このSSは「Wizard's Harmony」(c)アークシステムワークスを元にした2次創作です。



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雪の中街は踊る






 さーて合宿も無事終わったし年も明けた。
 君たちの世界がどうかは知らないが、ここでは新年最初の日はみんなで祝いまくることになっている。ということで今日はめでたい冬祭りだ。パーッと羽を伸ばすぞぉ!
「やあ、オハヨウ」
「ぶぅ!」
「わかっているね」
「わかりません!何もわからねぇぇぇ!!」
「それじゃあ出かけようか」
「うわああぁぁぁーっ何でこんな目にーーー!!」
 しくしく…今年も俺はこの人から逃れられないのか? なんかもうお先真っ暗って感じだなぁ…。
「見ろよルーファス、今年も雪が降ってるじゃないか。うむ、やはり冬祭りはこうでないとな!」
「そーすね…」
「なんだなんだ、元気がないぞ、ん〜? めでたい冬祭りなんだからパーッと羽を伸ばそうじゃないかね」
 あんたのせいだよ、あんたの…。
 街全体が白く染まり、そこかしこに屋台が立ち並ぶ。人々みんな表に出て、ある者は歌い、ある者は魔法芸を披露し、ある者は先輩に引きずられるように大通りを歩いていた。って俺だけどな…。うう、先輩が一緒じゃ何もできやしない。
「どいたどいたーーっ!」
 と、いきなり目の前から巨大な雪の象(像じゃなくて)が走ってきて、俺たちはあわてて道をあけた。スノーゴーレム。魔力で動く生きた雪像だ。
「そういえば今年は大会には出ないんですか?」
「ん〜? 俺が出ると優勝間違いなしでつまらんしなぁ」
「あ、そうですね…先輩が出て無事大会が終わったためしがないですけどね…」
「よーし! この天才を欠いた今年はどんなもんだか見に行こうじゃないか」
 大会というのは魔導士がスノーゴーレムを操って戦わせる『銀の闘場』のことだ。ここフィロンは冒険者の街兼自由都市なだけあって、お祭りを楽しむためならどんな苦労もいとわない連中で一杯である。俺も見習いたいところではあるけど…。
 闘技場でお金を払って観客席に入る。下で雪像が戦ってる中で、選手控え席に目立つブロンドの髪が目に入った。
「あら、ルーくんじゃない」
「あ、アリシア…と真琴」
「新年早々その男と一緒か。つくづく趣味が悪いな」
「いたくているんじゃないっ!」
 アリシアがおいでおいでをするので、あたりに気を使いながら席に行く。いいのかなぁ、出場するわけでもないのにこんないい場所取って…。
「ふふんアリシア君、まさかこの大会に出るつもりかね」
「あら、当然じゃない。貴方がいないなんてチャンス滅多にありませんもの」
 言われてみれば、アリシアの隣には天使をかたどったスノーゴーレムがある。さすが美少年趣味だけあって顔もそういう系統だ。
「何か言ったルーくんっ!」
「言ってない言ってない!」
「本当にこんなきゃしゃな雪像で戦うつもりか? もう少し頑丈にすべきだろう」
「あら心配ないわよ。ほら」
 見れば闘技場の真ん中では先ほどの雪の象が、ワイバーンをかたどったスノーゴーレムに空中からこてんぱんにのされたところだった。
「遅刻しそうで大急ぎで走ってきたから魔力が尽きちゃったのね。おばかさんなこと」
「いやぁ、相手も大したもんだぞ。空飛ばすなんてさ」
「ほほうルー、お前が俺を誉めるとは珍しいな」
「げ」
 よく見たらレジーの奴がこっちに来るところだった。おまけに隣にはシンシアとラシェルもいる。何考えてるのかつくづくわかりやすい奴だ…。
「わぁいおにーちゃん! あそびにきたのー?」
「ね、見た見た? レジーセンパイってさすがだよね!」
「ふ、やめろよラシェル。そんな当たり前のこと今さら言うまでもないぜ」
「相変わらず寝言を…」
 組み合わせを見るとアリシアの次の相手はこいつらしい。なんか面倒なことになってきたなぁ。
「おいおい俺も困ったな。美人とは戦えない主義でね」
「あらそう。それじゃ私に勝ったらデートしてあげてもいいわよ」
「あ、アリシアぁぁぁぁっ!?」
「へぇ…。それじゃあ全力で戦わないとな。デートしたいならしたいと言えばいいのに、素直じゃないね」
「(本気で殴りたくなってきた…)」
 レジーは笑いながらすぐそばに腰を下ろした。シンシアとラシェルももそもそと入ってくる。いいのかおい…。
「なーかなか、面白いではないか。凡人の戦いもたまにはいいねぇ」
「腹の立つ人ね…。でもルーくんが応援してくれたら怖いものなしよ。ね、ルーくん?」
「そりゃレジーを応援するくらいならアリシアを応援するよなぁ…」
「それはどういう意味かしらっ!」
「あああっごめんなさい違います!そういう意味じゃなくて!」
「愚か者め…」
 なんて言ってる間に対戦の時はやってくる。闘場には2つの低い塔が立っていて、アリシアと雪の天使はふわりとその上へ降り立った。基本的にフライの応用だが、ゴーレム動かすのに水の魔法を使ってるためなかなかコントロールは難しいはずだ。
 一方のレジーも雪のワイバーンとともにもう一方の塔へ立ち、開始の合図を待ち受ける。
「ねえセンパイ、どっちが勝つかな!」
「うむ、確かにアリシアは雪や氷はお手の物だが…」
「レジーもサボってるわりに成績はいいからなぁ。勝負ごと強いし…」
「ふみゃー、それよりシンシアさむーい」
「そういや寒いな。おーいルーファス、ちょっとザウンを買ってこい」
「えーっ? 今始まるとこなのに…」
「ん〜〜〜〜?」
「わかりましたっ、買ってきますよ!」
「あ、ボクのもー!」
「シンシアもー!」
「…あー、えへん」
「わかったってば!」
 ザウンってのは…まあ揚げた肉まんのようなものだと思ってほしい。中に入ってるシクレの実が、少し火の魔力を帯びてて体を温めてくれる。
「試合開始!」
「うわっとっとっ」
 おばさんにお金を払って、ザウンを落っことしそうになりながら席へと戻る。闘場ではアリシアとレジーのスノーゴーレムが様子見のようにふわふわと飛んでいた。
「…銀貨1枚だって」
「えー? 高いよー」
「なんだそれは! 貴様、そんな値段で買ってきたのか!」
「仕方ないだろぉっ! こういうとこでは高いに決まってるじゃないか!」
「む…それはそうだが」
 とりあえず全員から金を返してもらって(先輩?最初から諦めてるよ、とほほ…)、あらためて勝負に見入る。先に仕掛けたのはアリシアの方だった。
「いくわよ、レジーくん!」
 一度地面に降りて雪に手を突っ込むと、中から氷の剣を取り出した。むろん水の魔法で凍らせたものだ。
「美人がそんな物騒なもの振り回してちゃいけないね」
「言ってなさい! それっ!」
 ばっと地面を蹴って急上昇する。レジーのワイバーンはかわそうとするものの、間に合わずに片方の翼を切り裂かれた。
「やった、アリシアセンパイ!」
「うにゃー、すごいすごい!」
 レジーの面を見てやろうとファー・アイズの呪文を使ったが、平気な顔で取り澄ましていた。レジーが呪文を唱えワイバーンの翼が回復していく。しかしけっこう魔法力を消耗するので、それを続けていれば長くは保たないはずなのだが。
「はっ、だめだめ」
「失礼ね!」
 アリシアの攻撃が激しさを増すが、レジーはのらりくらりとかわし続けた。ワイバーンと言ってもかなり小型な上、何度かアリシアの剣に削られて小さくなってるため動きが早い。
「それに引き替え、アリシアの天使は重そうだなぁ」
「あの大きな羽根は一体何だ」
「…装飾だろ」
 なんとなくレジーの狙いが読めてきた。アリシアの見栄え重視な性格を利用して、ひたすら逃げて疲れさせる気だ。
「うむうむ、確かにアリシア君のは重そうだからなぁ」
「うん、すっごく重そうだね!」
「おもいにゃー」
「重い重い言わないでくれるかしらっ!!」
 あ、女性には禁句だったか…。そう言ってる間についにレジーが反撃に出る。
「きゃあっ!」
 ワイバーンの雪の鈎爪が天使の肩を捉えた。もちろんアリシアが痛いわけはないのだが、まあ気分の問題だ。
「そのくらいでやめとこうぜ。女性に恥をかかせるのは好きじゃなくてね」
「言ってなさい!」
 そうは言ってもアリシアはもう肩で息をしている。余裕を見せるレジーに対し、劣勢は明らかだ。
「ねえセンパイ、レジーセンパイの勝ちかなぁ」
「う〜〜〜〜〜ん…あれ、おいアリシア!?」
 いきなりふわり、とアリシアの体が浮き上がる。何をするのかと思ったら、いきなりフライで天使の背中に乗りやがった!
「さあ、いくわよ!」
「おいおい、そりゃないぜ!」
 レジーの奴あわててる。そりゃそうだ、女の子を直接攻撃するなんてあいつの主義に反するもんなぁ。アリシアもフライを一歩間違えれば地上へ真っ逆さまなのになんでまあここまで…。
「あいつはああ見えて負けず嫌いだからな」
「そうなのか? ふーん、わりと可愛いんだな…」
「そうかそうか、後でアリシア君に言っておいてやろう」
「わあっ! 何言ってるんですか先輩!」
 アリシアの乗った雪の天使像は、重くはなったものの術者との距離が近くなった分動きも素早い。それにも増してレジーの方には打つ手がない。
「こりゃ参ったな。反則ってもんだぜ」
「あら、ルールブックには載ってないわよ」
「君がそんな危険な真似をするのが反則だってのさ」
「ご心配ありがとう。でも、ここまでみたいね!」
 アリシアの剣がいきなり伸びて、ワイバーンの尻尾を切り落とす。しかしレジーも負けず嫌いでは負けない。一瞬ちっと舌打ちしたが、すぐに思い直すとワイバーンへ呪文を放った。
「トゥー・ホット!!」
「きゃっ!?」
 ちぎれかけた尻尾が水になってアリシアを襲う。一応スノーゴーレムを使った攻撃なので反則ではない。
「水で凍らせて動きを止める気だ!」
「むう、やるな!」
「フフーン」
 先輩以外の全員が身を乗り出す中、しかし水はアリシアの管轄内だった。即座に呪文の詠唱に入ると、水の固まりに手を向ける。
「クリエイト・ミスト!」
 水が霧になってあたりを覆う。しばらく視界が遮られたが、レジーが見上げる中、アリシアがゆっくりと姿を現した。
「まだ続ける?」
「やめとこう。女の子に風邪を引かせては困るしな」
「そう、ありがと」
 アリシアの頭上には残ったワイバーンがある。あれをすべて水に変えればあるいは引き分けという手もあったかもしれないが…それをする気はないらしく、レジーは手を上げて降参の意を表明した。
「勝者、アリシア・ヴィンセント!」
 会場内を割れるような拍手が包む。シンシアとラシェルも大はしゃぎだった。
「ふみゃー、すごいすごい!」
「名勝負だったね! ボクは感動したよ!!」
 アリシアとレジーが並んで歩いてくる。俺の姿を認めると、いきなりアリシアが駆け寄って手を取った。
「ねぇ、見てたルーくん? え、見とれちゃってた?」
「誰もそんなこと言ってない…」
「もう、照れ屋さんねっ」
「実はさっきルーファスがー」
「わーわーわー先輩っ!」
「え、なぁにルーくん。隠し事は良くないわよぉ〜」
「ち、ちょっとアリシアっ!」
 真琴は呆れたように横を向き、レジーも嘆息して肩をすくめるのだった。
「やれやれ、新年早々ついてない…。ま、女神に負けたならよしとするさ」

 しかしアリシアも疲れたのか、次の試合で惨敗してしまった。
「き〜〜っくやしい〜〜〜っ!」
「仕方ないよ、相手は本職の魔導士なんだし…」
「なによ、それでもあなたマスターなの!?」
「プロに勝てるなら学校やめてるって…」
「もういいわよ、ルーくんなんてっ」
 はぁ、結局こうなるのね…。ここぞとばかりにレジーが嬉しそうに寄ってくる。
「なんだルーファス、姫のご機嫌を損ねちゃいけないなぁ」
「ええいうるさい!」
「おいおい俺に当たらないでくれよ。こちとら女の子に負けた悲しい身でね…。では姫さま、賭けの代金にディナーでも献上いたしましょう」
「あら、そう? レジーくんて気がきいてるのねっ。それじゃね真琴」
「あ、ああ」
 結局そう言ってアリシアはレジーと行ってしまった…。ちくしょうレジーの馬鹿野郎、てめえなんざ破産しちまえっ!!
「ではわたしは武術大会の方を見に行ってくるが」
「あ、ボクも行きたいな!」
「俺はもう大会はいい…。少し安息がほしい…」
「それじゃシンシアおにーちゃんといるー」
「ううっ、ありがとうシンシア」
「そっか、残念だな。気が向いたら見に来てね!」
「ああ、それじゃ」
 真琴とラシェルも人混みに消える。そして残ったのはシンシアと…
「ではルーファス君、行こうか!」
「先輩、武術大会だそうですよ…。行ってみたらどうですか…」
「んー、祭りのたびにアレというのももう飽きたからな。少しは趣向を変えようじゃないか」
「ねぇおにーちゃん、おなかすいたー」
 しくしくしく…。涙も凍るような天気の中、俺たち3人は祭りの喧噪の中を歩いていくのだった。





続く



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