このSSは「Wizard's Harmony」(c)アークシステムワークスを元にした2次創作です。



雪の中街は踊る (前) (中) (中の2) (後の1) (後の2)





「げ、蒼紫じゃないか」
「ほほー」
 先輩も眼鏡を直して見入っている。確かに面白いといえば面白い勝負だ。
「2人ともすごいんだよ!ボクはあっさり負けちゃったのに、本職の冒険者とか相手に勝ち進んでるんだから!」
「んー、まあ、実戦と試合は違うからね」
「けっ!きいた風なこと言ってんじゃねぇよ」
「いいじゃないかぁたまには…」
 チェスターのやつ樹の上で貧乏ゆすりしてる。さては寒いな…。
「!」
 なんの前触れもなく蒼紫が動いた。遠慮してか武器自由のこの大会で竹刀だが、それでもそのリーチは恐ろしい。ちなみに竹刀ってのは蒼紫が自分の国から持ってきた竹製の練習用のカタナなんだそうだ。え、知ってた?
「はぁッ!」
「むぅ!」
 一瞬の斬り合い。蒼紫の竹刀を紙一重でかわした真琴が、そのまま遠心力をつけて蒼紫のみぞおちに拳をたたきこむ。ガシッ!と音がして両者に衝撃がはね返るが、それは蒼紫が竹刀の柄で拳を止めた音だった。
 ザザッ!と離れて再びにらみ合う。観客たちも息をのみ、くしゃみひとつもできない雰囲気だ。
「す、すごいなぁ…」
「ラシェル、落っこちるなよ」
「ねぇねぇ、どっちが勝つかな!?」
「うーん…」
「どうだルー、賭けるか」
「あら、マコちゃんには魔法拳があるのよ」
「でも蒼紫の奴も剣を持ったら別人だぜ」
 闘技学科でありながらアカデミーで練習した魔法を応用しようとしている真琴に比べ、蒼紫はそれを邪道と思っているらしくあくまで魔法は魔法、剣は剣と分けている。魔法剣の修行中のジョルジュなんかは肩をすくめて何も言わなかったけど。
「うーむ、しかし真琴君にも先輩の意地というものがあるだろう」
「勝負に先輩も後輩もないでしょう」
「なにをゆー!貴様は先輩というものの偉大さをちっともわかっていない!」
「(一度デイル先輩のそのまた先輩と会わせてみたいよ…)」
「あ、何かしゃべってるみたいだよ!」
 ラシェルの声に、その場の全員がファー・トークを使う。魔法の波動が2人に届き、ちらりとこちらを見たがすぐに向き直った。うう、なんか悲しい。俺マスターなのに…。
「本来なら女性に武器を向けるなどあってはならぬことですが…。真琴殿、貴殿とは一度お手合わせ願いたいと思っておりました」
「それは光栄だな。なんなら竹刀などではなく真剣でもかまわんぞ」
「もう、マコちゃんたら。顔に傷でもついたらどうするのよ」
「マコちゃんはよせ!!」
「あら、聞こえてた…」
 蒼紫が渋い顔でこちらをちらりと見る。どうやら真剣勝負のお邪魔らしい。
「ここで案山子のように立っていても詮無きこと。いざ尋常に勝負!」
「いちいち断らなくてもいい。わたしはいつでも構わないぞ」
「では参る!!」
 気合いとともに蒼紫の足が踏み固められた雪を蹴る。普段の温和な姿からはなかなか想像のつかないスピードだ。
「来たれ、魔の精霊。天空に光りし始源の力よ!」
 真琴が呪文を唱えつつ真横へ走る。蒼紫も即座に間合いを詰めるが、竹刀が届く範囲に来たときには既に真琴の右手に雷の力が宿っていた。武器のリーチも魔法拳の前では無意味だ。
「昂征雷迅拳!!」
 サンダー・ブリット並の電撃が拳の形を取って蒼紫を襲う。しかし蒼紫もさるもの、一瞬息を溜めると家伝の奥義を繰り出した。
「真現流壱の形!『胡蝶』!!」
 蒼紫の体が文字通り蝶のように舞い、うなる竹刀が真琴を襲う。しかし魔法剣ないし魔法拳が呪文と違うのは、一度魔力が与えられたらしばらく持続することだ。真琴はあくまで冷静に、蒼紫の太刀筋に右手を突き出した。
「素手で受ける気か!」
「いや、そんなもんじゃねぇ!剣ごと蒼紫をぶっ飛ばす気だぜ!」
 真琴には及ばぬものの火の魔法拳を使えるチェスターが拳を握りしめる。アリシアがはっとすると、思わずファー・トークで大声で叫んだ。
「ダメよマコちゃん!手をそんなことしちゃったらあなたの趣味はどうなるの!!」
 その言葉に冷静なはずの真琴が明らかに動揺した。
 バチィッ!
 すごい音がして火花が飛ぶ。蒼紫の竹刀は一部黒く焦げ、なんとか弾くにとどまった真琴は肩で息をすると、キッとアリシアをにらみつける。
「アリシアぁ〜!貴様どっちの味方だ!」
「だぁってぇ、マコちゃんのケーキは天下一品…」
「わーわーわーわー!黙れっっ!!」
 蒼紫も憮然とした視線を樹の上の俺たちに向ける。
「皆様、これは我らの真剣勝負。つまらぬ茶々はやめていただきたい」
「んもぅ、蒼くんたら固いのね」
「ハッ、ガキだな。女にもてないぜ」
「ん〜〜〜、ギャグの通じんやつは大成せんなぁ」
「いらぬお世話です!それにルーファス殿!!」
「はいっ!」
「貴殿もマスターならなにか注意していただけぬか!!」
「はい…どうもすいません…」
 うう、観客たちもみんなこっちにらんでるみたいだ。なんで俺ばっかり…。
 そして蒼紫と真琴はふたたび対峙する。邪魔が入ってはかなわぬとばかり、蒼紫は今度は速攻で奥義を繰り出した。
「あ、あれはーーーー!」
「真現流!波衝斬!!」
 雹にやられた街を直した技だ!でもあれ、体力を無茶苦茶消耗するんじゃなかったか?
「くっ!」
 衝撃が雪面を伝わり波となって真琴を襲う。避けるには跳ぶしかない−−が、空中の真琴は蒼紫の格好の目標だった。
「真現流伍の形!『蟷螂』!!」
 竹刀が宙空を切り裂く。カマキリの鎌のように弧を描くそれは、正確に真琴の胴を狙っていた。
「ま…真琴ぉぉ!!」

「風華圏影斬!!」

 ザンッ…
 一瞬、なにが起きたか理解できなかった。それは蒼紫も同じだったろう。
 竹刀の切っ先が雪面に突き刺さる。真っ二つにされ、柄だけ残った竹刀を見つめながら、蒼紫は呆然と立ちつくしていた。
「魔法拳…ですか」
「そうだ。風のな」
 真琴の言葉にようやく俺は事情を悟る。真琴の左手に、いつの間にか風の魔力が宿っている。ストーム・エッジの応用で、蒼紫の竹刀を切り裂いたのだ。
「でもいつの間に…」
「はっ、大したタマだな。俺たちと言い合ってるときにさ」
 レジーが感心したようにあごをなでる。なるほど、そういうことか。
「卑怯だと思うか?」
 真琴が魔力を消した右手を差し出した。試合後の握手をしながら、蒼紫は目を閉じて首を振る。
「いいえ、真剣勝負の最中に隙を見せた私が悪いのです」
「うむ、実戦とはこういうものだからな。お前の腕、道場だけに留めて置くには惜しい」
「…かたじけない」
 そして広場中から先ほど同様、拍手と賞賛が巻き起こる。先輩は俺も出るんだったとぶつぶつ言っていたが、誰も賛成しなかった。一方でレジーがフッと頭を振る。
「いや戦う女性は美しいな。俺は今日またひとつの真実を手に入れたぜ」
「けっ!てめぇは女なら誰でもいいんだろうがよ」
「ま、子供にはわからんさ。なぁ1年坊」
「んだとコラァ!!」
 対するアリシアとラシェルは大はしゃぎだ。
「すごいわ、さすがマコちゃん!」
「本当だね!ボクは感動したよ!!」
「なんであいつらわざわざ技の名前叫んでたんだ?」
「何言ってんだよジャネットセンパイ!それでこそ燃えるんじゃないか!!」
「そっ…そういうもんかい?」
 蒼紫は俺たちのいる樹の上へやって来て、真琴は次の試合(もう準決勝だって)に備えるべく控え所へ向かった。あいつなら本当に優勝しかねないなぁ。うう、マスターの威厳が…。
「どうもお見苦しいところをお見せしました」
「何言ってんだ、大した試合だったじゃないか」
「つまらん、どうせなら会場を吹き飛ばすような必殺技はないのか」
「そういう思考しかできないんですか先輩…」
 と、いきなり先輩が俺にヘッドロックをかました。あわわ、お、落ちるっ!
「こんなつまらん所にはもういられん!行くぞルーファス!」
「そんなぁっ」
「ハッ、残念だなルーファス。生きてたらまた会おうぜ」
「それじゃセンパイ、またね!」
「ルーファス殿、よいお年を」
 お前らぁぁぁ〜〜〜っ!
「けっ、そんな奴の言いなりになってるお前が悪いんだよ!」
「まったくだね、もうちょっとシャキッとしなよ」
「私に釣り合うためにも頑張ってね、ルーくん」
 みんなが好き勝手言う中、突然先輩がどんと背中を押す。悲鳴を上げた俺はそのまま落っこちて、なんとかフライで軟着陸するがすぐに先輩が降ってきた。
「では行くぞルーファス、祭りもそろそろ佳境である!」
「うう…こんなんばっかり」


 何とか先輩をまくいい方法はないものか…。そうだ!
「先輩、俺教会に行ってみたいんですけど!」
「教会だぁぁ〜〜〜〜?」
「そうです!新年にあたり1年の幸せをお祈りしないと!」
 不信心が服着て歩いてる先輩には一番似合わない場所だな。我ながらいいアイデア。
「そんなもの祈りたければ俺に祈りなさい」
「1年の不幸をお祈りするなら先輩が最適でしょうけどねぇ…。とにかく俺は行きます!それじゃっ!」
「ああっこのやろっ!!」
 飛んで逃げればはたき落とされるだけなので、人混みの中を走って逃げる。当然何人かにぶつかるが、今日は祭りだ水に流してくれ。
「きゃっ」
「ごめん!本当にごめん!」
「ちょっと待ちなさいよ!こんな人混みの中で走るだなんてどういう神経してるの!?」
「ソ、ソーニャ。私は大丈夫だから…」
 え…?
 振り返るとミュリエルがソーニャに助け起こされてるところだった。そんな、俺はミュリエルを突き飛ばしてしまったのか!?(ガーン)
「あああっマスター失格だぁぁーーー!許してくれーーーっ!!」
「そ、そんな、いいんです。すみません…」
「ま、まあそこまで反省してるなら…」
 と、土下座してる俺の前にデイル先輩がゆっくりと近づいてくる。
「はっはっはっ、いかんねぇルーファス君。せいてはことをし損じるのだよ」
「ううう…これまでか」
「デイル・マース!さてはあなたのしわざだったのね!!」
 ああ…しかもこの2人が出会ってしまうなんて。年始めから本当についてない…。
「ふふんソーニャか。今年もギャーギャーやかましいな」
「なっ…」
「ソ、ソーニャ、落ち着いて…」
「ミュリエルは黙ってて!!」
「ごめんなさいっ!」
 こうなったら手がつけられないなぁ…。うーん、いっそ先輩はソーニャに任せて俺はミュリエルと退散するか?いやしかし、そんなこと許されるのだろうか、ああ。
「ちょっとマスター!聞いてるんですかっ!?」
「はいっ!」
「だいたいあなたがしっかりしてないからいけないんです!」
「よくも毎度毎度同じことを繰り返せるなぁ…」
「…あなたが毎度毎度同じことを言わせるからでしょう!?」
「あああっごめんなさいごめんなさい!ついつい口が!!」
「えと…その、あの…」
 とほほ、今年も結局こうなるのか。神様ぁ助けてください…。
 シャンシャンシャンシャン…
 と、通りの向こうから鈴の音が聞こえてくる。人々が道をあける中一台のそりが道路を滑ってきて、その上にちょこんと座ってる赤と白の服は…
「システィナ!?」
「まあ皆さん、これも神様のお導きですね。よろしかったら少し手伝っていただけませんか?」





続く



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