうがトータルでのコストパフォーマンスは上では?』

遠藤氏
『<超戦艦>計画当時は艦載機が複葉機でまだまだ攻撃兵力としては未熟だった頃の時代です。
 ですから戦艦を空母を沈めるための打撃力として捉えたのは当時としては当然だったと思います』

じょーぢ
『了解しました。ですが、その前提ですと学研のシリーズで主張されている「大和型戦艦を<超戦艦>として建造するべきだった」という主張は無理ということになりますね』

遠藤氏
『<超戦艦>の当初計画どおりの建造は
難しかったかもしれません。今後の研究課題です』

  ↓

じょーぢの結論その2
なんてことでしょう。<超戦艦>まで死んでしまいました(T_T)。(これもそう判断してよいでしょう)
少なくとも遠藤氏が発表したような形の超戦艦は実現性が無いことを氏自身がはっきりと述べられています。

 



 <余談>

 会終了後のことです。
  私がさびしく撤収準備に入っていると兵頭二十八氏(軍学者/元陸上自衛隊隊員)がむこうからやってくるではありませんか。
 私は酷く動揺しました。

 「やべぇ( ̄□ ̄;)!! 某掲示板での書込みがばれたのか!?
 馬鹿な。オレはファン宣言をしているくらいだ。
 殺るならまずあっちの管理猫や、まさとし@暗黒参謀からが道理ってもんだろう(泣)」

などと私が咄嗟に思ったのはここだけの秘密ですが、

兵頭氏「いやぁ。先生、感銘しました。貴方が一番正しかったですよ。同感、同感!」

 めっちゃフレンドリーです〜(^^;)。動揺した己が恥ずかしい。つくづくファン失格だなぁ。(ーー;)
 兵頭氏にはこのあと名刺を頂き、更にランドマークタワー近くのドッグ跡まで案内して貰いました。(このとき兵頭氏のファンである某氏も同行)
 持ち合わせていた兵頭氏の著書「軍学考」「日本の海軍兵備再考」にもサインを頂き、更に晩御飯まで奢ってもらいました。
 いろいろと興味深い業界事情なども教えてもらい、至福のひとときではありました。
 遠藤昭さんとは実は今回が初対面で「対米九段作戦」なるものは初めて知ったとか、軍事評論家の○川×久氏は事件が起こるたびにTV局に売り込みのFAXを送ってるとか。
 いや、面白いひとときでした。(^^)
 このとき同行された某氏にも奢ってもらってます。この某氏には寝床まで提供してもらい感謝の言葉もありません。
 ちなみに某氏がまた筆舌し難いつわものの方でして、私「サイボーグ009」の「太平洋の亡霊」なる壮絶な映像作品をこのとき初めて鑑賞しましたよ。
 いやはや、人間って本当に素晴らしいですね。それに引き換え私は自分がクズに思えて仕方ないです。

 ・・・翌日にはじゃむ猫さんと寺西さんに昼飯を奢ってもらっているな。うーむ、まさにタカリ旅行・・・(^^;

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 【所要兵力】 

学研「翔鶴型空母」P77によれば策定当初の昭和21年度末目標として
60000トン型超戦艦4隻
戦艦6隻
巡洋戦艦4隻
翔鶴型空母4隻
空母6隻(赤城/加賀/蒼龍/飛龍/隼鷹/飛鷹)
偵察巡洋艦3隻(大淀/利根型?)
巡洋艦28隻
駆逐艦64隻
2800トン潜水艦9隻
1900トン潜水艦27隻
1400トン潜水艦18隻
型番不明潜水艦20隻

最終計画時の昭和25年末目標では

80000トン型超戦艦4隻
大和型戦艦7隻
戦艦6隻
45000トン型空母3隻(超大鳳型?)
30000トン型空母3隻(大鳳型?)
空母8隻(赤城/加賀/蒼龍/飛龍/隼鷹/飛鷹/翔鶴/瑞鶴)
超巡洋戦艦4隻(超甲巡?)
超巡洋艦6隻(超最上型?)
偵察巡洋艦6隻
駆逐艦64隻
各種潜水艦136隻

 

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