このSSは「Wizard's Harmony」(c)アークシステムワークスを元にした2次創作です。
雪の中街は踊る
(前)
(中)
(中の2)
(後の1)
(後の2)
「手伝い?」
何の? と聞くまでもなく、赤と白の服を着たシスティナを見ればわかる。
この地方には聖フィンノルトの伝承があり、年始めの日には赤と白に身を包んだ妖精『ユーリル』が、子供にちょっとした贈り物をしてくれると言われている。由来としては聖フィンノルトが妖精界に行ったときのこととか色々物語があるのだが、それはまた別のお話。
で、この街の教会もそれにあやかって、毎年お菓子などを子供に配ってくれている。
それにしてもユーリルにならってそりまで乗り回すとは、今年は大がかりにやってるなぁ。
「ギルドの魔術師さんたちが今日のためにと魔法のそりを貸してくださったのです。人の優しさって素晴らしいですねぇ。ああ神様…」
「そ、そう。まあ俺たちでよければ手伝うよ。なっ?」
特にソーニャへ向け必死で呼びかける俺。どうせシスティナのことだから、神の教えだのなんだのを持ち出されて結局は手伝わされるんだ。ここは渡りに船だ。
「まあわたしは構いませんけど…」
「は、はい、私もいいです。すみません…」
「なぜ謝る」
「ご、ごめんなさい…」
「(だからなぜ謝る…)」
そうすると問題は…。一同の視線が耳をほじくってる先輩へと集中する。
「新年早々いいことなんてしたくないなぁ」
「そうでしょうそうでしょう。じゃあ先輩はお帰りを」
「でもルーファスを喜ばせるのはシャクだから参加してやろう」
「ああーーっ!」
「そんな不純な動機が通ると思っているの!?」
「いえ、きっと照れ隠しなのでしょう。デイル先輩は善良な方だと私は前から信じてました!」
「うぐぐ」
システィナの言葉に邪悪な先輩はダメージを受けまくりだ。そこまでして来なくてもいいのに…。
ともかく俺たちは全員そりに乗り込むと、白く染まった道をゆっくりと滑り出した。手持ちのお菓子は配ってしまったので、まずは教会へ戻ってもう少し作りましょう、とシスティナ。
「今年は何を配ってるんだ?」
「はい、銀氷菓です」
「銀氷菓かぁ…」
氷の魔法で作る、雪の口ざわりを持ったお菓子だ。でもあれ上手く作るの難しいんだよな。
「せっかくアカデミーで勉強したのですから、魔法のお菓子がいいと思ったんです」
「ううっ、ありがとう。ウィザーズアカデミーにも存在意義があったんだ!」
「その程度で満足しないでください! まったくもう!」
「い、いいじゃないかぁ…」
ソーニャに怒られている間にそりは大通りを離れ、小ぎれいな教会の前で停止する。ここがシスティナの実家だ。部員の中では彼女だけが地元民なんだよな。
ちなみに中に入るのは初めてだ。いや、足を踏み入れたが最後入信させられそうな気がして…。
狭い中庭では煉瓦でできたかまどの上に湯が沸かされていて、その前には温和そうな神父が立っていた。むろんシスティナのお父さんだ。
「お父様、ただ今戻りました」
「やあ、お帰り。そちらの方は?」
「はい、神の教えに共感し、私たちの活動を手伝ってくださる方です」
「いや別に神の教えに共感したわけでは…」
「おお素晴らしい! あなた方のような魂清き方々こそ神の御心にかない、地上に楽園を導くのです。ああ神よ…」
「神様…」
父娘でお祈りを始めてしまった。さすがシスティナの親父さんだ…。
「ま、まあそれはともかく」
話が進まないので、ソーニャが前に進み出る。
「さっそく銀氷菓作りをお手伝いしたいんですけど。材料はそれで全部ですか?」
傍らにある木のテーブルの上には氷の種、白夜糖、ギーフィのミルク。学園の調理実習ではこんなもんだったような気がする。
「ええ、ここに全部揃っています。それではシスティナ、私は昼の説法に行ってくるから、あとは任せてもよいかね?」
「はい、お父様。行ってらっしゃいまし」
神父さんは俺たちにも後を頼むと、門から外へ出ていった。見送ってからさっそく作業に取りかかる。
まずは容器に湯を移し、白夜糖を溶かす。かき混ぜながらギーフィのミルクを加え、適当な甘さになったところで…
「タバスコ、火薬などを入れるとよいぞ」
「デイル・マースは黙ってなさいっ!」
「人がせっかく爆発的な味覚を開発してやろうというのに」
「味覚が爆発して誰が喜ぶのよ!」
「はぁ…」
喧嘩を続ける先輩とソーニャを横目に、残った3人は容器に氷の種を落として、呪文を唱え始める。『できる限り弱く』が上手く作るポイントだ。前に作ったときは魔法が強すぎてただの氷になったっけ…。
「アイス・スフィアー」
3人の詠唱が同時に終わり、テーブルの上に冷たい空気が張る。少しずつ少しずつ、氷の種の周りに結晶が生まれ始め、必死で魔力をセーブする俺の前で雪玉のように成長していく。が…
「ええいまったくソーニャは話にならん! ルーファス、お前もなんとか言え!」
「わああ! 話しかけないでくださいよっ!」
「まったく、冬祭りの時くらい遠い世界にでも行ってくれないかしら! ミュリエルもそう思うでしょう?」
「あ、あのっ」
パキーーン
「あああ割れたぁ〜! 先輩、どうしてくれるんですか!」
「ああん?」
「…いえ、何でもないです…」
結局氷の種をもう1つ入れて作り直し。気の弱いミュリエルもすっかり動転して、魔力が足りずにべちゃっとした失敗作となり作り直し。システィナだけが動じることなく、お祈りをしながら次々と銀氷菓を作り出す。さすがだ…。
「ソーニャも作れよ〜」
「わ、わかってますっ。デイル・マース、邪魔しないでよ」
「そう言われると邪魔したくなるなぁ」
「あなたって人はぁ〜!」
数十分後、材料の尽きた中庭で、不格好な銀氷菓の山を前にソーニャは呆然としていた。
「わ、わたしが失敗したわたしが失敗したわたしが…」
「わはははは。いかんなぁソーニャ君、料理は愛情なのだよ」
「あなたが横から話しかけるからでしょうがぁぁぁぁっ!」
この二人を戦力にしようというのが元から間違いだった…。それでもシスティナとミュリエルで40個ずつ、俺も30個は作ったから、100個以上の銀氷菓が皿に並んだことになる。
「皆さんありがとうございます。これで小さな天使たちにささやかなる奇跡を差し上げることができます」
「そ、それはよかった」
「ところでお腹は空いていませんか?」
「そういえば昼飯食べてなかったな」
といっても銀氷菓の失敗作がほとんど腹に収まったので、それほど減ってもないけど。
「それでは私が何か作りましょう」
「あ、そ、それじゃわたしも手伝います…」
システィナとミュリエルは教会の中に姿を消し、残った俺たちは銀氷菓を配るため5つの袋に詰めた。一度固められた銀氷菓は暖めない限り結構丈夫だ。
「しかしせっかくの祭りなのに、普通の昼食というのも物足りんな」
「それもそうですね」
「ルーファス君、屋台へ行って何か買ってきなさい」
「へい…」
「わたしも行きます。こんなところで極悪人と二人きりなんてたまったものじゃないわ」
「そうかそうか、戻ってきたら銀氷菓が全部消えてるかもな」
「やっぱり残りますっ!」
「じゃ、行ってきま〜す…」
あの二人も本当に飽きないな…。まあ、俺もいい加減慣れるべきなのか。
屋台でギーフィ肉の串焼きを買い込み、教会へ戻って遅めの昼食を取る。ちなみにシスティナが用意したのはパンとスープだけだった…。いや、出してくれたものに文句は言わないけどさ。
腹もふくれたので、さっそく銀氷菓を配ることになった。
「3班くらいに分かれようか? 大勢で連れ歩いても仕方ないし」
「そうですね。それじゃわたしとミュリエルで」
先輩とだけは組みたくないとばかりに、ソーニャが素早くパートナーを決める。どうせ俺が先輩となんだろうなぁ。
と思いきや、いきなりシスティナが先輩の腕をつかんだ。
「それでは、私がデイルさんと参りましょう」
「なぬ!? おいシスティナ君。なんでそうなるのかね?」
「神様のお導きです」
さすがのデイル先輩もあんぐりと口を開けている。俺たちも同じく、ってちょっと待て。これは…も、もしかしてチャンスなのかー!?
「よかったですね先輩! 俺なんかとより女の子の方がいいでしょう!」
「いや、ちょっと待て…」
「いい組み合わせだと思います。少しはシスティナに感化されてほしいわ」
「そ、そうですね…。いつもルーファス先輩だけ犠牲になるのも可哀想ですし…あっすみませんっ!」
「それじゃそーゆーことで!」
銀氷菓の入った袋をしっかと掴むと、脱兎のごとく逃げ出す俺。
「ルーファスゥゥゥ! 後で覚えてろぉぉぉーー!!」
後ろから先輩の呪詛が聞こえてくるが、振り返ってなんかいられない。人混みの間を縫うように走り、横道の路地裏へ息を切らせて入り込む。
や…
「(やったーーーーっ!)」
ううっ、ようやく先輩から解放された。これで俺も普通に祭りを楽しめるんだなぁ。
おっと、その前に銀氷菓を配らないとな。
「カラー・クラウド!」
赤と白の雲を作り身を覆わせて、即席ユーリルになった俺は袋を片手に中央広場の方へ歩いていった。
冬でも元気な子供たちに、30個あまりの銀氷菓は瞬く間に手渡されていった。嬉しそうにお礼を言われると、システィナの気持ちも少しはわかる気もするな。
「わーっ、ユーリルだーっ。ねね、お菓子あるっ?」
「あ、ボクもほしいなー」
「ううっ、ごめんよ。あと1つしか…ってお前らか」
広場で声をかけられ振り返ると、そこには背の低い1年生コンビ。メリッサとセシルだ。
「セ、センパイだったんですね」
「え、それってマスターの手作りー? じゃあいいや」
「お前なぁ…。大勢で作ったから、もしかするとシスティナかミュリエルのかもよ」
「じゃあちょうだいっ」
なんか頭痛がしてきた…。
「はいはい、でも1個しかないから、セシルとジャンケンな」
「え、い、いいですよボクは。もう子供じゃないし」
「なによぉー。メリッサは子供ってわけぇー?」
「そ、そうは言ってないよ」
「じゃあメリッサもいらないんだな」
「ああっウソウソ! マスター、いじわる言いっこなしっ」
結局最後の銀氷菓はメリッサの口に収まり、ちょっと羨ましそうな目で見ていたセシルは、俺の視線に気づくとごまかすように笑った。
つくづくうちのアカデミーは『足して2で割るとちょうどいい』って連中が多いなぁ…。
「で、二人で冬祭り見物か?」
「そーよっ、セシルが独り身で寂しがってるから、メリッサが付き合ってあげてるってゆーかあ」
「全然違うよっ! ボクは嫌だって言ったのに、のど自慢に出るからって無理矢理引っ張ってきたんじゃないかっ!」
「メリッサの言うことは最初から話半分で聞いてるから、そうムキになるなよ…」
「そ、そうですよね。さすがはセンパイ」
「ぶー」
そういえば毎年この広場でのど自慢やるんだよな。周りを見ると、さっきよりも人が集まってきている。
「ま、優勝はメリッサで決まりよねっ。なにしろ魔法歌使えるんだし」
「そりゃ不安だ」
「ボクもです」
「あんたたち、さっきから失礼千万ね…」
古来、歌は魔力を持つとされる。主に精神に作用して、相手の気を落ち着けたり、兵士の士気を高めたり。伝説の吟遊詩人の中には、歌だけで数万の死霊を消滅させたという人もいるほどだ。
そういえば俺も1年生の時に魔法の歌を習ったな…。人前で歌うことなんてまずないから、使ったことはないけどね。
「とにかくっ! メリッサの魔法のメロデーに街の人たちはめろめろ間違いなしよっ!」
「メリッサ〜、本当にボクも出なきゃだめ?」
「だめ。もう受け付けしちゃったも〜ん」
「まあまあ。セシルの歌なら俺も聞いてみたいよ」
「そ、そうですか? センパイそう言うならボク頑張ります!」
ううっ、どうしてこういつも嬉しいことを言ってくれるんだ。嬉しすぎてなんだか不安になってくる…のは俺の悪い癖だ。
と、時間になったらしく、広場によく通る声が響く。
「レディースアンドジェントルメーン! 冒険者の方もそうでない方も、皆様一緒に楽しんで参りましょう! 冬祭り恒例のど自慢大会、これより開始です!」
司会はイベント企画アカデミーの連中だ。さすがにこういう時は生き生きしてるな。
「それでは第一の歌い手、いってみましょう! 現れましたるは魔法学科2年、スタット・ケイラー君だぁーっ!」
そして始まる歌合戦。客を湧かせるために魔法歌を使ってよいとあって、参加者もS&Wの学生が多い。
とはいえ俺たちも魔法にはある程度の耐性がある。初歩の魔法歌程度じゃ大して効き目はないし、かといって無理に魔力を込めれば音程が外れて聞いてられない。一般人の上手な歌の方がよっぽど心に響いてくる。
「これはもうメリッサたちの楽勝って感じねっ」
「ああっもう次の次だよ。ボク、ドキドキしてきた」
「手に人って書いて飲み込むといいぞ」
ところがここで思わぬ事態が起こった。壇の上に飛び上がった司会が、ひときわ大きく声を張り上げる。
「さあさあ今日の本命、伝説の歌い手がここに登場! 我がS&Wの1年生、なななんとセイレーン族の歌姫、フィーネ・ナーレル嬢ーっ!」
壇上に上がったのはウェーブのかかった髪と透き通った翼を持つ、清楚な感じの女の子。
微笑んでお辞儀をするその姿に、会場からは歓声と、そして落胆のため息が聞こえてくる。むろん俺たちはため息の方だ。
「こ、こりゃ相手が悪いなぁ…」
「うーっ、なによっ。セイレーン連れてくるなんてずっるーい!」
海の妖精セイレーン族といえば、その歌に聴き惚れた船乗りが舵の操作を誤り船を難破させた、との言い伝えがあるほどの歌い手だ。よりによってセシルとメリッサの前なんて、こいつらもついてないな。
『さざ波 揺れる水の面に
月の光 きらめいて無限に続く…』
始まった歌に、会場どころかその周囲までしんと静まる。この世のものとは思えない綺麗な声に、広場はもちろん、近くを通りかかった馬車までその歩みを止めた。
メリッサは必死で魔法防御を張っていたが、抵抗しきれずにずるずると歌手の方へ引きずられる始末。
夢のような時間が終わると、そこに起こった拍手は街中に響かんばかりだった。
セイレーンの少女はぺこりと頭を下げ、まだ拍手が続く中を壇から降りていく。
「だからボクは嫌だったんだよーっ!」
「う、うるさいわねっ。今さら後に引けるかって感じー! マスター、応援しててねっ!」
「ああ、頑張ってこい」
で、歌手紹介の後、二人の歌が始まったけど…
「(だ、だめだぁー)」
メリッサ、強力な魔力を持つワードを無理矢理使っても、歌と合わせなけりゃ何の効果もないぞ。本人ノリノリの割に調子っ外れだし。
セシルもセシルで、照れがあるのかどうにも吹っ切れてない。ああ、また声が小さくなった。もはやメリッサの声に飲み込まれてるな。
結局いまいち盛り上がらず、まばらな拍手の中で二人はすごすごと戻ってきた。
「ううっ、どうしてみんなメリッサの美声を理解してくれないのよ!」
「だから嫌だったのに…」
「ま、まあソーニャの歌よりは良かったよ」
「? ソーニャ先輩がどうかしたんですか?」
「はうっ! ななななんでもないっ!」
こんなの本人に聞かれたら殺されるな。
「あーっ、でもくやしー! あ、そーだ。マスターが仇をとってよ」
「は!? 俺は参加登録なんかしてないぞ」
「だいじょーぶ、飛び入りも受け付けてるからっ」
「あ、ボクもセンパイの歌聞きたいです」
「ままま待て、ちょっと待てっ! 俺は歌なんて…こらメリッサー!」
「行ってきまーす!」
受付へ走っていってしまった…。しかも隣ではセシルが期待に満ちた目で俺を見ている。どうしてこうなるんだーっ!?
しかし運命の渦に流されている間に、すぐさま出番がやってきてしまった。
「さあさあ次は飛び入り参加選手! あの悪名高きウィザーズアカデミーのマスター、今日も街に騒ぎを起こすのか!? ルーファス・クローウン君ー!!」
「勝手なこと言ってやがるなぁ…」
「ま、ま、お祭りお祭り」
司会にせかされるように壇上へ押し上げられる。眼下に広がる人の波、波、波…とまで言うと大袈裟だけど、かなり多いことに違いはない。ううっ、なんでこんなに集まってるんだ。
しかし、その中に二人の後輩が、俺を信じるようにこちらを見上げている。
ええい、こうなったら仕方ない。先輩としてやるときはやらないとな。
とりあえずは1年生の時に習った歌を、記憶を頼りに歌い始める。
『アイル クラウル アイナートゥ
さあ手を叩け 笛の音に合わせて 今日は特別な日 草木も踊り出す』
歌と踊りの神、アンプの魔法歌だ。聞く者の心を軽やかにし、楽しい気分を湧き起こす効果がある。お祭りでは定番の歌で、聴衆も「なんだ、またそれか」という顔をしている気がしないでもないが、この際仕方ない。
『妖精たちが舞い来る
踊ろよ川の辺で 楽しいひとときを 続くよアンプの歌声 響く間は…』
うっ、この先が思い出せない。しょうがない、精霊の名を組み込んで適当に作ろう…。魔法歌なら呪文みたいなもんだし。
『あれに見えるはカラムの翼
沸き立つ心を羽根に変え 天を自在に駆け巡らん ファース・カラムト・アクイタス…』
勇気の精霊カラムの力により、会場も昂揚して手拍子で盛り上げてくれる。と言うか俺自身に効果がかかり、そこから先は熱狂的に手を振りながら最後まで歌い続けた。
終わった頃にはすっかりへとへとになって、よろめきながら後輩のところへ戻った。
「つ、疲れた…」
「すごいですセンパイ! さすがウィザーズアカデミーのマスター!」
「ま、まあちょっとだけ尊敬してあげようかなー、とか」
「ありがとう。でももう歌はたくさんだよ…」
その後も大会は滞りなく進み、最後に審査員の吟遊詩人がゲストとして一曲披露した。さすがに本職は上手い。吟遊詩人もこういう日はかき入れ時だから、今日もあちこちで見かけるな。
で、結果発表。優勝はやっぱりセイレーンの女の子。あとは合唱アカデミーのメンバーが賞を取り、俺も魔力賞ということで魔法のラッパをもらった。魔物が嫌う音を出せるらしい。
「うーん、ぶっつけ本番の俺がもらって良かったんだろうか」
「もちろんですよ。魔力はセンパイが一番高かったですもん」
「いいなー、メリッサなんて参加賞ののど飴なのにー」
「わかったわかった、ラッパはメリッサにやるよ」
「ほんとっ!? やったーマスター大好きっ!」
プォー! 大喜びでラッパを吹き鳴らすメリッサ。う、うるさい…。
「いいなぁ、メリッサばっかり…はっ! い、いえ何でもないです」
「…セシルにも何かおごるよ」
「あ、あのっ! ボクそんなつもりじゃっ!」
「いいっていいって、お祭りの時は先輩が後輩におごるもんだ」
と、主張していたデイル先輩は、呪いのバンダナとか黒ヤモリのカレーとか変なものばかりおごってくれたっけなぁ…。
それからはセシルとメリッサと一緒に、屋台をのぞいたり、魔物使いの芸に見入ったりと、楽しみながら時を過ごした。俺が普通に冬祭りを楽しめるなんて、一年分の運を使い果たしてる気がする。
「そういえば、そろそろ花火の時間ですね」
俺のおごったイチゴのかき氷を平らげたセシルが、空を見上げてそんなことを言う。
もうすっかり陽は落ちて、光の魔法石を使った街灯がこうこうと辺りを照らしている。いつの間にやらこんなに経ってたのか。
「たいへん、早く行かないといい場所取られちゃうわよっ!」
「うんっ!」
「お、おい、走るなっ!」
なんであいつらはまだあんなに元気なんだ…。人混みの中で必死に後を追うが、背が低いのもあってすぐ見えなくなる。
案の定、会場のスロール川原に着いた頃には完全にはぐれてしまった。まあ、しょうがない。メリッサが少し不安だけど、セシルがついてるから大丈夫だろ。
そろそろギルドの魔術師が花火の呪文を唱え始めた頃だ。俺は人混みから少し離れて、雪の残る川を眺めながらその時を待った。
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