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『ぎゃああああああ!!』
「花ちゃん!?」

 お化け屋敷から響く盛大な悲鳴。
 程なくして花歩が、ガタガタ震えながら弱々しく出てきた。
 一緒にいる立火も青い顔だ。

「は、花ちゃん、大丈夫!?」
「ううう……トラウマになりそう」
「立火ってお化けとか平気とちゃうかったん?」
「私も入る前は『全然怖がらなかったら姫水に悪いかなあ』とか思ってたんやけどな。いらん心配やったで……」

 受付の六組の生徒は非常に満足そうで、二人に上の階を案内した。

「この後は2-3の可愛いお化け屋敷で癒されるのがお勧めですよっ」
「小都子もそんなん言うてたな。行ってみるわ、おおきに」

 まだ震えている花歩を励ましつつ、立火は階段を上がっていった。
 ちょっと帰りたくなってきた桜夜だが、やがて順番が回ってくる。

「今は藤上さんがお化け役の時間なので、ラッキーでしたねっ」
「へ、へえ。それはまた怖そうな……」
「先輩先輩! 姫ちゃんの勇姿を目に焼き付けましょう!」
「焼き付けたら夜にトイレ行けなくなりそうなんやけど!?」
「それでは二名様ご案内~!」

 やけに明るい受付の声に送られ、二人は薄暗い部屋へ足を踏み入れる……。

「ここほんまに学校の教室!?」
「こ、凝った作りやなー。さすが姫ちゃんやー」

 異界に迷い込んだかと思うほど、よくできた空間だった。
 暗い中で不気味な一本道。人の手のような枯れ枝に、見るだけで不安になる謎のオブジェ。
 とどめに嫌な笑い声とともに背後で扉がしまり、もう後には引けなくなった。

「だ、大丈夫です先輩! うち、こういうのは強い方です!」
「ううう……ほんまに? 頼りにするで?」
「ひっ、い、今足下を何か通って……」
「言ってるそばから脅かすのやめてや!」
「き、気のせいですよね! えへへー!」

 突然の音や冷たい風に怯えながら進んでいくと、右前方で何かがうごめいた。

「もし……そこのお二人……」
「は、はいっ!」
「この先、決して振り返ってはいけないよ……もし振り返ったら……」

 姫水の演技指導により、生徒の声は老婆としか思えない。
 ごくりと唾を飲んだ桜夜は、恐る恐る尋ねた。

「振り返ったら……どうなるんや?」
「…………アハハハハハハハハ!!」
「ひいいいいい!」

 いきなり哄笑したと思うと、老婆の姿はドロンと消えた。
 勇魚が上ずった声で幼なじみを誉める。

「さ、さすが姫ちゃんのクラスやー。仕掛けも頑張って作ったんやなー」
「いや普通の教室でそんな仕掛けって、どう考えてもおかし……」
「さ、さあ先輩! 言われたとおりに振り返らないで行きましょう!」

 こわごわ歩き出した二人だが、案の定というか後ろから人の気配や、生暖かい息が迫ってくる。
 つい早足になりかける勇魚の体に、桜夜が必死でしがみついてきた。

「い、勇魚、どこにも行かないでね」
「あ、あの先輩、そう抱きつかれると歩きにくいです……」
「ひいい怖いいい! 勇魚を抱きしめてないと耐えられないいい!!」
「せ、先輩、苦しっ……」

 と、後ろから桜夜の肩がとんとん叩かれ、びくりとしたところに優しい声が届く。

「もう振り返っても大丈夫ですよ」
「あ、そう? いやー思ったより大したことなかっ……」

 安心した桜夜が振り向いた目の前で。
 血まみれの姫水が、地獄の底のような憤怒の表情を見せていた。

「勇魚ちゃんに何してるんですかぁぁぁぁぁ!!」
「ギャーーー!!」
(ちょっ、藤上さん、台詞違う!)

 慌てふためく六組の生徒をよそに、姫水は逃げ回る桜夜を追いかけ、容赦なく怖がらせ、そして……。

「楽しんでいただけたようで幸いです」
「姫水、めっちゃ私情入ってたやろ!?」
「気のせいです」

 出口の前で、にこやかにしれっと言う幼なじみに、勇魚の顔も引きつっている。

「どうだった勇魚ちゃん、私たちの恐怖の宴は?」
「う、うん。姫ちゃんが本気で頑張ったのは伝わったで!」
「お化けより姫水の方が怖いやんか……」
「何か言いましたか先輩?」
「いえいえー!」

 姫水はすぐに次の客を脅しに戻っていき、二人はほうほうの体で教室を出た。
 明るく賑やかな廊下に、ようやく生きた心地を取り戻す。

「面白かったですね! じゃあ予定通り、次は可愛いお化け屋敷に行きましょう!」
「そうやなー。小都子に癒されたい」

 歩き出そうとして、隣の五組が桜夜の目に入った。
 中では数名の生徒がだべってるだけで、黒板には投げやりな文字が書かれている。
『参加者がいないため、午後のクイズ大会は中止になりました』

 午前もひっそりしていた記憶がある。
 つかさはどこかで遊びほうけているのだろうか。

(もう少し真剣にやった方が楽しいと思うんやけどなあ)
(まあ私、後輩に説教するようなキャラとちゃうし……ウザい先輩と思われるのも嫌やし……)

 結局何も言えないまま、勇魚と一緒に二階へ向かう。


「トリック・オア・トリート!」
「お菓子をくれないとイタズラするで!」
「あげます! どうぞ!」

 二人の魔女っ子に迫られ、勇魚はためらうことなく差し出した。
 飴ちゃん……もとい、入口でもらったお徳用キャンディを。

「ありがとー! お礼にハグしてあげよう」
「わーい!」

 それを少しうらやましがりつつ、別パターンを見るため敢えて断る桜夜である。

「私はあげへんでー。さっ、どんなイタズラをしてくれるんや?」
「では、このカボチャの人形をよく見てください」
「ふんふん……うひゃあ!?」

 視線を逸らされている間に、後ろから首筋に冷たい何かを押しつけられた。
 振り返ると吸血鬼姿の小都子が、保冷剤を持って満足そうにしている。

「今回は大成功~」
「くうう……やられた、って今回は?」
「さっきは立火先輩に気配を察知されてしまいまして」
「あいつほんまに戦闘民族やな」
「小都子先輩、可愛い衣装です!」
「ふふ、ありがとうね。ちょうど交代の時間やから、一緒に出よか」

 吊されているゴーストの人形を揺らして遊んでから、三人は廊下に出た。
 いくつかの人形は小都子が作ったのだそうで、さすがの女子力に勇魚も感動する。

「バザーに出していただいたぬいぐるみも売れましたよ! ありがとうございました!」
「いえいえ、少しでも被災地の役に立つならね」
「ねーねー、私のサイン色紙は売れた?」
「あ、すみません、桜夜先輩のは売れ残ってて……」
「何でやねん!」
(私も見たけど、字ぃ汚かったからなあ……)
「姫ちゃんのは五千円で売れました!」
「どこのアホが買うたんや!」

 バザー会場では景子と奈々の激しい争いがあったのだが、それは別の話。
 時計を見ると、そろそろ一日目も終わりに近づいてきた。

「あとは、勇魚ちゃんの晴れ舞台を見るだけやね」
「真面目な話は苦手やけど、勇魚やからちゃんと聞くで」
「はいっ! ではそろそろ準備に行ってきます!」


 *   *   *


 いつもの視聴覚室は、今日はボランティア部の報告会場になっていた。
 天災続きに生徒たちも他人事ではないのか、座席は八割方埋まっている。

 スクリーンに写真や動画を映しながら、勇魚の元気な説明が続く。
 緊張もなく堂々と、自分より一歩先んじて発表する親友を、花歩は誇りに思いながら聞いていた。

「最後にそのお婆さんが、お礼にってお饅頭をくれたのがめっちゃ嬉しかったです!
 以上でボランティア部の活動報告を終わります!」

 部屋に響く拍手には、Westaの八人のものも含まれている。
 全員、このために時間を調整して聞きに来たのだ。

 ボランティア部の仲間に労われてから、勇魚は八人の方へと走り寄ってきた。

「みんな、来てくれておおきに!」
「立派な発表やったで。勇魚はほんまに大したやつや!」

 部長に続いて他の部員たちも、晴ですら「参考になった」と賛辞を述べる。
 それにつかさも付き合いながら、正直ボランティアの報告なんて、遠くの出来事としか思えなかった。

(勇魚も藤上さんと同じで、やっぱりあたしとは住む世界がちゃうんかな)
(って、そんなん言うてる場合か! 何もないまま一日目が終わったやないか!)
(でも明日はライブで忙しいし……)
(うん、後夜祭が狙い目やな。ロマンティックやし。そこで何とか進展させるで)

 つかさの内心は露知らず、勇魚は花歩の両手を握る。

「明日は、いよいよ花ちゃんの番や」
「うん……」
「さっきの何倍ものお客さんの前で、きっと大変やと思う。
 でも、その中にはうちもいるから!
 今、花ちゃんが見守ってくれたみたいに、うちも全力で見守るからね!」
「――うん! 絶対、忘れられないライブにする!」

 校内に、一日目の終了を告げる放送が流れる。
 全てを忘れて楽しむ日はここまで。
 明日は花歩が生まれて初めて、他の誰かを楽しませる日だ。


 *   *   *


 そして翌日、一般公開日。

「おはよう、二人とも」
「あれ、めーちゃん!」

 屋根が消えたままのバス停で、双子の妹が姉の隣に立っていた。

「どうせ文化祭に遊びに行くから、一緒に登校しようと思って」
「こんな特別な朝もええやろ?」
「歓迎するけど、外部の人が入れるのは九時半からよ?」
「それまでは住之江公園でも散歩してる。もう入れるようになったんやろ」
「もう倒れた木も片付いてるで。わーい、今日は四人でバスやー!」

 大喜びの勇魚に他の三人も嬉しくなりながら、到着したバスで学校へ向かう。
 まだブルーシートのかかる家もあるが、多くは普段の大阪に戻りつつある。
 関西空港も意外と早く復活するようだ。

(これが、花歩が毎朝見ている風景なんやな)

 少し感慨深く思いながら、芽生は隣に座る姉を覗き込む。

「どう? 今の気分は」
「べ、別に何もないって。後はもうやるしかないんや!」
「花歩ちゃんなら絶対大丈夫よ」
「帰りのバスでは、きっと最高にハッピーな気分になってるで!」

 姫水と勇魚にも保証され、花歩から溢れた感謝は自然と笑顔になる。
 文化祭二日目。
 夏と秋の中間の空は、綺麗に晴れ渡っていた。


 *   *   *


「丘本さん、ほんまにええの?」
「うん、仕事でもしてないと落ち着かへんから。気にしないで楽しんできて」
「ありがと、ライブ見に行くからね!」

 クラスメイトに申し出て、午前中一杯は輪投げ当番を引き受けた。
 夕理たちとも一緒に回りたいのは山々だが、本番が迫る状況で、無心で文化祭を楽しめる図太さはない。
 メンタルはだいぶ鍛えられたけど、まだまだ中級者くらいだ。

「でもファーストライブに比べたら、ずいぶん落ち着いてるよね」

 顔に出ていたのか、的当て当番の子から慰められる。

「あはは、ほんまにねー。あの時は自分が出もしないのに胃痛やったから……」
「この調子なら来年の文化祭ではめっちゃ堂々としてそう」
「そうなったらええんやけどねえ。あ、いらっしゃーい」

 外から来たお客に応対しながら、嵐の前の静けさは過ぎていく。

 汐里が母と一緒にやって来て、入らない輪投げにムキになっていた。
 立火の祖母と母もやって来て、桜夜のたこ焼き屋の感想を聞きつつ激励してくれた。
 そして昼前に、つかさが香流を連れてきた。

「うーす、花歩っち」
「香流ちゃん! 来てくれたんや」
「アイドルはあんま興味ねーけど、花歩っちがどうテンアゲすんのかはめっちゃ楽しみ」
「ふっふっ、見て損はさせへんで~。あ、輪投げやってく?」
「面白そーじゃん」

 遊戯に興じていると、追加で客がやってくる。

「お取り込み中?」
「芽生! ……と、熱季ちゃん」
「ふん……」

 輪っかを両手に下げている花歩に、熱季は冷ややかな目を向けた。
 初対面のつかさと芽生が挨拶し合っている傍らで、偉そうに聞いてくる。

「うちのPVは見たやろな?」
「……見た。自信なくすから、一回しか見てへんけど」
「ふふん、そうやろそうやろ」

 花歩たちがプールに行っている間に、熱季たち一年生を含む新生聖莉守のPVが公開されていた。
 乱暴な熱季が聖莉守の上品なライブをこなせるのかと思いきや……。
 見事に調和した、とても花歩にはできない美しいライブだった。
 思い出してしまって苦い顔の花歩に、熱季はどんどん上から目線になる。

「ま、格の違いを思い知ったやろ。
 お前ごとき見に来るほどの奴とは思えへんけど、ねーちゃんが偵察してこいって言うたからな。仕方なくや」
「あ、あはは……理由はともかく、来てくれて嬉しいで」
「なあ花歩っち、なんやねんこの態度でけー奴は」

 黙って聞いていた香流が、我慢しきれなくなってガンを飛ばしてくる。
 あわわとなる花歩の前で、熱季も遠慮なくにらみ返した。

「なんやとはなんやこのギャル。私は名門・聖莉守のスーパールーキーやで」
「うっわ、肩書き自慢とかダッセーの。
 花歩っちはアタシのマジ友なんや。disる気ならぜってー許さへんから」
「ああ? チャラチャラ遊んでるだけのギャル女は黙っとき。
 私たちスクールアイドルは部活に命かけてるんや」
「こ、この……やんのかコラ!」



 騒ぎに気付いて、芽生とつかさが慌てて割って入る。

「ちょっと熱季、何事や。副部長の顔に泥を塗る気?」
「香流も、他校で揉め事はまずいって」
「ちっ……」

 何とか一触即発は免れ、熱季は舌打ちして教室を出て行った。
 後を追う芽生が、思い出したように振り返って伝える。

「蛍は家の用事で来られへんけど、応援してますからって」
「そっか、ありがと」
「落ち着いてるみたいで良かった」

 芽生は微笑んで廊下に出て行く。
(落ち着いてる……か)
 本当は花歩だって、熱季に言われ放題で悔しくないわけではないけど。
 でもライブの実績はまだゼロなのだ。数時間後にこれを1にするまでは、何も言うことはできない。
 香流がすまなそうに頭をかく。

「わりー花歩っち、晴れ舞台の日だってのに……」
「ううん、怒ってくれて嬉しかったよ」
「そっか。まっ、応援は任せときなって。
 確かに遊ぶしか能のないギャルやけど、バイブス上げんのは得意やから!」
「うん! 心強いで!」

 その間に、廊下から熱季の大声が聞こえてきた。

「あ、瀬良! お前、全国十位やからって調子に乗るんやないで!」
「ごめん、誰?」
「なああああ!?」
(熱季ちゃん、ホンマにやかましいなあ……)


 *   *   *


「光、意外とこういうの下手やな」
「うーん、細かい調整みたいなのは苦手じゃけん」

 いつも全力全開の光は、輪投げは少し不得手のようだ。
 京橋の友達と楽しんだ彼女に、花歩の手は景品を差し出す。

「でも一個入ったから駄菓子あげるで。はいっ」
「ありがとー。丘本さん、いよいよだね」
「うん……」
「私のデビューライブ……はコムズガーデンになるのか。あの時は見に来てくれたけぇ、今日はお返しだね!」
「光ちゃんはあそこから快進撃だったよねえ」

 全国十位の相手を前に、自分が登るのがほんの一合目なのを実感する。
 だが登らなければ何も始まらないのだ。

「花歩、そろそろお昼に……げっ」
「あっ、天名さんだー」

 隣から来た夕理が嫌な顔をするが、光は気にせず手を振った。

「お昼ご飯? 私たちと食べようよ!」
「ひ、光ちゃん。勇魚ちゃんの報告会がそろそろやで」
「あ、行かなきゃ。残念だけどまたね!」

 花歩に言われて光たちは視聴覚室へ向かい、人見知りの夕理はほっと安堵する。
 そうこうしている間に交代の当番も来たので、花歩は夕理と一緒に1-1へ入った。
 ここのホットドッグ屋の匂いが、昨日から気になっていたのだ。

「オロオロしてない花歩って何か変な感じや」
「ひっど! あれだけ鍛えてもらったんやから大丈夫やって~」
「……つかさには勝てそう?」
「どうなんやろ」

 口についたケチャップをぬぐいながら、曖昧に笑う。
 実のところ勝敗の判断基準は、花歩自身もよく分かってない。
 FFFは花歩が目立つ振り付けなので、そもそも不公平な勝負だ。
 だから、自分が勝ったと思ったら勝ちでいいのかもしれない。

「あのね、夕理ちゃん」
「ん?」
「私、スクールアイドルが大好きや」
「花歩……」

 がむしゃらに頑張ったり、誰かに負けたくなかったり。
 そんな気持ち自体が花歩には生まれて初めてで、それを与えてくれたスクールアイドルには感謝しかない。
 この先何があっても、絶対に三年間続けよう。

「こ、これあげる」

 一緒に頼んだホットケーキの皿を、夕理がこちらに押しやってくる。

「え、でもこれ夕理ちゃんの分……」
「ええから! しっかり食べてライブに備えるんや!
 ……私はもう、胸が一杯で入らへんから」
「……うん」

 遠慮なく口に運んでもぐもぐしていると、夕理が胸を押さえて何か言おうとしている。
 数秒の努力の末、素直な想いを声にしてくれた。

「ありがとう、好きになってくれて。
 私、ずっと花歩と一緒にスクールアイドルやっていきたい」
「夕理ちゃん……」

 花歩も胸が詰まって、ホットケーキを押し込むのに苦労する。

「こっちこそありがとう。好きな気持ちを教えてくれて」

 まだ泣くのは早い。
 全ては、何かを成し遂げてからだ。


 残る時間を二人、賑やかな校内を腹ごなしに散策する。
 勇魚の報告会は、今日も上手くいっただろうか。

 午後の太陽は南を過ぎ、祭も少しずつ終わりに近づく中、二年生の廊下を通る。
 晴のクラスの討論会が終わったところのようで、立火と桜夜が難しい顔で出てきた。

「都構想って何度聞いてもよく分からへんな~」
「立火はもう選挙権あるんやろ。しっかりしてや」
「お前だって再来月には十八歳やないか」
「あ、そっか。実感ないなあ」
「部長! 桜夜先輩!」

 花歩の声に三年生たちが振り向く。
 外部の人が行き交う非日常の廊下で、四人の意識が力強く交差した。
 立火の瞳に映るのは、覚悟を決めた花歩の姿だ。

「そろそろ時間や」
「はいっ」
「一緒に行くで」
「はい、行きましょう!」

 体育館へ歩きながら、桜夜と夕理がまた下らないことで小競り合いをしている。
 それを笑って聞きながら、立火は途中の階段で上を指した。

「そういや屋上行った? 一年で今日しか開かへんから、一度は見た方がええで」
「そうなんですね。ライブが終わったら行ってみます!」

 花歩は思う。ライブが終わったら……
 自分は何か変わっているのだろうか。



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