<証言 紅若葉>



それはわたしがパンを焼きあげた直後のことでした。

「ううっ、不器用なわたしがパンを作れただなんて感激ですっ。
 おじさん、このパンお店に並べていいですよねっ」

「あ、ああ…」

「ああ〜売れるといいなぁ、売れるといいなぁ…」

「‥‥‥。(とほほ…)」



カランカラーン



「あ、いらっしゃいませっ!」

「ぐはっ!なんだこの店に充満した甘ったるいにおいは!」

「はい!わたしの甘口いちごパンです!どうですかおひとつ」

「ま、また今度にするよそれじゃっ!」

「そうですかぁ?残念です…」

「(この店は今後どうなるんだ…)」



しかしわたしがちょっと目を離した隙でした。



「きゃぁぁぁぁ!」

「どうしたい若葉ちゃんっ!」

「わ、わたしの甘口いちごパンが!」



忽然と消えていたのでございますっ!それはもう煙のように!



「なんてことだ、許せないな…」

「ちょっとちょっと、まだ盗まれたと決まったわけじゃないわよ。
 あんたのパンのことだから勝手に発酵して溶けたんじゃないの?」

「真面目にやれ!」

「一応すべての可能性を考えておくのが探偵だしさー。
 で、役所には届けたわけ?」

「いえ、店の評判に関わるからできればやめてほしいとおじさんが…。
 でもいいんです。たとえ盗んだパンでもその人がおいしく食べてくれるなら…うっうっ」

「どっかに落っこちてはさまってるとかじゃないの…」

「隅々まで探しましたっ!」

「あんたが探したって言ってもねぇ…。で、要するにそれを見つけてほしいってわけね」

「いえ、実はもう一つ事件があったのです」



焼いたパンは3個。まだ2個残ってるし、また焼けばいいし…
そうだわ、売る前にまず誰かに味見してもらおう!



「と、わたしは甘口いちごパンを持ってアルザさんのところへ向かいました」

「アルザもとんだ災難な…ぐっぐるしい!首絞めないでよ!」

「やかましいこの不良探偵!!」

「リリト!暴力はダメっ!」

「うっ…だ、だってこいつが!」

「ううん、わたしは気にしてないから」

「そ、そう…ごめん」

「ああもう今度こそ真面目に聞くわよ…。それでアルザがなんだって?」

「いえ、アルザさんのところへ向かう途中のことでした」



「おいしいって言ってくれるかなぁ〜。言ってくれるといいなぁ〜」


ドンッ



「きゃぁぁっ!ご、ごめんなさいごめんなさいっ!わたしったら前を見ないで歩いてたから…」

「あ、あれ?」



「そのぶつかった人は何も言わずに行ってしまいました」

「ふんふん」

「そしてそれから10分ほど歩いたころ…」



「はっ!そういえばわたしのパンがなーーいっ!」



「と、気がついたのでございます」

「あんたにしては早く気がついたわね…」

「とにかく2度続けて若葉のパンが狙われたんだ。これはもう何かあるとみて間違いない!」

「ただぶつかられて落としただけなんじゃないの…」

「戻って探したけどどこにもないんですぅ〜」

「だから探しのがあんたじゃさあ」

「通りがかったキャラットさんも一緒に探してくれたんです!」

「大して変わらないわよ。ま、いいや。事件はそれだけね?
 んじゃ細かいこと聞かせてもらうけどいいかな」


それからあたしは質問を始めた。
面倒だからノートにまとめとくね。



・パンを焼いたのはおとつい。午前10:00ごろ。
・特におかしいところはなく、生地をこねて普通に焼いた。

・第1の事件は同日。午前11:30ごろ。
・売り場には若葉だけで、おじさんは奥でパンを焼いていた。
・人影があったかどうかはちょっと気づかなかった。(ぼーっとしてたから)
・そのパンがあったのは棚の上の方で、猫なんかではちょっと届かない。
・一応落ちてないか隅々まで探した。
・足跡はなかった。
・特に変わったものもなかった。

・第2の事件は昨日。午後3:00ごろ。
・ぶつかったのがどんな人だったかはよく覚えてないが、マントとフードはしてたと思う。(ちょっと自信なし)
・その人はかなり急いでいたようだった。
・人通りはわりと多かった。
・落ちて蹴飛ばされたかと思って、たまたま近くにいたキャラットと一緒にあちこち探したが、やっぱり見つからなかった。



「そしてこのパンが3つ作ったうちの最後の1つです」

「なるなる…」

「今は私がつきっきりで警護しているが、いつ若葉が危険に巻き込まれないかと心配だ」

「だいたい状況は分かったわ。仕事は引き受けるけど…。
 解決した場合の報酬は金貨50枚。なくしたパンを1個取り戻すごとにプラス10枚。このパンを守りきったらプラス10枚。こんなとこでどう?」

「はい、それで結構です」

「ぼってる!絶対ぼってるぞ若葉!」

「心外なッ!探偵の相場はこんなもんなのよ!これ以上安くしたらやってけないのよ!あんたあたしに首釣れ言いますか!?」

「ああっごめんなさいごめんなさい!リリト、謝りなさい!」

「し、しかしなぁ…。本当にこれが相場なのか?なら仕方ないが…」

「そうそう、あたしのこの奇麗な目を見て」

なーんてぼったくってんだけどさ。いいのいいの若葉は金持ちの娘だから。
交渉が済んだところで次は現場検証。探偵7つ道具を手にあたしは部屋を後にした。



パン屋へ





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