○PFR さん
- 01 スノーボールに込めて (採点:4)
- 目を見張るような緻密さがあるわけでなく、琴線に触れるフレーズがあるわけでもなく、単に定型にはまっているだけなので、実のところさほど面白みがありません。何処かで緩急を付けたり、読者の期待を良い方向へ逸らすような描写や展開が必要だったでしょう。
偉そうな物言いになりますが、安定と退屈とは表裏一体の同一物であるということは意識しておいたほうがよろしいかと思います。
- 02 上昇気流☆ラブラブHearts (採点:7)
- タイトルは正直どうかと思いますが、中身のほうは、適度に壊れたキャラたちが織り成す珍道中がかなり面白かったです。
最後をシリアスで締めたら低評価へまっしぐらだったのですが、祐一は期待を裏切らずに宙を舞ってくれました(笑)。
- 03 ふたつのクリスマスソング (採点:4)
- 定番のネタですが、視点を変化させたり結末を敢えて書かなかったりなどすることによって、割と面白いものに仕上がっていたと思います。しかし、割と面白いという以上のものではないかな、という感じでもあります。
それと採点には影響していませんが、「皆が頑張ってるのに、ひとりだけ楽していたら悪い」というのはどうだろうと思わないでもありません。名雪は名雪で祐一とは別の形での努力とその結果が評価されたのであり、勉強しなかったとしても楽しているわけでは決してないはずです。とすれば名雪の気持ちは自分でどう思っているかにかかわらず偽善的ですし、祐一にとっても素直に受け入れられるものではないでしょう。
- 04 教えてあげません♪ (採点:5)
- 逆に間隙を突く結果となったのだと思いますが、奇抜なネタが横行する場において、秋子さんのジャムネタというのは、妙に新鮮に見えました。
なかなか面白かったです。
- 05 あほ (採点:2)
- 檸檬が出てきたところで、なるほど梶井か! と超納得したんですが、肩透かしされてしまいました。
- 06 この箱庭に雪は降り積む (採点:6)
- 描写だけしても、だからどうしたってことにしか普通はなりません。が、今回の場合、オーソドックスでありながら時折変則的にリズムを崩してくる文章と、細部に対する並大抵ではない洞察力や執着心とが、独特な魅力を生み出していることもまた否定できません。この方向性をもっと徹底すれば、それはそれで名作になりえたかもしれないなどと思います。
とりあえず決定的に足りないと思えるのは滑らかさ。一人称の内省であるにもかかわらず場面が奇妙にぶつ切りになっていて、それが意図的なものであり何らかの効果を生み出しているのならいいのでしょうが、普通に失敗しているだけのように感じられます。
- 07 諸人こぞりて (採点:3)
- 秋子さんの葬式の帰り道であることがわかる辺りまでの導入部分は、手放しで称賛してもいい出来です。しかしそれ以降の名雪の心情変化は性急にすぎますし、名雪って「わたし、祐一のことが好きです」なんて堂々と言うようなキャラだっけという疑問は名雪観の違いということで棚上げすると仮にしても、「きっとわたし一人じゃ、何もできなかった」と名雪自ら述べる葬式の直後に色恋沙汰に持っていくのは、かなり不自然に思います。というかそもそも、同居するという結論自体、どうかなあと思わざるをえない感じです。その辺りの説明や描写をしっかりと積み上げることが出来ていればいいのですが、この容量ではそれも不可能。結果、納得しかねる箇所が山積みになってしまっていると言わざるをえません。
- 08 琥珀色の幸せ (採点:9)
- このSSに限ったことではありませんが、秋子の独白で、夫に対する呼称が「あなた」だったり、夫への言葉使いが無条件で丁寧語だったりするのを見ると、なんかあまりにもテンプレ化された「妻」のイメージに囚われすぎていないかと考えます。意外性を狙えばそれでいいというわけではありませんが、だからといって疑いを差し挟むことすらせず通俗的概念に屈するのが良いこととは思いません。その意味で、このSSで表現される秋子の夫への思いや背景に垣間見える夫婦関係は、あまりにも定型的で読者の予測の範囲内に行儀よく収まりすぎているように感じられました。
それと、名雪に語らせすぎです。まあ酒に酔っているってことなんでしょうが、こんな気恥ずかしいこと身内に対して言うとは、たとえ実際にそう思っているのだとしても、考えにくい気がします。あからさまに不自然です。またストレートに語りすぎるのは小説としても高等とは言いがたく、早い話、もう少し行間で語ってくださいということです。
あと、名雪の出現について。冒頭の「私は、一人、お酒を飲む。」という一文によって定められた、SS全体を規定するフレームがあっさり壊されて、嫌な方向に読者の予想を裏切った感じです。名雪の前では明かさないような秘められた思いを読めるのだろうと期待していただけに。また、前半は、母としての名雪への愛情と、妻としての夫への愛情とが上手く両立していたのですが、実在の名雪の出現によってそのバランスが崩れて、後半はどっちつかず、或いは前者のみが強調される結果になってしまっています。登場させないほうがよかったとは言いませんが、もう少し上手い処理の仕方はなかったのだろうかと考えてしまいます。
高く評価していることは点数からわかっていただけると思うので、悪いと感じた点を述べてみました。
- 09 Actually (採点:5)
- 文体はとても好きですが、全体としては、面白みに欠けるシーンを三つ見せられた、という以上のものではありませんでした。文章のみで魅せることは不可能ではないですが、やはり文章を汲み上げる源泉としての魅力的な物語は欲しいと思います。
- 10 透明 (採点:6)
- 下手というわけではないですが、香里のキャラクターが栞シナリオ後とは思えないきつさで、なんとなく読んでいて精神的につらかったというのがまずあります。ただ言葉使いには巧み以上の何か独特なものがあって、それが、物語の一部として楽しめるかは別として、読んでいて面白いです。また、キャラクターの不整合は上記のとおり感じたのですが、それでも香里の心象をよく描けていることに代わりはないかなと思いました。全体的には、結構好きです。
- 11 白い街に暮らすもの (採点:3)
- 言語感覚自体は良いと思うのです。特に最初の一文。
ただやはり、詩なのか小説なのかよくわからない形式も、各シナリオの重要人物による独白を羅列した構成も、熟考された末の選択とは思えませんでした。特殊な書き方をしている割には、それを突き詰めることによって凄みを生み出すことがまったくできておらず、単に読みにくいだけになってしまっている気がします。
- 12 シュガークラフトの朝 (採点:5)
- 原作の隙間を描いているのみで、特に目新しい視点や表現や構成がないので、嫌な言い方をすれば読んでも得るものがないです。全体的に悪くはないし、タイトルはむしろ好きだったりはしますが。
- 13 一月の路上に捨てる。 (採点:8)
- 八月じゃなくて一月ですか。ボクのこと忘れてくださいって言われて本当に忘れちゃった話、でいいんだと思いますが、かなり上手く仕上がっています。
ただ、夢にあゆの姿を見る、というのがありがちかなと感じます。むしろ視界をうろつく影のほうが不穏さが出ていていいと思うのですよね。こちらをもっと細密に書いて欲しかったです。また、「楽しい」と連呼したり、楽しい出来事を羅列したりと、楽しさを表現するにあたって深みのない直截的な物言いが多すぎるため、全体的に安直で安っぽく感じられます。もっと描写を尽くして、より深い意味での楽しさと、それを内側から蝕む名状しがたい不安とを表現できれば、更によくなったと思います。
- 14 こんな暑い日には (採点:4)
- 特に文句を述べる点のないほのぼのとした話でした。オチも効いています。
ところで子が自らと同じように成長すると信じて疑わない大人ほどうざいものはこの世に存在しないと言っても過言ではないですが、それは採点には影響していません。
- 15 相沢祐一最大の危機 (採点:6)
- 阿呆一辺倒の祐一と北川、水瀬家の惨状(笑)、そして取ってつけたようなラブコメ。正直言ってかなり笑いました。最後に安いラブコメが入るのがポイント高いですね。そうでなければありがちとは言わないまでも、珍しくはないギャグSSになってしまうので。
ただ、オチでは多少パワーが下がったかもしれません。
- 16 プラネタリウムの夜 (採点:7)
- テンプレ気味。あざとい。しかし、全体としては良いSSだったと思います。ノスタルジーをかきたてるような柔らかで物悲しい文章がしっかりと効果を発揮していると同時に、時折挟まれるユーモラスな描写が物語に上手く緩急をつけていて、確かな文章力を感じます。
ただ、文末の用言を終止形以外にするのはさすがにもう少し自制したほうがよいのではないかと思います。用いるべきところで用いれば効果的なのでしょうが、日常的に使うような表現では少なくともないはずです。
- 17 暖かな夜、寂しい女の子 (採点:6)
- このSS全体が、ありえたかもしれない未来を含意しているわけですね。「栞がいたせいで、相沢君と想いを遂げられなかった彼女」などの記述から名雪シナリオが、久瀬の妹の存在から舞シナリオが、天使の人形と忘却されたあゆからあゆシナリオが、それぞれ読者の脳裏に想起される。真琴シナリオが見当たらないのがどうしてかはわかりませんが、ひょっとしたら「「大丈夫だよ。今日はお母さんも家にいないから」/「じゃあ、栞と相沢君の二人っきりってわけね」」の箇所が、水瀬家に真琴がいないことを暗に示しているのか。でもって、失敗ばかり繰り返しているピエロは、己が生命を賭して栞(或いは可能性の上では別のキャラ)を助けたにもかかわらず、誰にも知られることなく不遇の死を遂げるあゆの存在を、象徴的に表現しているのでしょう。これで作者様に「深読みしすぎ」とか言われたら泣きます。
上記の狙いは非常に良いと思うのですが、それ以外は可もなく不可もない印象です。
- 18 Melancholy (採点:1)
- ご苦労様です。
- 19 残されていた音声 (採点:3)
- 投げっぱなしと取るかリドルストーリーと取るか。
交通事故で死んだ三名は秋子さん、名雪、祐一。餓死していたのは真琴(あゆの可能性も無きにしも非ずですが、実体版は身元判明するだろうし、幽霊版は餓死するか疑問だから、真琴で)。泣いていた友達は香里か北川。語り手は佐祐理(タイトルが「残されていた音声」なので、佐祐理はこの音声のみを残して失踪しているということに)。語りを聞いているのはnextをクリックした人、即ち読者。
と、登場人物を特定してみたはいいものの、あとはさっぱりです。もう少しわかりやすい手がかりを残してほしかった感じがします。
- 20 安っぽい奇跡 (採点:5)
- 祐一と栞のキャラクターを上手く生かして、瞬く間に常識外の場所へ転がり落ちていく会話の連鎖が、とても面白いです。答えなんて出るわけのない不毛な奇跡論に話が摩り替わりかけたあたりで不安にもなったのですが、程よいところでオチが決まったと思います。
- 21 信号炎管 (採点:2)
- 秋子さんを轢いたのが佐祐理さんだというのは新しい発想かもしれません。
- 22 とある平和な夜 (採点:6)
- なんてことない内容ではありますが、面白かったです。
五点にしようと思っていましたが、「お、落ち着け水瀬名雪。」で滅茶苦茶笑ってしまって、自分を必死に落ち着かせようとしている名雪を頭の中で想像したら更に爆笑したので、一点加算しました。
- 23 いらない子 (採点:8)
- かなり綺麗に決まった一発ネタ。一発ネタだとギリギリまでわからない構成もよいです。お見事。
採点には影響していませんが一応指摘しておくと、「真琴の行きそうな場所の心当たりを探してみた」祐一が美汐の家を探していないのは考えにくい事態ではないでしょうか。どちらかというとむしろ最初に訪れそうな気がします。
- 24 フライング・クリスマスプレゼント (採点:3)
- たぶん作者様の思惑どおりなのでしょうが、途中まで名雪だろうと予想して読んでいました。もっとも、あまり良い方向へ機能している叙述トリックとは思えません。彼女=あゆ、であるのに、彼女=名雪、として読んでもまったく違和感がないという事実は、そのまま、この作品中で語られるのがあゆのものとも名雪のものとも取れる、抽象された心理や言動でしかないことの証左です。捨象されちゃった部分にこそ大事なものがあったのではないかと愚考する次第です。
- 25 #9 クリスマス・イブ (採点:2)
- 変な場所で改行が入ったり文章が下手だったりで極度に読みにくいです。夢から覚めるシーンで始まる、次第に激昂しだすヒロインを祐一が抱きしめる、など陳腐としか思えない展開が各所に見られます。なんの理由もなしに、親、子、孫の三代にわたって妖狐に出会うなんてどんだけ出来すぎた偶然ですか?
祐一と美汐の子が妖狐と出会うというアイデア自体は、実はかなり秀逸であると思っています。「まさか、娘が――狐から人間に姿を変えた少女を連れてくるなんて――思いもしなかったから。」という一文には目を見張りました。
もっと腰をすえてしっかりと書いていただきたかった。
- 26 紫陽花の歌 (採点:4)
- 文章それ自体は簡素ゆえの情感が出ていていいと思いますが、全体的に状況説明が足りていないので、ディティールの貧弱さが目立ちます。原作に登場した場所を舞台にしているぶんにはいいのですが、そうでないところに舞台が移ると必要な情報が得られないので読者は戸惑うばかりです。同じようなことは人物描写にも言えます。テンプレ的言動を超えた深みをキャラクターに与えようという作者の意志は、残念ながら私には感じられませんでした。構成も、途中に祐一視点をあえて入れたことが十分に生かされているとは思えません。生きていない、とも言いませんが。
致命的な欠陥は見当たりませんが、全体的に熟考が足りていない感じでした。
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