「何……やと!?」
「まさか逃げはしやんやろな!」
みゆきに視線を向ける立火だが、笑いながらどうぞと手を差し出された。
ならば遠慮する必要はない。
「ええで、その挑戦受けた! 勝負方法は!?」
「ダンスバトル!」
「曲は!」
「こういう時の定番! SUNNY DAY SONG!」
「承知や!」
この状況で『東京の奴が作った曲やんけ』とか言うほど無粋ではない。
双方の部員たちが声援を送る中、二人は広間の中央に並んで立つ。
音楽を用意しながら、晴が冷静に念押しする。
「いいんですね部長。負けたら幸先悪いですよ」
「分かってる……!」
およそ勝負というものは、勝てるという保証なんてない。
これからの関西バトルロードも、負ければ逆に人気を落とす可能性もある。
だが、それを怖がっていては何も始まらないのだ!
部長の意を受けた晴が、合図と同時にタブレットを触る。
「始め!」
『SUNNY DAY SONG SUNNY DAY SONG』
両膝を叩く動きから始まり、両手を広げて左右に振って、斜め上を指さす。
かつて秋葉原を埋め尽くした曲の、サビの一節。
そこだけを延々繰り返し、かつスピードを上げていく。
(乗り越えられるんや! どんなことも!)
歌詞に励まされながら、必死で体を動かす。
敵もさるもの、喧嘩を売ってきただけに実力は高い。
お互いをちらちらと横目で見ながら、動きはどんどん激しくなっていく。
(――嫌や! 負けたくない!)
極限のバトルの中、立派な部長であろうと張ってきた虚勢は崩れていく。
後に残るのは広町立火という、むき出しの少女だった。
思えば体育祭では一位になれず、予備予選を勝てたのは桜夜のおかげで、地区予選は惨敗。
(ここのところ、ちっとも勝ててないやないか!)
(勝ちたい! 理屈はもういい! どうしても勝ちたいんや!)
その執念が、勝敗の壁を分けたのか――
「ぐ!」
とうとう旬の足がもつれ、畳に尻餅をついた。
それを見届け、立火も糸が切れたように崩れ落ちる。
互いに肩で息をしながら、喜ぶでも悲しむでもなく、真っ白になった二人がいた。
「くそ……私の負けや」
「日前……」
潔く認めた旬は、残る力を振り絞り、大事な部員たちに頭を下げる。
「すまない。不甲斐ない部長で」
「旬ちゃんはいつだって最高の部長や。仇は私が取るからね」
「み、みゆき?」
「木ノ川さん、まさか逃げはしやんな?」
「ええええ!?」
部員たちが再び一気に湧く。
いきなりお鉢が回ってきた桜夜は、慌てて壁の時計を指した。
「ほ、ほら、もうすぐチェックアウトやから!」
「なら、急いで勝負を着けないとあかんね? 早よ準備して」
『桜夜先輩、ファイトー!』
自陣の一年生たちに応援されては逃げようがない。
桜夜は仕方なくみゆきと並び、同じ音楽が頭から再開され――
「ぎゃふん!」
あっさり負けて、ツインテールが畳に伸びた。
KEYsからは盛大な拍手が、Westaからは苦笑いが届く。
(桜夜先輩もこのまま可愛いだけでは勝たれへん。演者として上に行ってもらわな……)
晴が考える間、和歌女生たちは副部長を囲んで褒めそやす。
「みゆき先輩、いつもより凄味がありましたね!」
「うーん、愛の力かな?」
旬に向ける笑顔に、向けられた方は照れたように頬をかいた。
これで一勝一敗。これで終わっておけば、双方丸く収まるが。
「玉虫色なんて嫌です。勝敗はきっちりつけるべきです」
真摯に言葉を紡ぎながら、進み出たのは夕理だった。
この場のスクールアイドル達もそれに同意する。
ここで玉虫色に済ますくらいなら、あの厳しい地区予選に再挑戦なんてできやしない。
そして夕理が指名するのは、もちろん――
「玉津さん!」
「ひ、ひうう!?」
「私と勝負や! 嫌なら別にええけど!」
何となく予期してたとはいえ、柚はおろおろしながら先輩たちを見る。
腕組みした旬は、今こそ彼女に下駄を預けた。
「部としてはどっちもどっちや。柚、お前のやりたいようにしていい」
「私の……やりたい……」
大広間の中央では、夕理が仁王立ちで待っている。
恐る恐るながら、柚の足が進んだ。
勝負をしたかったからというより、もう少しだけあの子との思い出を残したかったから。
微笑んだ夕理は、KEYsの人たちへ向けて宣言する。
「私は笑顔が大の苦手です!
この曲でそれは許されへんと思うので、笑えてないと思ったら指摘してください! 私の負けにします!」
「ひう……わ、私も苦手……」
「うん。私たちみたいなのは人一倍頑張らな、ほんまのスクールアイドルにはなれへんのやと思う」
『普通』から浮いている二人は、笑うだけでも一苦労だ。
つかさや姫水のように笑顔を作ることも、勇魚や桜夜のように無邪気になることもできない。
「せやから自然に笑うには、本気で楽しむしかないと思う!」
「う、うんっ!」
「岸部先輩、始めてください!」
みたび、五年前に作られた曲が流れ出す。
スクールアイドルの素晴らしさを歌い、その世界に誘う曲。
夕理も今は作曲のことは忘れ、演者として精一杯表現する。
皆が見守る広間で、速い動きに苦しくなっていく中、ふと柚と目が合った。
二人とも、思わず自然に笑みがこぼれる。
だってこの曲でスクールアイドルが広がり、そこに踏み入って自分たちは出会えた。
この不思議な縁が、嬉しくないわけがない――。
* * *
『お世話になりました!』
僧侶にお礼を言って、宿坊を後にする。
もっとも荷物を預けているので、また取りに戻るのだけれど。
「ってあれ? お前らは帰るんとちゃうの?」
手ぶらのKEYsに驚く立火に、和歌浦の子たちはくすくす笑っている。
一人だけ笑っていない旬が、顔を赤くしてそっぽを向いた。
「ま、まあせっかく大阪から来てくれたんや。奥の院くらいは案内しようかと……」
「日前……」
立火はみるみる破顔し、思い切り旬の肩を抱いた。
「なんやもう! 私たちとお別れするのが寂しいんやな!」
「そ、そんなわけあるか! ただ弘法大師に戦勝祈願するためにやな!」
「私たちは本気で勝負したんや、もうマブダチやろ!」
「えーい、昭和の漫画か!」
そんな様子を後ろから見ながら、みゆきは桜夜に笑いかけた。
「私たちもそうなんやろか?」
「え……あんまり絡みなかったけど」
「木ノ川さん、年下にばかり声かけてたものねえ」
「べ、別にロリコンとかとちゃうで?」
そして三組目も……。
寺を出る仲間たちを追いながら、夕理は彼女から話すのを待つ。
それほど、長くは待たなかった。
「……私の負けやったね」
「ダンスは私の勝ちやけど、勝負に勝ったとは思ってへん」
「?」
生真面目な夕理の横顔を、柚は不思議そうに見る。
「私の笑顔より、玉津さんの笑顔の方が絶対可愛かったやろ。
とはいえ私もかなり自然に笑えた。この調子で今後も精進を……」
「か、可愛っ……!? ふええ!?」
「な、何でそこにだけ反応すんねん!」
「わー、夕理が女の子ナンパしてるー」
「ちょっ、つかさ!?」
笑いながら追い越していくつかさを、追いかけようとして足を止める。
柚と行けるのは今だけだから。まだ恥ずかしそうな彼女と並んで歩いた。
近くの定食屋でランチの後は、最後の目的地である奥の院だ。
* * *
「これ! これが紀州徳川家の祖、
大阪人も全員、よーく拝んで帰るんやで」
テンションの高い旬の前で、立火はふむと苔むした墓石を眺めた。
「ほー、これがねえ。名前しか知らんけど」
「受験生ならもっと勉強しろ!」
旬の言葉は流れ弾になって、桜夜がぐふっとうめく。
とはいえ旬も歴史学習はそこそこに、立火と下らない話をしつつ、石道を歩いていく。
「大阪城の桜は固まっててつまらん。その点、和歌山城の桜は城内まんべんなく配置されていて……」
「ったく、姉妹城なんやから張り合うことないやろ。あ、しもた!」
「どうした?」
「枕投げするの忘れてた」
「いや、無理やったろ。あの壺と掛け軸のせいで」
「あー、それがあったか。高いモンなら引っ込めてくれたらええのに」
「抑止として置いてたんやろ。お前みたいなアホが騒がんようにな!」
「あはは、なるほど!」
そんな二人を見ながら、後ろの副部長たちは部長の自慢と愚痴で盛り上がっている。
さらに後ろの花歩は、勇魚と一緒に改めて周囲を見渡した。
(昼間はこんな感じなんやなあ)
厳かな空気は変わらないが、観光客が多いので寂しいことはない。
たまに飛んでくる虫は、勇魚の後ろに隠れてやり過ごした。
「武田信玄、石田三成、明智光秀……」
「花ちゃん?」
立ち並ぶ墓所の名を挙げながら、天へとそびえる杉の木を見上げる。
「こういう人たちの百分の一でいいから、歴史に名を残せへんかなあ」
「おお! 花ちゃんが野望に燃えてるで!」
「そ、そんな大層なもんとちゃうけど。でも、ええ合宿やったね」
特にスピリチュアルなことはなかったけれど。
ミスせず踊れるようになったし、歌詞も半分できたし、割と成果はあったと思う。
逆に勇魚の成果は芳しくなかったが、本人が気にしていないので特に触れない。まだ夏休みは十分あるのだ。
と、KEYsの子たちが何人か、勇魚に寂しそうに話しかけてきた。
「勇魚ちゃーん。もうすぐお別れなんて悲しいでー」
「もっと一緒に遊びたかったなあ」
「何言うてるんや、離れててもうちらは仲良しさんやで!」
(めっちゃ友達作ってる!)
気を利かせて、花歩は少し距離を置く。
ちょっと一人になってしまったが、たまにはいいかと歴史ある道を進む。
(夕理ちゃんはあの子に取られちゃったし)
ちらと後ろを見ると、一行から少し離れて二人がいた。
でも、何だかさっきから黙っているようだけど……。
「………」
「………」
無理に話さなくて良いのは、夕理も柚も気が楽だった。
でも自分からグループに入ったのだから、多少無理をしてでも、眼前の集団に溶け込んでいかないといけない。
だから今は、そのための少しの休憩だ。
「……一つだけ、謝らなあかんことがあるんや」
休憩なのだけれど、それだけは言っておく必要があった。
「天名さん?」
「あなたに声をかけた理由、色々あるけど……。
スクールアイドルを辞めて欲しくなかったのもあってん」
「え……会ったばかりやったのに?」
「うちの部に一人、私が無理に引き込んだ子がいて。
ちょっと色々あって、いつまで続けてくれるか不安になったから。
それを重ねてただけや。ごめん」
夕理の視線の先で、つかさは井戸を覗き込み、周りの子たちとはしゃいでいる。
自分が映らなければ三年以内に死ぬという、姿見の井戸。
元から三年しか寿命のないスクールアイドルが、映らなかったらどうなるのだろう。
別につかさは辞めるなんて一度も言ってないし、もっと信じるべきかもしれないけど……。
「……もしかして、天名さんの好きな人?」
視線の意味に気付かれてしまったのか、柚は遠慮がちに尋ねた。
隠す理由もないので素直にうなずく。
「うん……世界で一番大切な人」
「そっ……か」
「まあ、向こうは他に好きな人がいるんやけどね」
「え、え? なんか大変……」
「別にそれはええねん。私が勝手に想ってるだけやから」
真っすぐな夕理の瞳に、柚は一瞬目を奪われた。
慌ててうつむいて、浮かんだ想いを頑張って声にする。
「す、好きな気持ちは……力になるんやろか」
「うん。絶対に何かの原動力になると思う」
「私はやっぱり、自分のことは好きになれやんけど……。
でも昨日の夜、天名さんが言うてくれたから」
顔を上げた柚は、先ほどのダンス中の感覚を呼び戻した。
今の自分にできる、精一杯の笑顔のために。
「天名さんに好きになってもらえる部分が、私にもあるって。
そう言うてくれたから……。
それを支えに、何とか頑張ってみるね」
御廟橋の前で、足を止めた晴が全員を振り返った。
「この先は撮影禁止や。みんなスマホをしまって」
言われた通りにしたので、その先の記録は形としては残らない。
ただ、彼女たちの記憶に留まるのみだ。
弘法大師が今も生き続け、世の安寧を祈っていると言われる最奥の御廟。
そこで少女たちが捧げた祈りや願いも――ただ心の内だけに。
* * *
お土産も買ったし、荷物も引き取った。
金剛峯寺前の駐車場で、いよいよお別れの時が来た。
既に二台の車が待っている前で、立火は旬に右手を差し出す。
「次に会うのは地区予選やな」
「フン。予備予選で足をすくわれるんやないで!」
「お互いに!」
力いっぱいに握手し、痛てて……と手を振りながら背を向ける。
ただ一日一緒にいただけのこと。さすがに泣くような者はいないが、名残惜しいのは皆共通していた。
勇魚と花歩も、並んで旬とみゆきにお辞儀する。
「お世話になりました! うち、とっても楽しかったです!」
「この経験を生かして、必ず来月にデビューします!」
「うむ。しっかり励むんやで」
「大阪までは行けやんけど、動画で見せてもらうからね」
桜夜は帰る気があるのかないのか、お気に入りの下級生とお喋りを続けている。
「そっちはこの後どうするん?」
「私たちはバスで駅へ行って、そこからケーブルカーでーす」
「へー、ケーブルカーも面白そうやなー」
「桜夜先輩、行きますよ」
晴に呼ばれて渋々行こうとする桜夜を、みゆきが呼び止めて球体を手渡した。
「最後のみかん。車の中で食べてや」
複数が複数と別れを惜しんでいる中。
一人きりの柚は、一人だけの相手に自分から声をかけた。
「さ、さよなら……」
「うん。元気で」
電話番号もメールアドレスも交換はしない。
今日別れて後腐れがないという前提で、今まで話すことができたのだから。
この縁は、ここで一度終わり。
でも、スクールアイドルを続けていれば、また必ず――。
「それでは、出発いたします」
全員が車に乗り込み、運転手の声とともに走り出す。
小さく手を振っている柚のそばに、旬とみゆき、他の部員たちが立っている。
夕理の目には、後は任せてと言ってるように見えた。
今日の橘車は昨日より大きくて、一年生が全員乗ることができた。
大門を越えたところで、花歩はにやりと隣に笑いかける。
「さーて夕理ちゃん! あの子とどうやって仲良くなったのか、一から説明してもらうでえ」
「い、いや、それは」
「柚ちゃん、うちとはあんまり話してくれなかったんや! 夕ちゃんはどんな魔法を使ったん?」
勇魚は興味津々だし、つかさと姫水も聞く気満々でいる
そして助手席の小都子が、嬉しそうに後輩を振り返った。
「ええ出会いやった?」
「……はい、そう思います」
「ほんま、良かったねえ」
心から嬉しそうな先輩に、素直に思った。
あの子のことを知ってほしいと。
曲がりくねった山道を、聖域から下界へと向かいながら、夕理の言葉は流れていく。
「彼女は、玉津柚さんといって――」
* * *
「よーし、最後は祭りで締めや!」
「合宿帰りなのに元気やなあ」
立火の父に感心されながら、八人は車を飛び出した。
大阪三大夏祭りの最後を飾る、住吉大社の住吉祭。
神事には間に合わなかったが、屋台はまだまだ賑わっている。
串焼き、唐揚げ、ホルモン焼き。欲にまみれた俗世の香りに、桜夜の視線は目移りする。
「めっちゃ肉食べるでー!……ってあれ、夕理もついてきたの」
「いけませんか?」
「いいに決まってるやろ! こういうの嫌いやと思ったから、驚いただけ」
「……お祭りに興味はありませんが、みんなと一緒なだけで楽しいので」
「ふ、ふーん」
桜夜はちょっと嬉しい自分をごまかすように、小走りで屋台の方へ行った。
朝の聞こえてたんかい、とつかさが困り笑いを浮かべている。
好みが違う者同士、全員が完璧に満足するのは無理な話だけれど。
つかさが歩み寄ってくれたのだから、自分も、と思っただけだ。
そんな夕理を見ながら、小都子には別の気苦労が浮かぶ。
(晴ちゃんも少しくらい、感化されてくれへんかなあ)
こういう時でも晴は一切ブレず、駅で降ろしてもらってさっさと帰宅した。
晴らしいと言えばそれまでだが、二人きりの最上級生になる前に、もう少し何とかならないものか……。
「うう……賑やかなのはええけど、やっぱり大阪は暑いなあ」
かき氷を食べながら、花歩は額の汗を拭う。
夕方なので、これでも多少はましなのだけど。
一口もらったつかさが、舌の上で氷を溶かしつつ提案する。
「今度学校帰りに、駅近くのスパ行かへん?
宿坊も良かったけど、温泉でないのだけが心残りやったからなー」
「ええけど、つかさちゃんてお風呂弱いんとちゃうの?」
「え、いや、昨日はちょっと特殊な状況やっただけで……」
つかさの意図せぬ方へ話は進み、立火があの時のことを回想してしまう。
「姫水が冷静に対処してくれて助かったなあ」
「うちらは全員パニックでしたもんね!」
「いえいえ。立火先輩も、彩谷さんの体を支えてくれてたじゃないですか」
「え? え?」
謙遜する姫水に、恐る恐るつかさは尋ねる。
「あの、もしかしてあたしの体拭いてくれたのって……」
「うん、私だけど……嫌だった?」
ぶんぶんと首を横に振られ、なら良かったと微笑んで、姫水は雑踏の中を進んでいく。
つかさの歩みが遅くなり、夕理だけが隣に留まる。
部員たちから離れたところで、つかさは真っ赤な顔を両手で覆った。
「隅から隅まで見られた……」
「だ、大丈夫! 女同士やからノーカウントや!」
「もう、藤上さんとこにお嫁に行くしかない……」
「……行けたらええな……」
第一本宮は空いていたので、全員で並んで参拝した。
賽銭を投げ入れてから、小都子が無節操さに苦笑する。
「さっきは仏様にお祈りして、今度は神様やなんてねえ」
「ま、頼む先は多いに越したことはないやろ」
笑って言う立火に、他の七人も心を込めて柏手を打つ。
真剣に祈る立火だが、これが予選突破に役立つとは思っていない。
御廟で旬がしていたように、他のグループも等しく祈り願っているのだから。
その中で叶うのは四つだけ。
あれだけ仲良くなれたKEYsの皆も、冬には四枠を争うことになるのだ。
(せやから神様、お願いや)
(どうか後悔なく、部長を全うできますように!)
参拝を終え、勇魚が元気に南の方を指さす。
「五大力の石、お祭り中はお休みやけど、前に姫ちゃんと探しました!」
「あの時は揃えられなかったのよね。そのうちまた来ましょうね」
「なら今日はもっと何か食べよ? 次は甘いものがええなー」
「桜夜先輩、お金足りてますか?」
「え? うわあ! 私の二千円がもう消えてる!」
立火と夕理は呆れ、小都子とつかさは笑っている
そして花歩は、祭りの喧騒と仲間たちの姿に、矛盾したことを思う。
(早くデビューもしたいけれど)
(この夏休みも、このままずっと続いてほしいなあ)
合宿の出来事は、心の日記帳に鮮やかに記された。
この先の一か月、あと何ページが加わるのだろう。
夏休みはまだまだこれから!
<第20話・終>