<証言 カイル・イシュバーン>



そう、オレはいつも若葉にパンの耳を分けてもらっていた。施しを受けるなど名折れと思いつつも、背に腹はかえられなかった。そして若葉はそんなオレの思いに関係なく、いつも笑顔でパンの耳を取っておいてくれていたのだ…


「ええいこのまま借りを作るのはシャクだ!こうなったらたまには礼を言ってやる!」

そう思いはしたものの直接口で言うことなどできん。よって手紙に書くことにしたのだ。

「それがさっきのこっ恥ずかしい感謝状ね」

「こっ恥ずかしくて悪かったな!」

「あのー、でもお家のポストには入ってませんでしたけど」

「ポストではリリトが見るとも限らん。かといって手渡すのも嫌だ!とりあえずお前がバイトしているというオレはパン屋へ行ったのだ」

裏へ回って窓から中をうかがうと、そこは厨房で、パン生地をこねる台が目の前にあった。そして奥から声が聞こえてくる。


『材料はこれで全部ですねっ。それじゃ頑張って生地を作りますっ!』


あれは若葉!これから生地をこねるのか?ならばこの台に置いておけばいやでも気付くに違いない。そう思ったオレは手を伸ばして感謝状を置き、窓の外で身をひそめたのだ。


「‥‥‥えーっと」

「つまりそれがパンの中に入ったっていうのは…」

「そう…。
 そいつは目の前の手紙に気付かず、その上にパン生地を広げてしまったのだぁぁぁぁ!!!」


ガガーーン!!




「その上手紙と一緒にこねくり回し、唖然としているオレの前でそのまま焼いてしまったのだぁぁぁぁぁ!!!!」


ズガガガーーーーン!!!!




「開いた口がふさがらないわ…」

「あ、あははははははっ」

「笑ってごまかすなっ!」

「す、すみませ〜〜〜んっ!!」

「その時のオレは錯乱せんばかりだった」


『あんなものを他人に見られたら身の破滅だーーーッ!』



「取り返すしかない!そう思った。しかし3つのパンのうちのどれに入ったかはわからん。仕方なくオレは順番にパンを拉致していったのだ」

「そして実際に入っていたのは3つめだったと…。あんたもクジ運ないわねー」

「やかましい!だいたい若葉、あれに気づかんお前が悪い!」

「その、初めてパンが焼けるというので浮き足立っておりまして…」

「若葉は悪くないぞ。カイルがちゃんと手渡さないから悪いんだ」

「まーまー、とにかく最終的に手紙は渡ったんだからよかったじゃない」

「くっ…オレは帰る」

「あの、つかぬことをお伺いしますが」

「何だ?」

「結局わたしのパンはどうなったのでしょうか?」

「…分解した後食べた。捨てるのは寝覚めが悪いからな…」

「まあ、ありがとうございます!やっぱりカイルさんはいい人です!」

「えーいうるさいうるさいっ!帰るっ!」

「ああ、やっぱりカイルさんはいい人でした」

「そうかなぁ…」

「それで、今分解したパンもお2人が食べてくれるんですよね?」

「え゛!?」

「そっ…そうなるのかっ!?」



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