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第25話 京都vs大阪!


「ど、どうも~。色々お騒がせしました……」

 夕理に付き添われ、おずおず部室に入ってきたつかさに対し、まず抱き着いたのは桜夜だった。

「つかさあああ! 必ず私のとこに戻って来ると信じてたで!」
「別に先輩のとこへ来たわけじゃないですけどね!?」

 立火と小都子も感無量になりながら、後輩の手を片方ずつ握る。

「もう大丈夫なんやな。ずっとこの部にいてくれるんやな!」
「それどころか練習頑張ってくれるって……Westaにとっては、ほんま百人力や」
「ご迷惑をおかけしました。言い訳はしません、行動で返します」

 つかさは先輩たちの体をそっと離すと、一人の部員に対し指を突き付ける。

「姫水を倒すまで、あたしは止まりませんので!」

 突き付けられた方は平然としている。
 花歩と勇魚があわわとなっている間で、姫水は目を閉じて穏やかに言った。

「部全体のためにもなるし、受けて立ちましょう。口先だけでなければいいけどね」
「ああ!? 先週までのあたしとは違うんや! 絶対ギャフンと言わせたるで!」

 言い返しながらも、つかさの背筋はぞくぞくする。
 姫水の意識が、自分だけを向いている。
 プールで光と対決したときは、あくまで勇魚のためだった。
 今回は違う。つかさと姫水、二人だけの関係なのだ。

(やっぱり、この道で正解やったで!)
「何気に姫水の呼び方が変わってるな」
「うっ」

 スルーしてほしかったのに、晴に突っ込まれてしまった。
 明後日の方向を見ながら、ごにょごにょ言い訳する。

「こ、コイツにさん付けなんて必要ありませんし。
 対等の立場なんやから、名前の呼び捨てで十分っす!」
「理屈がよく分からないけど……私の方は変える気はないわよ、彩谷さん」
「ふんっ! その涼しい顔も今のうちだけや!」

 騒がしい部室に満足しながらも、立火は夕理と目を合わせる。
 後輩は少し困った顔で、首を横に傾けた。
 今回の退部騒動が結局何だったのか、今は教えてもらえないようだ。

(しゃあない。つかさがやる気になってくれただけでも良しとせなあかん)
(いつか話してくれると嬉しいんやけどな……)

 悩みは全て棚に上げて、立火は両手を打ち鳴らす。

「まずはつかさの本気を見せてもらうで! 全員着替えや!」 


 *   *   *


「あたしと花歩は、ちょっと外で柔軟してきます。ええやろ? 花歩」
「え? あ、うん」

 他のメンバーが部室で体操を始める中、つかさは花歩を連れて廊下に出た。
 人の来なさそうな階段の踊り場で、何事かと構えている花歩を座らせ、柔軟体操を開始する。
 背中を押しながら、つかさはしみじみと述懐した。

「はあ……花歩ってほんまに普通で落ち着く」
「それ誉めてへんやろ!?」
「いやいや、誉めてるんやって。他の連中が濃すぎるんや」
「全くもう……ま、いいけどね。そこも長所やって、姫水ちゃんも言うてくれたし」
「……花歩。いっぱい謝らなあかんことがあんねん」

 体操を続けながら、つかさは一つ一つ懺悔していく。
 屋上で盗み聞きしたこと。
 花歩が姫水に特別扱いされて、ヤケになったこと。
 そして――花歩をどこかで下に見ていたこと。

「そっ……か」

 背中を合わせて伸ばしながら。
 花歩は自分の上に乗っている相手に、どこか納得したようにそう言った。
 仰向けで天井を見るつかさの顔が、申し訳なさに歪む。

「マジでごめん。自分でもあかんとは思ったんやけど」
「それでも本音がそうならしゃあないやろ。
 ええよ。そこはこれから頑張って、つかさちゃんを見返したるから」
「おお……カッコええやん」

 上下が入れ替わり、下側で花歩の背筋を伸ばしながら、つかさが言うことは本心だった。

「一気に花歩の株が上がったで。もう見下さずに済みそう」
「調子ええなあ、もう!
 ……というかつかさちゃん、ほんまは姫水ちゃんのこと好きなんやな」
「う……うん」
「良かったー、本気でギスギスしたのかと心配やったで」

 さすがにここまで話せばバレてしまう。
 並んでアキレス腱を伸ばしながら、花歩は不思議そうに首を傾げた。

「でもそれが何でライバルに?」
「し、しゃあないやろ、これしか特別になる方法ないし……。
 あいつのファンや友達は山ほどいるけど、ライバルはあたしだけなんや!」
「つかさちゃんって、割とめんどくさい子やったんやな。夕理ちゃんといいコンビや」
「ほっとけ! 姫水には絶対内緒やで!」

 最後に両手を引っ張り合いながら、花歩の目が少し遠くなる。

「勝ちたいって気持ちは分かるけどね。
 私もこの前のライブ、つかさちゃんに勝ちたかったから」
「え、あたしに振り向いて欲しくて? 気持ちは嬉しいんやけど」
「何でやねん! 私には部長がいるから!
 ……正直に言うけど、夏休みに練習サボったことにちょっとムカついてた」
「……そう……」
「私が欲しくてたまらない才能を持ってるのに、全然使わへんねんもん。腹立つやん」

 湿っぽいことを言いながらも、花歩の口調はからりとしていた。
 柔軟体操を終えて、明るい笑顔がつかさに向けられる。

「てことで、この後のつかさちゃんの本気、楽しみにしてるで!」
「……ご期待に添えるとええんやけど」

 苦笑しながら、花歩と並んで部室へ戻っていく。
 普通の友達でいてくれることが、こんなにありがたいとは思わなかった。
 入部した日と同じように歩きつつ、今は同じ方角を向いている。

「これからは、一緒にスクールアイドル頑張ろうね」
「そうやな……あたしの動機は不純やけど」
「私もそんなに純粋でもないから、大丈夫!」


 *   *   *


(やばい……あたしとしたことが緊張してきた)

 他の部員たちが見守る中、まずは一人でライブをすることになった。
 思えば全力で何かをするのは初めてかもしれない。
 『まだ本気出してないだけ』なんて言い訳は、もう通用しないのだ。

(あたし、思ったほど大したことない奴やったらどうしよう……)
(って、そんな弱気で姫水に勝てるわけないやろ!)
(今朝も早起きして、公園で練習してきたやないか!)

「よし、始めるで」

 晴がパソコンを叩いて、曲が流れ出した。
 なにラ!の賑やかな旋律の中、吹っ切ったつかさは全力で体を動かす。

『笑てや! 浪花の女子の心意気
 ここは水の都大阪 細かいことは水に流して~』

 熱心でなかったとはいえ、今までの五ヶ月間は決して無意味ではなかった。
 重ねられた基礎の上で、つかさの器用な頭がフル回転する。

(ここで笑って、ここは華やかに、見る人を意識して――)

 夕理と勇魚の嬉しそうな目が、花歩の憧れの目が、勇気を与えてくれる。
 姫水が無表情なのはムカつくが……
 その怒りも力に変えて、サビへと突入する。

『Laughing! Laughing! なにわLaughing!
 笑うあなたに福きたる
 打ちましょ(パンパン!) もひとつせ(パンパン!) いおうて三度でパパンがパン!』
(よし、ここや!)

 『大阪締め』を取り入れた歌詞をこなしてから、つかさは高く跳躍した。

「!!」

 全員が目を見開く中、スケートのトリプルアクセルのように回転し、見事に着地する。



 なんとか成功して安堵すると同時に、ドヤ顔を姫水に向けた。
 本人ではなく、隣の勇魚が全力で拍手をする。

「すっ……ごーーい! さすがはつーちゃんや!」

 さらに隣の花歩は、喜びながらもどこか寂しそうだった。

(ああ――やっぱり、つかさちゃんはすごいなあ)

 案の定、遥か遠くに置いていかれた。
 でも、それでこそだ。また頑張って追いかけよう。
 きっと夕理も喜んで――と思いきや、何か複雑な顔をしている。
 そして心配そうに駆け寄ったのは立火だった。

「あかんあかん!
 実力は大したもんやったけど、最後のはあかん! あんなん足いわすで!」

 『いわす』は関西弁で『痛める』の意味である。
 つかさは困ったように頭をかいた。

「駄目っすかね。あたしなりに振り付けを考えたんですけど」
「心掛けは立派やで。でもケガしたら姫水に勝つも何もないやろ」
「それはまあ……確かに」

 納得するしかないつかさに、晴が続けて説明する。

「去年にAqoursがバク転で全国行って以来、アクロバットが過熱気味やからな。
 このままやと絶対誰か大ケガするからと、スクールアイドル協会からも抑えろとお達しが出ている」
「うーん、なら仕方ないですね」

 せっかくの早朝練習だったが、ちょっと前のめり過ぎたかもしれない。
 とはいえただ捨てるのもシャクなので、姫水を横目で見て当てつけに使った。

「あーあ、協会が言うんやったらしゃあないなー。協会さえ言わなければなー」
「そうね。協会が言わなければ、私もあの程度は簡単にできるけど」
「~~~っ!」
「ふ、二人とも! ライバルもええけど、それこそ過熱しないように! ねっ」

 小都子が焦ってなだめる一方、夕理は少し安心する。
 姫水に相手にされないのが一番の心配だったが、そこは空気を読んで相対してくれるようだ。
 ライバル役を演じているだけかもしれないけれど……。


 *   *   *


 全員で一時間練習してから、京都戦についてのミーティングに入った。
 『なにわLaughing!』『フラワー・フィッシュ・フレンド』の二曲は内定しているものの、もう一曲がまだ決まっていないのだ。
 新曲を作る暇はないので、過去曲から選ぶことになるが……。

「『Supreme Love』にせえへん? 受け良かったし!」と桜夜。
(私がセンターなのに、あれ一回きりなのはもったいないやろ!)

「初心に返って『星明り』でどうやろ?」と立火。
(PVの時は花歩を外すしかなかったけど、今ならリベンジできるはずや!)

「『羽ばたけ!』をもう一回やってもええんやないですかね」と小都子。
(勇魚ちゃん、夏休みはこの曲も練習してたのに、披露できないのは可哀想やんな)

(『若葉の露に映りて』は候補にも挙がらへんのやな……)と夕理。
(思い入れは一番あるんやけど、あの結果ではしゃあない……)

 が、晴が全員をぶった切った。

「今回のコンセプトを分かってますか? 京都vs大阪です。
 大阪らしいという点で、明るくノリのいい『Western Westa』が最適です」

 入学式で一年生たちを迎えた、愉快な曲。
 相変わらず晴の言うことは正論なので、誰も反論できない。
 それでも小都子が口を挟もうとしたが、先んじて晴の言葉は夕理へ向いた。

「自分の曲でないから嫌とか言わへんよな?」
「言いませんよ……。確か初代から連綿と続いてきた曲なんですよね?
 そういうのも大事にすべきやとは思います」
「うーん、確かにな。なら三曲目はウェウェで決定や!」
「そう略すんですか……」

 部長の決定を受けて、セトリは確定した。
 立火たちの入学時もこの曲で迎えられたのだ。京都の人たちへのいい挨拶にもなるはず。
 晴が改めて全員を見渡す。

「くれぐれも念押ししますが、このバトルロードはガチの勝負ではありません。
 あくまで郷土対決をネタに、他府県での知名度を上げるためのものです。
 バラエティ番組な感じで、京都側の顔も立てるようにお願いします」
「投票はこっちが勝って当然って感じやもんなー」

 桜夜が失礼なことを言うが、事実ではある。
 文化的な意義はともかく、学生の娯楽としてアイドルのライブが日舞に負けるわけがない。
 まあ地区予選では色々あって隣の順位だったけれども……。

「よし、ウェウェ全員バージョンの練習をするで! っと、その前に……」

 立火の顔が向いた先は、花歩と夕理の作詞作曲コンビだった。

「並行して予備予選の曲も作ってもらわなあかん」
「は、はいっ!」
「コンセプトはどうしましょうか」

 だいぶ丸くなった夕理の質問に、部長と次期部長が目くばせする。
 少し固くなった小都子の前で、立火は高らかに宣言した。

「次のセンターは小都子や! 小都子に相応しい曲を頼むで!」



「晴ちゃんは、反対するんやないかって思ってた」

 その日の活動は終わり、自転車置き場に向かいながら、小都子はぽつりと言った。

「予備予選や言うても、負けたら全部終わりなんやで」
「だったら最初から立候補するなと言いたい」
「うう……でも花歩ちゃんにもつかさちゃんにも置いてかれそうやし。
 私も先輩の意地を見せないと、やっぱり全国へは行かれへんかなって」
「ちゃんと分かってるやないか」

 晴は一瞬嬉しそうに笑ってから、それを隠すように肩をすくめた。

「ま、今の状況なら予備予選は問題ないはずや。
 ゴルフラは金が尽きて弱体化したし、それに――」

 自転車を取り出しながら、晴は気持ち声をひそめる。

「未確定なのでここだけの話やけど、聖莉守で問題が起きているらしい」
「聖莉守が!?」
「情報通りならば、あいつらこそ予備予選突破も危ない。詳細が分かったらまた伝える」
「う、うん」

 それ以上は言わず、晴は自転車に乗って帰っていった。
 Westaにとっては有利な話だが、優しい小都子は心配になる。

(花歩ちゃんの妹さん……まだ一度も会えてへんけど、大丈夫なんやろか)


 *   *   *


 ATCでお茶していこう、とどちらともなく言い出した。
 海の見えるカフェで注文してから、つかさはテーブルに手をついて、本日最後の謝罪をする。

「夕理、改めてごめん。この前の暴言の数々、どうか許して」
「私を見下してるっていうのは、ほんまやったん?」
「う……」
「ほんまやったら仕方ない。
 けど、私を遠ざけるためについた嘘やったなら、ちょっと怒るで」

 夕理にとっては嘘をつかれる方が嫌なことらしい。
 何を言っても言い訳にしかならないし、花歩と扱いが違うのも心苦しい。
 でも、正直になることだけが、今償えることだった。

「……嘘やった。
 いや、頼られて嬉しい気持ちもあったのはほんまやけど。
 あたしは、ずっと夕理のこと……」

 何を調子のいいことを、と自分でも思いつつ。
 今まで言えなかったことを、こういう事態になって初めて口にできた。

「心のどこかで尊敬してた。
 高潔で周りに媚びないところ。何があっても自分を貫けるところ。
 あたしには絶対持てないものやったから。
 ――だから中一の時に、声をかけたんやと思う」

 コーヒーが運ばれてくるまで、夕理は涙をこらえるので精一杯だった。
 声にならない万感の想いとともに、改めて決意する。
 つかさを幸せにしよう。
 そのためになら、天名夕理は何だってする。

「こ、この件についてはこれで終わりや! 未来のことを……ユニットのことを考えるで!」
「そ、そうやな!」

 つかさもほっと息をついて、コーヒーカップに砂糖を入れる。
 ユニット活動については、先ほど皆に伝えて了承された。
 とはいえ具体的な中身は空白なので、まずユニット名から決めないといけない。
 クリープの袋を開けつつ、夕理は深く考え込む。

「うーん、私たちは弁天中やから……」
「『弁天娘』とか?」
「つかさはもっとセンスあると思ってた」
「う、うっさいわ! ユニット名なんてどう考えたら……」

 コーヒーをかき混ぜていたつかさの口から、ぽろりと固有名詞がこぼれる。

「サラスヴァティ……」
「ああ! 弁天の元ネタの」

 インド神話における芸術の女神。
 ミューズがギリシャなら、こっちはインドで勝負である。
 夕理の好反応に、つかさの頭が一気に回る。

「『Saras&Vati』! どうやろ!」
「ええけど、なんか漫才コンビみたいやな」
「どーもどーも、サラスでーす」
「ヴァティでーす、って何やらすねん!」

 顔を見合わせて吹き出して、曲の方向などを相談し始める。
 つかさが、真剣にスクールアイドルの話をしてくれる。
 それだけで夕理は、何もかもが報われる思いだった。


 *   *   *


「つかさちゃんと夕理ちゃんがユニットかあ」

 長居組の方も、バスの中でその話をしていた。

「うちらもユニット組んだらどうやろ! 『長居ーズ』とか!」
「うーん、逆に姫水ちゃんの人気が落ちそう」
「もう花歩ちゃん、後ろ向きなこと言わないの」

 花歩としては軽い自虐だったが、勇魚の表情は暗くなる。

「うち、ほんまに次でデビューできるんやろか……」
「な、何言うてるんや! そのために明後日に京都行くんやろ!」
「でも……」

 今日の練習でも、勇魚だけが落ちこぼれていた。
 一人だけ取り残されて、さすがにしょぼんとなる幼なじみの手を、姫水がそっと取る。

「勇魚ちゃん。結局京都の人に頼るしかなくて、私は忸怩たる思いがある。たぶん花歩ちゃんや立火先輩もね」
「そうやね……力になれなくてごめん」
「ふ、二人とも何を言うてるんや! 悪いのはうちで……」
「でも神様も、そろそろ勇魚ちゃんの頑張りに報いてくれる頃だと思う。
 調べた限りでは、早蕨先輩のところはかなり由緒正しい流派みたいよ。
 きっと何かが掴めるって信じましょう」
「姫ちゃん……うん!」

 幼なじみに素直にうなずく勇魚を見て、花歩は思う。
 こんなに優しい姫水なのに、つかさとは何であんなにこじれるのだろう。
 まあ、つかさ本人は喜んでるから、別にいいのかもしれないが……。

「私、今日は駅前で降りるね」

 降車ボタンを押す花歩に、元気になった勇魚が聞いてくる。

「花ちゃん、何か買い物?」
「あー……ちょっとね」
「そうなんや! 何買うん?」

 遠慮というものを知らない勇魚には、正直に言うしかなかった。

「文化祭の後、デビューを祝うどころやなかったやろ。
 ようやく落ち着いたから、自分へのお祝いにケーキでも買おうかなって」
「もー、それやったらうちが買うたるで!」
「そうね。私たちにぜひお祝いさせて」
「い、いやいや、悪いって」

 こういう流れになるから言いづらかったのだ。
 恐縮している花歩に、姫水が微笑みながら提案した。

「なら来週に勇魚ちゃんがデビューしたら、その時は花歩ちゃんと私でケーキを買いましょう?」
「あ、それならええな! なら今日のところはご馳走になろうかな」
「やったー! うちも楽しみやー!」

 もう未来を疑わない勇魚と一緒に、三人でバスを降りてケーキ屋へ向かう。
 ショーケースの前での、楽しい選択の時間の後……
 お礼を言って二人と別れた花歩は、ケーキの箱を手に下らないことで悩むのだった。

(一度に二個も食べて大丈夫やろか……)
(いやっ、そういう小心者なのももうやめや! 豪勢に二個食い、いったるでー!)


 *   *   *


 土曜日。勇魚は梅田から小豆色の電車に乗り込んだ。
 空いている席にちょこんと座り、阪急で京都へと揺られていく。

(二人にケーキをおごってもらうためにも……。
 絶対に今日! 欠点を克服するんや!!)



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