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○kram さん

001 鬼性の縁 (採点:7)
 リネットと次郎衛門の関係を描いて、綺麗にまとめたお話だったと思います。
 リネットってこういう性格だったのかと思ったシーンもありました。
 次郎衛門の心情の移り変わりと、帰ってこない次郎衛門を待つリネットの不安を、もっとわかりやすく、そして綿密に表現するならば、さらに深みが増したと思います。
 あと、これは完全に個人的な好みの問題なんですが、せっかく戦国時代(次郎衛門の時代)を舞台にしているのだから、もっと時代小説っぽい語り方にしても格好良かったんじゃないかなとか思いました。時代小説っぽさを出すなら、司馬さんとか池波さんとか山本さんとかの小説を読むと勉強になりますよ。…いや、まったく個人的な話なんですが(^^;)
 ラスト、箸の使い方のことでふとリネットとエディフェルを重ねて次郎衛門が涙するシーンはとても良かったです。

003 お母さんとぼく (採点:5)
 不幸系、あまり好きじゃないんです。いやこれは不幸というのかな。
 話作りも文章もしっかりしてます。ただもう話の内容がすごく嫌でした。
 もちろん作者さんも、こういう読者がいることを想定の上で書いておられるのだと思いますが。
 あと、話の終わり方がなんとなく尻切れとんぼな気がします。

004 「四か五(シカゴ)」外伝 鬼化粧(オニケショウ) (採点:9)
黒シスター服の梓萌え!
えーと、タイトルの「四か五」というのがよくわかりません。外伝と名乗った意味も。
それはさておき、とても面白かったです。エンターテイメントとして非常に完成度の高い仕上がりだと思います。いくつかの突飛な設定も、おもしろさの前におもわず納得してしまいました。
 なんというか、これと言って文句の付けようがありません。
 読みやすさ、話の構成、楽しさ、描写の的確さ。それぞれが、自然に高いレベルにあります。
 んまぁ、お話として良くできていて設定がオリジナリティあふれているために、痕二次創作でなくても成り立ちそうな話になってしまった気もしますが。
 なにはともあれ、本当に面白かったです。

005 降れや、雪 (採点:8)
 文学的な観点からすれば、間違いなく今大会で随一の作品。
 導入から結末まで、全てが美しく整えられており、その構成と表現の確かさはプロのそれとなんら変わらない。はっきりいってねたましいほどに文章が上手い。
 しかし、私はこれに満点の評価をしない。なぜならば、この作品には原作とその世界設定に対する「愛」がやや欠けているように思えるからだ。
 愛、などといういまとなってはうさんくさい言葉で正確に伝わるかどうか。つまりは、敬意、思い入れ、そういった「良いことを願う」気持ちである。
 たとえば、賢治のペットに対する見方(血の詰まったボロ雑巾)
 たとえば、初音が「末っ子」であるために抱える、下のものへの世話に対する嫌悪。
 たとえば、足立の「上等なホステス」発言。
 これらの言文は、はたして必要だったのだろうか。

 筆者は、18禁ゲーム特有の都合の良い世界観(女の子は天使のように優しくて可愛いくて面倒見がいい、など)を可能な限り排除し、リアルな視点で痕の世界を描こうとしたのだろう。そして成功した。美しいもの、心地よいもの、綺麗なもの、喜びと微笑み……世界はそれだけで満ちている訳ではないということを読者は思い知る。ユキは糞尿をまき散らし、重い病にかかり、そして死ぬ。初音は姉をなじって泣き、千鶴は世間の不潔な符丁を用いて医者と駆け引きをする。
 このような重たいテーマを扱って、破綻せず、むしろいささかの乱れも見せずに話を始め終わらせた筆者の力量には本当に感服させられる。
 しかし、読み終えた私の中に残ったのは、なんとも言いようのない気分の悪さだった。
 SSというものに対する見方は人それぞれだろう。筆者はもしかすると(しなくても)痕を深く愛していて、その発露としてこの作品を上梓したのかもしれない。
 しかし、SSとはすべからく「ファンフィクション」であるべしとする私の信条とは、この作品は相容れなかった。例えが適切かどうかはわからないが、シンデレラのお話を絵本でしか知らない子供が突然残虐な描写と展開がある原作を教えられたような、そんな居心地の悪さだ。
 何度も言おう。この作品はとてもすばらしい。ラスト数十行の完成度たるや、鳥肌が立つほどである。
 しかし、SSこんぺとは直木賞の選考会ではないのだ。

006 鬼跡 (採点:7)
 ユウラ、という名前が柳川への伏線であったとは読み終えて初めて気が付きました。鈍すぎ?(^^;)
 さて、内容ですが。話のつくりそのものは、エルクゥ版愛憎劇ともいうべきもので楽しめました。
 エルクゥを使った話、というのは、本編に対する外伝のようなもので、あらかじめ結末が読者にわかってしまっていますよね。エディフェルは殺される。リズエルもアズエルも死ぬ。ユウラもまた、はじめから最後には死ぬことがわかっているわけで。
 ですからこの場合、予定調和である死をどれだけドラマティックに描くことができるか、というところが大きなポイントになってくると思います。
 そしてこのお話ではユウラに対するアズエルの恋心が話の大きな筋ともなっていますから、そこもまた、情感を誘うしかたで描くことが要求されています。
 …そこが、ちょっと弱かったかな、という気がします。
 あと、格闘シーンの表現で「何トンもの」とか「コンマ〜タイムラグ」などなど、現代的な描写が用いられているのにもやや違和感を感じました。舞台設定に応じた効果表現をするのも、リアリティを出すための効果的な方法かと。
 でもその視点設定は独特で、書きぶりもじつに慣れていて、読みやすく楽しめる作品でした。
 冒頭でも書きましたが、柳川への伏線というのは本当に良かったです。

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