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「部長が取りなして、何とか熱季はライブには出られたで」

 帰宅した芽生の報告に、花歩はほっと息をつく。
 小都子にも知らせてから、夜まで落ち着かない時間を過ごし……。
 動画が公開されるや、まず聖莉守のものを再生した。

『ああ 聖なる祈りよ とこしえに響け』
『ボエ~~~』

(こ、これはひどい……)

 美しいハーモニーも、一人の音痴が入ってるだけでぶち壊しである。
 熱季も精彩がなかったが、そんなの問題にならないほど、蛍が圧倒的にマイナスだった。
 精一杯努力してこれというのが見ていて辛い。
 そして芽生の方は、姉のグループを見て素直に称賛する。

「Westaは素晴らしいね。ネットでも大好評や」
「う、うん……」
「二年生にこんな才能が隠れてたんやなあ」

 小都子の歌声は、各所で絶賛の嵐だった。
 花歩は話題にしてもらえないが、今回は仕方ない。姫水やつかさすらあまり話題になってない。
 花開いた次期部長と、見事にエスコートした現部長が、得られるべき賞賛を得られたのは嬉しかった。

(次……ゴルフラはどうやろ)
(……うーん、聖莉守ほど悪くはないけど)
(やっぱり曲があかん……)

 曲のレベルが低いせいで、光の天才的な動きも逆に浮いていた。
 旋律は素人っぽいし、歌詞も『私ならこうするのに』と偉そうなことを考えてしまう。
 他のメンバーもいまいち頼りない。
 引退した葛が、なかなかの実力者だったことを今さら理解した。

「たぶん私たちと四位争いやな」

 横から芽生が首を伸ばしてくる。

「ライブとしては負けてるけど、宗教的イメージで対抗するからね」
「え、理想に殉じた聖女様ってやつ?」
「うん。部長は気が進まなさそうやったけど、副部長に押し切ってもらった。
 才能がないとラブライブに出たらあかんのか、というのは、なかなか大きな議論になると思う」

 その命題には答えられそうになかったので、花歩は他のグループも見る。
 Number ∞はいつも通りの世間受けするライブ。
 GreenTeaPodは花吹雪のような華麗なライブ。
 そして前回花歩が投票したグループは、相当な進化を見せていた。

(五人集まって部に昇格したんだよね。良かった良かった)
(来年か再来年には、Westaのライバルになるのかなぁ)

 一服の清涼剤のように感じながら、花歩は今回もここに投票する。
 さすがに今の聖莉守には、票を入れる気にはなれなかった。


 *   *   *


「みんな、おはようさん」
「おお! 小都子!」

 月曜に登校すると、クラスメイトが一気に取り囲んだ。

「めっちゃ素敵やったやん~!
 ……ってあれ、髪形もとに戻したんや」
「あはは。いったん区切りがついたからね。
 やっぱり普段はこっちの方が落ち着くかなって」
「もったいないな~。せっかくの美人やのに」
「まあまあ。たまに変えるくらいがええんやって!」

 他のクラスからもファンが押し寄せ、サインや握手を求められる。
 ようやく光が当たった小都子は、しかしいつものように穏やかだった。
 授業が近づき、人の波も去ったところへ忍が口を出す。

「もう少しはしゃいだらええのに」
「投票結果はまだ出てへんからね。金曜の五時までお預けや」
「今回は金曜なの? あ、土曜が祝日やからか」
「そうやね。まあ、でも……」

 小都子は机の上で両腕を伸ばす。
 その表情は、忍も思わず見とれるほどに満ち足りていた。

「私は、ほんまに幸せ者やなあ」


 夏と違って地区予選まで二ヶ月あるので、部内では決戦の曲について議論する。

「できれば神戸戦で方向性を試したいですね……というかやるんですよね? 神戸戦」

 夕理の質問に立火と晴が答えた。

「やるけど予備予選で落ちてたら目も当てられへんし、正式な申し込みは結果が出てからやな」
「お互い落ちはしないでしょうけどね。一応打診はして好感触はもらっています」

 何にせよ結果発表の日まで落ち着かない。
 議論はまとまらず、ウェウェとなにラ!の勇魚入りバージョンなどを練習して過ごす。

 十月は最終日を迎え、生徒会選挙の日になった。
 信任投票なだけに緊張感はなく、2-3の生徒は朝から勝手なことを言っている。

「ねー忍、会長になったら学食作ってよー。なんでうちにはないんや」
「近くにファミレスも牛丼屋もあるし、採算取れへんやろ」
「ならせめて購買のパンの値下げを……」
「材料費も上がってるんや。パン屋さんの苦労も考えなあかんって」

 ばっさばっさ切り捨てる忍に、隣で小都子はおかしそうに笑った。

「私なんかよりよっぽど会長向きや」
「むむ……喜んでいいんだか悪いんだか」


 体育館での立ち会い演説会で、小都子の応援演説は至ってまともである。

「樋口忍さんは大変しっかりした方で、私が場の空気に流されそうな時も揺らぐことなく……」

 だが演説が終わったとき、呼ばれたのは候補者の名前ではなかった。

『小都子ちゃーん!』
『橘先輩ー! こっち向いてー!』
(私が立候補してるんとちゃうんやけどなあ……)

 困り笑いを浮かべながら後ろの椅子に戻る。
 忍が気を悪くしてないかと思いきや、本人は嬉しくてニヤけるのを我慢していた。
 何とか冷静さを取り戻し、壇上に立った忍はぶっちゃけ始める。

「私は正直、今の住女に大きな問題があるとは思ってません。
 相談事があれば受け付けますが、基本的に大過なく行事をこなすだけです。
 文句のあるやつは自分が立候補したらええんや」

 うわあ、と小都子が内心で頭を抱える中、忍はもう止まらない。

「私はねえ、小都子を守りたいの!
 先生も他のみんなも、小都子にばかり頼りすぎ!
 小都子はこれからもスクールアイドルに青春をかけるんや!
 面倒事は私が引き受けるから、小都子を煩わせないで!」
(し、忍ぅ……)



 小都子小都子と連呼され、当人は後ろで赤くなっている。
 教師たちは渋い顔だが、住女の生徒はこういう展開が大好きである。
 圧倒的な拍手と歓声は、投票するまでもなく信任を表していた。


 その日の部活で、先輩たちから散々からかわれた。

「小都子~、めっちゃ愛されてるやないか」
「いよっ、この女たらし!」
「も、もう堪忍してくださいよ~」

 そしてつかさが頭の中でそろばんをはじく。

「生徒会長が次期部長にベタ惚れなら、うちの部は色々有利になりそうっすね」
「いくらつかさでも聞き捨てならんで。小都子先輩がそんな不正を許すわけないやろ」
「いやいや、不正にならない程度にってことで」
「あー、それなんやけど……」

 そのとき校内放送が入り、候補者全員の信任を告げる。
 放送が終わってから、小都子は困ったように部員たちに話した。

「忍、さっそく権限を使う気満々みたいで……」


 翌々日の金曜日。暦は霜月に入り、結果発表の日。
 昼休みに、全校へ放送が響き渡る。

『住女新生徒会です。
 本日五時から、ラブライブ予備予選の結果発表が行われます。
 お暇な方は視聴覚室に集合し、Westaの勝利をぜひお祝いしましょう!』


 *   *   *


「うわ、めっちゃ集まってる!」

 五時近くなったので晶と奈々が部室へ行くと、既に視聴覚室は人であふれていた。
 つかさも姫水も、花歩や勇魚までファンの子に色々話しかけられている。
 夕理だけぽつんと立っていたので、手を振って声をかけた。

「やっほー、天名さん」
「私たちも投票したで」
「あ、うん、ありがとう。(しまった、この人たち名前なんていうたっけ……)」

 しかし夕理の薄情さが発覚する前に、結果発表の時間になった。
 晴が映したスクリーンに、全員の視線が集中し……

「時間です」

 今度はサーバーが増強されたのか、すぐに結果が表示された。


1. Number ∞
2. Westa
3. GreenTeaPod
4. 聖莉守
5. Golden Flag


「いよぅし!」

 立火がガッツポーズを作り、生徒たちからは大歓声が上がる。

「おめでとうWesta!」
「すっご、大阪市二位のグループが目の前にいるんや」
「おおきに、皆さんおおきに! ほら、立役者の小都子からも一言!」
「ほんまに、ありがとうございました。けれど私たちの目標はあくまで全国です」

 笑顔ながらも、小都子は力強く言った。

「冬の地区予選はクリスマス直前! どうかWestaに、引き続きのご声援をお願いします!」
「当たり前や、必ず夏のリベンジを果たすんやで!」

 忍が満面の笑みで小都子の肩に手を置く。
 皆が喜びに沸く中、勇魚はスクリーンをまじまじと見ていた。
 何度見たところで結果は変わらない。

「光ちゃん……」

 Camphoraは少し前に大阪Bを突破していたが、大阪Aの方で勝負の残酷さに直面してしまった。
 プールでのことを思い出し、部員たちの表情も少し陰る。

「瀬良さんは十分凄かったし、あんな状態の聖莉守よりは上だと思うんだけどね」

 納得がいかないような姫水に、晴が原因を推測する。

「ぽっと出のゴルフラよりも、聖莉守の信者層は厚い。
 理想を掲げる姿に共感した者もいるだろう。
 それと……何やかやでゴルフラの金で解決するやり方は、反感を持たれてたのかもな」
「でも、今はお金使わなくなったのに!」
「使えなくなっただけやろ。
 上り調子のときは気にされなくても、下り坂になったら叩かれるのが世の常や」

 聞いた夕理は複雑な気分である。
 金で理想を汚した連中。ある意味報いなのかもしれないが、本当にこれで良かったのかどうか。
 何にせよ今は、しょぼんとしている勇魚に発破をかけた。

「これで終わるような瀬良さんとちゃうやろ。
 来年は必ず復活してくる。私たちのライバル関係はあと二年続くんや!」
「う、うんっ! また元気な姿を見せてくれるって、うちは信じてるで!」


 *   *   *


 京橋ビジネス学院の一画では、沈痛な空気が漂っていた。
 夏から作曲を頑張っていた一年生が、しかし努力は報われず、顔を覆って泣き出してしまう。

「ごめん……ごめんね光ちゃん。私の曲がヘボかったから……」
「そんなことないよ! 私はみーちゃんの曲、好きじゃけん!」

 しかしどう言い繕っても、結果は予備予選落ち。
 全国十位からの転落に、誰も言葉を発せない状況を、光は困り顔で見る。

(負けたのは悔しいけど、みんなで頑張れたのは楽しかったのになあ……)

 でも、楽しいのは自分だけだったのかもしれない。
 皆にこんな思いをさせるくらいなら、自分に合った場所に行くべきだったのだろうか。
 あのスカウトを、受けるべきだったのだろうか――。


「それで、これからどうするんや」

 部室の隅で黙っていた暁子が、つい口を出してしまった。
 もう関わるべきでないのは分かっているが……
 葛とまゆらも注視する中、部長のユカは顔を上げる。

「美咲、まだ曲作りを続けたい?」

 聞かれた一年生は、ふるふると首を横に振った。

「もういいです。一回で十分です……」
「分かった、理事長のところへ行くで。
 500万円は扱えへんけど、50万……いや、100万だけ出してもらおう」

 全員が驚いた目を向ける。
 ユカはそれを受け止めて、最適と信じる道を取った。

「私に暁子先輩みたいな商才はないけど、さすがに曲を発注して受け取る程度のことはできる。
 手作りのライブも楽しかったけど、一回やればたくさんや。
 また本職に頼んで、光に相応しい曲で勝負しよう!」

 スクールアイドルの理念に反しようと、負けるのは二度と御免だ。
 皆も同意してうなずく中、部長の目は、もうルーキーとはいえない大黒柱に向く。

「光、そんなわけやから、プロへ行くのはもうちょっと待ってや。
 私たちもこのままでは終わりたくないんや」
「もっちろんですよ!
 今回はWestaに譲りますけど、次はコテンパンにしてやりましょうね!」

 屈託ない笑顔に救われながら、現役部員たちは理事長室へ向かった。
 残った三年生は、出て行く彼女たちを黙って見送る。

「これで私たちは完全に終了やな」
「は~、あとは地獄の受験戦争か~」
「ま、ラブライブも受験も似たようなもんや。それはともかく……」

 暁子は眼鏡を拭いて、未練も同時に拭き去った。

「三人でお疲れさま会でもしよか」
『賛成!』


 *   *   *


 奇跡的に四位で通過したとはいえ、聖莉守のポリシー上は喜ぶことはできない。
 瀬良さんに譲ってあげたかった……とすら、慈悲深い和音は思う。

(でも、これで熱季さんも復帰できるのでは……)

 あの日以来、熱季にはもう部に居場所はなかった。
 聖莉守の教えに反して勝利に執着し、挙げ句に汚らわしくも暴力を振るって。
 部活どころか、校内どこにいても陰口を叩かれる状態だった。
 思い切って、和音は部員たちに語りかける。

「皆さん、誰しも過ちは犯すものです。罪を許してこそ神への道ではないでしょうか?」
「ですが和音さま」

 と、言い返したのは次期部長の二年生である。

「それは当人が罪を悔いて改心すればの話です。
 熱季さんは蛍さんに謝ってすらいないではありませんか」
「それは……」
「わ、私は気にしていません!」
「蛍さん、そういう問題とちゃう」

 びしりと言われ、和音も蛍も言い返せない。
 小さく溜息をついて、凉世は扉に手をかけた。

「とりあえず、熱季にも結果を知らせてくる」


「え、勝ち抜いたの!?」

 屋上に続く踊り場で座り込んでいた熱季は、姉の知らせに久々に顔を上げた。

「ああ。私も驚いたが、首の皮一枚つながった」
「な、なら今度こそ! ねーちゃんは全国に行きたいんやろ!? 次こそ勝利を……」
「……熱季、お前は少し勘違いしてる」

 立って迫ってくる熱季を押しとどめる。
 もっと早くに言うべきだったかもしれない。
 熱季が傷つくからと黙っていたことが、全ての元凶だったのかもしれないが……
 遅ればせながら、凉世は胸の奥の真実を妹にだけ話した。

「私は別に、自分が全国に行きたいのとちゃう」
「え……」
「和音を全国に連れて行きたかった。
 あいつを全国の舞台で、大勢の人たちに見てほしかった。
 それだけや……」
「……なんや、それ」

 姉妹の絆が、この世で最も強いと思っていた。
 でも違うと明言され、糸が切れたように熱季はうなだれる。

「結局ねーちゃんが、一番あの人の信者やないか……」
「そうやな……私にとっては、和音が何より大切や」
「………。
 ……私、部活辞める」
「そうか……」

 引き留められるわけがない。
 再度座り込む妹に、凉世は悲しい声を聞かせるしかなかった。

「すまない。お前の理想の姉になれなくて」


 膝に顔を埋めたまま、どれだけそうしていたか分からない。
 いつの間に隣に座っていたのか、唐突に芽生の声が耳を打った。

「転校したら?」
「なっ……!?」
「部活だけのこととちゃうで。学生の本分は勉強や。
 熱季、もう完全に授業についてかれてへんやろ」
「うぅ……」

 致命的に痛いところをつかれた。
 これからは芽生と蛍に勉強を教えてもらうこともできない。
 身の丈に合わない高校だったのは、自分でも分かっているけど……。

「でも、あんなに苦労して入ったのに……」
「だからってあと二年を棒に振ったら意味ないやろ?」
「転校って、どこへ行ったらええんや」
「心当たりはあると思うけど」
「うぐぐ……」

『行くところがなくなったら、うちに転校しておいで』

 あの優しかった先輩にすがるしかないのだろうか。
 でも自分と別れて芽生は平気なのか、と言いかけて、その資格がないのを思い出す。
 姉さえいれば誰もいらないと、一度でもそう考えてしまった以上は。
 なのに芽生は、眼鏡越しに淡く微笑んだ。

「住女なら片割れがいるから、私も安心やけどね。
 ま、転入試験はどのみち年明けや。
 三月まではうちにいるしかないから、しゃあない、その間は勉強を見てあげる」
「な、なんでや芽生! 私、迷惑かけてばかりなのに……」
「一応友達やからね。一応」

 まだ友達と呼んでもらえて、出かかった涙を手の甲で拭う。
 そしてもう一人、友達だったはずの子のことを尋ねた。

「……蛍はどうしてる?」
「毎日頑張ってる。
 部員はともかく、他の生徒からは後ろ指さされてるけどね。
 聖莉守の面汚し、無能が出しゃばるな、って」
「……そう……」
「それでも耐えて頑張ってる。いつか必ず本当のアイドルになるんやって」
「……あいつは強いんやな」

 自分は弱いから、こんなことになったのだろうか。
 でも、今は受け入れて前に進むしかなかった。

「色々おおきに。考えてみる」
「うん。私は部活に戻るね」

 芽生が去ってから、熱季はゆっくり深呼吸した。
 転校なんてそう簡単ではないし、親と教師に相談しないといけない。
 それよりまずは、退部届を出しに行って……
 今までお世話になった聖莉守へ、謝罪とお礼を言わないと。


 *   *   *


 住女生たちは笑顔で去り、視聴覚室はいつもの風景に戻った。

「大勢で騒ぎながらってのもええもんやな~」
「立火先輩、天之錦はどうなったんでしょう!」
「おっと、どうやろ晴」

 勇魚の声に、晴がすぐさま京都府予選のページを開く。
 一位はKYO-烈。天之錦は九位。
 残念な結果だが、予想されたことでもあった。

「これはしゃあない。本人たちも覚悟の上や」
「はい……」

 小都子が勇魚を慰めるのを聞きながら、晴は他県の結果を開いていく。
 和歌山はKEYsが三位通過。
 滋賀は当然LakePrincessが一位。
 そして兵庫は……赤穂が辞退したこともあり、一位はWorldsだった。

「対戦、ほんまに申し込みますか?」

 晴に真剣な目で聞かれ、立火は不思議そうに返す。

「え、元々その予定やろ?」
「相手は今や兵庫のトップです。残念ながら、まだまだ向こうが格上です。
 叩きのめされてから地区予選突入という結果になりかねません」
「……ううむ」

 とはいえ、全国へ行くにはWorldsを越えるしかないのだが。
 格上という単語に刺激されたのか、つかさが熱心に食い下がる。

「やるとしても月末ですよね? それまでにもう一回くらい、パワーアップイベントを起こしましょうよ!」
「そう簡単に言われてもなあ……」
「待ってください。メールが来ました」

 晴が映し出した送信元は、スクールアイドルのグループ名だ。
『明日香女子高校 mahoro-pa』
 聞き覚えのある名前に、桜夜が首をひねる。

「どこやったっけ?」
「お前が怒らせたとこやろ。夏の地区予選で」
「あー、最下位の!」

 その文面は、何やら聖徳太子チックなものだった。


日出ひいづるところのスクールアイドル
 書を日没ひぼっする処のスクールアイドルに致す
 つつがなきや』


「私たちが日没すところやと!? なんて無礼な手紙や!」

 随の煬帝っぽく怒った立火は、念のため晴に確認する。

「って感じでええんやっけ?」
「今の説では『日没す』は西を表すのに普通に使われた表現で、別に無礼ではなかったそうですが」
「もー、日本史って説がコロコロ変わってかなわんわ」
「せ、先輩、それより文の続きが」

 小都子に促されて続きを読むと……

『京都戦を拝見しました。大阪、京都ときたら、次は当然奈良ですよね。
 まさか神戸とか言いませんよね。
 ていうか普通は奈良やろ! その気がなくても対決を申し込むで!』

 部の全員が目を丸くする。
 立火がわななきながら、状況を正確に表現した。

「これは――奈良からの挑戦状や!」


<第26話・終>

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