ワンピースって書いちゃったんですが、メイドさんがエプロンの下に着ている服は、ワンピースの場合と、共布のブラウスとスカートの組み合わせ(ツー・パーツ・ドレスと呼ぶ)の場合とが考えられます。スカートがプリーツスカートになっているメイド服なんかは、きっとツー・パーツ・ドレスなんでしょうね。共布じゃないブラウスとスカートの組み合わせは、メイドさんとは認めないので除外。ここでは面倒くさいのでワンピースに絞って話を進めます。
ワンピースについては、何よりもまずシルエットを重視したい私です(図3-1)。ボリュームのある肩、引き絞られたウエスト、そこからスカートの裾にかけてのふんわりとしたライン。このシルエットこそが、私がメイド服を愛して止まない理由だからです。このシルエットを制する物がメイドさんを制すると言っても過言ではありません。
図3-1 メイド服のシルエット
使用している生地も重要です。どんな生地を使用しているかによって、シワや光沢の表現も変わってきます。使用している生地を想定して描くことは、服を描く上で大変重要です。
よくメイドさんのコスプレで、いかにもコスプレです〜って感じのテカテカの光沢の入ったぺらっぺらの生地を使っているのを見かけますが、あんなのは論外です。メイドさんとは認めたくありません。
メイド服はシックかつエレガントであるべきだと思います。華美ではなく豪華なのです(本当はメイド服がそんなに豪華だったはずはないと思いますが)。実際にメイド服を作る場合はともかく、絵に描く場合は生地にかけるお金をケチってはいけません。高級な生地を、惜し気もなくふんだんに使いましょう。
じゃあ具体的にはどういう生地を使うのか、って話になるんですが、私はそっち方面の知識をほとんど持ち合わせていないのでにんともかんとも。ですが、ともかく何かを想定しないと話が進みません。私はほとんどの場合コットン・ベルベットを想定して描いています。コットン・ベルベットってのは図3-1のような生地です。
この文章をお読みになっている男性諸氏の殆どは、ベルベットの服なんて一生着ないままに過ごすことと思います。ベルベットの服は冬場に子供服売場に行けばわりと簡単に目にすることができます。可能なかぎり実物を見ておいた方がいいと思いますので、シャーリィ・テンプルの制服を見に行ったときにでもついでにどうぞ。
ベルベットは、光沢の感じがすごく好きです。光沢やシワの入り方の美しさということで言えばシルクにかなうものはないと思いますが、基本的に作業着であるメイド服にシルクってのもねえ。ベルベットも作業着としてはどうかと思いますが。
さて、冬はベルベットでいいんですが、夏に着るにはベルベットはちょっと鬱陶しいです。夏のメイド服については別項で詳述しますが、生地については普通のコットン(普通のコットンてどんなんじゃ、というツッコミはあるかと思いますが、他に言い方知らないんですよう)でいいのではないかと。
ワンピースを描く上での形状的なポイントは、スカート、スリーブ、襟、カフスになると思います。以下、スカート、スリーブ、襟、カフスの描き方について解説します。
スカートを描く上でまず問題となるのはスカート丈でしょう。スカート丈の種類には、足首まであるロング/フルレングス、膝の真ん中あたりまでのミディ、膝までのノーマル、太股までのミニ、それよりも短いマイクロミニがあります。
メイド服のスカート丈としては、ノーマルからフルレングスってとこでしょう。ミニやマイクロミニのメイドさんがお好きな方も多いようですが、私はどうも。なんせ着衣万歳党員ですから。露出度は低ければ低いほどヨイのです。
メイドさんの職業的側面を考えても、ミニというのはあまり考えられないと思います。衣服には体を保護するという機能が要求されます。メイドさんが従事する作業には過酷で危険な物が多いですから、メイドさんの柔らかい肌を守るためにも極力露出度は低く抑えるべきです。シックかつエレガントというメイド服のコンセプトからいってもスカート丈はノーマルからフルレングスでしょう。
それにあれです、脚を露出した若い婦女子が屋敷の中を何人もうろうろしているとゆーのは、屋敷の主人の見識を疑われますぜ?
私はミディのスカートを描くことが多いです。フルレングスのスカートも好きなんですが、スカートと靴の間に素肌(またはストッキング)が見える方が好き、という理由によりミディです。極力露出度は低く抑えるべき、とか言いつつ実際にはこれですから、いーかげんなものです。
スカートを描きこなすポイントは、裾の形状の把握にあると思います。布の量が少ない場合、スカートの裾が描く形状は上から見ると円です(図3-2-(1))。布の量が増えるに従って円から離れていきます(図3-2-(2))。
図3-2 スカートの裾の形状
スカートは布の量が多いほどエレガントさが増します。布の量が少ないとスカートがのっぺりした感じになります。布の量が多いとスカートに美しいドレープ(垂れ)が生まれ、エレガントな感じになります。ですが、同時に重い感じにもなるので、軽やかな感じを出したい場合はあまり布の量を増やさない方がいいでしょう。
布の量が多いほどエレガントと言っても、それは生地によります。ドレープが美しい生地でなければエレガントな感じにはなりません。生地を想定して描くというのは重要なのです。シルク等の高級な生地ほどドレープが美しいようです。
ウエストからスカートの裾にかけてのラインですが、私は図3-3-(1)よりも図3-3-(2)の方が好みです。ウエストにギャザーを入れるとこのふんわりしたラインが生まれます。ですが、実際にはワンピースの上にエプロンを着用するので、このラインはエプロンで作ってもよいと思います。
図3-3 ウエストからスカートの裾にかけてのライン
タイトスカートは個人的にはあまりメイドさんっぽくならないような気がします。でも、メイドさん好きに人気の高い、EARLや神戸珈琲物語のウエイトレスさんの制服ってタイトスカートなんですよねえ。
スリーブの形状はメイドさんらしさを演出する上での重要なポイントですので、力を入れて描きたいところです。
スリーブ(袖)は大きく半袖と長袖に分かれます。半袖の形状としてはパフ・スリーブ(図3-4-(1))、長袖の形状としてはショルダーパフ・スリーブ(図3-4-(2))、レッグオブマトン・スリーブ(図3-4-(3))、レッグオブチキン・スリーブ(図3-4-(4))あたりがよく使われるところでしょうか。
図3-4 スリーブの形状
スリーブは、私も毎回試行錯誤しながら描いています。実際に見て参考にすることができれば一番いいんですが、こんな袖を実際に見る機会なんてそうそうありませんしねえ。
描く上でのポイントは、パフ・スリーブの場合、肩口と袖口のシワ、及びそれをつなぐ布の流れ、ということになるでしょうか。腕を下ろした状態で正面から見た場合はまだいいんですが、腕を上げた状態や横から見た場合だともうどう描けばいいのやら。適当にごまかして描くことも多いです。
レッグオブマトン・スリーブやレッグオブチキン・スリーブの場合、パフ・スリーブよりもさらにわけがわかりません。肩口のシワはいいとして、ふくらみを絞ってある部分なんてどうなってんだか。コスプレ用の衣装では、ふくらみを絞ってある部分を境に上下が別のパーツで分割されていたりするみたいなんですが、それもなんかウソくさいって気がします。
参考までに、とあるカタログに掲載されていたパフ・スリーブの写真を載せておきます(図3-5)。
図3-5 パフ・スリーブ
あと、私があちこちで観察しながら描いたパフ・スリーブのスケッチも。
図3-6 パフ・スリーブのスケッチ
ワンピースが長袖の場合、ヒジの上のふくらみを絞ってある部分にリボンを結んである絵をよく見るのですが、あれは動いたときにリボンをあちこちにひっかけてしまう可能性が高く、危険だと思います。
あ、もしかして、メイドさんがミスをする可能性を高めるためにわざとそうしてあるのでしょうか。メイドさんにおしおきする機会を増やすために。それならわかります。
襟の形状としては、シャツ・カラー(図3-7-(1))、ピーターパン・カラー(図3-7-(2))あたりがよく使われるところでしょうか。スタンド・カラー(図3-7-(3))ってのもあるでしょうか。ピューリタン・カラー(図3-7-(4))ってのもかわいいですね。
図3-7 襟の形状
ピーターパン・カラーだと、襟がエプロンの肩ヒモにかかることもあるのですが、その場合は襟をエプロンの上に出した方がかわいいでしょうね。
カフスの形状としてよく使われるのはターンバック・カフス(単純な折り返し)でしょうか(図3-8-(1))。
セーラー服によく見られる図3-8-(2)のようなカフスもありますね。レッグオブマトン・スリーブにこのカフスを組み合わせると、スリーブの形状がふくらみ→絞り→ふくらみ→絞りということになり、なんとも描きにくいことこの上ないです。
それから、図3-8-(3)のようなポインテッドスリーブ・カフス。なかなか絵になるカフスではありますが、実用上はどうでしょうか。これで水仕事をするとカフスの部分が濡れちゃいますよね。濡れたからといって度々着替えるわけにもいかないでしょうし、家事労働を行うメイドさんの服にはこのカフスはあまり適していないと思います。
ワンピースが半袖の場合、図3-8-(4)のようなカフスを描いた絵をよく見るのですが、個人的にはバニーガールのイメージがあるのでメイド服に使うのはあまり好きではありません。だいたいこれ、描くのがすごく難しいんですよ。長袖にこのカフスならまだしも、半袖にこのカフスって苦手です。
図3-8 カフスの形状
あと私が気になるのが、ヒジの上まである手袋です(図3-9)。
図3-9 ヒジの上まである手袋
上流階級の御婦人がこういう手袋をはいてたりしますが、それには「自分は家事労働をしない身分なのだ」という意味もあったそうです。だから、家事労働を行うメイドさんがこういう手袋をはくというのはヘンな話なんですね。
自分の経験から言うと、危険な薬品を取り扱う場合を除き、家事労働は素手の方がやりやすい気がします。手袋をはくとどうしても指先の感覚がにぶくなりますから。手は荒れちゃうんですけどね。