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「じゃ、今日はお開きでー」

 花火が始まる一時間前、彩谷ご一行は既に帰途についていた。
 天神祭の花火は神事の奉納用なので、混む割に大したことはない。
 彼女たちの本命は来週の淀川花火大会である。

「奈々! 先輩たちのことはくれぐれも内緒やで!」
「分かったってばー。いやー、今夜夢に出るかも」

 駅前で二人と別れてから、つかさは自分のトーク履歴を見た。
 家を出る前、小都子から届いた文章を。

『お願いつかさちゃん。
 ちょっとでええから、夕理ちゃんの様子を見てきてもらえへん?
 花歩ちゃんが天神祭に誘ったんやけど、断られたみたいで……』

 それへの返信は、自分でも恥ずかしいほど刺々しかった。

『何で自分で行かないんですか?
 失礼ですけど、夕理のことほんまに大事に思ってます?』

 姫水を天神祭に誘おうか小一時間迷って、どうせ勇魚と行くんやろな……と結局誘えず。
 そのイライラを小都子にぶつけてしまったのだ。

『思ってるで!
 でもあの、今日は堺の神社でもお祭りがあって、父の代わりに出なあかんことになって』
『小都子先輩っていつも八方美人ですよね。
 地区予選で思いましたけど、うちの先輩たちって案外頼りないですね。
 このままついていっていいのか疑問です』
『……ごめんねつかさちゃん。ほんまにその通りや。
 自分で何とかするね。ごめんなさい』

(やっちまったあ~~!)

 汗顔の至りだが、送った文章は取り消せない。
 小都子には明日謝るとして、お詫び代わりに彼女の心配を解消することにした。
 つまりは、夕理の家へ足を向ける。

(まあ、余計な心配とは思うねんけどな)
(大会で負けたくらいで、夕理が何日もうじうじするわけないし)

 お土産のりんご飴を片手に、夕理のマンションまで来た時だった。
 建物の前で、不審にうろうろしている人物がいる。
 何事!?と思いきや、頭のお団子が目に入った。

「小都子先輩!?」
「あ、つかさちゃん……来てくれたんや」
「神社の用事はもういいんですか?」
「抜け出してきちゃった。後で怒られるかも」

 てへへ、と困り笑いを浮かべる小都子は、浴衣姿で焼きそばのパックを持っている。
 先ほどのメッセージに答えてくれた先輩に、つかさは申し訳なく頭を下げた。

「す、すみません。あたし先輩の立場も考えず勝手なことを……」
「ううん、いつも周りに流される自分も、正直嫌になってたから。
 やっぱり、夏休みは少しくらい冒険せえへんとね」

 そう言いながら、小都子は目の前のマンションを見上げる。

「とはいえ、中に入る勇気が出せへんのやけどね。
 もう夜やし、夕理ちゃんの親御さんにご迷惑かなあって」
「あー……夕理の親なら、たぶんいないと思いますよ」
「え……?」

 つかさが先導して、遠慮なくマンションに踏み入れる。
 後からついてくる先輩の気配に、少しだけ声を落とした。

「夕理に言わせるのも酷なので、あたしから家庭事情を説明しますけど……。
 くれぐれも、同情はしないでくださいよ」


「夕理ちゃんっ!」
(同情するな言うてるのに!)

 玄関を開けて夕理の顔を見るなり、小都子はこらえ切れずに抱きしめていた。
 自分と会うずっと前から、この家で一人ぼっちだった後輩を。
 何事かと目を丸くしていた夕理も、つかさの表情を見て事情を察した。

「もう慣れてますし、逆に気楽なくらいです。
 それよりわざわざどうしたんですか。明日学校で会えるのに」
「ま、まあそうなんやけど、その前に顔を見たかったんや」

 久々に見る先輩の優しい顔に、夕理は一瞬ためらった。

(つかさ以外の人を、家に上げる――)

 こんな家でも、何度か来てくれたつかさとの思い出が詰まってる。
 ファーストライブの時の、あの二人きりの夜のことも、本当は何にも上書きされたくない。
 ないけれど……。

(……けど、必要なことや)

 上書きされたくないのは、まだ依存しているということ。
 小都子への尊敬を鍵にして、閉じた自分の心を頑張ってこじ開ける。

「二人とも上がってください。お茶を入れますね」

 どうにか自然に言えた夕理を、つかさが優しい目で見ていた。


 家具の少ない居間で、アイスティーを飲みながら小都子の焼きそばを分け合う。
 夕理には人生初の屋台の焼きそばは、正直微妙な味だった。
 先輩の懸念をまず解消しようと、つかさが質問を投げる。

「夕理は、どうせ作曲してたんやろ?」
「うん……負けて帰ってきてからすぐに」
「早っ!」

 ほら大丈夫でしょ、という顔のつかさに、小都子も安堵の笑みをもらす。
 だが、それとは別に夕理の顔に不安がよぎった。

「……うちの部、これからどうなるんでしょう」
「うん……」

 小都子としては何か保証してあげたいが、二年生の身では何ともしがたい。

「立火先輩があそこまで落ち込むとは思わへんかった。
 責任感じてはるんやろなあ……」
「あ、それならもう大丈夫そうですよ」

 うっかりポロリと言ったつかさに、二人の視線が集中する。
 奈々には口止めしておいて何だけど……。

「まあ、二人なら口固そうやしええか。
 実はさっき、天満宮の裏でですね……」


 秘密の逢引きについて、詳細な描写が語られる。
 小都子の顔は赤くなり、夕理はジト目で呆れていた。

「りりり立火先輩と桜夜先輩が!? へ、へー、お似合いやもんね!」
「アホらしい……どうせ漫才か何かやろ」
「いやいや、ほんまただならぬ雰囲気やったで。
 でもくれぐれも内密に! 花歩が傷つくから!」
「せ、せやねぇ。部内でそういうドロドロはちょっと……」
「ほんまにそうなら、いつか知ることやと思うけど」
「今は夢を見させてあげて!」

 とにかく、部活の方は何とかなりそうだった。
 一息ついたつかさが、勝手にリモコンを取ってテレビをつける。
 毎年この日に流れているのは、天神祭の生放送だ。

「もうすぐ花火みたいやな」
「え、もうそんな時間!?」

 小都子が慌てて立ち上がった。
 門限が厳しいのであろうことは、一年生たちにも想像はつく。

「ご、ごめんね夕理ちゃん。何しに来たんやって感じやったけど」
「いえ……心配してくれて嬉しかったです」
「先輩、駅まで送りますよ。あ、これ夕理にお土産」
「あ、ありがと」

 りんご飴を残し、つかさと小都子は慌ただしく出て行った。
 また一人になった家で、夕理は飴を舐めながら、テレビ内で始まった花火を眺める。
 花歩も見てるのかな、なんて考えながら。


「つかさちゃんは、ほんま頼りになる子やねえ」

 草履で速く歩けない先輩に歩調を合わせていると、いきなりそんなことを言われた。

「なんですか突然。誉めても何も出ませんよ」
「ほらね、来年の部長がちょっと頼りないから。今からよろしくしておこうかなって」
「あー……すいません」

 後輩を信じ切ってるお人よしの次期部長に頭をかきつつ。
 嘘も言えないので、つかさは正直に答えた。

「あたし、来年も部活続けてるかはわかんないっす」
「え、や、やっぱり部長があかんから? 立火先輩でないと駄目!?」
「ちゃいますちゃいます! 単に飽きっぽいんで、何事も長続きしないってことです」
「そ、そう。無理強いはできひんけど……」

 目を左右させた小都子は、控えめながらも必死に懇願してきた。

「で、でも何とか続けてもらえへん? 私、頑張って楽しい部にするから!」
「まあまあ、気が早いですって。とりあずは冬に向かって頑張りましょうよ」
「せ、せやね……ごめんね、つかさちゃんには無理ばかり言って」
(あ、夕理に文句言うの忘れてた)

 小都子の言葉で思い出した。自分から入部したのだから、巻き込んだなどと言われる筋合いはないのだ。
 でも阿倍野の一件で、小都子も似たような負い目を感じているのだろう。
 一学期を終えて、つかさだけが未だに少し浮いている。
 自分からそうしているのだけど。

(冬に向かって頑張るかあ……)

 そもそも冬まで飽きずに続くのだろうか。
 手を振って帰っていく小都子を見送りながら、そんなことを考える。
 でも部活を辞めたら、姫水との接点が本当になくなってしまう……。
 今は惰性でも続けるしかなかった。


 *   *   *


「みんな、この前は醜態をさらしてほんまごめん」

 久しぶりの部室で、立火はまず部員全員に頭を下げた。
 慰めの言葉が飛ぶ前に、昨日天満宮でしたのと同じ話をする。
 隣にいる桜夜と一緒に。

『これに懲りず、冬もラブライブに出て全国を目指したい』
『次はちゃんと、負けた時のことも考えるから』

「負けたとしても私がみんなを幸せにするから、信じてついてきてほしい。
 ……って、言葉にすると何や恥ずかしいな」
「要するに部長さんが全員抱いてくれるんですか?」
「何でやねん!」

 茶化したつかさはツッコまれるが、同時に神社裏での出来事も理解した。

(アレはそういう意味やったわけね)
(でも部長さん、特別な気持ちも入ってた気がするなあ……やっぱり花歩には黙っとこ)

 小都子もほっとすると同時に、本当に今度こそ、誰も辛い思いをしないようにと願う。
 花歩と勇魚は目に決意を秘め、姫水はいつも通り。
 立火としては、晴がどう思うのかが一番の心配だったが……
 現実的な方向の案に、うなずいて賛同してくれた。

「結果が悪くても、充実感なり達成感なりは得られるようにということですね。そういう逃げ道は大事です」
「そう、そういうことや!」
「私は逃げ道なんかいりませんが」

 せっかくの立火の熟慮だが、夕理には大きなお世話だ。
 傷つくのは本気の証。それを怖がっていて、本当に全国へ行けるのかと思うが……。
 でも四日前の精神ボロボロ状態のWestaを思い出し、それ以上強くは言えなかった。

「……いりませんけど、他の子には必要かもしれませんね。花歩とか」
「何で私やねん!」
「ま、まあまあ。とにかく冬に向かって一致団結や!
 てことで、ここで心機一転のため――」

 部長の顔が全員を見回す。
 机に手を置き、高らかに宣言した。

「合宿をするで!」
『おお!』

 晴と夕理を除く部員が一気に沸き立った。
 やはり楽しい部活動のためには、こういうイベントが大事である。
 特に桜夜とつかさが猛然と食いついた。

「海行こう海! 私の水着をみんなに見せたるで!」
「いいっすねー、やっぱ夏は海でしょ!」
「いやそんな金ないし……。去年は体育館脇の合宿所や、って桜夜は知ってるやろ」
「校内はないやろ!? あんな朝から晩まで練習漬けの合宿、二度とごめんやで!」
「小都子先輩、別荘とかないんですか!?」

 つかさに必死な目を向けられ、小都子はすまなそうに顔を伏せる。

「議員がそういうのを持つのは最近うるさいから……」
「くっ、なんて世の中や! ねー部長さん、海にしましょうよー。少しは自分たちでも出しますから」
「お前はバイトしてるからええけどなあ」
「部員たちを幸せにするんでしょ? 頼みますよパパー」
「誰がパパや!」
「うーみ! うーみ!」
「うーみ! このさい山でもええから!」
「ったく、分かったってば。ちょっと顧問と相談してくる」



 つかさと桜夜だけならまだしも、花歩と勇魚、さらに小都子まで期待の目で見てくるので致し方ない。
 立火が廊下に出て行った後で、花歩が驚きの顔で小都子に尋ねた。

「うちの部、顧問いたんですか!?」
「うん、古典の木崎先生。
 スクールアイドルは生徒が全部やるのが原則やけど、さすがに合宿は許可を取らへんとね。
 ……って夕理ちゃん、気い進まへんみたいやね」
「合宿なんて意味あるんですかね」

 黙っているつもりだったが、小都子に聞かれたので仕方なく答える。

「練習の質が上がるわけでもないし、移動時間が無駄になるだけやないですか」
「でも夕ちゃん! みんなでお泊りするってだけで楽しいで!」
「佐々木さんって寝相悪そう……」
「ちょっと天名さん、失礼なことを言わないで。勇魚ちゃんの寝姿はそれはもう天使のような――」

 勝手に語り始めた姫水を放っておいて、花歩が夕理の耳元に話す。

「つかさちゃんと一つ屋根の下やで?」
「んなっ……なにを言うてるんや! 私はそんな不埒なこと全然!」

 慌てる夕理に苦笑のつかさだが、そう言われるとつい不埒なことを考えてしまう。

(やっぱり合宿といえばお風呂でバッタリとか?)
(あたしが扉を開けると、そこには一糸まとわぬ藤上さんがいて……)
『きゃっ! あ、彩谷さん、どうして?』
『え、ここ女湯!?……って、あたしも女やから問題ないやーん』
『ふふ、そういえばそうね。一緒に洗いっこしましょうか?』
『えー、しゃあないなー。藤上さんがそこまで言うならー』
(とか…… とか……!)

 本人を前にしながら妄想を繰り広げる上級者のつかさに、姫水は怪訝な顔で夕理へ耳打ちする。

「天名さん。彩谷さんが何だか変なんだけど……」
「そっとしといてあげて……」


 *   *   *


「地区予選は残念やったね。私の歳ではアイドルはよく分からへんけど」

 夏休みの職員室で、初老の古典教師はそう言った。

「はい……ここから這い上がるためにも、気合いを入れた合宿にしたいです!」
「それやったら山はどうや」

 思わぬ提案に、立火は一歩前に出る。

「どこかいい場所あります?」
「知人が宿坊やってるんやけどね。
 合宿や研修にも提供してて、スクールアイドルも結構来てるらしいで」
「それは助かります! ……ん? 宿坊?」
「ははは。修行にはもってこいの山やと思うで」

 先生がノートパソコンで、宿坊のホームページを見せる。
 その山の名を見て、立火の目は一気に輝いた。


「ということで山に決定!」

 部室に戻るなり発表する部長に、花歩と勇魚がわーいと両手を上げる。

「先生の知り合いやから、結構安くしてもらえるんやって」
(山かあ……まあ川とか沢とかあるやろうし、水着もワンチャン)

 胸算用する桜夜の傍ら、つかさが警戒気味に聞いてくる。

「まさか登山とかタルいことしませんよね?」
「それはない。下界より気温が8度くらい低いから、快適に過ごせるで」
「おっ、ええやないですか。それで結局どこなんです?」
「ふっふっふっ、ただの山とちゃうでえ。今や世界的に有名なとこや」
「引っ張らないでくださいよー」

 つかさの求めに応じ、ついに立火はその名を部員に告げた。

「弘法大師空海が開いた修禅の道場――。
 世界遺産! その名も高野山!!」

 桜夜とつかさの脳内で、リゾート気分がガラガラと崩れていった。
 代わりに抹香の匂いが漂ってくる。

「え……み、水着の女子高生は?」
「アホか、周りは坊さんばっかやで。即刻つまみ出されるわ!」

 桜夜がムンクの叫び顔になっている一方、夕理と晴には好評だった。

「精神修養にはもってこいの場所ですね! 仏教は信じてませんけど」
「紅葉と桜の時期に行きましたけど、ええとこですよ。ちなみに行ったことのある者は?」

 しーん。
 静寂に渋い顔の晴に、小都子が慌てて言い訳する。

「い、いつでも行けると思うと、なかなか足が運ばへんで。ねえ?」
「まあいい、ええ機会やから不動堂と奥の院だけでも見とけ。部長、部屋は広いんですか?」
「五十人くらい入れそうな大広間やったで」
「我々九人では持て余しますね。他のグループも来るなら、合わせてもいいかもしれません。少し安くなるかも」
「合同合宿か! それもええな!」
「細かい点を先生と相談しましょう。来週で誰か都合悪い日はある?」

 みんな問題なかったので、晴は立火と一緒に職員室へ向かう。
 残された部室で、勇魚が期待に胸を躍らせた。

「もし合同になったら、和歌山のスクールアイドルと一緒なんやろか! めっちゃ楽しみや!」
「あれ、高野山って和歌山やったっけ?」
「もー花ちゃん。うちでも知ってるのに知らないのはあかんで!」
「うう。恥ずかしい……」

 一方で気を取り直した桜夜が、何とか楽しむために心を持ち上げる。

「と、とにかく合宿は合宿や! 水着はお預けやけど、恋バナとかトランプとかあるやろ!」
「今回はいいですけど、そのうちみんなでプールでも行きましょうよ」
「おっ、ええこと言うやんつかさ。合宿から帰ったらさっそく行く?」
「桜夜先輩の夏休みの課題が終わってからの方がいいと思いますが……」
「ちょっと藤上さん! それって永久に行けへんってことやろ!?」
「どーゆー意味や!」

 騒ぐ桜夜たちを呆れ顔で見ていた夕理だが、ふと視界の隅で何か動いたのに気づく。
 晴が置いていったノートパソコンで、メールの通知が出ていた。

「部にメールが来てるみたいですけど、開けていいんでしょうか」
「構へんよ。どれどれ……」

 小都子がマウスを操作してメールを開くが……
 読むうちに、その顔が青ざめていく。


 *   *   *


「高野町からの補助金が出るのは助かりますね」
「おかげで夕飯もつけられたけど……精進料理ってうまいの?」
「まずくはないですよ」

 話がまとまった職員室からの帰り。
 晴は今後について、考えていたことを部長に話す。

「まずは知名度を上げないと、どうにもなりません」
「関西ではまだまだ無名なのが分かったからなあ。何か目立つ方法はないやろか」
「九条先輩とは連絡は取ってますか?」
「小梅? 心配するメールが来てたから、返事はしといたで」
「少し考えていることがあります。丁度いいので合宿までにまとめておきます」
「ああ、頼む……で」

 以前と同じように返そうとして、一瞬ためらう。
 地区予選であんな選択をしておいて、少々虫が良すぎないか。
 だが晴が立火に向ける視線は、予選前と何ら変わってはいなかった。

「私の案を採用したところで、結局部長は後悔してましたよ」
「そ、そうやろか……」
「捨て石なんて作戦、部長の性格で納得できたわけないやないですか。
 要はどっちにしろ詰んでたんです。切り替えましょう」
「……ああ」

 歩きながら、立火の拳が晴へと向く。

「これからも頼むで。お前が頼りや」
「全力を尽くしましょう」

 こつんと拳を合わせ、立火は少し照れくさそうに、晴はごく自然に微笑みながら、部室へと戻る。

「ただいまー……って、どうした!?」

 扉を開けると、部の空気は一変していた。
 桜夜と小都子は青い顔で震え、一年生たちは困った顔をしている。

「菊間先輩からメールが来てまして……」

 小都子が挙げたのは、卒業した三年生の名だ。
 立火も少し身を固くする中、言葉は続く。

「伊達先輩と一緒に、明日ここへ来るそうです……」
「明日!? な、何しに?」
「それは書いてへんのですが……」

 小都子の言葉が消えると同時に、涙目の桜夜が立ち上がって叫んだ。

「地区予選のこと、怒りに来るに決まってるやろ!?」



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