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伝説のルビーの壷を探せ!Vol.2



Last Update 06/25 22:46:15

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パーティ構成:主人公―キャラット、若葉、カレン カイル―ウェンディ、アルザ、リラ レミット―楊雲、メイヤー、ティナ


#0028   阿黒    97/03/01 03:39:16
「だっ…誰ですかあっ!?」
 思わず悲鳴をあげてそのまままた貧血で立ちくらみを起こしかけたティナを
アイリスは慌てて支えた。
「なるほど、それでようやくブルーローズヒルまで辿り着けたわけですね。で、
ここの剣とは時々遊びにくる仲だと」
 ”何か”の身の上話に移っているらしい楊雲に、動けないままのレミットがそれ
でも何かを伝えようと必死になって目線とうなり声をあげる。
「とりあえず私を自由にしてよっ!ですわね姫様!」
「うー!うー!」


#0029   ガテラー星人 (メール)    97/03/01 23:29:16
「はっ」
 不意に楊雲が後ろを振り向いた。何事かと目を凝らす一同の耳に、男の声が聞こえてくる。
「おいおい、本当にこんな所にそんな大層な剣があるのか?」
「そらもう、あれはかなりの値で売れまっせお兄さん。またアンデッドが復活しそうやけどまあルーファスの奴がなんとかするやろ…」
「はっ、お前もたいがい悪人だな。さすがの俺も参ったぜ」
「しゃあないやんかこの極悪ギャンブラー!遊びでやったポーカーの賭け金冷血に取り立てよって…。自分鬼や!悪魔や!」
「これは面白い誉め言葉だな」
 なにやら不穏当な話の内容に楊雲が少し身構える。しかし草をかきわけて出てきたのは、どうやら学生らしい若い男2人だった。
「あら?見かけん顔やけどこないなところで何しとんねん」
「あ、どうも初めまして。アイリス・ミールと申します」
「うーうーうー!」
「レジー・パッカードです。美しいお嬢さん」
「ま、まあ。いけませんわそんな…」
「うーうーうーうー!!」
 エレガントにアイリスの手を取りながらも、レジーの目は素早く周囲を見渡していた。木陰で呆気にとられている体の弱そうな少女と、冷ややかな視線を送る黒い髪の少女。2人の姿を視界に収め、即座に頭をフル回転させる。

 目の前の女性――典型的な世間知らずだな。落とすのは容易だが…物腰からするとどこかの王家か貴族の侍女か?そのへん面倒かもな。
 木陰の少女 ――こちらもウブな女の子か。体が弱くて、守ってくれる人にコロリといくタイプだな。思い詰めると怖いが…。
 黒い髪の少女――こういう雰囲気は初めてだぜ。ちょっと一筋縄ではいきそうにないな…。ま、それでこそナンパのしがいもあるってもんさ。
 金髪の女の子――対象年齢範囲外

「ちょっとぉ!何よその範囲外ってのは!!」
「まあ姫さま、動けるようになったんですね!私もう心配で心配で…」
「アイリスさん…でしたね。あなたの清らかな心、俺のハートにズキュンと響きました」
「アイリスから離れなさいよっ!!」
 キンキン声に耳を押さえるジョルジュの視線がふと一点で固定される。声にならない叫びを上げると、わなわなとレミットの手の剣を指さした。
「あ、あんさんその剣抜いたんかいな!」
 いきなり怒鳴られてレミットははっと剣を見る。そういえば封印だとか言われたような言われないような…。
「な、何よ悪い!?わたしはマリエーナの王女なんだからぁっ!」
「姫さま、今はそういう問題では…」
「た、大変ですレミットさん!」
 何かを感じたのかティナが弾かれたように飛び起きる。レジーの鋭い視線が遺跡へ飛び、楊雲が押し殺すように声を上げた。
「…来ます」

 オロロ〜〜〜〜〜ン
 遺跡の奥底からくぐもった声が響きわたる。

#0030に書き込まれていたarkさん、大変申し訳ありませんm(__)m
どうも何らかのエラーにより書き込みが消失してしまったようです…


#0031  阿黒    97/03/17 00:55:36
 ジョルジュの剣が唸りを上げる。続けて放たれたレジーの魔法が更にアンデッドを
消し炭に変えていく。更に気を取り直したレミット・ティナ・楊雲のヒート・シャワ
の3連発がまとめて数十体のアンデットを燃やしていく。
 だが、倒しても倒しても際限なく新手が押し寄せてくる。
「楊雲、なんとかならないの?影の民の力でいっぺんにじやっつけちゃうとか!?」
「…この地に染みついた怨念は人の手で浄化しきれるものではありません。ここは
幾度も戦場となった場所のようですね。こんなに歪んでは…封印がやっとでしょう」

#0032   熊谷初めて書きます。長くなってすいません%N (bear@leo.fukushima-net.or.jp)    97/03/26 14:53:00
 押し寄せるアンデットをジョルジュが剣で斬り捨てる。
 休む間もなく更に魔法を放つレジー、レミット、ティナ、楊雲。
「はあっ!」
 崩れ落ちるアンデットを蹴り飛ばし、レジーを見る。
「なあ、どないする? 切りがあらへんで!」
「ああ、こんだけ多いとな……しゃあない。ここは退くか」
「了解」
 ジョルジュは、うなずくと、片手をかざし口早に唱え始める。レジーも同様に。
「ちょっと、どうするのよ!?」
 レミットが騒ぐ。そちらを見てレジー。
「こうするのさ。ホーリーファイア!」
「ホーリーファイア!」
 叫んだふたりの手から、紅蓮の炎が疾り、アンデットたちを包み込む。
 焼き尽くされるアンデットたちを見もせずに、くるりと振り返り、
「失礼するで」
 言って、ジョルジュは、アイリスとレミットを両脇に抱え上げる。
「あ、あの……」
「こら、降ろしなさいよ!」
 アイリスが声をあげ、ぽかぽかと叩くレミット。
「痛たた、ちょ、少しの辛抱や。我慢しぃな」
「失礼」
 次いで、レジーもティナと楊雲を抱え上げる。
 背後を振り返りジョルジュ。
「兄さん、来たで!」
 焼きつき、灰と化したアンデットを押し退け、更に後方に控えていた新手が姿を現す。
「あ、あの……」
 再び、何か言おうとするアイリスをジョルジュが遮る。
「よし、行くぞ!」
 言って、ふたりは駆け出した。
 石畳の通路を走り抜ける。
「追って……来ませんね」
 抱えられたままのティナが後ろを向く。それにレジーが答える。
「あの程度のアンデットに知能は全然ないからな。走ったり考えたりすることはない――」
 言って、ティナを見る。
「アイツらは、ただ歩いて来るだけさ」
 既に、背後にはアンデットたちの姿は見当たらなかった。が、構わずに、ふたりは、そのまま通路を突き抜けていた。
 規則的に鳴る、通路を蹴るふたつの足音のみがこだまする。
「ところで、兄さん……」
 不意にジョルジュが口を開く。それに走りながら応えるレジー。
「なんだ?」
 ジョルジュが続ける。
「あんなあ……」
「あン?」
 再び訊き返す。
「さっきから俺らずっと走り続けてるやろ……」
「ああ、それがどうした?」
「その際にな、何か変なの踏んでんねん――カチッ――あっ、またや」
「変なの?」
 言って――走り続けたまま――レジーは足元を見る。小さなスイッチ。
 走る勢いのまま、カチリ、とそれを踏む。
「あれですか?」
 アイリスがジョルジュに訊ねる。
 再び足下から、カチリ、と音が鳴る。
「せや。さっきからぎょうさん――カチッ――踏んでんねん」
「……まさか――」
 眉を寄せ、レジーが言いかける。代わりに楊雲が呟く。
「……崩れます……」
 刹那――
 どごおぉぉぉぉっ。
 足下の石床が崩れ落ちる。
「え!?」
「きゃああああああ!」
「うわああああああ!」
 ティナが驚き、アイリスとレミットが悲鳴を上げる。
「チッ、フライ!」
 直ぐさまに、レジーが唱えた魔法が六人を包み込む。
 自分たちを護る風を調整しながら、レジー。
「ライト!」
 ジョルジュの生み出した光が辺りを照らし出す。
 やがて、ゆっくりと底に着地する。抱えていた腕を放すレジーとジョルジュ。
「……かなりの高さを落とされましたね……」
 上を見上げ、静かに呟く楊雲。
「結構……広い場所ですね」
 ティナが、ジョルジュを見て言う。
「せやな」
 素直にそれに同意する。
 照らされる周りを見回しアイリス。
「落とし穴……ですか?」
「そうらしいな」
 壁に手を触れさせながらレジーが答える。
「ちょっと、アンタたち! どうにかしなさいよ!」
 レジーとジョルジュを睨み、騒ぐレミット。それをアイリスとティナが咎める。
「姫さま、おふたりは、私たちを助けてくださったんですよ」
「そうですよ。レミットさん」
 だが、当のレミットは、ふたりの言葉に、聞く耳を持たない。
「うるさいわね! 早くなんとかしなさいよ!」
「そないな事言われてもなぁ……」
 何気なく上を見上げるジョルジュ。刹那――
 レミットを抱え、後ろへ飛ぶ。
 それと同時に幾つかの影が降り立つ。明かりに照らし出されたのは――
「くっ、しつこいやっちゃなあ!」
 レミットをアイリスに預け、腰の剣を抜く。
 七体のアンデットが歩み寄る。
 後ろにいるアイリスたちを手で制し、
「四人とも、下がっとりぃな!」
 言って、レジーとジョルジュのふたりが駆け出した。
 一気に相手に詰め寄り、
 ざん。
 一瞬のうちに、手前にいた一体を斬り捨て、その後ろにいたに二体を肉片とかすジョルジュ。
 掴みかかるアンデットの腕を、レジーは、わずかに身体を沈める。次の瞬間、彼の身体はアンデットたちの頭上を飛び越え、背後に回り込む。そのまま着地する。カチリ、と音が鳴る。
「へ?」
 レジーの呟き。次いで、四体のアンデットとレジの立つ場所が下へと崩れ落ちる。
「うわあああああああ!?」
「兄さん!?」
 崩れた穴へジョルジュが駆け寄る。
「兄さん! 兄さぁぁぁぁぁん!」
 穴へ叫ぶジョルジュ。その穴の底へ落ちていくレジー。
「じぃぃぃぃぃぃよぉぉぉぉるぅじぃぃぃゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――――――――」
 穴の中へ吸い込まれていくレジー。やがてその姿も見えなくなり、 
 ――べしっ――
 穴の底から、かすかに聞こえたそれをジョルジュの耳は捕らえていた。次いで、訪れる静寂。
「兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
 耳を澄ますが、返事はなかった。
 ガクリと肩を落とし、穴の淵へ手をつくと、ジョルジュは大声で叫んでいた。
「兄さん! 必ず、必ず仇はとったる! せやから、迷わず成仏しいやぁっ!」
――勝手に殺すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――
 穴の底からレジーの声が聞こえてくる。
「なんや、生きとるンかいな」
 穴に向かって呟くジョルジュ。アイリスが駆け寄り、穴へと叫ぶ。
「あの、大丈夫ですかぁ?」
 アイリスの声がこだまする。遅れてレジーの声が聞こえてくる。
――ええ、アイリスさん――大丈夫です、心配いりま――ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――
 突如あがるレジーの悲鳴に五人が驚く。やがてそれも消え失せる。
「おい!? 兄さん? 兄さぁぁぁん!」
 ジョルジュが叫ぶ。が、返事はない。
「ちょ、ちょっと、どうしちゃったのよ、アイツ……」
 レミットがアイリスを見る。ジョルジュは暗い穴の底を見つめている。
「どないしたんや……」
「ちょっと、どうするのよ! これから!」
 レミットが喚く。不意に楊雲が呟く。
「……来ます……上です……」
 ティナが顔を上げる。瞬間、顔色が変わる。
「アンデットのみなさんが――」
 つられてジョルジュも上を見る。無数のアンデットの姿が見て取れた。
「上はアカンか……しゃあない。兄さんも心配やし……下に行くで。みんな俺の近くに集まりぃなぁ!」
「は、はい!」
「……わかりました……」
「姫さま!」
「う、うん」
 四人が直ぐさま駆け寄る。それを見て、ジョルジュは魔法の詠唱に入る。やがて、それが完成する。
「フライ!」
 叫び、風がジョルジュたちを包み込む。
 そして、五人は、下へ続く穴へと飛び込み、暗い、闇の中へと消えていった。






#0033   熊谷 哲 (bear@leo.fukushima-net.or.jp)    97/03/27 01:21:02
「ねえ、今なにか聞こえなかった?」
 静かな、石で造られている通路を歩いていた、リラが振り向き、三人を見る。
「なんや? なにも聞こえへんかったで?」
 眉を寄せるアルザ。
 リラはそんなアルザを無視すると、ウェンディに視線を向ける。
「アンタはなにか聞こえなかった?」
「あの、わたしもなにか叫び声のようなモノが聞こえました」
「やっぱり……」
 言って、リラが腕を組み、考える。
 それを見て、アルザが口を開く。
「なんや? ふたりとも耳おかしなったんとちゃうか?」
 そんなアルザの言葉に、リラの顔が、ムッとなる。
「アンタね、盗賊のわたしが言ってんのよ? アンタみたいな食べ物馬鹿の嗅覚と違って、わたしの聴覚は本物なのよ! わかる?」
 それを聴いたアルザの表情がひきつる。
「なんやと? 泥棒風情がなに抜かしとんねんな!」
 言ってふたりが睨み合う。それをウェンディが割って入る。
「あ、あのケンカはやめてください……」
 ウェンディを見て、ニコリと笑うリラ。
「大丈夫よ。ケンカなんてしないわ。ただ、この食欲旺盛馬鹿に、わたしが正しいことを証明しようとしてるだけだから――」
 アルザもウェンディを見る。無論、笑顔で。
「せや。ケンカなんてせえへんで。ただ、このひねくれ者のアホ女に、この世の中の厳しさ、その身体に叩き込んだろ、と思とるだけやからな――」
 そこでふたりが同時に叫ぶ。
「だから、ウェンディは口出ししないで!」
「せやから、ウェンディは黙っとりぃな!」
 言って再び睨み合うふたり。
 ウェンディは、ひとりでスタスタと歩いているカイルを呼び止める。
「カイルさん! ふたりを止めてください!」
「あン?」
 めんどうくさそうに振り返ると、カイルは、ウェンディに歩み寄る。
「だから、ふたりを止めてくださいよ!」
 後ろで睨み合っている、リラとアルザを一瞥すると、再び、視線をウェンディに向ける。
「ほっとけ、ほっとけ」
 言って、軽く手を払い、きびすを返すと、カイルは、再び歩き出そうとする。
 が、ウェンディは、カイルの腕を掴み、引き留める。
「わたしじゃ、無理だからカイルさんにお願いしてるんじゃないですか!」
「ンな事言ったってよ――」
「お願いします!」
 食い下がるウェンディを見て、カイル。
「チッ、わかった、わかったよ! オレが止めればいいんだろ。ったく」
 毒づき、頭を掻きながら、ふたりに歩み寄る。
「おい、貴様ら――」
 言いかけた瞬間――
 不意に、顔を上げるカイル。
「なんだ?」
 身構えたまま、その場を動かずに、辺りの気配を伺う。
「カイルさん?」
 そんなカイルを見て、訝しげにウェンディ。
 が、彼女は、リラもカイルと同様に鋭い顔つきになっているのに気が付いた。





#0034   アムリタ (atusi..@i.bekkoame.or.jp)    97/04/05 06:43:35
「・・・ずいぶん、お客さんがいっぱい来てるみたいね」
「4人でもてなしきれるか?」
「さあ? 相手にもよるわね」
 そんな二人の会話を、ウェンディとアルザはいぶかしげに聴いていた。
「お客さん・・・? こんな所に、ですか?」
「何や・・・ めっちゃ臭いで。カイル、まさかあんた・・・」
「あのな・・・」
 カイルが言い返そうとした瞬間。
 辺りの空気を不気味にふるわせて、形容しがたい気味の悪い・・・声? というか、音、空気の振動が響いた。
「・・・来たわ!」
「我呼ぶは爆炎、すべてを焼き尽くす紅蓮の炎!」
 リラの言葉に反射するように、カイルは早口で呪文を唱えた!
「クリムゾン・ナパーム!」
 そして、通路の奥から現れた影に、問答無用で炎の球を放つ!
 ドゴオオオォォォッ!
「うっしゃあ!」
「・・・まだいる!」
「何や、この臭い・・・ 腐った肉を焼いたみたいやなぁ」
 アルザの言った直後、爆炎の中から無数のアンデッドとなんともいえない悪臭が漂ってきた。
「・・・ずばり的中やったなぁ」
「きゃああぁっ! ど、どーして私をいじめにくるんですか、あの人たちっ!?」
 ばっ、と反射的にカイルの後ろに隠れる・・・ というよりも、カイルを盾にするウェンディ。
「さぁね。ただ、いじめられるのはあんただけじゃないってコトは確かね」
 すらりとダガーを抜き放ち、アンデッドの大群をにらみながら言うリラ。
「どうする? やるか?」
「動きは鈍いみたいね・・・ 数が多すぎるわ、逃げ・・・ あっ、アルザ!?」
 相談していたカイルとリラの横を、アルザが駆け抜ける!
「大丈夫や! こんなヤツら、うちがぶっとばしたるでぇ!」
 と、アルザは拳を振り上げた!


#0035   アムリタ (atusi..@i.bekkoame.or.jp)    97/04/05 07:03:00
「・・・そぉいやさぁ」
「はい? 何ですか?」
 彼のつぶやきに、若葉は小首を傾げて尋ね、それからお茶を一口すすった。
「俺たちって・・・ 忘れ去られてるよな・・・」
「・・・そういうコトもあるよ、うんうん」
 と、妙にうなずきながら言うキャラット。
「・・・忘れ去ってるといえば」
 ショートケーキなど切りながら、カレンが言う。
「私たちも、何か忘れ去ってない?」
「・・・そういや、何か忘れ去ってるような気も・・・
 あ、カレン、ちゃんとケーキは5等分ね。フィリー、あれで結構よく食べ」
 沈黙。
「・・・・・・・・・・・・」
 まだ沈黙。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ひたすら沈黙。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ・・・そして、ゆっくりと、お互いがお互いを見回して。
「どわああぁぁぁぁぁっ!? フィリーのコト忘れてたああぁぁぁぁぁっ!」

 その頃・・・
「ふんふふーん♪ たっいこのロマンがわったしーを呼ぶー♪
 なっぞーを解いて、いっせーき見つけ、トっロメーア碑文にたっどりっつけー♪
 行ーけ行けメイヤー、私はメイヤー、自称考古学者、メイヤー♪」
 怪しげな「行け行けメイヤー(作詞・作曲:メイヤー・ステイシア)」を歌いながら、いやに陽気なステップで、虫かごをさげながら、メイヤーは山道を歩いていた。
「誰か、私を助けてえええぇぇぇぇ!」
 だくだくと涙を流しながら、なんだかすっかり忘れ去られていたフィリー(虫扱い)は、哀愁漂う声で叫んだ。


#0036   熊BEAR£J (bear@leo.fukushima-net.or.jp)    97/04/05 18:57:02
「よーし! こっちに話しが戻ったな!」
 ガッツポーズを取るデイルにルーファスが呟く。
「先輩、誰に言ってるんですか?」
 くるりと向き直り、
「いーや、何でもない気にするな」
「……そうですか」
「でも、蒼紫先輩に妹さんを会わせることもできました、よかったですね」
 ニコリと微笑みながら、紅茶を口に含むセシル。
 蒼紫と若葉。久しぶりに会えた兄妹水入らずとして、ルーファスたちはアカデミールームに戻っていた。
「そうね」
 カップから口を離し、相槌を打つソーニャ。
 ひとつのテーブルを囲むように、ルーファスとソーニャ、セシル、シンシンア、システィナ、メリッサ、ラシェルの七人は椅子に腰を下ろしていた。
 それを見て、デイルが呟く。
「ところでルーファス」
「何ですか?」
 カップを手に取りながらルーファスがデイルに向く。
「何故、俺たちはここで茶などを飲んでいなくてはならんのだ?」
「何かありましたっけ?」
 紅茶を喉に流し込むルーファス。デイルが再び口を開く。
「お前、何か忘れてないか?」
「何かって、何をです?」
 紅茶から口を離し、システィナ。ラシェルが皿にのせられていた菓子を口に含む。
「ねえ、このお菓子おいしいよ」
「あ、わたしにもちょうだい」
「シンシアもー」
「メリッサにもちょうだーい」
 ソーニャ、シンシア、メリッサがこぞって菓子を手に取る。紅茶を飲むルーファスとセシル。
 不意にデイルがテーブルをひっくり返す。
 がごん。
 耳障りな音があがる。
 幸い床に落ちているモノはそれだけだった。 
 ひっくり返す際に、ルーファスたちは、それぞれのカップと菓子ののる皿を手に持っていた。
 それらを持ちながら、デイルを見る。
「何なのよデイル・マース」
 真っ先に口を開いたのはソーニャだった。
「せっかく食べてるのに埃立てないでよ」
 言って、他のテーブルを出して来る。セシルたちもそちらに動き、腰を下ろすと、再び紅茶や菓子を口にする。
 デイルが声をあげる。
「違うだろ! 君たち、君たちは大事なことを忘れているぞ!」
 そう言うと、ひっくり返したテーブルを元に戻し、その表面を殴打する。
「めんどくさい事しますね」
 セシルの呟きに耳を貸さず、デイルは続ける。
「あの悪の根源のロクサーヌだ! 奴を倒さぬ限り、俺たちに和平≠フ文字はない!」
 意味もなく拳を握りデイル。ソーニャがぽつりと呟く。
「何で和平≠ネのよ?」
「ソーニャくん! 細かい事はこの際気にするな! 話しを戻すぞ。奴を倒すんだ。いや、倒さなくてはならない!」
「何か悪いモンでも食ったんですか?」
 呟くルーファスの首を締め上げるデイル。
「るぅぅぅぅぅぅふぁぁぁぁぁぁぁすぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「ちょっ、ちょっと、デイル先輩、ルーファス先輩死んじゃいますよ!」
 ソーニャとセシルが必死にデイルを引き離す。
「落ち着きなさいよ」
「ソーニャくん! これが落ち着いていられるか!」
 喉を押さえ、むせながらルーファス。
「じゃあ、ごほっ、どうするんですか?」
 眼鏡をかけ直すデイル。
「言ったろう? 倒すと、ふっふっふっふっふ……」
「あのう、そのロクサーヌさんは何かなさったんですか?」
 首をかしげながらシスティナ。それにソーニャが続く。
「そう言えば、よく話しを聴いてなかったわ。そのロクサーヌって、何をしたの?」
「ソーニャくん! ここでそんな話しをしている時間はないぞ! 一刻も早く奴を倒さぬ限り、この世界に未来はない!」
 再び拳を握ると、窓の外を見つめるデイル。
 頬を掻きながら、ぽつりとセシル。
「私怨ですか?」
 辺りに重い沈黙がのしかかる。が、それもほんの数秒だった。デイルが向き直り、口を開く。「何を言っているんだセシルくん。これは、君にとっても重要なことなんだぞ!」
「そ、そうなんですか?」
 一応そう訊くセシル。本心からのモノではない。
「無論だよ。くくくくくくふふふふふふ、待っていろよロクサーヌ! この俺の力、思う存分に味あわせてやる!」
「やっぱり私怨じゃない」
 紅茶を口に含むソーニャ。
「とにかくだ! とりあえず、行くぞルーファス!」
 名前を出され、きょとんとする。
「俺ですか?」
「当たり前だ! では先に行ってるぞ」
 言って、デイルは勝手に外へと飛び出していく。
 後に残されたルーファスは頭を掻く。
「……まったく、勝手なんだから……じゃあ、セシル、ソーニャ、一緒に来てくれ」
「はい」
「まったく……デイル・マースは……」
 椅子から立ち上がるソーニャ。それと同時に、かちゃり、と扉が開く。
「ルーファス殿? 何かあったのですか?」
 部屋の中へ蒼紫と若葉のふたりが入ってくる。
「ああ、蒼紫、もういいのか? 妹さんとは?」
「ええ、話しも終えました。しかし、デイル殿はどうかなさったのですか? つい今し方、彼とすれ違ったときにルーファス殿と一緒に来いと言われましたが」
「ああ、ちょっとね。じゃ悪いけど蒼紫も一緒に来てくれ」
「構いませぬ。では若葉、ここに残っていなさい」
「はい」
 コクリとうなずく若葉。
 部屋から出ようとしたルーファスにシンシアが声をかける。
「ねえ、お兄ちゃん、シンシアも一緒に行くー」
「あ、ずるい。ボクも」
「メリッサもー」
 そちらを見てソーニャ。
「あのねぇ、遊びじゃないのよ」
「ソーニャの言うとおりだ。お前らは残ってろ」
「えー、つまんなーい」
 頬を膨らませるシンシア。
「駄々こねても駄目だぞ。じゃあ、システィナ、後は頼むよ」
「わかりました」
 システィナの返事を聴き、ルーファスたちは部屋を出ていった。
「うー、つまんない! つまんない!」
「メリッサもー!」
「ボクも行きたいよー!」
 案の定、シンシア、メリッサ、ラシェルの三人が好き勝手に喚く。
 それをシスティナが咎める。
「駄目ですよ。ルーフファスさんの約束ですよ」
「うー」
 シンシアが呻く。
「さあ、みなさん。ルーファスさんたちが戻ってくるまでお茶にしましょう」
「あ、わたし手伝います」
 言って、奥の部屋に消えるシスティナと若葉。
 直ぐさまポットと新しい菓子を持ち、戻ってくる。
「はい、みなさん。あら?」
 戻ってきた部屋にシンシア、メリッサ、ラシェルの三人の姿は見当たらなかった。
「どこへ行かれたのでしょう?」
「さあ?」
 若葉の問いかけに首をかしげるシスティナ。 
 相変わらずの天然ボケしているふたりの言葉だけが、部屋の中に残っていた。



#0037   霧波(初参加です。よろしくです) 琳 (vj1t-fjmt@asahi-net.or.jp)    97/04/08 22:35:26
ぴたっ!
突然、デイルが立ち止まった。夕日が西に傾く街道を、周りの通行人の迷惑も考えずに立ち止まったのだ。なんのために?
「ふははははは!見ていろっ!悪の根元ロクサーヌめっ!このデイル・マースト、その下部たちが貴様に真の力なるものを見せてくれる!はーっはっはっはっはぁぁ!!」
それが言いたかったのだろうか?通行人は気味悪そうに視線を注ぐ。が、そんなことデイルは気にも止めず、再び歩き出した。
そして・・・
ぴたっ!
またしても足を止めた。
「ん?待てよ?考えてみれば下部共はほとんどが魔法学科・・・・か?」
ルーファス、ソーニャ、蒼紫、セシル。確かに四人中二人は魔法学科。デイル本人モ入れると三人。一人は闘技学科だが。もう一人は1stのため、普通学科だ。
「いまいちこう・・・締まりというか・・・びしっとくるものがないなぁ。肉弾オンリーなのがもう一人くらいいないと我が『デイル親衛隊』の迫力が欠ける」
道のど真ん中で勝手に発案し、勝手に結論を編み出しているデイル。
街の人々にとってはただの通行障害物だが。
「・・・・・・・・・・」
考える。『デイル親衛隊』を引き締めるために最適な人物を頭の中であれやこれやと探しているのだ。
と言っても、デイル本人も魔法学科。闘技学科の友人などザラには・・・
「いた」
・・・いるんかい・・・?
彼の脳裏に浮かんだ新たなる被害者・・・もとい、協力者はかつてのルーファスのクラスメート。現在、S&Wの闘技学科ナンバー1を誇る3rd学生。
そう、彩霞・真琴である!
「そうそう!あの子がいたなぁ!ルーファスの友達なら遠慮は要らないし」
あまりといえばあまりなへ理屈である。
「よーぅしっ!真琴君も是非誘って行こう!
UターンしてデイルはS&Wの闘技学科棟へとその進路を変えた。思い立ったら即行動である。
だから彼は気づくまい。「先に行っている」などと調子のいい事を言ったくせに、これでは後から来るルーファスが困ってしまうという事を。
また、ルーファス達に行き先を告げていないという事も。
意味なく高笑いをあげるデイルの後ろ姿を、善良な市民はただただ見送るのみであった。


#0038   BEAR (bear@leo.fukushima-net.or.jp)    97/04/09 01:55:46
 そのころレジーは――
「ちっっっっっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 叫び声が、石造りの壁や床に反射してこだまする。
 暗い通路の中をライトも唱えずに走り抜けていた。
「なんで俺ばっかりがこういう目に遭うんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 背後を振り向きもせずに突っ走る。
 その後ろから、もの凄い音を立てて追いかけてくる者がいた。
 二体のゴーレム。
「アンデットと一緒に穴には落ちるし――なんで、ゴーレムなんかがいるんだよぉぉぉぉぉぉ!!! こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
 叫びながら、レジーは半ばヤケクソに――走りながら――魔法の詠唱に入る。
「我の声に応えし炎の精霊よ、その汝の力、我、レジー・パッカードの命により、その力、我が手前に集いし、刃となれ!」
 立ち止まり、振り返ると同時に、編み上げた魔法を叫ぶ。
「ホーリーファイア!!」
 紅蓮の炎が疾り、ゴーレムたちに突き刺さる。
 瞬間
 爆発が起こり、二体の立っていた壁、天井、床が吹き飛ばされる。
 爆風が自分のところにも押し寄せる。
 片手で、口と鼻を押さえながら、もうもうと砂塵が舞う中を眼を凝らして見るレジー。
「やったか?」
 そう自問する。
 風など吹かぬ為、自分の立つ場所も埃のせいで、酷く息苦しい。
 が、そんなものは、この際に無視して、ずっとそちらを見つめていた。
 やがて、砂塵が薄れ、崩れた瓦礫が眼に映る。かなりの量の瓦礫がそこに積まれていた。
 それを見てレジー。
「なんとか……倒せたか……」
 言って、その場にどかりと腰を下ろす。ふう、とため息をつき、
「まったく、一時はどうなることかと――」
 そこで固まるレジー。何気なく見つめていた瓦礫が微かに動く。
「ま……さか……」
 ばごがごおおおおおおお!
 激しい音を立て、瓦礫をはねのけながら、二体のゴーレムが、何事もなかったかのように立ち上がる。その躰の表面には、傷ひとつ付いていない。
 ゴーレムたちがこちらに向くよりも早く、既に跳ね起き、駆け出すレジー。
「ああああああああああああああ、やっぱしゴーレムなんかに炎は効かねぇのかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 背後で、二体のゴーレムたちが、動き出すのが気配で分かる。
 肩ごしに、そちらへチラリと視線を向けるレジー。
 ゴーレムたちの眼が白く光っている。
「ああああああああああ、もしかして、すっげぇ怒ってるぅぅぅぅぅぅぅ!?」
 レジーのその考えは、はずれてはいなかった。
 かくして、今だよく事情を知らないルーファスたちのいる学園の遙か地下では、壮大な鬼ゴッコ――レジーにしては冗談ではないが――が展開されていた。






#0039   霧波 琳    97/04/13 01:19:37
「うわぁぁぁっはっはっはっは!このカイル様に逆らうからこーゆーことになるのだ、愚かなアンデッド共!」
「倒したの、うちやで?」
胸を張って高笑いをあげるカイルにアルザのツッコミは届いていない。
「倒したっていっても、半分は逃げ回ってまいただけじゃない」
と、リラ。
さすがに数が多すぎたため、正面から全て倒す。ということはできなかった。
「フッ!あれしきの愚か者、この俺が本気を出せばだなぁ・・・」
「そんなことよりカイルさん、ここどこだかわかります?」
不安げに声を出したのはウェンディ。
「きまっているだろーが。地下迷宮だ」
「せやせや。物忘れはげしいで、ウェンディ」
「・・・・・・・いえ、その、地下迷宮は分かってますよ」
「正確に、現在位置は迷宮のどこか、ってことでしょ?」
助け船を出すリラ。しかし彼女の言葉は長い沈黙をもたらした。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「「どこ?ここ」」」」
四人が同時に顔を見合わせた。
「このばかぁぁぁ!なんで逃げるときに確かめとかないのよ!」
「そ、そういう仕事はシーフであるお前が専門であろう!?」
「うち、腹減ったで!」
「ち、ちょっと、皆さん!」
その時。

すっげぇ怒ってるぅぅぅぅぅぅぅ!?
怒ってるぅぅぅぅぅぅ!?
てるぅぅぅぅぅぅぅ!?

通路の奥から聞きなれない声がかすかにこだましてきた。
「??」
若い男の声に聞こえるが・・・果たして?
「何?」
罠か?それともまたモンスターか?どちらにしろ道を失ったカイルたちに今出来る事は・・・・


#0040   BEAR (bear@leo.fukushima-net.or.jp)    97/04/15 22:35:36
「一体どこに行ったんだ……ふたりとも」
 大通りに出た来人とキャラット、カレンの三人は手当たり次第にフィリーと若葉を探していた。探すと言っても、来たばかりの大きな街。どこを探してよいやらと首を捻り、あれこれ悩む三人。
「遊びに行ったという案はどうかな」
 来人が呟く。
「遊びに行くって言ってもどこへ? 誘拐されたってのは?」
 カレンの言葉にキャラット。
「若葉さんはわかるけど、フィリーさんは? それに誘拐したとしても意味があるのかな?」
「あのメイヤーって子がいる場所さえわかればな……」
「あの子、神秘の遺跡、神秘の宝物って言ってたわね」
「この近くに遺跡なんてあるのかなぁ?」
 再び、うーんと考え込む三人。
 不意にリュートの音色が聞こえてくる。
「おや? みなさん、お揃いで」
「ロクサー!?」
 振り向き様に、来人が声をあげる。
「ロクサーヌです」
「ンな事どうでもいい。ロクサーヌ、若葉とフィリーを知らないか!?」
 ロクサーヌの肩を掴む来人。それに対して、しれっと応えるロクサーヌ。
「知ってますよ」
「ホント!?」
 声をあげて訊き返したのは、キャラット。カレンが続ける。
「ふたりはどこにいったの?」
 掴まれたまま応えるロクサーヌ。
「この通りをまっすぐ行くと、スキル&ウィズダムという学園があります。そこにふたりはいるでしょう。ところで来人さん、手を離してもらますか?」
「あ、わ、悪い」
 言われて直ぐさま来人は、手を離す。ロクサーヌは、別に気にした様子もなく続ける。
「その学園の中にカリオン遺跡というのがありましてね。フィリーはそこにいるでしょうね」
「カリオン遺跡?」
 眉を寄せ、訊き返す来人。
「ええ、まあ、ちょっとしたことがありましてね」
「ちょっとしたこと?」
 怪訝な表情を浮かべるカレンとキャラット。それとは対照的に爽やかに笑うロクサーヌ。
「とにかく行ってみるといいでしょう。メイヤーさんもそこにいますよ」
「……なんでそんなこと知ってるんだ?」
 眉を寄せたまま来人。ははははは、と軽く笑うロクサーヌ。
「わたしは吟遊詩人ですから」
「……わかった」
 今だ腑に落ちない顔をしながら、きびすを返すと、一目散に走る来人。その後を追うようにカレンとキャラットが続く。
 三人の姿が遠ざかってから、リュートを掻き鳴らすロクサーヌ。
「さて、役者がそろいましたね。はてさて、どうなる事やら。どれ、わたしも行きますか」
 再びリュートを掻き鳴らし、ロクサーヌは歩き出した。



#0041   BEAR (bear@leo.fukushima-net.or.jp)    97/04/16 00:09:20
 スキル&ウィズダム――
 その学園の一室に、ひとつの影がたたずんでいた。
「くくくくくくくく……この様に直ぐさま見つけられるとはな……」
 突然発せられる男の声。
「ふふふふふふ、まさか自分の方からのこのこ現れるとはな」
 再び、男は嘲笑する。その部屋に響く笑い声。
「馬鹿め……馬鹿め……くくくくくくく……ふふふふふ……はははははは……わっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは――」
「うるさいわね!」
 突如聞こえてくる女性の声。
 次いで、ばん! と音がすると同時に、男は前のめりに倒れ込む。
 ツカツカと男に歩み寄り、落ちた魔導書を拾い上げる。
「まったく、なにが『先に行ってる』よ。行き先も教えずに、どっか行ったと思ったらこんな部屋で一人で馬鹿笑いして、廊下にまで響いてたのよ、アンタの声は! わかってるの? デイル・マース!?」
 倒れた男――デイルを睨み付けながらソーニャ。
「ま、まあソーニャ先輩、その辺にしといたほうが……」
 苦笑を浮かべながら言うセシル。その後ろには、頭を抱えるルーファスと唖然とする蒼紫の姿があった。
「ううううう。頭が酷く痛むのだが」
 ゆっくりとデイルが立ち上がり、横に立つソーニャにチラリと視線を向け、口を開く。
「ソーニャくん、君、俺になにかしたかね?」
「なんのこと?」
 完全にわざとらしく知らないふりをするソーニャ。
「突然、頭脳明晰な俺の後頭部に強い衝撃を感じたのだがな……」
「さあ? 気のせいじゃないの?」
「ううむ」
 今だ痛みの残る頭をさすりながらデイル。ルーファスが言う。
「ところで先輩、さっきどこに行ってたんですか?」
「どことはどこだ?」
「……俺に『先に行ってるぞ』って言っときながら、先輩はどこに行ってたんですか? 俺たち探してたんで――」
 最後までルーファスが話し終える前に、デイルが声をあげていた。
「そうだ! 忘れていたぞ! ルーファス来い!」
 言って、ルーファスの腕を掴み、窓辺へと近寄せる。
「なんですか?」
「しっ!」
 口に手を当て、指を立てるデイル。別にそんなことをする必要はないのだが……
 ソーニャたちもそれにならい、歩み寄る。
 デイルは頭を下げるように窓の外を覗き込む。
「ルーファス――頭は下げろ! あそこにいる四人が見えるな」
「四人? ええ、見えますけど」
 無理矢理頭を押さえ込まれたまま応えるルーファス。セシル立ちも屈み込んで外を見ている。
 変わった服装をした男。緑のバンダナを頭に巻いた女性。フォーウッドの少女。リュートを持つ蒼い髪の人影。その四人が歩いているのが見て取れた。
 ソーニャが口を開く。
「あの人たちがどうかしたの?」
 デイルは視線を外さずに応える。
「あそこにいる蒼い髪の奴がいるだろう」
「ええ」
 蒼紫が呟き、こくこくと頷くセシル。
「アイツがロクサーヌだ」
「あの人が?」
「そうだ」
 外を見つめるルーファスに、静かに言うデイル。再びルーファスが口を開く。
「で、あの人がどうかしたんですか?」
「ルゥゥゥゥゥゥフゥゥァァァァァァァァァァァスゥゥゥゥゥゥッッッッッ!!!!!」
 首を絞めかかるデイル。それを必死に止めるソーニャとセシル、蒼紫。
「アイツが悪の根源のロクサーヌだと言っているんだ! いいか、俺たちにはあの悪魔を倒すことが義務づけられている! これは神から与えられた俺たちの使命だ! わかったな! ルーファス!」
「出来るのなら、ひとりでやってくれませんかね」
 ぼそりと呟くルーファス。再びデイルが首を絞めかかるのを再び止める三人。
 三人に押さえられたまま、デイルが口を開く。
「いいか! 君たちは奴を阻止するんだ! わかったな!」
 それを聴き、ソーニャが反論する。
「ちょっと待ちなさいよ! だからあのロクサーヌって人がなにをしたって言うの? さっき言ってたルビーの壺で世界征服? もうちょっと詳しく教えなさいよ!」
 いつの間にか立ち上がっていたデイルは拳を作り、声をあげる。
「言ったはずだぞソーニャくん! ここでそんなことを言ってる暇はない! 急がなければ、人類の存亡がかかっているんだ! 負けるわけにはいかない!」
「無茶苦茶ですね」
 ぽつりと呟くセシル。蒼紫には、よく事情が飲み込めていない。デイルは続ける。
「とりあえずだ! 奴は森に行く、君たちはそれを阻止しろ! わかったな!」
 言って、デイルはドアへと走り寄る。それを見てルーファス。
「先輩はその間どうするんですか?」
 ふふふ、と軽く笑い、眼鏡を、くい、と中指で押し上げる。
「俺は応援を連れてくる」
「応援?」
 訊き返したのはセシル。デイルは聞こえなかったふりをして続ける。
「いいから、君たちはさっさと森に行け!」
 言って走り出す。と、くるりと振り返り、
「絶対だぞ!」
 再び走り出し、
「必ずだぞ!」
 三度振り返り、
「わかったな!」
 四度目は振り返らずに、だかだかだかと廊下を駆け抜けていった。
 後に残された四人は互いの顔を見つめ合う。
 そして、ルーファスがぽつりと呟く。
「森ってどこの?」
 その問いかけに応えてくれる者は誰もいなかった。


 廊下を駆け抜けるデイル。
 胸中には、ひとりの顔しか考えていなかった。
(あの子をこちらに引きずり込み――もとい、戦力に加えれば――)
 あの子――
(闘技学科最強とうたわれた彼女――) 
 闘技学科最強――
「彩霞真琴くんはどこだぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 最後の方は、声に出して叫んでいた。
 闘技学科棟を走り抜け、そのまま魔法学科棟へと突き進む。
 ふと目の前の視界に映るふたりの学生。
「――ンでよ。さっきおかしな女の子にあってさ」
「おかしな女?」
「ああ、頭にリボンなんか着けて可愛いんだけど、ちょっと性格がな」
「知るか!」
「ぅぅぅぉぉぉぉぉぉおおい! チェスターくぅぅんっ、マックスくぅぅぅぅぅんっ!」
「あん?」
「なんだ?」
 突如聞こえた声に顔を上げるチェスターとマックス。デイルがふたりに駆け寄ってくる。
「なんだ、デイル先輩かよ。なんか用か?」
「どうかしたんスか? 先輩?」
 ぶっきらぼうに応えるチェスターと、素直に応えるマックス。その二人を見て、デイルが口を開く。
「なあ、君たち、彩霞真琴くんを知らないか?」
「真琴先輩? さあ、俺は知らないなぁ」
 頭を掻きながらマックス。それに代わって、何気なく言うチェスター。
「さっき図書館で見たけど、それがどうかしたのか?」
「図書館!? 本当だな、チェスターくん!?」
 デイルの眼差しを無視するように、めんどうくさそうに応える。
「ああ、ホントだよ」
「そうか、わかった。ありがとう!」
 言って駆け出そうとするデイル。それをマックスが呼び止める。
「あの、先輩、なにかあったんですか?」
 くるりとそちらへ向き直る。
 瞬間――
 デイルの頭が悪い方へと回転していた。
(マックス・マクスウェルくん……人狼族にして、なかなかの強靱な肉体を持つ彼だな……確か武術……格闘技に於いてもなかなかの実力を持っている……と、そうだ!)
「いやな、ちょっとばかりルーファスたちが、一寸した事に巻き込まれてな」
 それを聴き、一気に怪訝な表情を浮かべるチェスター。それとは対照に真面目に聴き入るマックス。
「実は、かくかくしかじか云々と言うわけでだな。マックスくん、君は強い奴と闘いたいかね?」
「強い奴?」
 その言葉を聴き、ぴくりと反応するとマックスを見てコクリとうなずくデイル。チェスターはさらに嫌な顔をしている。
「強い奴と闘えるンなら……ああ、闘いたいぜ!」
 眼を輝かせるマックスを見て、胸中でにやりとするデイル。
「よし! ならばルーファスたちと一緒に森に行きたまえ」
「森?」
「うむ、強い奴が待っているぞ」
「強い奴……おおしわかったぜ! デイル先輩、森に行けばいいんだな! よぉぉぉぉぉしっ! やってやるぜ!」
 言って、だかだかだかだかと廊下を走り抜け、マックスの姿は見えなくなる。
「これでよし。と、さて図書館だったな」
 デイルは、チェスターには眼もくれずに――実際には、いるのを忘れていたのだが――向き直り、再び走り出す。
 後に残された、ただひとりの男。茫然とするチェスターの身体を日の光が紅く染めていた。



#0042   阿黒(お久しぶりっす) (CYE10052@niftyserve.or.jp)    97/04/29 23:56:29
「真琴くんどこだあああああっつ!!」
 図書館という場の持つ静粛な雰囲気を原子レベルまで破壊して、デイルは
図書館に侵入した。その後方で、破壊されたドアの残骸が床に落ちる音が続く。
「どこだどこだどこだ真琴くんどこだここかそこかあそこか向こうか!?」
「あの…デイル君、図書館では静かにしてくれないと」


#0043   阿黒    97/04/30 00:08:15
 だがそのちょっと気弱で自信のなさげな地味な呼びかけはあっさり無視される。
というか、デイルは気づいてもいない。ただ真琴を探して無意味に近くの本棚に
後ろ回し蹴りや変則飛び二段蹴りを放って破壊の限りをつくしている。彼女は一つ
ため息をついてから、裏表紙に「鎮圧用」と小さく書かれたエタメロ大辞典を
持ち上げると、せーの、で思い切りデイルの足の甲に叩きつけた。


#0044   阿黒    97/04/30 00:19:23
「どわあああああああああああああっ!?」
 さすがに悶絶して倒れたデイルに、彼女は更に数発ヤクザ蹴り(しかも踵)を
入れてから、メガネの角度を直した。
「図書館では静かにね、デイル君」
「相変わらず図書館の事になると人格かわるねリディアくん」
 鼻血どころか耳血まで流して、ノロノロとデイルは身を起こした。図書館司書である
リディアは学生時代は彼と同期だった。(注:年齢からしてそのはず。多分)


#0045   阿黒    97/04/30 00:43:33
「おおそうだ!真琴くんを見なかったかな?彼女にちと用があるのだが」
「彩霞真琴、さん?ええと、彼女はいつも料理とか裁縫の本を借りていくから、いる
なら地下書庫のSブロック辺りじゃないかしら?」
「そうか!ならばアンダーサーチ!」
 こういう探知系魔法は指でメガネをつくって調べるのが古来からのしきたりである。
「む!反応あり!ここかああ!!」
 デイルは腕まくりすると呪文詠唱を始めた。その構成の規模にリディアがひきつる。


#0046   阿黒    97/04/30 01:01:10
「いきなり雷龍絶命波しかも手加減なし!!」
 壮絶、としかいいようのない、全てを原子分解するプラズマ・ボルテックスの光が
網膜を焼く。超・電磁場の渦巻きが一点に集束され、その余波の衝撃波が周囲の本棚&
蔵書を圧縮し、粉砕し、消滅させる。
 そして。その嵐が収まったあとは床どころか下層の岩盤まで深々と抉り抜いた縦穴
だけが残っていた。床の構築財は滑らかな断面から微かに白煙をあげている。
 下、つまり地下書庫に誰かが本の下敷きになっているのをデイルは確認する。


#0047   阿黒    97/04/30 01:26:05
「フハハハハハハハ、とうっ!」
 勢いよく宙に飛び出したデイルは空中で華麗な回転を決め、…そして音高く本に
埋もれた人影の背中に着地する。ゲフッ、と微かな悲鳴が漏れる。
「さ、真琴君!私と共に極悪非道の悪夢・呼吸する諸悪の根源ロクサーヌを討伐に
行こうじゃないかねうんもうそう決めたから俺が」
 なんか上の方から無茶いうな〜とかなんとか聞こえてきたが無視する。だが。
「不思議です…私、まだ生きてます…」


#0048   阿黒    97/04/30 01:36:52
 しばしの沈黙。デイルの額に一筋の汗がつうっ、と伝っていった。
「あー、真琴くん?君、メガネをかけてたのかね。髪もいつの間に三つ編みできるほど
伸ばしたのかな?」
「キッパリと別人だってコト認めて下さい…私はミュリエルです」
「ホント?真琴君がミュリエル君のコスプレしてるんじゃないんだな?」
「どうしてそんな特殊な事態をまず想定するんです?それよりどいてください…」


#0049   阿黒 (CYE10052@niftyserve.or.jp)    97/05/01 23:52:10
「しかしそうなると真琴君は一体どこに?」
「真琴先輩ならもう帰られましたが。市場に買い物にいくとか…ああ、なにか、
手足の感覚が…」
「それを早く言いたまえよミュリエル君。ふむ、市場通りか」
 反動をつけて飛び上がる。同時に発動したフライでそのまま一気に窓を突き破って
デイルは去っていった。
「あ、あああ、本が、本がああ〜〜〜!!」
「…ああ…ぱらいその光が見える…ぐろうりあのぜんずさまぁ…」
 誰がわかるんだこんなネタ(汗)。


#0050   BE久々書き込み≠`R (bear@leo.fukushima-net.or.jp)    97/05/24 23:49:59
 人々の活気で賑わう市場通り。
その上空に浮遊するひとつの影。
「ふむ。ここだな」
 図書館の窓を突き破り、そのままの足でここへと来たデイル。
 自分の目当てのモノを探し――
「発見! そこかぁぁっ!」
 言って、腕を眼下――市場通りに――へと突き出し、光を放つ。
 静かな通りが一変し、突如爆音を上げ、吹き飛ぶ街並みへと変わる。
 その突然の出来事に慌てふためて逃げまどう人々。
デイルはさらにそこへ、二度、三度と光を叩き込む。
絶え間なく聴こえる悲鳴と喧噪。
それらを問答無用で吹き飛ばす。
 やがて――
黒煙を上げ、見る影もなく、つい先刻まで活気で賑わっていた面影の欠片も微塵も残さ
ずに、廃墟と化した街並みが広がる。
 爆裂無比な魔法の余波により、生み出された、無数の巨大なクレーターが眼につく。
 ゆっくりと地に降り立つデイル。
瓦礫を押し退け、ひとつの影へと歩み寄る。
廃墟と化した通りには、他の人影は見当たらない。もうとっくに逃げ出したのだろう。
はっはっは、とさわやかな笑いを漏らしながら、それの胸倉をむんずと掴み上げる。
「探したぞ真琴くん。いやー、見つかって良かった良かった」
掴み上げられていた人影がううう、と呻き――こちらを見て声を上げた。
「貴、貴様! デイル・マース!」
 デイルが掴み上げていたのは、眼鏡をかけ、長い髪を肩でふたつに分けた少女、エリザ
・マーガレットだった。
その姿はボロボロで――先の魔法の爆発によるものだろう。無論――眼鏡のフレームは
曲がっている。
エリザが再び口を開こうとした刹那。
「なんだ、人違いか」
 言って、彼女をぽいと、適当に、そこらに放り捨てる。
瓦礫の上に、がしゃと倒れる音が上がるが気にせずに、きょろきょろと辺りを見回し―
―向こうの通りに(そちらは被害がなく安全だった)、ぽつんと立つアリシアと真琴。茫
然と。
「をををを! 真琴くぅぅぅぅぅぅん!」
エリザをむぎゅると踏みつけ――その際に軽く悲鳴を上げる彼女――、そちらへ駆け出
すデイル。両手を広げて。
「逢いたかったぞぉぉぉ! 真琴くぅぅぅぅん!」
迫る彼。
 それをあっさり、ひらりとかわし、がらんどうのデイルの腹に肘を叩き込み突き上げる
真琴。
 次いで、一瞬のうちに、その場で一転し、踵を首に叩き込む。
 その勢いのまま地面に倒れるデイル。
ぱんぱんと埃を払い、
「なにか用ですか? デイル先輩」
酷く静かな真琴の声音。それに直ぐさま復活するデイル。頭からだくだくと血を流しな
がら。
「をを! 実は君に用があってだな――」
「それだけでこうなるの?」
 周囲の状況を指し示しアリシア。デイルは彼女を無視すると、勝手に続ける。
「まったくもって逢えて良かった。用と言うのは他でもない。実は、是非とも君の力を借
りたく――」
「断る」
 デイルの言葉を無視して、すたすたと歩く真琴。その後にアリシアが続く。が、直ぐさ
まデイルが回り込み、
「人の話は聴くもんだぞ真琴くん」
 と、抗議する彼。それを再び無視して、その脇をすり抜ける彼女。
「真琴くん!」
 追いかけてくるのが気配でわかる。
「真琴くん!」
 彼女は相手にしない。
「話を聴いてくれ――」
 無視。
「だから――」
 再び無視。
「――話を――」
 さらに無視。
 と――
「話を聴いてくれ真琴くん!」
 真琴の腕を掴むデイル。刹那――
「触るな!」
 真琴の呟きと同時に、脚が一閃し、デイルのあごを捕らえ、蹴り上げる。
その痛みにより、あごを押さえ、ごろごろとのたうち回るデイル。が、
「話を聴くぐらいどうでもいいじゃないか!」
「イヤだ」
「いいじゃないか、少しぐらい」
「しらん」
「いや、だから――」
「イヤなモノはイヤだと言っているんだ、わたしは」
「もう少し寛大にだな――」
「そんなものはわたしの勝手だ」
「いや、だからな。そこをなんとか――」
 不意に言葉を途切るデイル。
 それに気づく真琴。デイルが一点を凝視している。
 その先は――
 彼女が腕に抱え持つ、野菜や果実類がたくさん入った袋。
それを見ながらデイル。
「なんだね真琴くん、それは?」
「!?」
 とっさに背後に隠す真琴。
「なあ、なんだねそれは?」
「し、ししししししししししししらん! わ、わわわわわわわたしはなにもしらんぞ!」
 慌てふためく彼女。それとは対照にデイル。
「そんなに結構な量をなんにするんだね?」
「しっしらんぞ! わたしはしらん! しらんと言っている!」
 尚も慌てふためく彼女。と、横から口を挟むアリシア。
「ああ、これ? あのね、これはマコちゃんが――」
「キサマぁぁっ! アリシアぁぁっ!」
 とっさにアリシアの口を塞ぐ真琴。が、その手を払い、アリシアが直ぐさま抗議する。
「ちょっとやめてよ」
「うるさい! キサマ! なにをするつもりだ!?」
「なにって、ホントのことを――」
「ふざけるな!」
 ぎゃいぎゃい言い合うふたり。そんなやり取りを見て、ぽんと手を叩くデイル。
次いで口を開く。
「ああ、なんだ。そう言うことか。そうかそうか、簡単なことだったな。つまり、真琴く
んが――」
「わ、わわわわわわわわわわかった! 言うな! わかった、話を聴く! 聴くからそれ
以上言うな! 聴いてやるから言え! さっさと話を聴く!」
 もの凄い形相の――かなり動揺し、文法がおかしい――真琴。それに気圧されデイル。
「わ、わかった。とりあえず話は聴いてくれるのだな? 実は、君に頼みがあって――そ
れより真琴くん、文法がおかしいが――」
「そんなことはどうでもいい! 頼みとはなんだ――と、その前に、先のことは絶対に他
言無用だ! わかったな! もし、他の奴らに――特にルーファスとレジーの耳に入って
いたら、容赦はせん! 二度と日の光を味わえないようにするぞ! いいな!」
 怒気を混ぜた彼女の静かな声音。それに素直にこくこくとうなずくデイル。
「わ、わかった……誰にも言わん……絶対だ……誓う、誓うから……とりあえず、この俺
の首を絞めている手をなんとかしてくれんかね?」
「……よし」
 言って、すいと手を――左手に袋を抱えたまま、右手だけでデイルの首を締め上げてい
た――外す真琴。
「で? 頼みとはなんだ?」
「うむ、実はだな――」
 赤く跡が残る自分の首に手を当てながらデイル。
「実は、かくかくしかじか云々と言うことで、森にいるルーファスたちのところへ行って
くれ」
眉を寄せる彼女。アリシアも同様に。
「……なにがかくかくしかじか云々なのかはわからんが、とにかく! ルーファスのとこ
ろへ行けばいいんだな?」
「うむ。詳しい話はルーファスから聴いてくれ」
「わかった。いいだろう」
 荷物を抱えたまま、駆け出そうとするが――くるりと振り返り、
「もう一度言っておくが、他言したら、命はないぞ!」
「わかっている」
 素直に応えるデイル。そんな彼を見て、
「……よし」
言って、彼女は走り出した。
 去り行く真琴の後ろ姿を見つめたままのアリシア。
 彼女の姿が十二分に遠ざかったのを見て、デイルに訊ねる。
「またなにかあったの? デイル先輩」
「うむ。我々――いや、この世界の人類すべての存亡を賭けた最期の戦いがはじまろうと
しているのだ!」
 握りしめた拳を掲げ、あさっての方向を見上げるデイル。
 そんな彼を見て、なにが最期の戦いなのかしら、と胸中呟きながら、ああ、そう、と声
を出して応えるアリシア。
と――
「しかし……以外だったな……」
 ぽつりと、静かに呟くデイル。そちらへ視線を向け、なにが? と訊き返す彼女。
「うむ。まさか真琴くんがなぁ……」
 さっきのことを思い出し、
「そんなに以外?」
「うむ」
 こくりとうなずくデイル。
(料理が趣味だってこと、ばれちゃたわね……それも、よりにもよって、この人に……)
 胸中で独りごちるアリシア。
 そんな彼女に気づかずに、デイルは続ける。
「まさか……真琴くんが学園食堂の材料調達のバイトをしていたとはな……」
その言葉を聴き、顔を上げるアリシア。きょとんとし、訊き返す。
「材料調達のバイト?」
 デイルはこくりとうなずき、腕を組む。
「うむ。あれだけの量をひとりで調達するとは、さすが真琴くんだ。まったくもって素晴
らしい。別に恥ずかしがるようなことでもないのになぁ」
ひとりうなずくデイル。それを見て、なにが素晴らしいのだかよくわからずにアリシア。
(つまり、この人……勘違いしてるわけ? あれを見て調達のバイト? どこをどうすれ
ばそう見えるのよ……マコちゃんも無駄な苦労して可哀想に……)
顔を押さえ、深くため息をつくアリシア。
 その隣では――まったくもって素晴らしい、と言って、ひとりうなずくデイルの姿があ
った。
 それともうひとつ――
 瓦礫に倒れたエリザが、静かに――ほとんど虫の息に近い声で――呻いていた。


#0051   ガテラー星人(ミスあったら指摘してください(^^;) (メール)    97/06/25 00:11:45
「うーん、なにやら悪寒がしますね」
 とか言いながらいつもと変わらない顔でリュートなどひいてるロクサーヌの現在位置は学園内の噴水の側である。
「それでは登場人物も多くなったことですし、このあたりで状況を整理してみましょうか」
「ロクサーヌさん、誰としゃべってるの?」
「いえいえ、お気になさらずに」(ポロロン)

カリオン地下遺跡―学園の裏山にある古代遺跡。召喚魔法を無効化するルビーの壷が封印されていると言われるが、その扉を開けるのは妖精だけ。Skill&Wisdomの地下迷宮とつながっているという。

 S&Wのある街に着いた来人たち一行。しかしいきなり若葉が迷子になる。マックスの案内で学園にたどりつき蒼紫と再会。一方ロクサーヌはデイルを締め上げて情報を得るが、そのためデイルは怒り心頭、部員をたきつけてロクサーヌ征伐をもくろむ。フィリーはメイヤーに捕らわれ、レミット達は遺跡入り口でレジー、ジョルジュと会い、カイルのパーティは地下で苦闘の最中。そして巻き起こるデイルの天災…。


ジョルジュ、アイリス、レミット、楊雲、ティナ―遺跡入り口にてアンデッドに追われ、フライの魔法でレジーの落ちた穴に降りる。(#0032)

メイヤー―フィリー片手に山道を歩きながらるんたったとステップ。(#0035)
フィリー―マッド考古学者の手に捕らわれ泣いてるトコ。(#0035)

シンシア、ラシェル、メリッサ―ルーファスに留守番を命じられたにも関わらず勝手に抜け出す。(#0036)
若葉、システィナ―部室にてお茶の用意をしたが、1st3人が行方不明で首をひねる。(#0036)

レジー―地下迷宮にて2体のゴーレムと追いかけっこ中。(#0038)

カイル、リラ、アルザ、ウェンディ―カリオン遺跡で迷子。奥から男の声(レジー)が聞こえる…。(#0039)

来人、キャラット、カレン、ロクサーヌ―フィリーを探してただ今カリオン遺跡に向けて学園を通過してるところ。(#0041)

ルーファス、ソーニャ、セシル、蒼紫―今は学園内。森へ向かおうとするもどこへ行ったものやら。(#0041)

マックス―デイルに乗せられ森へ爆走。(#0041)
チェスター―学園の廊下に一人取り残される。(#0041)

司書さん、ミュリエル―図書館にてデイルの暴挙により錯乱中。(#0049)

真琴―趣味を隠すあまり森へ向かうところ。(#0050)
デイル―真琴を無理矢理森へ向かわせることに成功。今は市場通りでうなずいている。(#0050)
アリシア―その横であきれている。(#0050)
生徒会長―デイルの攻撃により虫の息。(#0050)


「だいたいこのようなところでしょうか?まあリレーSSですから話の矛盾なんてものはあって当然、気軽に書きましょう」
「ロクサーヌクン、さっきからぶつぶつと気味悪いわよ」
「まあまあ、皆さんは早く遺跡へと向かってください。そういえばまだ出てきてない方もいらっしゃいますねぇ。登場が楽しみです」
「カレン、キャラット、早く行くぞー」
「うんっ、来人さん」
「はいはい、しょーがないわね」
「それでは物語を続けましょう」(ポロロン)




#0052   BE約一ヶ月ぶりです≠`R (bear@leo.fukushima-net.or.jp)    97/06/25 22:46:16
 とてとてとてとてとてとて――
 廊下を歩く、みっつの足音。
 朱色の髪、碧の髪、桃色の髪――
 その、それぞれ独自の色彩の髪が歩くのに連れて揺れている。
 とてとてとてとてとてとて――
と、朱色の髪の少女が、先を行く桃色の髪の少女へと声をかける。
「ねえ、メリッサ……ところでボクたち……何処に行くの?」
「シンシア歩き疲れたよ〜」
 碧の髪の少女――シンシアが愚痴を漏らす。
 桃色の髪の少女、メリッサと呼ばれた彼女は、シンシアを気にせずに声を出す。
「なに言ってンのよ。こーんな、滅多にないチャンスをみすみす見逃す手なんて、なーい
わよ」
「そうじゃなくて――」
 朱色の髪を持つ少女がぴたりと立ち停まる。つられてシンシアも。
 その背後からの足音が途絶えたために、メリッサが振り返る。
 朱色の髪の少女――ラシェルは続ける。
「そうじゃなくて、ボクたち何処に向かって歩いてるのかってことを訊いたんだよ? な
のになんで学園内をこうやって歩いてるの?」
「……ラシェル……マスターたちが何処に行ったかわかってるの?」
 メリッサにそう言われ、首を傾げるしかないラシェル。シンシアは、歩き疲れたためか、
手近の壁の袂に座り、寄りかかっていた。そんなシンシアに視線を向けながらラシェル。
「……わかんないよ……デイル先輩はただ先に行って待っているって言ってただけだけど、
外って言ったっていろいろあるし……何処の外のことかもわかんないよ」
 再び首を傾げるラシェル。そんな彼女を見て、ちっちっ、と舌を鳴らしながら、ぴっと
伸ばした人差し指を左右に振るメリッサ。
「甘いわねぇ……ずいぶん前の話を聴いてなかったの? 詳しく言うなら、#001のこ
とよ!」
「? なんのこと言ってるの? メリッサ」
「あーら、なんでもないわよ。それよりも、マスターたちが向かった場所は、カリオン遺
跡よ」
「カリオン遺跡? なんで?」
「ふっふっふっふっふ……」
 メリッサは一通り哄笑すると、びしりと天井を――意味なく――指さし、
「この天才――天災じゃあないわよ! この天才美少女魔導師、メリッサ・イスキアにか
かればちょろいモンよ! あははははははははははは――」
「……だから、なんでルーファス先輩達が、カリオン遺跡に行くなんてわかるの?」
 再び訊くラシェル。
 シンシアは、歩き疲れたためにか、壁によりかかったまま、すうすうと寝息を立て眠っ
ていた。
 こんなところで寝ないでほしいなぁ、と胸中独りごちながらラシェル。
 メリッサの哄笑がやむ。
「まあまあ、ようはそのカリオン遺跡に行きさえすればいいのよ」
「……でも……ルーファス先輩ボクたちのこと心配してたよ……それに一緒に行くって言
ったときに許可してくれてないし……やっぱり戻った方がいいよ」
 ラシェルの提案に、直ぐさま即答してくるメリッサ。
「ぬぅぅあに言ってンのよ! マスターたちだけ楽しそうなことしてて、その間にわたし
たちは大人しく、じっと指くわえて、部屋に閉じこもって、鼻歌混じりに傍観してろって
言うの!? 冗談じゃないわ、誰がンなことするもんですか!」
「誰もそこまで言ってないよ……」
「とにかく! わたしたちだってもう新米じゃないのよ。ダンジョン探索のひとつやふた
つ、みっつやよっつ、どうってことないじゃない。危険が伴う? 大いに結構じゃない!
三割引で買ってやるわよ! それにラシェル……アンタ、冒険者になりたいんでしょ?」
 指摘され、罰の悪そうに、うつむくラシェル。
「う、うん……」
「ならいいじゃない。大丈夫よ。別に死ぬまでなんとかしろって訳じゃないんだし、それ
に、危なくなったらさっさと逃げればいいだけじゃない」
「…………」
 ラシェルは腑に落ちないといった表情をしていたが――
「……わかった……」
 こくりとうなずく彼女。
 それを見て、メリッサが掌を打ち合わせる。
「はい。じゃ、決まりね。それじゃあ、そうと決まったら、さっさと行きましょ」
 スキップしながら鼻歌混じりのメリッサ。
 そんな彼女を見ながらラシェルは――
 静かにシンシアを揺り起こした。

「ねえ、カリオン遺跡とこの部屋と、どう関係あるの?」
 ひとつの部屋の前。
 その扉の眼前に立っている三人。
 含み笑いをしたままのメリッサ。
 床にぽとりと落ちているシンシア。
 そのシンシアの襟首を引きずるように掴んでいるラシェル。
 当のシンシアは、いまだ眠ったままだが。
 メリッサが口を開く。
「この部屋にはね、魔法陣があるの」
「魔法陣?」
「そ。その魔法陣はね、カリオン遺跡の一室と繋がってるのよ」
「そうなの?――なんでそんなこと知ってるの?」
 半眼になりながらメリッサに訊くラシェル。
 その本人は明後日の方向を向いたまま、拳を高々と掲げている。
「愛と勇気の天才――天災じゃあないのであしからずよ! 天才美少女魔導師、メリッサ
・イスキアの手ににかかれば軽いモンよ!」
「ならこっち向いて喋ってよね」
 嘆息混じりにドアのノブを掴むラシェル。が――
「? あれ? 開かない……鍵が掛かってる」
 くるりとメリッサが振り返り言う。
「そりゃそうよ。この部屋は生徒会長が管理してるんだもの」
「どうするの? 鍵を借りてくるわけにもいかないし……」
 小首を傾げる彼女。メリッサはため息を漏らし言う。
「ラシェル、あなたって、ほんっとにつくづく、お馬鹿さんね……」
「なにが?」
 多少ムッとしながらラシェル。メリッサは気にせず続ける。
「あのねぇ、なんのために魔法があると思ってるのよ」
そう言われ、きょとんとするラシェル。
「魔法?……!? あっそうか! 魔法で解除しちゃえばいいんだね!」
「そいうことよ」
「……でも……マジックプロテクトも掛けてあるみたいだよ?」
「ふふふ、本当に甘いわねぇ。この最強無比、無敵の覇王、百年に一度と言われる天才―
―なんども言うけど天災じゃあないわよ! 天災美少女紅蓮の魔導師、蒼の使者、天翔る
大空の女王とも呼ばれるこのメリッサ・イスキアにかかればなんぼのモンよ!」
 もうどうでもいいけどね、と感じながらラシェル。
「じゃあメリッサ、君このロックはずせるの?」
「あったりまえよ! この白銀の冥王と呼ばれ――」
「それはいいから! でもこのマジックプロテクト、特Aクラスみたいだよ」
「ふっ、このメリッサ・イスキアに任せてみなさい。いくわよ!」
 言って、眼をつむり、手に持つステッキをくるくると回転させるメリッサ。
 次いで、呪文の詠唱に入る彼女。
 それを静かに見守るラシェル。
 シンシアの寝息が聴こえてくる。それはまあどうでもいいことだが……
 刹那――
 メリッサが眼を開き――
「えい」
 手に持つステッキを、扉へと振り下ろす。
 どがごおっ!
 鈍い音が上がると同時に、扉が砕け散る。
「…………」
 黙ってそれを見ているラシェル。メリッサが声高々にこちらを見る。
「ほらどう? この魔界を統治するメリッサ・イスキア大魔導師さまの力は? あーっは
っはっはっはっはっは――」
「…………」
 砕けた扉、壊れ転がっているドアのノブを見つめ、次に視線をいまだ哄笑を続けている
自称天才魔導師へと移す。
「……魔法ってさ、なんのためにあるものなのかな?」
「ほら、なにぶつくさ言ってンのよ! せっかくこのわたしが魔法で扉を開けたっていう
のに。魔法でよ! ま・ほ・う・で!」
「……魔法っていうよりも、ただの力技で無理矢理こじ開けたとしか見えな――」
「いいからほら早く! 先行ってるわよ」
「叩き壊すンなら、魔法詠唱なんていらないんじゃないかな」
「なに言ってンの! こういうのはね、雰囲気が大事なのよ雰囲気が!」
 言って、壊れた扉を蹴飛ばしながら中へと入室していくメリッサ。
「……そう言うもんかなぁ」
 腰に下げている愛用の剣――万が一の護身用として、寮の自室から持ってきた――の柄
に触れながら、ラシェルは――なにか大きなものが崩れていくのを感じ取りながら――、
尚も眠り続けているシンシアをずるずる引きずりながら部屋へと入っていった。
 そして――

「ン? ジャネット、なにしてんだ?」
 栗色の髪を持つ少女が振り返る。
「――なんだ、チェスターかよ。なんか俺に用かい?」
「なんだはねぇだろが、なにしてんだよ」
 赤髪の男、チェスターがジャネットへと歩み寄る。
 ジャネットは軽く肩をすくめながら、
「別に、暇だからそろそろ帰ろうかと思ってな。そう言うお前は?」
「俺も帰るところだ。ホントはマックスの奴と帰る気してたんだがよ」
「? なんかあったのか?」
「まあな。ちょっとばかり――あン?」
 と、そこでチェスターは言葉を途切る。
 それを見て、訝しく思うジャネット。
「どうかしたか?」
「いや……アレ……なにやってやがんだ?」
 視線も顔も向けずに、ただ前方を指でさし示すチェスター。
 ジャネットもそちらに視線を向ける。
 ひとつの扉の前にあるメリッサ、ラシェル、シンシアの姿。
 と、そのメリッサが、手に持つステッキで扉を殴り壊したところだった。
「……ドアを壊したな」
 静かにぽつりと呟くジャネット。それを見て――
「そうじゃねぇだろ。確かあの部屋……生徒会長の奴が管理してたはずだぜ」
 ジャネットとチェスターのふたりにに気づかず、ラシェルたちはその部屋へと入ってい
った。
「……なんかあるんじゃねえか?」
「なんかってなんだ?」
 チェスターの問いに、ジャネットは肩をすくめながら言う。
「さあね、ただ――」
「ただ?」
「……ただ、なにか厄介なことをしてるとこに出くわしてんのは確かだな……」
「……違いねぇ」
 半ば諦めたかのように、チェスターは頭をかいていた。




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管理者: ガテラー星人