○Mynona さん
- 03 例え、誰が覚えていなくとも (採点:5)
- 冒頭のキャラ栞だと思っちゃいました。だまされたー。次のシーンが香里→栞なんで読み間違えたんでしょうが、少しはミスディレクションって部分もあるのかも。でも、あとから読み返すと別に口調だってごまかしてないんだよなあ。
脇役の女性たちがなんだかやけに魅力的で、シーンの鮮やかさと流れの不可解さが絶妙なバランスを保ってますね。度の合わないメガネのように視界がゆがんで頭がもやもやしてきます。こうやって、なんだか判らないけど気分が動かされるっていうのは、ちょっと凄い。祐一の不安を読者も同時体験できちゃう。
洗剤とサイドボードは判るとして、グラタンって何なんだろう。ホワイトの方かな、意味があるのは。綺麗に白く、やっぱりそうか。白紙の手紙の抽象的意味はいいとして、これ、誰が出したのか。微妙に秋子の台詞がおかしいような気がするし、ここはもう半ば夢の中っぽい。誰かが本当に出してるなら美汐だろうけど……。
あゆのいうあの子って表現も微妙にひっかけ的。
初読と再読でずいぶん印象が変わりますね。再読して、ようやくバックストーリーの方に意識をまわす余裕が出来てきます。こっちもまたずいぶん捻ってあるなあ、と(単一の解釈にまでは落ち着けない気がしますが。容量ですかねぇ)。形式と内容の両方を同時に捻ってしまうと、読み取るのが難しくなるような気がしないでもないです。途中で読むのやめた人、結構、いたんじゃないかなあ。だから価値が落ちる、というわけじゃもちろんないんですが惜しい。
以下、うまくまとまらないままだらだらと列挙します。
・冒頭の台詞と真琴が消えた日が同じであって、祐一のもっている切迫感が真琴へのものなのか美汐へのものなのか判り難い。中盤までは真琴への、終盤では美汐へのものに見えるんじゃないかな。記憶を失っているかもしれないという焦りが切迫感のもとなんでしょうが、その割りには真琴への想い、美汐への想いという方向にテーマが寄り道する気がします。
・真琴の娘的位置というのは、マイナー説ってほどではないけれど少数説の類いであって、説明なしにもってくるのキビシイのでは。
・「信じてくれます?」の中には実は嘘もまざっているかもしれない。でなければ、バックストーリーはオリジナル。でなければ、美汐も自分と真琴をある程度同一視している。
・沢渡真琴オリジナルと真琴の二重性が、真琴と美汐の二重性の着想元かなぁ(あゆと名雪の二重性とかあゆと栞の二重性とかもありますけど)。
・この雰囲気どこかでと読みながら思ってたんですが、ひょっとするとディックでしょうか。
- 05 風鈴の鳴く夜に (採点:5)
- あ、この秋子さんいいなあ。基本的には、いわゆるキャラネタとしての秋子さんなんだけど落ち着いた描写とテンポでもう一歩踏み込んだ実在感を出してますね。変にリアリティとかやり過ぎるとそれはそれで妙な感じだし、いいバランスで書いてるなあと思います。
アルコールネタだけど、飲めるとアピールしたがる新入生のような無理がなくて、作者さん、ひとり酒するような人かじゃなければ全然飲まない人かのどちらかなのかな。
安易に踏み込まない優しさというのは、どうも最近旗色が悪いようでひょっとするとそろそろ通じない概念になるのではないかという気がしないでもないのですが、でも、この夏の夜の温度と空気が感じられるような描写にはそんな曖昧さが似合いなのだと思わされます。
で、そんな曖昧さがいいと思うので、秋子さんの部屋を出るまででいいんじゃないかなあと思ったりしますが、でも、それだと曖昧さが行き過ぎて何が何だか判らないって言われちゃうかもしれないですね。
- 06 シフクノセツナ (採点:5)
- これはたぶん、正体ははじめの方で割れると思うんですが、それでもどう展開して明かされるかを期待して読み進めちゃいますね。
幸せついて、祐一なら永続と答えそうだなという感想が半分、栞の台詞を引き出すには永続と答えないといけないよなあという感想が半分でした。
栞バッドで香里がいる話なんだけど、香里の安定度をみるとしばらく時間がたったあとなのかな、こっちはこっちでドラマがあったんだろうなあと勝手に納得させられてしまう雰囲気があります。
バッドエンドの場合、どこかに希望か満足を残した話にするのが読ませるコツなのかなと思ったりもしました。バッドらしくない、だからといってグッドでもない、不思議に心地よい話でした。
- 07 ふたりは391/199900*1/? (採点:5)
- 栞、香里の祖父母というキャラははじめてみたような気がします。
祖母の口調はせいぜい40代かなと思いました(とはいえ、そのくらいに見えるキャラを描けるというのはなかなかすごいことですよね。老人どころか中年の口調さえ難しいですからねぇ)。台詞のない祖父は年齢相応に見えたりするんで、案外、この辺が鍵なのかも。伯母と祖父という組み合わせだと楽だったのかもしれないですが。
祐一のデリカシーのなさは、その一歩手前で止まるんじゃないかなとは勝手な思い込みですが。まあ、爺婆の健康しだいでどっちにも転ぶ範囲の話題ですね。
この栞は、たぶん三人称(というか祐一視点)の方が可愛く見えるんじゃないかなぁ。どたばたキャラと視点キャラが同一だと、余計なことまでいちいち自分で説明しなければいけないので、多少損をしてしまうような感じがします。
アイはオチに使うのかな? 愛を見守る瞳って感じで。……おー、はずれw
どことなく付き合いはじめのような、愛を確かめるのが楽しいふたりの話でした。このふたりの最初の試練はきっと祐一の受験でしょうねえ。
- 10 さいごのにんむ (採点:5)
- 神さま、孤独ですねえ。寂しそう。任務が達成されたら、きっと僕ともお別れですね。狐は人間を選ぶから。
ホントは達成されたくなくって、わざと不可能そうな任務をつくったんじゃないかな。でも、直向きな狐は達成させちゃうんですね、神さまのことを思って。
さいごは最後だし、最期なんですね。
短い中にペーソスがあります、この話。
娘を持ったお父さんのような神さまです。
- 11 過去に捧げるプレリュード (採点:5)
- 証明なんてネタを使うと香里があまり賢くなさそうに見えてしまう場合があるのですが、この使い方は抑制が効き、逃げるところは逃げていて上手いと思いました。
わざわざ北川の名前を出してみたりするあたりはファンサービス(というかいろんな方面への配慮)過剰な気が。流れに関係ないんじゃないかなあ。
今月で12月の終わりで一年、ちょっとだけ気にかかります。
変わったなってあたりは、つまり本編の香里といわゆるアフターものでの香里のキャラクターの差を吸収し説明しようって意図がある……のかな。と考えれば北川の名前が出てくるのは唐突じゃないのかも。
本質と関係ないところをこまごま述べてますが、会話主導の軽いコメディ・軽妙さを損なわない範囲でまじめ風味ということで大変楽しめました。
- 13 三顧の礼 (採点:5)
- これ、ふたりともキャラがいいなあ。力が抜けてて、とぼけた味わいのずれた思考。
繰り返しもので、最後に唐突なオチってだけじゃなくてストーリーの展開もあるところがうまいと思いましたが、ギャグとしては弱いと見る人もいそうな感じがします。キャラの言動がエキセントリック過ぎないのも合わせて、だから、ほのでギャグでなんでしょうね。……まぁ、ジャンルを単にほのぼのとしちゃうと、ああいうサゲはやり難いと思いますけど。
こういう展開、シリアスな話でもありそうですよね。そっちじゃ最後怒って終わりにはできないし、愛が勝つってのも無茶だし、考え始めるとあんまりいい気分にならない問題ですが、なんだそんなものと笑い飛ばされてどこかすっきり出来た気がします。
しかし、最後、いい話で終わらされちゃったらどうしようと変な意味でドキドキしました。そうならなくって、本当によかった。
- 18 はんばぁぐ (採点:5)
- 三姉妹もので来るとは驚きでしたが、読み終わってみればいかにもな二次らしさが逆にいいと思えました。
中途半端なシリアスっぽさとかメッセージをいれないで(入れたくなりそうな気がするけど)、テーマに忠実に(幸せな風景、ですよね?)しかもあまり強調しすぎないでさりげなく淡々とやったところがうまいと思います。というか、そういう趣向なんでしょうね。
どうしてか微妙に漂う郷愁がいいですねえ。秋子さんがいないからかな?
オチの部分、作者的には不安なんじゃないかと思いますが、悪くないような気がします。受けではなく、むしろ仄しんみりといった感じ。
設定とテーマに馴染むまでの部分、つまりタイトルと冒頭部がちょっととっつき難い気もしましたが、設定を受け入れてしまえばすんなり読めました。二次的で非本篇系な設定で多少損をしそうなのが気になるところですが……。
- 19 安っぽくても、それでも (採点:5)
- 栞の想像する、相沢祐一推定9歳の光景、これ、何だか妙にいいです。よほどふたりの仲がよくないと出てこない情景ですね。テーマもそれのようで、イベントを通して暗黙裡にテーマを描いてみせるんだから見事なものです。
栞に微妙に他のキャラが混ざってるような気がするんですが、何と比べてといわれれば過去に読んだ二次創作をつぎはぎした栞像なわけで、何篇かこのキャラで読めば馴染む範囲のような気もします……もうかなり思えてきました。
タイトルからはもっと切迫したものを感じたのですが、ま、いいかといった感じのものだったんですね。ダークまたはシリアスに行くのかなと途中まで身構えてました。それはそれでよさそうですが、こっちはこっちで透明な軽さがよかったと思います。香里と軽みがやけに似合ってると、そう感じました。
- 21 君を守る (採点:5)
- あゆ以外エンドのあゆですね。
舞シナリオに続けるとは珍しい。舞シナリオ+天使パワーという組み合わせは始めてみました。あ、舞シナリオだと祐一にはあゆの力がいらないのか。だから、佐祐理の願いを出す余地があるんですね。なるほどー。
舞カッコいいな。幼児じゃない舞なんてあまり見られない。台詞も舞のリズムだなあ。舞の弱さと場当たり性もちゃんと描いてあって、強くて弱い、それが舞なんだなあ。
このあゆが舞の能力だとすると、じゃ、それ以前のあゆだって祐一の一部だろうって話も出てきそうですね。こういう解釈でやっても残酷な話に見えないのってすごいなあ……(正真正銘とはいってますけど、これは記憶の連続性どまりですし……あ、やっぱり祐一の一部っぽい)。
舞の能力を過去改変としてるんですね。この解釈、ずいぶんと昔にはやったやつですね。最近でもこういう解釈が主流なのかな? あゆエンドに過去改変をくっつける解釈は始めてみたような気がしますが、何となくその方がうまく話がつながるような。もしや、本編も? とかちらっと思いました。
「『結果が努力によってもたらされた』ということに自信が持てない」これ、言われてみれば当然なんだけど、グッドエンドだからいいじゃんって流されそうなところですね。そういうところを押さえるから、優しくて悲しくて寂しい話に見えるんでしょうね。
かなり本編に詳しい人のような気がしますが、そういう独特の雰囲気があまりないですねぇ。あくまで話のパーツとして消化しきってるんでしょうね……。
- 23 いたずらかおりん (採点:5)
- ぱっと見た感じだと、香里の側の子どもっぽさが浮いているというか、栞のいたずら(のし返し)を印象付けるためにはむしろクールに描いた方がよさそうに思います。父親との会話の部分とか。
でも、最後まで読むと、この子どもっぽさって下の子が生まれると上の子が急に子どもっぽくなるっていう現象に近いのかなと思えます。新しい環境にどう対応していいかとまどってついつい手が出てしまうというような。むしろ、そっちの方が本筋なのかな。
そんな行動に出てみても結局、もううまく妹の世界には混ざれない(その場所にはすでに別の人がいる)、だから、先に変わられてしまった妹とは別の道を、新しく見つけて歩き出さなければいけない……と栞が助かったあとの香里の虚脱感みたいのを表しているのだと読みました。
こういうテーマだと、名雪か祐一か北川が手を差し伸べてとなるのが普通ですが、この話では香里がひとりでとなっているところが珍しい。じっくり読むと新鮮な香里像が浮かんでくる気がします(大げさな感情の発露をしないところがちょっと好き)。
読み終えてみると、実はひねったタイトルだったりしますね、これ。
- 28 みずたまり 〜逢魔が時に〜 (採点:5)
- ちょっととっつき難いかなと思ったんですが、あゆが羽あゆでないということが判って急に世界が広がり始めました。羽あゆは水たまりの向こうなんですねぇ。羽あゆでなく、しかもあゆエンド後じゃないというのはいろんな意味でチャレンジャーだと思います。
話自体は、さっぱりとした日常のワンショットなんですが、背景を考えるとなかなか意味深い。この話の世界って、いわゆるオールキャラコメディものと同じですよね、たぶん。あゆの帽子と排他の関係になってる栞、あゆエンド後じゃない名雪、オールと来たらこの人な北川。登場人物もそういう意図で配置してる気がします。
水たまりを通して対照的な世界となっている、羽あゆ世界とオールの世界。このふたつの世界を扱って、この話のようにオールの世界の方からしんみりとした視点っていうのはすごい変化球です。しかも、この場合、たぶん直球よりも遥かにインパクトがある。
実現してしまったら、思うだけのときほど幸せばかりでないかもしれないオールキャラの世界。そんな世界からみたら、羽あゆの方の世界のいいところばかり見えてしまうかもしれない。――たぶん、あちらの世界に栞はいないのでしょうが。
こういう話だと消える寸前のキャラが他の幸せな世界を見る(じゃなければ、祐一がすべてのエンディングを覗き見る)って切り口が定番なので、この視点の転換には新鮮な驚きがありました。
- 34 かえるところ (採点:5)
- じっくりと丁寧な展開と叙述に好感。文体が生理的に心地いいです。
お父さんの台詞は、ちょっと若すぎるかなという気が多少。
両親の赴任先、実家の場所は伏せた方が読者にひっかかりをもたせないのでは。
やっぱ出ましたね、女友達。当然の流れですもんね(そしてそれがよいので)。
こういうダウンなテンポは、なるほど名雪エンド後(の微妙な寂寥感)に似合いなのかも。帰宅時のちょとした不安が爆発せず終わりに出来るのも、安定性のある名雪シナリオだからだろうなと思います。
実家に戻って感じてしまう、帰るところへと向かう郷愁という視点がいい。ひっじょーにさりげない名雪の側にもある微小なビター感もグッド。
どこかで見た様な感も、そういう挑戦なんだろうなと受け取りました。
文句も多いですが、ほんと好きです、この話。
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