ときメモリレーSS
未緒ちゃんのバレンタイン Vol.1
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#001
ガテラー星人
(メール)
97/02/14 22:31:26
聖バレンタインデー。幸せが、ときには涙が、いつもより少しだけ大きくなる日…
「よしっ、これで準備は万端ね」
2月14日まであと数日を残したある日。私は放課後沙希ちゃんと一緒に少し買い物に立ち寄りました。
私はお気に入りの紅茶の葉を、そして彼女はチョコレートを。もちろんそのまま食べるのでも贈るのでもなく、溶かして使うためのものです。
「おいしいチョコが出来そうですね」
「うん、根性で頑張らなくちゃ! 未緒ちゃんもよかったら味見手伝ってね」
「は、はい。いいですよ」
このイベントにも色々と意見はあるでしょうが、私としては楽しそうな彼女を見ているだけでその価値もあるのではないかと思えてくるのです。もちろん結局それは自分を蚊帳の外に置いた物言いでしかないのですが…。
「未緒ちゃんは、誰かにチョコレートはあげないの?」
その言葉は予想されたものだったので、私としても用意していた言葉を返す以外ありませんでした。
「特にあげる人もいませんから……」
#002
ふるはた
(p9511100@st.t-kougei.ac.jp)
97/02/14 23:11:40
「あげる人もいませんから……」
と言った途端。
沙希ちゃんの視線が一瞬だけ遠くを見たように、思います。
ほんのちょっと気まずい雰囲気。
でも、わたしの目線の片隅に引っかかった、ティーカップ。
「あ。」
「どしたの?」
「いえ、あのカップが……」
そうしてティーカップの話から『おいしい紅茶とおいしいチョコレートの組み合わ
せついて』その後は『チョコレートと一緒にいただく紅茶は無糖か微糖か』という
話に花を咲かせたり。
おかげでほんのちょっと凍り付いた雰囲気だけは消すことができましたが、彼女が
見せたあの視線の意味だけは、どうしても判らずじまいでした。
十四日のバレンタイン・ディ。
チョコレートに託される、ひとつの想い。
ちょっとだけ、ロマンティックな、特別な日…と言えるかも。
結構本気でそう思っていたりします。
そういうわけで、義理という名目でこの日にチョコレートを誰かにあげたことも、
実はありません。
…頑なすぎる、と言われるかもしれませんが。
あまりに頑なすぎる、と、言われているでしょうが。
#003
ゆうふぉりあ
(eup@din.or.jp)
97/02/14 23:31:46
それは、物語のような恋をしてみたい、という、わたしの気持ちなのか。
よく解りませんが、冷静に分析すればそういうことになるのでしょう。
でも、とりあえずは、そんなことはどうだっていいことでした。
この日は大切にとっておきたい・・・
いつか私の目の前に、素敵な人が現れるまで。
ただ、それだけの気持ちだったのです。
#004
$100
(astml@tky.threewebnet.or.jp)
97/02/15 00:34:38
・・いままででチョコをあげたい人がいない、というわけでは無かったのです。
・・・ただ・・・
「・・・どしたの?如月さん?難しそう顔して」
「?!」
考え事しながら駅までの坂道を下っていた私に、いきなり誰かが声を掛けてきました。
「き、清川さん・・・?」
「あは、やっと気づいてくれたんだ。」
「?」
「いや、如月さん声掛けても上の空みたいで・・・」
「あ!すいませんでした。ごめんなさい・・・」
またいつもの癖がでてしまった・・・
でも清川さんはいつものように向日葵のような微笑みを浮かべ、私に尋ねてきました。
「・・・あのさぁ・・・如月さん文芸部だろ?」
「は、はぁ。」
「それで虹野さんとも知り合いだろ?」
「ええ。」
「頼みたいことあるんだけど・・・いいかな?」
「私にできることでしたら・・・」
#005
ガテラー星人
(メール)
97/02/15 01:17:15
そこで会話は止まってしまいました。
彼女がさりげなく口の端に乗せようとした言葉は、いざ表に出る段になって途端に気後れを引き起こしたようです。あっちを向いてこっちを向いて、でも肝心なことは言おうとしないのです。
「えっと……やっぱり……」
「はい」
冷静に返事を返す私に、清川さんは後ずさりしながらくるりと私に背を向けました。
「な、何でもないの!それじゃっ!」
「バレンタインのことですか?」
思いっきり図星を指されて、彼女はそのまま石化します。ぎくしゃくと再度私の方を向こうとして、頭をかきながらばつの悪そうに笑い出すのでした。
「な、なははははは。ほら、あたしってお菓子なんて作ったこともないし、ロマンチックなセリフの一つも浮かばないしさ…。
‥‥‥やっぱダメだよね。ごめん、呼び止めちゃって。あたしみたいな男女にバレンタインなんてね…」
「そ、そんなことはないと思います!」
何故でしょう。何故だかは解らないのですが、自分でも驚くような口調で私はそう言ってしまったのです。
#006
二宮にょにょ
(kogura@wellmet.or.jp)
97/02/15 04:31:59
「な、なんだよ・・・」
「私・・・。私、こう思っているのですが・・・。
バレンタインって、チョコレートを作るとかそういうことではなく・・・、
プレゼントするチョコレートにどれだけ自分の思いを込められるかにあるかと、
私は思うんです!」
自分でも信じられないくらいの熱弁を清川さんに私は振るってしまいました。
「で、どうするのさ。その思いを込めるっていうことは・・・」
「そうですね・・・。私は・・・」
私は料理がそれほど得意ではないので沙希ちゃんのようにおいしいチョコレートを
作ることで思いを込めることはできません。
でも、私には私なりの思いを込める方法があります!
それは・・・。
「ちょっと私のやり方は言えませんけど・・・。人それぞれに思いを込める方法は
あるかと思います。だから具体的な答えを言うことはできません・・・。
ごめんなさい・・・」
「や、いいよ。なんかね・・・、なんか気分が楽になったというか・・・。
そうだよな、あたしはあたしなりのやり方でやってみる!
ありがとう、如月さん!」
清川さんはあっという間に消えてしまいました。
こういうところはいかにも清川さんらしいですね。
私も急いで家に帰らないと・・・。
私なりのやり方であの人に思いを伝える・・・。
今年の2月14日は思い切り勇気を出してみよう・・・。
いつの間にか私の中にそんな思いが生まれてきました・・・。
#007
まさ
(k-sima@interlink.or.jp)
97/02/15 04:59:12
家に向かいながら、さっきの出来事を思い出します。
今まで、バレンタインには一歩引いていた所のある、そう思っていた私が、あんなに強く話すことができるなんて・・・。
自分なりの想いの込め方、ですか・・・。
そうは言ったものの、想いを込めるのは、特にそれが大事であればあるほど、難しいことです。
文章を書き、詩を作る。その時にさえ、いつも私は、想いを表現する事の難しさに打ちひしがれます。ましてや、チョコレート一つに全ての想いを込める・・・。到底、私には不可能なことに思えます。
そうです。あの時も、結局私は、一つの、私のチョコレートを作り上げる事ができずに、傍観者に徹してしまったのです・・・。
#008
ガテラー星人
(メール)
97/02/15 22:28:08
文芸部で部誌を作ろうとしていた時でした。
私も詩を載せることになっていました。とりあえず無難なところで自然の風景を表した作品を
作ってはみたのですが…。
本当にこれが自分の書きたいものなのか、という疑念にとらわれていたのです。私の心を一番
大きく占めていたもの、それは……。
でもいざ書く段になって、私はどうしても躊躇してしまったのです。いえ、自分の気持ちに
気づくのが怖かったのかもしれません。
そして出来上がったのは味のないできそこない。チョコレートを作って失敗したのならまだ
諦めもついたかもしれません。しかし私は自分のことを自分のことと捉えることから逃げ、
1つのチョコレートすら作り上げられませんでした。
「(あの時と同じでいいの? でも……)」
駅前の商店街でも大々的にバレンタインのセールが行われています。とある人気のある店では、
女の子たちが目を輝かせてチョコレートを選んでいます。
「あ、コレなんか超おっしゃれーだよね。でもやっぱ買うのは当日じゃないとね。2月14日は
特別だもん、ね、ゆかり……あれ?ゆかり?」
その活発な女の子を見ていると、本当に自分自身が恨めしく思えてくるのです。
でもやっぱり自分は自分です。あの女の子のようにはなれないのですから……。
#009
ガテラー星人
(メール)
97/02/15 22:29:43
「あら〜?如月さんではありませんか〜」
「きゃっ」
突然後ろから声をかけられて、私は心の中で飛び上がりました。こ、古式さん……。
い、いつの間に私の背後に立っていたのでしょう?
#0010
まさ
(k-sima@interlink.or.jp)
97/02/17 04:47:38
「あの、古式さんも、バレンタインのチョコを?」
古式さんは、少しきょとん、としたかと思うと、にこやかに私に答えました。
「偶然ですねぇ〜。ぜひ、ご一緒にどうですか〜」
どうも、ペースの極端に違う人は・・・苦手、です。
「い、いえ。私は遠慮しておきます・・・」
「あらまあ〜、どうしてですか〜?」
「私には、あげる人もいませんから・・・」
また、この質問です。同じ問い、同じ答え。そして帰ってくる反応も・・・。
「あら、そうなのですか〜。わたくしは、今までお世話になった方み〜んなに差し上げようと思っているんですよ〜」
「・・・それは、義理チョコです」
やはり、私とはちょっと、ペースが違いますね。
「はあ〜、そうなのですか〜。でも、チョコレートをお渡しすると、喜んでいただけるそうなので・・・」
「ゆっかり〜!何してんの?」
「あら、朝日奈さん。ご用事は、もうお済みになりましたか?」
「私?私は今日は買わないから。じゃ、帰ろ帰ろ」
「少々お待ち下さい〜。わたくし、チョコを買って帰ろうかと思いまして・・・」
「なんで〜?当日に買えばいいじゃん」
「やはり人様に贈るものですから、喜んで頂くには、あらかじめちゃ〜んと準備をいたしませんと・・・」
「もう、ゆかりってば変なところで凝るんだから!」
「では、如月さん。わたくしはチョコレートを買いに参りますので」
「は、はい。そうですね。それでは」
・・・違います。古式さんと、私では。
私は、自分の想いを込める事、それだけを考え、古式さんは、贈られた人、その人の喜びのために、チョコを贈ろうとしています。
どちらが、正しいのでしょうか。
どちらが、バレンタインに向けての、より良い姿勢なのでしょうか。
まだ、今の私には、結論が出そうにもありません・・・。
バレンタインは、刻一刻と近づいて来ます。
#0011
ガテラー星人
(メール)
97/02/20 21:51:59
(きっと古式さんのチョコレートをもらう人は幸せでしょうね…。チョコレートそのものよりも、彼女がくれたということ自体が幸せにしてくれるものだと思います。女の子の私ですらそう思うくらいですから…。
でも私は、私のチョコレートなんてもらって嬉しい人がいるのでしょうか…)
時間がありません。
私はわりと物事をじっくり考える方ですが、バレンタインは3日後なのです。こうやって悩んでいても同じところをぐるぐる回っているだけです。
「今日決めないと…」
今日は2月11日、建国記念日です。じっくりチョコを選ぶとしたら今日しかありません。
渡す渡さない以前に、買うべきか、買わざるべきか。
ハムレットになった気分で私は街へと出かけました。単に自分の部屋で頭を抱えるのに耐えられなくなっただけかもしれません。
渡さないよりは渡した方がいいに決まってます。買ってしまえば勢いがついて渡すこともできるかも…。
『チョコレートをお渡しすると、喜んでいただけるそうなので・・・』
そうですよ、そのくらいの気持ちで行事に参加すればいいんです。想いを伝えるのは後でラブレターでも十分なのですから。
などと自分に言い訳しながら商店街を歩きます。しかしそう思いながらも、別の自分は別のことを考えているのです。
(バレンタインは好きな男の子にチョコレートを送る行事)
(当然彼もそう思ってる)
(彼ならいきなり避けだしたりはしないだろうけど、気まずくなるかもしれない)
(そもそもこんな風に愚策を巡らせてばかりいる自分は例えば古式さんに比べてなんと卑しいのだろう)
そんな様々な考えが私の中を巡るのですが、ただ一点だけ共通してはっきりしていることはありました。
「今日は知り合いには会いたくないですね」
「あーっ未緒ちゃん!えへへ、チョコ買いに来たんだ?」
「あ、あの…。こんにちは…」
「‥‥‥‥‥‥」
#0012
まさ
(k-sima@interlink.or.jp)
97/02/21 02:32:11
「・・・・・・・・・」
何とも、間が悪いことですが・・・。
「あ・・・ごめんなさい、声かけちゃいけなかったかな?」
館林さんは、私のわずかな表情の変化も汲み取ってくれます。
同じ文芸部ですし、事によると、一番お互いを知っているかも知れません。それだけに、今は会いたくなかった人です・・・。
「いいえ、そんなことはありませんよ。・・・館林さんも?」
ほっとした表情。この笑顔は・・・なんだか落ち着きます。
館林さんはこの日をどう思っているのか・・・聞いてみましょうか?
「うん!じゃあ、一緒に選ぼうよ。二人だと、迷わなくっていいしね」
「あ、はい。そうですね」
迷わなくっていい・・・ええ、迷うのはやめたんでしたね。
「では、行きましょうか」
(これでいいんです。考えるべきではないのかもしれません)
私は、館林さんに選んでもらったチョコを手に、家に帰り着きました。
さて、贈るからには、想いを込めなくてはいけません。私なりの方法で。
全てを込める必要はありません。それは無理なことです。
相手に喜んでもらえるため、そのほんのトッピングとしての私の想い。
私はふと、部誌を手に取りました。少し前の、ちょっと傷んだものです。なにかのヒントになれば・・・と。
「ソクラテスの飢え・・・ですか」
その号で、私が発表したのは、ソクラテスに関する研究でした。ですが、そこは読み飛ばします。今、私に必要なのは、詩文の部分であるはずです。
「今まで、こちらも一通り読んでいたはずなんですが・・・」
おや、このペンネーム、「館瞠さん」・・・館林さんでしょうか。彼女らしく、素直といえば素直すぎますが。思わず微笑みも漏れてしまいます。
彼女の作品は・・・なぜか、二度目に触れるはずなのに、心に染み込んで来ました。わざわざ、彼女と向き合って聞く必要もありませんでした。
(迷わなくって・・・いいしね。)
「そうですね、もう迷いません」
私は、この決意が消えないうちに、誰かに話しておきたくなり、受話器を取りました。
#0013
ガテラー星人
97/03/06 13:30:29
電話のベルのなる間は、いつも緊張のためか少し長く感じられます。特に彼女はあの日以来なんとなく避けてしまっていましたから…。
「はい、虹野です」
聞きなれた明るい声。少し躊躇してしまう自分を、心の中で叱咤します。
「もしもし?あ、もしかして未緒ちゃん?」
「は、はい」
何故解ったのでしょう、などと考える一方で、心の中の重りがすぅっと消えていきました。いつもの彼女でした…。
「すみません、突然お電話してしまって」
「う、ううん!どうしたの?」
どう切り出したものでしょう。何せ先日はあんなことを言ってしまったのですから。
でももう迷わないと決めたので…私は、思ったことを素直に口にするのです。
「ええと…。チョコレート、買ったんです」
#0014
まさ
(k-sima@interlink.or.jp)
97/03/08 01:39:59
「あ・・・買ったんだ、チョコ。贈る人、できたんだね!」
「・・・ええ、まあ」
厳密に言うと違いますが、今は彼女の気持ちが嬉しいです。
「あ、そうだ。もうチョコ作っちゃった?」
「いえ・・・何か?」
「ううん、ちょっとね。せっかくだから、一緒にチョコ作らないかな・・・と思ったんだけど」
一緒にチョコを作る・・・さっきまでバレンタインなんて縁のないものと思っていた私には、それは、随分と分不相応な行事のような気もします。
でも私は、バレンタインに、精一杯参加すると・・・決めたんです。
「はい。喜んで」
「よかった・・・。じゃあ、今すぐ来ない?」
「では、早速お邪魔させてもらいますね。初心者ですから、よろしくお願いします」
「うん!みんなでおいしいチョコ、作ろうね!」
みんな、ですか・・・。他にも誰か来るのでしょうか。
まあ、沙希ちゃんの料理の腕は有名ですし、私とだけしか交友関係がないはずもありませんから、当然といえば当然ですが・・・。
「はい。そうですね。では後ほど・・・」
「早く来てね!」
私は、受話器を置くと、外出の準備をしようと立ち上がりました。
#0015
いっく
(IKUMI@hiroba.net)
97/04/06 17:10:06
「・・・!」
立ち上がった瞬間、私は床に倒れ伏せてしまいました。
「やだ・・・沙希ちゃんとの約束があるのに・・・」
でもその時はいつもより大分めまいがひどくて結局気を失ってしまいました・・・
目が覚めたときはもう6時を回って時間をとっくに過ぎていました。
私は沙希ちゃんに電話をしようと受話器を取りました。
#0016
ガテラー星人
(メール)
97/04/30 22:08:11
(どうして私はこうなんでしょう…)
ダイヤルを回す指はあまりに重く、目の前をちらつく沙希ちゃんの悲しそうな顔に私の心は押しつぶされそうになります。約束を破るなんて最低です。いくら彼女でもさすがに怒ったかもしれません。とにかく謝ろうと、ただその思いでいっぱいでした。結局私にバレンタインなんて無理だったのかもしれません。
呼び出し音が鳴る間があまりに長く感じられます。先ほどとは比べものにならないくらいに。いっそ彼女が留守なら、と一瞬でも思ってしまう自分が嫌です。
「はいもしもし。…もしもーし?」
「え…? ……あ、はい」
しかし意外にも聞こえてきたのは聞き覚えのある男の子の声で、私の頭は一瞬壊れた機械のように活動を止めてしまいました。なんで彼がここにいるのでしょう?
「もしもーし!」
「あ、あの、その、早乙女さんですか?」
「お、やっぱり如月さんか。どーしたんだよ、虹野さん心配してたぜ?」
「い、いえその、つい貧血が、その、すみません…」
混乱したままへどもどになってた私は、もし行ってたらお邪魔になってただろうか、などと馬鹿なことを考えていました。
「あー、やっぱりそうだった。大丈夫?あ、こっちは平気だぜ。約1名できの悪い生徒がまだ苦闘してっからさ」
「あー、お兄ちゃん。優美の悪口言ってるでしょ!」
「優美ちゃん、よそ見しないの!根性で頑張るのよ!」
「ふぇーん、少し休みましょうよぉ」
「何言ってるの、根性よ!!」
電話の向こうの方から小さく会話が聞こえてきます。それでようやく事情が納得できました。早乙女さんは優美さんの付き添いで来てたんですね。相変わらず妹さん思いなんですね…。
「と、ゆーわけだ。体のほう大丈夫なら、今からでもOKってとこだな」
「は、はい、すぐ行きます!沙希ちゃんにもそう伝えてください!」
既に外は暗くなっています。でも私はいてもたってもいられなくなって、母に事情を説明すると転がるように外に出ました。ひんやりした空気が私を包みますが、それも今は心地よく感じられます。だってまだ終わってない、もう駄目だと思ったけれど、まだ終わってなかったのですから。
#0017
ガテラー星人
(メール)
97/08/01 00:35:02
ピンポーン
息を切らせた私が沙希ちゃんの家の呼び鈴を鳴らします。もうすぐ7時。本当ならこんな非常識な時間に人の家を訪れるなんてことは絶対にしないのですが、今は常識も躊躇もとりあえず片隅に追いやらせてもらいました。
「はーいっ」
聞き慣れた明るい声。玄関のドアが開いて、エプロンをした彼女が姿を現します。家の中の灯りが眩しくて思わず手をかざします。
「未緒ちゃん!身体の方は大丈夫!?」
「あ、はい。ごめんなさい、約束を破ってこんな時間に…」
「ううん、貧血なら仕方ないよ。寒いでしょ、早く中に入って」
沙希ちゃんはにっこり微笑んで私の手を引きます。彼女のそんな無償の優しさは時々危うさも感じるのですが、いざ自分が受ける時はこんなにも安らげるものはありませんでした。結局私も勝手な人間なのかもしれません。
「よっ、如月さん」
「早乙女さん、先ほどはどうも…」
「虹野せんぱーい!変になっちゃったぁー!」
「あ、はーい!」
台所から優美さんの悲鳴が聞こえ、沙希ちゃんがあわてて走っていきます。早乙女さんは苦笑しながら、親指を台所の方へ向けました。
「ホンット俺ももうあいつの味見役はうんざりでさ。如月さんのチョコで口直しさせてくれよ」
「ふふっ、そうですね」
台所では優美さんが半泣きになりながら沙希ちゃんと一緒にボールを片づけています。私も挨拶して手伝って、流しは何もなかったように綺麗になりました。
「さ!一からやり直しよ。優美ちゃんはこれが最後と思うように!」
「は、はいっ!」
「未緒ちゃん、頑張ろうね!」
「はい…。そうですねっ」
#0018
K−kun
97/09/27 15:52:44
「まずはチョコレートを融かすわよ。」
「ハーイ」
「はい」
沙希ちゃんにいわれて私と優美ちゃんは御鍋の中のお湯にうかんでる
小さい御鍋にそれぞれのチョコレートをいれました。チョコが融けるまでは
みんなで他愛もないお喋りをしていました。そんな時、早乙女にさんが、
「如月さんは誰にあげるの?。もしかして俺?」
やはり。聞かれるとはおもっていましたが、今、ここで、チョコを作ってい
る以上『いません』と答える訳にもいけません。どうせなら、このまま、早
乙女さんにあげるといってしまっても。
「もぅ、お兄ちゃん。恥ずかしい事いわないでよぉ。如月先輩にはちゃんと
チョコをあげる人がいますよねー。」
うまく、話題がずれました。
「そうですね。でも、早乙女さんにもあげますよ」
「ほんとぉ、ヤッホー。くぅ、これで俺も優美と朝日奈の義理チョコだけのバレンタインもおわりかぁー」
「フフフ・・」
その場の雰囲気と勢いで早乙女さんにもあげることにもあげる事になり
ました。まぁ、こんな場所に居合わせているのですから当然といえば当然
です。
「あっ、チョコが融けたわよ」
#0019
まさ
(k-sima@interlink.or.jp)
97/10/07 23:44:12
「ところで、優美ちゃんは誰にチョコをあげるのですか? やはり、同級生のお友達に?」
見慣れない、よく融けた状態のチョコに目をやりながら、私は隣に声をかけます。優美ちゃんは、ひょっとこちらをみると、不意に顔を赤らめて、うつむき加減に言いました。
「ううん、先輩なんですよ。お兄ちゃんの友達で、いっつも優美に優しくしてくれるんです。だから……その……」
照れる優美ちゃんは、もじもじしながらチョコに手を伸ばしました。どうやら、私の顔が一瞬強張ったのには気付かれていないようです。
そうだったのですか……。
「お〜い優美〜、ちゃんと手元見ろよ〜」
「んもう、お兄ちゃんはいちいちうるさいの!」
「あ、でも優美ちゃんちゃんとお鍋を……あっ!」
「えっ? あっ!?」
じゃぼ。
からん、ぶくぶくぶく……。
融けたチョコを入れた小鍋は、まるでチョウチンアンコウのまばたきのように−−もちろん見た事があるわけではありませんが−−綺麗にひっくり返ると、たちまちのうちに大鍋のお湯をほんのり茶色く染め始めました。
沙希ちゃんがすばやく小鍋を拾い上げましたが、どうやら遅かったようです。落ち込む優美ちゃんを早乙女さんが慰め……ているようには見えません。逆に落ち込ませているようにも見えますが、兄妹というものはこういうものかも知れませんし。
「優美ちゃん、もう一度頑張ってみましょう。みんな失敗して上達していくものですし」
「うぅ……はい」
我ながら一般論だとは思いますが、他にかける言葉が見当たりません。
「あ、でも……」
「沙希ちゃん、どうしました?」
「もうね、優美ちゃんの分のチョコがないの……」
「えぇ〜!?」
「失敗し過ぎなんだよ……ったく」
がっくりと肩を落とす優美ちゃん。見ていてこちらまで辛くなってきます。
なんとかならないものでしょうか……。例えば、私の分のチョコを分けてあげるとか。
でも、それは。
「そうだ、未緒ちゃん? よかったらチョコレート、優美ちゃんに分けてあげてくれないかな?」
「えっ……」
私は、思わず驚いたような声をあげてしまっていました。
#0020
ガテラー星人
(メール)
97/10/09 00:35:45
「あ……」
口をふさいでも既に遅く、あたりに気まずい空気が流れました。あわてて取り繕うようにこくこくと頷きます。
「そ、そうですね。私のチョコでよければ」
「え、いいです先輩。失敗した優美が悪いんだし!」
私の態度を察して優美ちゃんがぶんぶんと首を振ります。鍋の中のチョコレートは闇のように黒く溶けています。どうしてこうなってしまうのでしょう。
「お、そうだ。チョコくらいコンビニで売ってるって」
「あ、うん、そうよね。手作り用じゃないけど」
「優美が作るんならなんでも同じだっての。なあ?」
「お兄ちゃんあとでサソリ固めだからね!」
もう夜も遅いからということで早乙女さんが買いに行き、私は火を止めるわけにも行かず、そのまま一人でチョコ作りを続行しました。唇をぎゅっと結んだまま。
「‥‥‥‥‥」
なんとなく会話が途切れ、作業の音だけが台所に響きます。背後に沙希ちゃんと優美ちゃんの視線を感じるのは私の後ろめたさのせいでしょうか。
沙希ちゃんだったら、きっとすぐに自分のチョコレートを差し出したでしょう。
チョコが小さくなるのが嫌だったから?
優美ちゃんのチョコを渡す相手が彼だったから?
私はなんと浅ましく薄汚い人間でしょう。
私なんかにバレンタインに参加する資格があるのでしょうか。
#0021
K−kun
97/10/09 14:37:14
そうおもいながらも早くチョコの形をとらなければかたまってしまいます。 しかし私は沙希ちゃんに形ぬきをもらうことができません。
気まずさが私の心と体をかけめぐります。そんなとき、
「未緒ちゃん。はい、形ぬき。早くしないと固まっちゃうよ」
「あっ、ハート型にしますか?。それとも四角にしますか?。如月先輩」
沙希ちゃんと優美ちゃんから話しかけてくれました。二人とも私より偉いです。私よりずっと強いです。うらやましいです。そう思いながらも私はとまどってしまいます。とりあえず・・
「あっ、四角形にしておきます」
ハート型は自分のイメージにそぐわないと思い四角形にしておきます。
「そう、わかったわ。優美ちゃん。未緒ちゃんをいっしょに手伝いましょ」
「はーい。」
「あ、ありがとうございます。」
二人の気遣いがとてもうれしいです。少し、じんときてしまいます。もう、バレンタインに参加する資格なんてどうでもいいとおもえてきました。
#0023 ガテラー星人
(メール) 12/05 13:12:57
そしてついにチョコレートは完成しました。少し丸みがかった正方形のチョコレート。ただそれだけのものだけど。ここへ来るまでに色々なことがありすぎて、つい感慨にふけってしまいます。いつも足踏みばかりだったけど。
「未緒ちゃん、おめでとう!」
「良かったですね先輩!」
こんな私を2人が祝福してくれます。嬉しさと同時に後ろめたさが私を捉えます。生まれてからいつも私を覆っていたもの。でも今は…それに負けないように、たとえ資格がなくても前を向こうと、資格を得られる自分になろうと思うのでした。
早乙女さんが帰ってきて、今度は私と沙希ちゃんが優美ちゃんを手伝います。何度かの悪戦苦闘の末彼女のチョコレートも完成しました。形は今一つだけど、想いの一杯詰まったチョコです。
「やったぁー!優美の手作りチョコレートだぁー!」
「あいつ死ななきゃいいけどな」
「優美クラーーッシュ!」
「ぐはぁ!」
優美ちゃんがチョコレートをあげる相手の顔が浮かび、また心が少し黒くなります。でも、打ち払って
「良かったですね」
「うんっ!2人ともありがとうございました!」
「わ、わたしは大したことはしてないよ」
「おいおい俺には礼はなしかぁー?」
「えへへ、お兄ちゃんもありがとうっ!」
明かりのともる台所に笑い声が響きます。これだけでも十分バレンタインに参加して良かったのかもしれません。沙希ちゃんに何度もお礼を言った後…私は早乙女さんに送られて自宅へと戻りました。奇麗にラッピングされたチョコレートを大事に抱えたまま。
2月14日まであと3日。
#0024 K-kun
12/25 10:57:57
次の日、学校に行く道・・・・
「未緒ちゃん、おはよう」
「キサラギ先輩、おはようございまーす」
「沙希ちゃん、秋穂さん、おはよう」
私は沙希ちゃんと秋穂さんにあいました。学校までおしゃべりしたりして楽しく通学していました。
「先輩達はチョコ誰かにあげたりするんですか?」
「えっ、そうねえ、私はサッカー部の皆に」
「えーっ、私にはくれないんですかぁ?。私、先輩にチョコあげてもらって三倍返しをしあおうと思ったのにい。なんてね」
「フフフ、みのりちゃんったら。ねえ、みのりちゃんは実際のとこどうなの?」
「私は・・お父さんにあげてぇ、えと、」
「沢渡君?」
「なっ、なんでそいつの名前が・・。もう・・・」
秋穂さんの顔が赤くなってます。ふふ、可愛いです・・。
「ごめん、ごめん。あっ、そういえば未緒ちゃんは?チョコ作ったからには誰かにあげるんでしょ?」
「えっ。ええ」
「えー、誰ですかあ?。私も興味ありまーす」
#0025 ガテラー星人(はや1周年ですね)
(メール) 02/14 23:28:24
「え?え、えと…」
口ごもったのは言う勇気がないせいもありますが――実際、まだはっきり決まったわけではありません。あげるとすれば浮かぶ相手は1人だけ。でもやっぱり、本当に私は、あの人にチョコレートを渡すのでしょうか。どうして彼に?
…なんて、自分で疑問形がついてしまうもが後ろめたくもあり、俯く私に沙希ちゃんがあわてて手を振ります。
「あっ、ご、ごめんね。言いたくないならいいのよ、ね、ねっみのりちゃん?」
「うーん、気になりますけど虹野先輩がそう言うなら」
「すみません……」
悪くもないのに私は謝りました。少し気まずい空気が流れる中を、秋穂さんが苦虫を噛みつぶしたようにずけずけと言います。
「大きなお世話かもしれませんけど、そんなはっきりしない態度じゃ当日も上手くいくか怪しいですね」
「み、みのりちゃんっ!!」
「だって本当のことじゃないですか」
「ご、ごめんね未緒ちゃんっ!みのりちゃんも決して悪気があるわけじゃないのっ!」
秋穂さんの言うとおりです。私は押し黙ったまま眼鏡の奥で目を伏せて、でも答えはすぐには出てきません。お世話になってる彼。いつも体の弱い私を気遣ってくれる彼。あの人にチョコレートを渡すとしたらそれは感謝の気持ちから…本当にそれだけ?
そう、それが問題です。
私のチョコレートは、本命なのでしょうか、義理なのでしょうか?
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ガテラー星人