(1) (2) (3) (4) (5) (6) 一括

この作品はKONAMIの「ときめきメモリアル」「ときめきメモリアル2」「ときめきメモリアル3」「ときめきメモリアルGirl's Side」「ときめきメモリアル ドラマシリーズVol.2 彩のラブソング」を元にした二次創作です。
各作品に関するネタバレを含みます。








『もしもし。館林です』

『このSSは途中に選択肢があるけど』

『単に読む順番が変わるだけで深い意味はないから、面倒な人はそのままスクロールしてね』

『話自体は全部の選択肢を読んだっていう前提で進むよ』

『あと、はば学やひび校は週休二日じゃないけど、このお話でだけは学校休みってことにしておいてね』

『それじゃあ…』














 十月の第二土曜日。校舎へと続く道を、この日だけは種種とりどりの制服が流れていく。
 今日はきらめき高校の文化祭。伊集院家をバックに持ち、色々な意味で有名なこの私立高校のお祭りには、きらめき市のみならず他市からの生徒も訪れていた。
 そんな中、校門前で校舎を見上げる制服姿の男子生徒が三人。
「ここかよ。思ったほど大きくねーな」
「せやけどきら校の女の子といえば、めっちゃ可愛いって評判やで。いやー楽しみやなー」
「ば、バカヤロウ! お、俺はんなもん興味ねえよ!」
 赤くなっているのは鈴鹿和馬。ケラケラ笑っているのは姫条まどか。どちらもはばたき学園の二年生で、今日は電車に乗ってきらめき市まで遊びに来ていた。そしてその後ろで…
「‥‥‥」
 眠そうにしているのは葉月珪。朝寝ていたところをまどかに叩き起こされ、無理矢理ここまで連れてこられた、世にも不幸な青少年である。
「なんや、シャキっとせえや。せっかく連れてきてやったんやから」
「頼んでない…」
「今さらゴチャゴチャ言うなよ。そりゃこの女好きがなんでお前なんか誘ったのか、俺にもよくわかんねーけどよ」
「人聞きの悪いやっちゃな。そらオレかて女の子と来たかったけど、羽音ちゃんがなあ」
 その名前にぴくんと反応する珪に、にやにや笑いながらまどかは続ける。
「葉月クンに男友達がおらんて心配しとったんや。せやから今日は特別に自分をお誘い申し上げたっちゅうわけやな。ああ、オレってばなんて友達思いなんやろ」
「空野がか…。あいつ、余計なことを…」
 小声で言って、内心で溜息をつく。名前の挙がった同級生は、入学以来何かと心配してくれてくれていたが、今回ばかりは有り難くない。珪がというより、この二人にとって。
「それはお前も災難だったな…。厄介事、押しつけられて」
「なーに、オレは友情に厚い男やからな。別に自分がおったら女の子が勝手に寄ってくるからウハウハやとか、そんなことは全然考えてへんで?」
「‥‥‥」
「軽い冗談やんか…。ま、こんなとこにつっ立っててもしゃあないわ。入ろ入ろ」
 まどかに背中を押されて、校門に建てつけられたアーチをくぐる。
 今は元気なこの二人も、たぶん帰る頃には疲れ切って、こんな奴を誘ったことを後悔するだろう。
 ぼんやりとそう考えながらも、それに対して珪は何をするでもなかった。
 見上げたアーチの向こうには秋の青空。
 昨日と何も変わらない。





ミックス! 文化祭





「いらっしゃいませ」
「きらめき高校へようこそー」
 歓迎の声とともにパンフレットを手渡され、校内へと足を踏み入れる。
 渡されたのが男からだったのでがっかりしていたまどかだが、すぐに気を取り直して周囲を見回した。入ってすぐのところに実行委員のものらしいテント。『案内所』の札がかけられ、青いセーラー服の女子たちと、黒い学ラン姿の男子たちが、忙しそうに出入りしている。
「おっ! ほら見てみい。あの子なんかめっちゃええと思わん?」
「さっそくかよ。ちったあ遠慮しろっての」
「いやレベル高いってホンマ。なあ葉月?」
「さあ…」
 まどかの指した女の子は、確かに世間一般ではかなりの美少女に分類されるであろう。綺麗な長髪にヘアバンドがよく似合う。数人の生徒と何か打ち合わせをしていたが、用が済んだらしくテントを離れて歩いてくる。
「おっ、こっちに来るで! 大チャンス! ここはナンパやろ!」
「一人で行けよ…」
「ええい、ノリの悪い奴らやな。よしわかった。ここはオレがひとつ、女の子に声をかける手本っちゅうもんを見せたるわ」
 気合いを入れて断言すると、スキップ気味に少女に近づき…
「なあなあ彼女! いやー、あんまり可愛いんでつい声かけてもうたわ。どや、オレらと一緒に回らへん?」
「えっ…。ごめんなさい、一緒に回って友達に噂とかされると恥ずかしいし…」
「キビシー!」
 あっさり玉砕して、よろよろと二人の元へ戻るまどか。
「何が手本を見せてやるだよ」
「やかましいわっ。くっ、それにしてもさすがはきらめき高校や。一筋縄ではいかへんなぁ…」
 悔しがっていたまどかだが、ふと誰かの視線を感じて振り向いた。
 じっと見ていたのは先ほどの少女だ。その瞳はまどかを通り過ぎ、まっすぐ珪へと向いている。
「‥‥‥?」
「‥‥‥!」
 珪に見つめ返され、はっと頬を染めると、少女は目を逸らして駆け去っていった。
(見た? 今の…)
(ああ、あの藤崎さんが…)
 ざわめき始めるきら校生たち。実は彼女は『変わった髪型だなぁ。どうやってセットしてるんだろう。もしかして寝ぐせ? やだ、私ったら何を考えているのかしら』などというどうでもいいことを考えていたのだが、周囲を誤解させるには十分だった。
「なんでやねん! なんでお前だけがモテんねーん!」
「たまたま目が合っただけだろ…」
「やめろよみっともねえ。周りの奴が見てるじゃねーか」
 三人がぎゃあぎゃあ騒いでいたその時である。
「いやー、まさか藤崎さんがねぇ。チェックだチェック」
「ん? 誰や自分」
 馴れ馴れしく声をかけてきたのは、メモ帳を手にした男子生徒だ。
「俺はきらめき高校二年の早乙女好雄。女の子のことなら俺に任せてくれよ!」
「なんや親近感を感じるやっちゃなぁ。てか藤崎さんってさっきの子?」
「ああ、藤崎詩織ちゃん。成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗で性格もよしって、まさに完璧なきらめき高校のアイドルだぜ。その分ガードも滅茶苦茶固いってのに、そいつ何者?」
「いや、別に大した奴とちゃうで。名前も山田太郎やし」
「…葉月珪だ」
 ぶすっとして名乗る珪に、好雄は額に指を当てて記憶を探り始めた。
「葉月珪、葉月珪…。どっかで聞いた名前だなー」
「そいつモデルだからよ。雑誌か何かで見たんじゃねえ?」
「おお! 朝日奈が騒いでた奴じゃねーか。悪い、ちょーっと待っててくれよ」
 言うが早いか、携帯電話を取り出してどこかへかける好雄。
「あー、もしもし朝日奈? 校門に葉月珪が来てるぜー。いやマジで」
 電話を切って、まどかたちの方を向いてにやりと笑う。
「うちの女の子に教えてやったからさ。ここにいればすぐ来ると思うぜ」
「おお、あんたええ奴やなぁ。心の友と呼んだるわ」
「そうかい? 後悔しても知らないぜ」
 後悔…なんでやねん、とまどかが聞く前に、好雄はじゃっ!と手を挙げて去っていった。
 それと入れ替わるように、校舎の方面から誰かが土煙を上げて走ってくる。
 セミロングの活発そうな女の子、そしてその右手に引きずられている、古風なお下げの女の子。あっと言う間もなく、珪の前へと到着する。
「あーっ! 本当に葉月珪じゃん、超ラッキー!」
「‥‥‥」
「こらこら、お嬢ちゃん。ええ男ならここにもおるのに無視はないんとちゃう?」
「あっ、こっちの人たちもカッコイイ! 超ついてるぅ!」
 女の子は居ずまいを正すと、えへへと笑って自己紹介した。
「ごめんごめん。私は朝日奈夕子、ここの二年生よ。んでこっちは古式ゆかり」
「はじめまして。本日はきらめき高校においでいただき、まことにありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします〜」
 のんびりと喋ってから深々とお辞儀するお下げの少女に、釣られて和馬まで頭を下げる。
「ど、どうも、俺は鈴鹿和馬と申します…って言葉うつっちまったじゃねーか」
「オレは姫条まどか。女みたいな名前やけど、こう見えても女やねーん」
「まあ、そうなのですか。それではまどかさんとお呼びしますね」
「…なあ、オレはどう対処すればええんやろ」
「ゆかりは箱入りお嬢様なんだから、変なこと言っちゃダメだよ。それより来たばっかなんでしょ? 私たちが案内したげるからさあ、一緒に回んない?」
「ホンマ? いやそらもちろん!」
 まさに願ったりかなったり。他校の文化祭における理想的な展開に、連れの二人の肩を抱いて耳打ちするまどかである。
「どや、オレについてきて良かったやろ」
「別にお前の力じゃないだろ…」
「まあええやん。いやー、こんなカワエエ子に案内してもらえるなんて今日はええ日やで」
「もう、上手なんだからぁ。じゃあ、どこ行きたい? 結構見どころ多いから、サクッと行かないとね」
「せやなー」
 今まで持ったままだったパンフレットを広げる三人。時間が早いため、バンドコンテスト、漫才大会、宝探し大会といった大きなイベントはまだ先である。文化部の展示がよろしいですよ、とゆかりが勧めるので、まずはそちらを見ることにした。
 行き先は――

文芸部へ行く
演劇部へ行く
美術部へ行く
科学部へ行く
電脳部へ行く
吹奏楽部へ行く












文芸部

「…文芸部がいい。俺」
 静かそうだから…という理由こそ省いたものの、珍しく自分から提案する珪だが…
「おいおい〜。なんでそない地味なとこ行かなあかんねん」
「祭りに来てまで勉強したかねーよ」
「超暗いって感じ〜」
 ボロクソに言われ、無表情のまま瞳を伏せた。
「…なら、いい」
「まあ、いけませんよ皆さん」
 しかしにこにこと、微笑みながら助け船を出したのはゆかりだった。
「文芸部の方たちも一生懸命準備してきたのですから、そのような言い方はよろしくありませんねぇ」
「うっ…。そ、そりゃまあゆかりの言うとおりだけどぉ」
「せやなあ。客の入りが少ないことほど悲しいもんはあらへんし、行ってみよか?」
 文化部の部室のためだけに部室棟があるきらめき高校。文芸部室では作文の展示である。
 ぞろぞろと連れだって入った五人の前には、製本されて机に並んだ文集と、壁に貼られた原稿。そしてそれを熱心に読む男子生徒の姿があった。
「あれ、守村じゃねえか」
 部屋の静かさにさすがの和馬も小声になるが、それでも届いたらしく、振り返った守村桜弥は笑顔でこちらへ歩いてくる。
「やあ、皆さんもいらしてたんですね」
「えっ、なになに? 知り合い?」
「おお、はば学一の秀才、メガネ君やで。ノートをタダで貸してくれる神様のような奴やねん」
「姫条くん、少しは自分で勉強してください…。それよりこの部の文章は素晴らしいですよ。特に如月さんという方の作品は上手です。読んで損はありません」
 桜弥に勧められ、じゃあ一応と座って文集を読み始める。が、案の定まどか、和馬、夕子の三人はすぐに飽きてあくびを始めた。
「葉月、そろそろ次行かへん?」
「…読んでる。まだ」
「配ってるみたいやから一冊もらったらええやん。他にも見るとこあるねんし。な」
「…わかった」
 渋々席を立って、受付の文芸部員から文集を受け取る珪。その間に、和馬は桜弥を誘ってみた。
「守村、一人で来たのか? 俺たちと一緒に回らねえ?」
「そうですね。僕はこれから環境問題の研究発表を見に行って自然と人間の共生について考えようと思っていたんですが、皆さんは?」
「は、ははははー! や、やっぱ邪魔しちゃ悪いから遠慮するぜ」
「そうですか? 残念です…」
 ぼーっと文集を見ていたゆかりは夕子が立ち上がらせて、一同は部室を後にする。
 …のだが、幽霊のように後をついていくだけの珪の姿に、桜弥の口から声がこぼれた。
「あ…、葉月くん」
「…ん?」
「…いえ…。楽しい文化祭になるといいですね」
「…ああ」
 かすかに翳った表情を隠して、珪はまどかたちの後を追うのだった。


演劇部へ行く
美術部へ行く
科学部へ行く
電脳部へ行く
吹奏楽部へ行く

見終わった












演劇部

「おっ、九伊豆戦隊カルトマンだって! こいつぁ見なくちゃいけねえぜ!」
 パンフレットを見て歓喜の声を上げた和馬を待っていたのは、まどかと珪の冷ややかな視線である。
「…自分、いくつやねん」
「ガキ…」
「な、な、なんだよ。い、いいじゃねえかよ、正義のヒーローは男の憧れなんだよ!」
「うーん、まあうちの演劇部ってけっこう派手だし、とりあえず行ってみよっか?」
「そうですね、まいりましょう〜」
 そんなわけで会場の体育館へとやって来た一同。開演まで少し時間があるので、その辺りで時間を潰そうとしたのだが…
「あれ、如月さんじゃん」
「それと、演劇部の部長さんですねぇ。なにか、お困りのようですよ」
 体育館横の裏口の近くで、眼鏡の女生徒とTシャツ姿の男子生徒が深刻な顔で話している。文芸部の如月未緒さんです、とゆかりが珪たちに説明している間に、夕子が声をかけていた。
「やっほー、如月さん」
「あっ。こんにちは朝日奈さん。他校の方の案内ですか?」
「まあねー。そっちは演劇部の手伝い?」
「ええ、脚本で少しお手伝いしたのですが、少々困ったことが…」
「実は戦闘員役の奴が、今日になって熱を出して休んでしまったんだよ」
 と、演劇部の部長が困り顔で言葉を引き継ぐ。
「そら難儀やな。せやけど戦闘員くらい誰でもできるんちゃうん?」
「まあ台詞は少ないけどね。ただ爆発で吹っ飛んだりするから、運動神経のいい人でないと。うちの部は人数ぎりぎりだし、知り合いもみんな忙しいしなぁ」
「すみません、私の体さえ丈夫だったら…。ああっ、めまいが…」
「わーっ! き、如月くんっ!」
 よろける未緒を部長が支えている間に、夕子とまどかが肘で和馬の脇腹をつつく。
「だってさ、鈴鹿くん」
「せ、戦闘員かよ。悪の味方ってのはちと…」
「アホ、女の子が困ってるのに助けん奴があるかい。それでも男か?」
「じゃあてめえがやれよ!」
「いやー残念やなぁ。オレの身長やったらたぶん衣装合わへんしー」
 調子よく逃げるまどかに悔しそうな顔の和馬だが、確かにこのまま見捨てては寝覚めが悪い。
「いいぜ。運動神経には自信があるし、俺でよければやってやるよ」
「ほ、本当かい! いやあ、助かるよ。すまないが如月くん、あとは頼んでいいかい?」
「はい、わかりました」
 他の準備でてんやわんやらしく、部長は転がるように体育館の中へ入っていった。
「それでは、衣装がありますのでこちらへ…」

 体育館の男子更衣室から出てきた和馬を待っていたのは、案の定爆笑の渦だった。
「あはははは! 超似合うー!」
「い、いやとっても素敵やん? 近未来和馬!っちゅう感じやで。うくく…」
「まるで煙突のようですねぇ」
「だーっ、うるせえうるせえ! 劇なんだから仕方ねえだろ!」
 とはいえ灰色の戦闘員服は正直言ってカッコ悪い。本番ではお面をかぶるので、顔が見えないのが救いではあるが…。
「……」
「ああっ、何だよ葉月! あからさまに笑いをこらえてるのもそれはそれでムカつくんだよ!」
「そ、それより時間がありません。台詞は2種類なので、さっき渡した台本通りにお願いしますね。いきます、『幼稚園のバスを襲い、我が幻魔帝国ナゾラーの戦闘員にするのだ』」
「なにぃ! いくら悪の組織でもやっていいことと悪いことがあんだろ!」
「‥‥‥」
「…悪い。『ナゾー』」
「カルトマン登場の後、カルトピンクの攻撃です。『100枚の色紙の99枚目の紙の色は何?』」
「え? うーむ…わ、わかんねえ」
「‥‥‥」
「え、ええと。『ナゾッ?ナゾッ?ナゾッ?』」
「爆発エフェクト」
「『ナゾー』」
 本人は吹っ飛んだつもりらしいが、他人の目からはカエルが跳ねたようにしか見えなかった。
 しかしあくまで臨時の代理。贅沢は言ってられませんね…と未緒が諦めかけたその時である。
「なってませんわね!」
 突如その場に響く声。見ればもえぎの高校の制服に身を包んだ背の高い美少女が、見下したような視線を向けている。
「あなた、それで演技のおつもり? まったく保育園のお遊戯以下ね。お猿さんだってもう少しましな演技をしましてよ」
「な、なんだといきなり出てきてこの野郎!」
 あんまりな物言いにさすがに切れる和馬だが、その女生徒の後ろからもう一人姿を現す。
「ごめんねぇ。万里ちゃんのこと悪く思わないでね」
 三つ編みを輪っかにして下げ、眼鏡をかけた女の子がすまなそうにそう言った。
「万里ちゃんはちょっと口が悪いけど、態度もでかくて偉そうなんだよ」
「フォローになってませんわよ理佳…」
「万里…? ま、まさかあなたはもえぎの高校の演劇マスター。女優と映画監督の両親を持つ、演劇界のサラブレッドこと御田万里さん! ああっ感動でめまいが」
「わああ! しっかりせえや!」
「少しは物を知っている方がいらっしゃったようね。どう、私の偉大さがおわかり?」
「全然わかんねーよ。そこまで言うならてめえがやってみろっての」
「はぁ…、仕方ありませんわねぇ」
 肩をすくめて大げさに溜息をつくと、万里は手のひらを上にして未緒へと向けた。
「そこのあなた、先ほどの台詞をもう一度おっしゃい」
「え? は、はい、『幼稚園のバスを襲い、我が幻魔帝国ナゾラーの戦闘員にするのだ』」
 その瞬間! 優美な女子高生のイメージは消え、万里は右手をぴんと挙げて高らかに叫ぶ。
「『ナゾー!』」
「え!?」
 ごしごしと目をこする和馬。
(い、衣装も着てねえのに本物の戦闘員かと思っちまったぜ…。俺の目がどうかしちまったのか?)
「『100枚の色紙の99枚目の紙の色は何?』」
「『ナゾッ?ナゾッ?ナゾッ? …ナゾーーッ!!』」
 大げさに吹っ飛ぶ万里。しかしそれはまさしく和馬が子供の頃に見た光景だった。圧倒的な存在感で、戦隊物の戦闘員がそこに表現されていたのだ…。
 ぽかんと口を開けていた和馬は、不意に地面へ両手をつく。
「あ、あんたすげえよ! ぜひ俺を弟子にしてくれ!」
「ウフフ、よろしいですわよ。でも演技の道は厳しくってよ!」
「あのー、開演まであと5分なんですけど…」
 かくして演技の真髄を叩き込まれ、身も心も戦闘員になって舞台へと立った和馬!
 しかし爆発の時に吹っ飛びすぎて客席に落下してしまい、後で万里にこってりと絞られたのだった…。

文芸部へ行く

美術部へ行く
科学部へ行く
電脳部へ行く
吹奏楽部へ行く

見終わった












美術部

「おお! 美術部はヌードデッサンやて!? こら見に行かなあかんがな!」
 パンフを見てついつい本音を漏らしたまどかは、代償として周囲の冷たい視線を浴びた。
「超さいてー…」
「ち、ちゃうねんで? あくまでオレは芸術的見地から深い興味を持っただけであって、決していやらしい気持ちとかそういうわけでは…」
「ふーん」
「ほ、ほらこいつらも行きたい言うとるし! 勘弁したってや!」
「言ってない…」
「お、俺はそんなの見たかねえよ!」
「いやまったく、素直になれんお年頃やなあ。ほな行こ行こー」
 強引に向かった美術部部室には、出し物が出し物なだけに黒山の人だかりができている。
「おおっ、この向こうには夢の楽園がー!」
 その人だかりのほとんどが女生徒であることに、少し注意すれば気づいただろう。しかし浮かれていたまどかはそのまま突入し、その向こうには――
「アッハハ! このポーズだよ。ボクはこのポーズがいいんだ」
「ビューティフル、とっても美しいわ! じゃあそのまま動かないでね」
 ……上半身裸の三原色がいた。
「何しとんねんお前はぁぁぁああ!!」
「やあ君たち。居たね?」
「あら、朝日奈さんに古式さんじゃない。ハロー、こんにちは」
「片桐さん、ごきげんよう〜」
「っていうか、美術部何してんの?」
 困惑顔の夕子に、後ろ髪を頭上で無理矢理しばった、変な髪型の美術部員は陽気に笑う。
「それがねえ。肌色の全身タイツでごまかすつもりだったんだけど、その人が『駄目だよ、そんなのは美しくない!』とか言ってきてモデルまで引き受けてくれたのよ。イットワズセーブド、とっても助かっちゃった」
「そ、そう。でもちょろっと恥ずかしいっていうかぁ」
「夕子さん? 先ほどから何をちらちらと横目で見てらっしゃるのですか?」
「い、いいじゃん別にー!」
 一方、下半身にはギリシア彫刻のように布を巻いただけの色に、まどかも和馬も頭を抱える。
「やめろよな頼むから。はば学の恥だぜ」
「うん、キミが恥ずかしがる気持ちはわかる。ボクの美しさを前にして自らの小ささに恥じ入るのは無理ないよ。でも大丈夫、美しくないキミにだって何がしかの存在価値はあるさ! 良かったね!」
「離せ姫条! こいつだけは一発殴らなきゃ気がすまねえ!」
「落ち着け! 気持ちはよーくわかるけど落ち着け!」
「ソーファン! とっても面白い人ね」
「いや、面白いですむ話とちゃうやろ…」
 ちなみに珪は、色の姿を見た途端にさっさとその場から逃げ去っていた。

文芸部へ行く
演劇部へ行く

科学部へ行く
電脳部へ行く
吹奏楽部へ行く

見終わった












吹奏楽部

 チャルメラの演奏をするというので、面白半分に聞きに来た一同だが…
「あかん!」
 屋外ステージへとやって来た途端、まどかが反射的に後ずさりした。
「まあ、どうなさったのですか?」
「そうだぜ、とっとと行こうぜ」
「いや、ホンマにあかんて。ほら、アレやアレ」
「何だよ一体…。げ!」
 言われた方向へ目を向けた和馬も、同様に首をすくめる。はばたき学園の冷血教師こと氷室零一が、腕組みをして開演を待っていたのだ。
「なになに、どーしたの?」
「いや、うちの先公がおんねん。えらい厳しくてなぁ、オレらを目の敵にしてるやな奴やわ」
「あーわかるわかる。そういう先生っているよねぇ。融通が利かないっていうかぁ」
「そうですねぇ。夕子さんが五日連続で遅刻しただけでひどくお怒りでしたしねぇ」
「…オレかてそこまで遅刻はせんで…」
「あ、あははは。まあ細かいことはいいじゃん、忘れよ忘れよ。じゃあここはやめといて他行く?」
「せやなぁ」

文芸部へ行く
演劇部へ行く
美術部へ行く
科学部へ行く
電脳部へ行く


見終わった












科学部

「え…。科学部行くの?」
 レーザーアートショー、という派手そうな演目がパンフレットには載っているにも関わらず、気乗りしなさそうな夕子である。
「なんや、なんか科学部にマズいことでもあるん?」
「って言うかぁ、紐緒さんっていう超怪しい人が一人でやってるのよ。まともな部員はみんな辞めちゃったらしいし、変な実験とかしてそうなのよねぇ…」
「まあそれはそれで面白そうやん。行ってみたらわかるやろ」
 しかし科学部部室へ来たまどか達は、入口で白衣の女の子に追い返されてしまった。
「残念だが準備に少し時間がかかるのだ。午後に屋上へ来るとよいのだ」
「あらら。って屋上でレーザーアートショーかいな」
「ふっ、それは実行委員会を欺くための偽の演目なのだ。実際は戦闘ロボットの展示だから、楽しみにしているのだぞ」
「へえ、そりゃすげーな」
「せやけどせっかく来たんやし、名前と電話番号教えてや〜」
「な、なんだ貴様!? 咲之進を呼ぶぞ無礼者ーっ!」
「メイ、そんな愚民は相手にしなくていいわ。さっさとこちらを手伝いなさい」
 不意に部室の中から聞こえる声。その冷たい響きに、白衣の少女は弾かれたように硬直する。
「は、はいなのだ。すぐ行きますのだ」
「あら?」
 そこでゆかりが、今頃になって相手の顔に気づいた。
「まあ、メイさんではありませんか」
「げげっ古式ゆかり! な、なんで貴様がここにおるのだ!」
「はあ、ここは私の学校ですので。メイさんこそどうなさったのですか?」
「め、メイは閣下の手伝いなのだ。お兄様には内緒だぞっ」
「そうなのですか? レイさんもお喜びになると思うのですけどねぇ…」
 ゆかりが首を傾げてゆっくり喋っている間に、メイは部室に入って扉を閉めてしまった。
「ゆかり、知り合い?」
「はい、伊集院さんの妹さんですよ」
「へー、あれが伊集院くんのねぇ…」
 ここにいても仕方がないので一同はその場を去り、後には人の寄りつかない科学部室が残った。
「この組立が終われば屋上へ運ぶだけね。少し人手が必要かしら」
「それなら、後で蒼樹でも呼んできますのだ」

文芸部へ行く
演劇部へ行く
美術部へ行く

電脳部へ行く
吹奏楽部へ行く

見終わった












電脳部

「やっぱゲームやろー!」
「うんうん、超賛成って感じ」
「よっしゃ、腕が鳴るぜ」
 盛り上がる三人が早足で廊下を行くので、ついていくのに一苦労の珪とゆかりである。
 はたしてコンピューターの並んだ電脳部部室では、『ツインビータイムアタック』の公開中であった。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」
「やっほー、千晴君。これ電脳部が作ったの? 超すごいじゃん」
「あっ、朝日奈さん。ありがとうございます、みんなで頑張りました」
 千晴、と呼ばれた電脳部員が、少し誇らしげに笑みを見せる。実際ディスプレイに映る画面は、プロ顔負けの作り込みだ。
「ゲームはタイムアタックです。三時の時点で最高記録の方は、部室に転がっていたスーパーカセットビジョンが商品として進呈されます」
「い、いらんわ…。けどまあ、いっちょやったるか」
 前方の黒板には現在の最高記録として、『3分30秒46 赤井ほむらさん(ひびきの高校)』と書かれている。とりあえずはそれを目標に、キーボードを叩き始める。
 そして珪だけはそれに加わるでもなく、少し離れた場所でぽつねんと画面を見ている。
「ええと…。その制服は、はばたき学園の方ですか?」
 そんな珪が気になったのだろうか。おずおずと話しかけたのは千晴だった。
「ああ…。よく知ってるな、うちの制服なんて」
 女子の制服ならともかく、隣の市の男子の制服なんてまどかでも知らないだろう。感心する珪だが、千晴は笑って種明かしする。
「実は僕、はばたき市に住んでいるんです。ここへは電車で通っています」
「そうか。…海外生まれか?」
「はい。あっ! 僕の日本語おかしいですか?」
「いや、十分だと思う…。俺もドイツにいた時があるから、何となくわかった」
「そうなんですか! 僕はアメリカです。ああ、なんだか心強いです」
 などと珍しく珪が他人と会話している最中、ゲーマーたちは襲い来る敵を前に大騒ぎである。
「ラッキー、分身ゲット! やっぱ分身ツイン砲よね!」
「ほんならオレはバリア3ウェイで…ってないやん!」
「けっ、パワーアップなんかいらねえ! 通常弾で十分だぜ」
「あら? もう終わってしまいました」
 そして計5回に渡るタイムアタックの結果――
 3分16秒のタイムを出し、勝負を制したのは夕子であった。
「へっへーん。ま、こんなもんよね」
「とほほ〜、クリアすらできへんかったわ。夕子ちゃん上手すぎや」
「ああ、ちと調子が出なかったぜ…」
「皆さんお上手ですねえ〜」
 新記録ということで黒板にあった数字を消して、夕子の記録を書き込む電脳部員。しかしその天下は一分と続かなかった。
「1分52秒03!」
 その声に振り向く一同。
「嘘っ! そんなタイム出るの!?」
 夕子の名前は消され、新しいタイムとともに『矢部卓男くん(もえぎの高校)』と名前が書かれる。その当人…眼鏡をかけた小太りの男は、得意げに鼻の下をこすった。
「へへへ…。悪いね君たち、スーパーカセットビジョンはボクのものさ〜」
「ううー。別に欲しくはないけど、超悔しいって感じ。こうなったら私が勝てるまで勝負よ!」
「ま、まあまあ夕子ちゃん。そこまで熱くならんでもええやん」
「はっはっはっ、そうですよお嬢さん。ゲームで矢部じゃあ相手が悪い」
「相手が悪いというか、タチが悪いというか…」
 そう言って矢部の隣から立ち上がったのは、連れらしい二人の男子。納得いかない夕子は、口をとがらせ槍先を向ける。
「あによぉ。あたしの腕が悪いって言いたいわけ?」
「と、とんでもありません。おい、失礼なことを言うんじゃない」
「白鳥が言ったんだろ…。うーん例えば、君たちってゲーセンはどれくらい行く?」
「あたし? そりゃもう、しょっちゅう行ってるわよ」
「俺だって気晴らしはいつもゲーセンだぜ」
「じゃあ、矢部」
「まあゲーセンは毎日通ってるね。本当に欲しいものは基盤買うけどね〜。家庭用機のソフトと合わせれば1000本は下らないかな。休みの日はほとんどゲームやってるし。模型作ってる時以外は」
「…負けたぜ…。ここまですげえ奴がいるとはな」
「うん、超敗北って感じ…」
「いや、自慢できることなんか? それ…」
 まどかが引きつった顔で突っ込みを入れる一方で、後ろでは千晴が勝手に感激していた。
「なるほど、あれがOTAKUなんですね! 日本文化って素晴らしいです」
「…日本文化じゃない…」

文芸部へ行く
演劇部へ行く
美術部へ行く
科学部へ行く

吹奏楽部へ行く

見終わった














*    *    *


「じゃあ次はぁ」
「あの〜、夕子さん」
 いったん外に出てきた夕子たちだが、校舎の時計を見たゆかりがのんびりと言う。
「そろそろ教室に戻りませんと、皆さんに怒られるのではないでしょうか」
「え? ああっ、超ヤバ! 急いで戻らなくちゃ」
「なんや、用事あるんか? せっかく仲良くなれたのになぁ」
「うーん、クラスの出し物の当番なのよ。私も残念なんだけどぉ」
「そうですねぇ。それに午後は」
「あ、そうそう。午後は私たちって漫才大会に出るのよ。絶対見に来てよね!」
「……。いいな、見に行く」
 不意にぼそりと言う珪に、一瞬周囲が沈黙した後、夕子は目をぱちくりする。
「そういや葉月くんもいたんだっけ」
「‥‥‥」
「ご、ごっめーん。なんか意外と影薄いんだもん」
「いやーすまんなぁ。次会う時までにちっとは笑いを取れるよう再教育しとくわ」
「大きなお世話だ…」
「あははは。それじゃあまったねー!」
「ごきげんよう〜」
 かくして来たときと同様に、夕子とゆかりは台風のように去っていったのだった。

 手を振って見送っていたまどかだが、二人の姿が消えると、腕組みしてうんうんとうなずき始める。
「いやー、やっぱ女の子はエエなあ。お前らも可愛い子と遊ぶ楽しさっちゅーもんが理解できたやろ」
「まあ楽しかったっちゃ楽しかったけどよ。やっぱ女ってうるせーよな。後は俺たちだけで回らねえ?」
「同感…」
「あ、あのなぁ…。お前らそれでも健康な男子高校生か!? オレはもう呆れてものも言えんわ」
「すぐ女、女言うお前の方がおかしいんだよ!」
 不毛な言い合いが開始され…その間にも、大勢の生徒たちが通り過ぎる。きら校生徒やその家族。あるいは喋りながら歩いている、二人組の他校生などが。
「うーん、なかなかええ男はつかまらんもんやな」
「ち、ちとせ〜。もういいから二人で回ろうよ〜」
「何言うてんねん、あんたそれでも健康な女子高生か? 他校の文化祭に来ておいて、ときめく出会いを求めんでどないすんねん」
「でも〜」
「おおっ、関西弁やん!」
 まどかが思わず上げた声に、そのヘアバンドの少女が顔を向ける。
「おっ、あんたも関西なん? こないな所で聞けるなんて嬉しいわ」
「ああ、オレは大阪やねん。いやー、なんかこう運命ってもんを感じるで。関西人は互いに引かれ合うっちゅう奴やな」
「あはは。なんやそれ、ナンパなん? おっかしー」
 手を叩いて笑う少女は、相沢ちとせと自己紹介した。連れの女の子は牧原優紀子。二人とも二年生で、もえぎの市から遊びに来たらしい。
「オレは姫条、そいつらは鈴鹿と葉月や。さて紹介も済んだところで、一緒にアバンチュールといきたいなぁ」
「ええけど、アバンチュールなら五人は多いんとちゃうん?」
「おっ、それもそうやな。オレもそろそろ少人数が恋しくなってたとこや」
「二人とか?」
「二人とか!」
「え?」
「え?」
 勝手に進んでいる話に、和馬と優紀子がついていけずにきょろきょろしている間に、まどかはポンと友人たちの肩に手を置いた。
「っちゅーわけで、お前らに修行の機会をやったる。協力してしっかり優紀子ちゃんをエスコートせえや」
「ち、ちょっと待て…」
「ほなちとせちゃん、行こか。楽しい文化祭デートの始まりやで〜」
「あはは、待ってぇな。それじゃあゆっこ、頑張りやー」
「ち、ちとせ〜! かずみちゃんももうすぐ来るんだよー!?」
「わかっとるって、11時半に校門で待ち合わせやろ? それまでさいなら」
「ちとせぇ〜」
 優紀子の哀願も届かず、ちとせとまどかは二人で人混みの中に消えていった。
 ひゅぅぅぅ…と北風の吹く中、取り残される和馬と優紀子。眠そうな珪。
(な、なんだってこんなことに…)
 ちらりと横を見れば、名前以外は何も知らない気の弱そうな女の子。別に意識しなければ良いのだけれど…。まどかがエスコートだの何だの言い残していったせいで、無駄に緊張する和馬である。
「と…とりあえずどこ行きたいんだよ」
「え、えっと。わ、わたしはどこでも…」
「んっだよハッキリしねえなぁ! そういうのが一番イラつくんだよ!」
「そ、そんな…。うぅ…」
「な、なんだよ泣くこたぁねえだろ!? わ、悪かったよちくしょう!」
 本人は謝っているつもりなのだが、端から見れば怒鳴っているとしか見えない。実際通りすがりの生徒たちが、眉をひそめて和馬を見ている。
「ひっどーい、女の子をいじめてるわ」(ひそひそ)
「あれってはばたき学園の制服じゃない?」(ひそひそ)
(うわぁぁあ…。そ、そうだ葉月! こいつなら俺よりは女に慣れて…)
「…眠い…」
(ああっ駄目だ全然役に立ちそうにねえ! 一体どうすりゃいいんだあ!?)





<つづく>



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