「おっはー」
「おはよー」
朝の弁天町駅で、つかさは三人の友達と挨拶を交わす。
晶と奈々、そして三組に所属する楓。
この四人に夕理を加えたのが、弁天中出身の住女生である。
夕理が遠慮して早く出発していることを、つかさ以外の三人は知らない。
「みんな、夏服可愛いやん」
「またまたー、つかさの着こなしにはかないませんって」
「ま、すぐに着替えるんやけどな」
六月一日。制服の上では夏が始まる日。
そして、体育祭の当日である。
* * *
「橘さん! 選手が一人行方不明や!」
「放送を入れてから既定の時間待って、駄目ならスタートしてください」
「小都子先輩! ピストルの予備どこでしたっけ!?」
「体育用具室、右の棚を探してみて」
先輩からも後輩からも頼られ、実行委員の小都子は大忙しである。
(まあでも、晴れてくれて良かった)
梅雨入り前とはいえ、この時期ははらはらする。
熱中症の対策も万全。
何とか怪我も病気もなく終わってほしいものだ。
「小都子先輩、こっちには来られへんみたいやなー」
校庭の一角にある三組連合の陣地で、花歩は運営テントを眺めて呟く。
「うちらで何か手伝えへんやろか!」
「うーん、いきなり行っても逆に邪魔とちゃうかな。それより勇魚ちゃん、そろそろ出番やろ」
「そやった! 行ってくる!」
足の速い勇魚は、今日は様々な種目に引っ張りだこである。
うち一つは花歩との二人三脚なので、お荷物にならないように……と屈伸などしていると姫水がやって来た。
「花歩ちゃん。勇魚ちゃんそろそろよね?」
「せやね。こっち来てええの?」
「さすがに六組の陣地だと、勇魚ちゃんを応援しづらいから」
「ほんま姫水ちゃんって勇魚ちゃん最優先やなあ」
「うふふ」
並んで体育座りをして待つ間、姫水の口から出るのはやはり幼なじみの話である。
「勇魚ちゃん、中学の体育祭でも活躍してた?」
「してたはしてたんやけど……」
「?」
言葉を濁され怪訝な顔を向けると、花歩の目は記憶に浸っているようだった。
「勇魚ちゃんて、一位になってもあんまり喜ばへんねん」
「え……」
「負けた子のこと気遣ってるのかなって思ってたけど、それもあるとは思うけど、それだけとちゃうんかったんやな」
そして花歩は首を傾け、真っすぐに姫水を見る。
「入部するとき言うてたことで、ようやく勇魚ちゃんが分かった気がする」
『姫ちゃんはいつだって、スポットライトを浴びる人』
『うちは、それを応援して助ける人』
遠く離れた中学校でも、あの子はそんなことを考えていたのだろうか。
自分より、その場にいもしない姫水が一位になってほしいと――。
「小学校の時はどうやったん?」
「……まだ七歳だったから、さすがに気付かなかったけど」
でも、思い返せば昔からそうだったかもしれない。
パァン!
ピストルの音にはっと顔を上げると、勇魚は既に出走していた。
反射的に姫水は大声を出す。幼かった頃、現実が現実としてあった頃のように。
「勇魚ちゃーん! 頑張ってー!!」
花歩も驚くほどの大声が届いたのか、勇魚は見事に先頭でテープを切った。
なのに喜びを爆発させるでもなく、周囲の祝福には控え目な笑みを返している。
(勇魚ちゃん……)
乗り越えたのではなかったのだろうか。
周りを立てるだけでなく、主役になることを選んだと思ったのに。
彼女の優しい性格では、やはり難しいのだろうか……。
* * *
『続きましては三年生の100m走。おおっとこれは好カードや!』
実況している放送部員が、マイク越しに声のトーンを上げる。
『陸上部部長の山崎さんと、Westaリーダー広町さんの対決です! 果たしてスクールアイドルは本職に勝てるのか!?』
スタートラインに立つ立火に、会場のあちこちから黄色い声が飛ぶ。
紹介された陸上部部長は、横目でそれを見ながら考えた。
(アイドルなんやし、ここは花を持たせてあげた方がええかな。陸上部が体育祭で本気になるのも大人げないし……)
「山崎、手加減とか考えてへんやろな」
いきなり見透かしたように、立火の不敵な視線が射抜く。
「本気でやってもらわな困るで。陸上部やからって簡単に勝てるとは思わへんことや」
「……へえ」
そうまで言われては手抜きはできない。
ピストルの音と同時に、蓄積のある陸上部員は見事なスタートを切る。
『山崎さん、一気に飛び出しました! 後続集団は引き離される!』
(あかんあかん、つい乗せられてもうた)
周囲に誰もいない状況に、少しやり過ぎたかと気を緩めた時。
「ぬおおおおおおおお!!」
「!?」
鬼のような形相で、立火が後ろから追いかけてきた。
慌てて山崎も逃げるように駆け出す。
(ちょっ、アイドルがそんな顔してええんか!?)
(根性やあああああ!!)
100m、十数秒の勝負の後……
「陸上部に勝てるわけないやろ」
「ぜえはあ……」
息も絶え絶えに座り込んでいる立火は、それでも虚勢込みの笑顔で親指を立てる。
「けど、観客にはウケたやろ!」
言葉の通り、全力を尽くした真剣勝負に、生徒たちは大いに沸き立っていた。
「とことん芸人やなあ。ほら、立てる?」
「おおきに!」
山崎が手を貸して、立火を立ち上がらせる。
その光景に、校庭の拍手は一際強くなった。
クラスは違えど目一杯手を叩いてた花歩は、陣地に戻る立火を見て立ち上がる。
「勇魚ちゃん! 部長におめでとうって言いに行こう!」
「え? うん、ええよ」
(あ、でも二位を祝われても嬉しくないやろか……けど、うーん……)
迷いながらも、親友と共に五組の陣地へ向かおうとする。
その途中、二人組の女生徒とすれ違った。
「立火先輩って確かにかっこいいけどお」
うち片方から、そんな声が聞こえた。
「王子様と言うにはちょっと泥臭すぎやんな」
「せやなー」
「身長ももう少しあって欲しい」
「せやせや」
「んなっ……」
憤慨して追いかけようとする花歩を、勇魚が慌てて引き留める。
「ま、まあまあ。一応かっこいいとは言うてたんやから」
「そうやねんけど……」
悔しそうに見送り、ぎゅっと拳を握る。
立火が完璧な王子様でないことくらい、花歩だって分かってる。
でも、泥臭くても自分にできることを精一杯する、その姿が好きだった。
(やっぱり、ちゃんと伝えに行こう)
順位なんて関係なく。
素敵でした、かっこ良かったですって。
* * *
「岸部さん、お疲れ様!」
「あまり貢献できず申し訳ない」
「いやいや、一点でも得点は得点や! 十分十分!」
立火に倣ったわけではないが、全力で走って息の切れている晴に、クラスメイトの視線は優しい。
とはいえ馴れ合うわけでもなく、晴は一人で陣地の隅の方へ行った。
そこでは夕理がぽつんと体育座りをしていて、隣に座る先輩に不思議そうな目を向けてくる。
「ずいぶん真剣に走ったんですね」
「失うのはしょせん一時的な体力やからな。これが金や時間を失うなら別やけど」
「合理的ですね……」
二組連合の順位は五位。とはいえ四位とは僅差で、多少の希望は持てなくもない。
まだまだこれから! 絶対勝てる! 等々の声が周囲から聞こえる。
勝ったところで何があるわけでもないのに。
「次の曲の見通しはどうや」
「まだ全然ですが……」
質問を受け、この人が隣に座った理由を理解する。
大阪市予備予選と関西地区予選の間は短い。カレンダー上は一か月あるが、期末テストと部活禁止期間で十日間が潰れるからだ。
なので予備予選の結果が出る前に、地区予選の曲も考えておく必要があるが……。
「やっぱり、勝てる曲が必要なんでしょうか」
「ほう」
勝った負けたで大騒ぎの校庭で、夕理としては考えざるを得ない。
上級生たちの悲願である全国行き。
年に二回しかないチャンスの、うち一回を次の曲で消費するのだから。
「必要かどうかは何とも言えへん。勝ちを意識しすぎて逆に駄目になった、なんてのもよくある話やしな」
「確かに、それは最悪ですね」
「しかし、そういうことを考えるようになっただけでも結構なことや。そのまま軟化してくれ」
「ひ、必要かどうか聞いただけですからね! 書くとは言うてません!」
晴はくっくっと笑うと、用が済んだのか少し離れてスマホをいじりだした。
走るのが得意でない夕理は、午後の玉入れと綱引きに出るのでしばらく暇だ。
サボるわけではないけど、曲のことを考えるくらいは許されるだろう……。
* * *
(マジかったるいなー、体育祭なんて……)
内心ブツブツ言いながらつかさが障害物競走へ向かうと、待っていたのは姫水だった。
「ふ、藤上さんっ!?」
「彩谷さん。同じレースみたいね」
「あ、そうやったん。あはは……」
一緒に走れる嬉しさよりも、苦い感覚の方が上回る。
順位の形で、優劣が全校生徒に晒される場。それが体育祭なのだから。
(あたし、またこいつの引き立て役かよ……)
とにかく無難に終わらせようと、スタートラインにつく。
網に絡まって姫水に助けられるとか、恥ずかしいことだけは避けねばならない。
パアン!
『藤上さん、華麗に網をくぐっています! さすが我が校のプリンセス!』
六組の陣地からは、絶叫に近い応援の声が飛ぶ。
追うつかさの目の前で、網を抜けた姫水は平均台に飛び乗り、すいすいと進んでいく。
(……綺麗やな、ほんまに)
無心になったことで、逆につかさも滑るように平均台をクリアした。
『いよいよ最後の関門、スプーンレースです!』
(あれ!? もう最後!?)
思ったよりも差が開いていない。
姫水の足は速いことは速いが、もっと圧倒的に速いと思っていた。
地面に置かれたおたまを拾い、ピンポン玉を乗せて走り出す。
(藤上さんなら何でも完璧って決めつけてたけど)
(考えてみれば、女優の仕事してて足が速くなるわけでもないし)
(あたしだって、一生懸命走ればもしかして追いつけて――)
欲を出した途端、ピンポン玉を落としそうになった。
慌ててバランスを取り、そして諦めとともに速度を落とす。
(……やめとこ)
(あたしが藤上さんに勝てるわけないし)
(必死になって負けたらカッコ悪いし……)
結局、姫水が悠々と切ったテープを、つかさが遅れてまたぐことになった。
期待通りの結果に、生徒たちも大喜びしている。
「彩谷さん、結構速いのね」
「あはは。藤上さんにはかないませんって~」
へらへらと笑ってから、後ろめたさを抱えて陣地に戻った。
体育祭なんて早く終わればいいのに。
* * *
「はー、しんど……」
「小都子先輩、お疲れ様です!」
昼休みなのに食事も取れず、三十分を過ぎてようやく解放された小都子を、勇魚の元気な声が出迎える。
隣には弁当箱を持った花歩と、そしてもう一人……。
「早よお昼食べるで」
「あれ? 三人とも待っててくれたの?」
同じクラスの忍が、心配そうな顔で待ち構えていた。
「クラスのみんなも待つ言うてたんやけど、かえって気を遣わせると思って」
「ほんまにねえ。忍も待たなくて良かったのに」
「私はええの!」
笑いかける小都子だが、はっと気づいて周囲を見渡す。
「夕理ちゃんは!? 声かけてへんの?」
「誘ったんですけど、今日は競ってるんやから馴れ合いは良くないって」
「あーもうほんまにあの子は……」
花歩の返事に嘆きつつ、荷物置き場から弁当箱を取り出す。
そのわずかな時間にも、勇魚は今日初対面の先輩に話しかけていた。
「忍先輩って美術部なんですよね! うち、衣装のデザインせなあかんのですけど、めっちゃ苦労してます!」
「スクールアイドルはそういうのもあるんやな。とにかく数をこなすことやで」
「あらあら、いつの間に仲良くなったん?」
「えへへ、ついさっきです! 忍先輩って優しいので!」
「せやねえ、忍ってほんま面倒見ええから」
「小都子にだけは言われたくないわ」
(勇魚ちゃん、相変わらずすごいなあ……)
花歩としては知らない上級生と待つのは緊張した。
学年の枠を越えられる日なのだから、勇魚のようにできればいいのだけど……。
そうして四人でランチをしながら、騎馬戦は危険だから数年前に廃止された、なんて話を聞いていた時だった。
『実行委員の橘さん、至急運営テントまでお願いします。助けて!』
鳴り響く放送に、小都子が困り笑いを浮かべて立ち上がろうとする。
と同時に、忍がその肩を押さえつけて動きを制した。
「せめて全部食べ終わってから行きや」
「でも、困ってるみたいやし……」
「少しは困らせたらええんや。何で二年生の小都子に頼りきりやねん!」
「せやけどほら、周りの目もあるし……」
周囲では三組の生徒たちが、『行かなくてええの?』という目で見ている。
忍が睨み付けると、彼女たちはさっと視線を逸らした。
「そうやって人の目ばっかり気にしてるから小都子はあかんねん!」
(これ、説得は無理やなあ……)
諦めた小都子は超高速で残りの弁当をかきこむと、大急ぎで走っていった。
それを目で追う忍は、はあと溜息をつく。
「忍先輩は、小都子先輩が心配なんですね!」
「あいつって人に頼られてばかりやからね。あなた達、逆に小都子が頼れるくらいの後輩になってや」
「分かりました! 任せてください!」
「い、勇魚ちゃん、安請け合いは良くないって。まあ頑張りますけど……」
でも実際、今の三年生が卒業してしまうと、小都子の負担は計り知れない。
晴は新入生の世話という点ではあまり当てにならないし。
(ほんま、私たちが頑張らないとなあ……)
(って、あかんあかん! 何で部長の卒業後なんて考えてるんや。まだ六月やで!)
頭を振っているところで、急いで食べ終えた勇魚が立ち上がる。
「うち、応援合戦の準備があるので! そろそろ行ってきます!」
「あ、そっか。勇魚ちゃんの勇姿はしっかり撮影するからね」
「三組は今四位やからなあ。盛り返すためにも、最高の応援を頼むで」
「はいっ!」
明るい勇魚を見送ったのはいいが、残る二人にはあまり話題がない。
何となく気まずいまま、その日のランチは終わった。
* * *
カーテンを閉めた女子高の一室で、学ランに着替える。
こんな状況になるのは体育祭の応援合戦くらいである。
「立火ー、そのまんまやないか。今からでも男子校に転校したら?」
「いやいや、景子もかなりの男っぷりやで。景男くんと改名したらええわ」
立火と景子が言い合っている傍らで、小都子がてきぱきと指示を出している。
各クラス二名ずつの計六名が、自分の組にエールを送る種目。
衣装は学ラン、チア服、着ぐるみのどれか。
立火がいるだけに学ランを選んだ五組連合だが、つかさがとばっちりを受けて苦戦していた。
「小都子先輩、やっぱり胸きついっす」
「つかさちゃん、スタイルええからねえ。さらし巻いてみる?」
「あるんですか!? てか巻けるんですか!?」
「うふふ、実行委員にお任せやで」
何とかボタンを閉めて校庭に戻ろうとすると、入れ替わりで桜夜の手を引いた姫水がやって来た。
「桜夜先輩、急いでください」
「ううう、堪忍や姫水~。すっかり忘れてた~」
「まーた後輩に手間かけさせてるんか……」
立火が呆れながら外に出たところで、リスの着ぐるみが脇からひょいと出てくる。
サイズが大きすぎるようで、少しだぶついてる手を元気よく振った。
「せんぱーい! つーちゃーん!」
「誰や!?」
「うちやー!」
首を外すと、中から勇魚の笑顔が現れる。
「おっ、三組は着ぐるみか。勇魚にぴったりやな」
「えへへ、サイズはぴったりとちゃいますけど!」
「なかなか可愛いやん。一家に一人ほしい」
「そう? それやったらつーちゃんの家に住んでもええで!」
「いや冗談やって」
三組の先輩から呼ぶ声が聞こえ、勇魚は首をはめて一生懸命走っていく。
向かう先は校庭の仮設ステージ。
一、二組の応援が終わり、三組の着ぐるみたちがぴょこぴょこし始めた。
「がんばれがんばれさーんくーみー!」
「えいえいおー!」
「おー!」
と、応援される側の花歩もつい手を上げるが、慌てて撮影に集中する。
手にしているのは午前中に姫水から渡されたスマホだ。
『お願い花歩ちゃん、録画しておいてね。勇魚ちゃんの一挙手一投足を、余すところなく!』
あんなに必死な姫水は見たことがない。失敗したら笑顔で大阪港に沈められかねない。
何とかミッションを終えてから、替わって始まった四組の応援中に、白いリボンの女の子を探す。
「あ、いたいた。夕理ちゃーん」
「何や花歩」
「五組の応援一緒に見よーよ。部長とつかさちゃんの学ラン!」
「な、なな何言うてんねん! 私はつかさをそんな不埒な目でなんか」
「まーまー」
動揺している夕理を引っ張って、正面の見やすい場所へ戻る。
ちょうど立火たちもステージに上がり、凜々しい声が朗々と響き渡った。
「五組連合のォー! 必勝を期してェー! エールを送るゥー!!」
『押忍!!』
(ぎゃあああああああ!!)
花歩が心で絶叫しながらシャッターを押しまくる一方、夕理は顔を背けつつ、ちらちらとつかさを見るのを止められない。
「わ、私は別に……つかさにこういうのを求めてるわけやなくて……」
「まーまー! それはそれ、これはこれ!」
「ちょっ、首が!」
花歩に無理やり首を真っすぐにされ、つかさの男装姿を目に焼き付けられる。
「は、離してっ! こういうのあかんと思う!」
「ぐへへ、もっと素直になるんやで~。写真もほしいやろ~?」
「いらないっ! 全然ほしくない!」
(何騒いでんねんあいつら……)
つかさが呆れている間に応援は終わり、六組と交代するところで桜夜が話しかけてきた。
「どやねんつかさ! このビューティフルなチアガール姿!」
「なかなか涼しそうでええな」
「立火には聞いてへんから」
「いやーさすが先輩お似合いですね……って!」
適当に誉めようとしたつかさだが、隣の姫水を見て飛び上がった。
涼しそうなわけである。思いっきりヘソ出しなのだから。
「ちょっ、何やねん藤上さん! その格好は!」
「何って、チア衣装だけど……」
「か、過激すぎとちゃう!? 変な目で見る奴がいたらどうするんや!」
「女子高にいるわけないでしょう?」
ここにいます、などとは言えず言葉に詰まるつかさに、怪訝な目を向けつつ姫水はステージに上がる。
美少女二人に大歓声の中、ボンボンを振りつつ最後の応援が始まった。
「Go! Let’s go 六組!」
「Go fight win! Yeah!」
つかさは呆然としながらも、姫水の腹部から目を離せない。
結局最後までは耐えられず、赤い顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。
心配そうな部長の声も耳に入らない。
「おーいつかさ、大丈夫?」
(あかん……。もう今日一日、藤上さんのへそのことしか考えられへん……)