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○PFR さん

01 スーパーラブストーリー (採点:1)
 日本の現代文学の悪いところを煮詰めまくったら出来上がった小説、という印象です。大変申し訳ないのですが表現の一つ一つに悉く滑稽さしか感じません。

02 寒太郎 (採点:3)
 この容量、この文体で、出会いから別れまでの短くない期間を十全に描くのには無理があったと思います。結びの一文やツンデレごっこなど、面白い部分が多々あっただけに、余計に残念です。

03 GONSHAN (採点:2)
 イメージはなかなか秀逸だと思います。ただ掌編として凝縮されてはいないので私の中ではどうも評価とは結び付きません。

04 君は無口で、残酷 (採点:2)
 冒頭だけ少し気に入りましたがやはり普通に駄目だと思います。

06 下手れ (採点:2)
 それなりに完成されてはいるものの、ありきたりさが抜きがたく染み付いた小説だと感ぜられます。そしてそのありきたりさを吹き飛ばすほどの表現力はない、と言わざるを得ません。冒頭および末尾の比喩は上手いと思いましたが、不用意なことにいささか感傷的に過ぎるでしょう。

07 ある兄妹のある日常 (採点:4)
 冒頭三行が素晴らしすぎます。具体的に言うと、最初の二文の流れるような滑らかさを、「どでかい冷蔵庫が鎮座していた。」という意味不明な一文で一瞬のうちに断ち切るそのコントラストによって、話に一気に惹き込まれます。以降も、賑やかでなかなか面白いです。テンプレートを歪め、内破させるだけの言語表現がそこにあったかと言われればなかったのが、高い評価に結び付いていない理由です。

08 いつの日か栄光に満ちた自伝を書くための不快な備忘録 (採点:4)
 いろいろな様式の日本語が渾然一体となっている様はとても良いと思うのですが、全体像が不明瞭なのでそれのみに留まってしまっているとも言える気がします。

09 茜色の先 (採点:4)
 世界崩壊も世界の果て探索もありがちで、ここまでならあまり褒められたものではないのですが、実は世界の果ては存在しなかった、少なくとも語り手の前には現れなかった、という凄惨な結末を書きえたのは凄いです。気になったのは火葬。人体の野焼きを完遂するというのは実はかなりの重労働でして、さらりと流して書いてあることには少なくない違和感を覚えました。そしてこの点に象徴されるように、とまで書いてしまっては言いすぎかもしれませんが、とにかく本来必要とされる執拗さが文章から抜け落ちて、全体的に淡々としすぎている感じを受けます。尤もその淡々とした虚無感こそが読みどころなのでしょうから、批判ばかりはできないとも思います。なんとか両立させる方法はなかったものか、などと考えます。

10 魔法使いのいた夏 (採点:3)
 カタルシスと言いますか浄化を地で行く結末を持ってきているのだから、作品を構成するあらゆる要素をすべてそこへ落とし込む計算高さがなければ、成功とは言いがたいのではないでしょうか。蛍の川の描写が薄く、しかもそれ以外に浄化を支える道具が存在しないため、浄化が極めて不十分になってしまい、結果「七夕に対する鬱蒼とした気持ちを、いつの間にか天の川に綺麗に流してしまっていた」という最も重要な心理描写が、かなり唐突で不自然になっていると感ぜられます。

11 準備 (採点:1)
 全体的に陳腐さしか感じないと言わざるを得ません。加えて、結末の絵としての間抜けさと唐突さと、そして何より硝子の強度のあまりの低さが、作品を作者様の意図せぬところでギャグへ昇華させてしまっているように思われます。

12 人間の目にまだ見えない (採点:2)
 一寸どう読めばいいのか困ります。ロボティクスも人工知能もどう考えても二十枚で扱う主題ではないし、ではミステリの部分に魅力があるかというとそんなことも全然ないからです。山口さんが「わたしは、ほんとうに『なおる』んですか?」と発言するくだりは文章に勢いが付いて面白かったです。

13 立入諌止地点 (採点:1)
 文体があまりにも普通の日本語に過ぎて小説的快楽から程遠く、物語もまた錯綜しすぎで謎解きに伴う解放感が薄いので、楽しみどころがあまりありません。

15 嫁嫁パニック (採点:2)
 最初は面白かったんですが、似たようなテンションで似たようなギャグが続くので、途中で飽きてしまいました。加えて、内容に反して文体が存外に平板でつまらないのが致命的だと思います。

16 手のひらの宇宙船 (採点:5)
 前半から中盤にかけての、あらゆる場所や時代の映像を滑らかにつないでいくという、まさにこの小説の設定でしか書けない表現の数々は圧巻です。しかし主題が前景化して文章が過度に説明的になる後半では、前半の勢いの大半が殺されてしまっていると感ぜられます。主題の内容自体は理解できますし、そこから今はいないはずの幼馴染みへとつなげるのもいいとは思うのですが。

17 キラーデイ (採点:2)
 いろいろなものが、とりわけ脈絡が足りません。最後の展開の唐突さはほとんどギャグと見紛うばかりです。会話文は面白く書けていると思います。

18 じれ☆んま (採点:3)
 トリック自体はよくできていると思いますが、ショートショートにしてはいろいろな部分が饒舌すぎて、完成度は低い印象です。

20 顔 (採点:4)
 存在しないはずの記憶というのはかなり可能性のあるモチーフだと思います。語り手の同一性を突き崩して表現の幅を一挙に広げうるからです。それを単純な形でしか用いえていないのがこの作品の限界だと思います。執拗かつ饒舌な文体は魅力的です。

21 雪見酒 (採点:7)
 典雅さと可笑しさ、静謐さと騒々しさ、現実と夢幻、などの境界を巧みに往還し、滑らかな物語の進行をいちいち阻害しては脱線させていく筆致が、とても素晴らしいと思います。

22 テレフォンリング -Telephone Ring- (採点:3)
 全編を通して、地の文がある一つの事柄について延々と説明を繰り返すのみで一向に物語を進行させようとしないので、酷く滞留した印象を受けます。特に前半は、鉤括弧で囲まれた会話文が常に前へと流れていっているため、会話文と地の文との齟齬が大きく、文章が大変ぎこちないです。日本語的には問題ないのかもしれませんが、小説を書く言葉からは程遠いと感ぜられます。結びの一文はとても良いと思うのですけれど。

23 不謹神話 (採点:1)
 神話と言うほどに不謹慎だとはとても思われません。不謹慎さ、下品さ、馬鹿馬鹿しさの極北に達する勢いが存在しないのであれば、単につまらない小説であるというだけでしょう。

24 放浪鯨 (採点:6)
 単なるお涙頂戴に終始することなく、空飛ぶ鯨というシュールな情景と、海外を舞台にした硬質な雰囲気と、設定の説明を放棄して小説全体の格調を保とうとする姿勢が、美しい世界観の構築を成功させていると思います。あとは、文体にもっと強靭さがあればなお良かったかと。

25 A manufacturing onigiri line. (採点:4)
 スラップスティックコメディじみた混沌っぷりが面白いのですが、それが後半へ至るにつれて妙に落ち着いていってしまったのが残念でした。

26 賢人の恋 (採点:5)
 美衣子に延々と振り回され続ける話者の語りがとても面白いです。とはいえ良識という観点からすればかなりぎりぎりな設定を導入した以上、もっと面白い日本語が書けるはずだとは思わないでもないです。

27 太陽と空の間にある橙 (採点:2)
 決して低くない文章力を作者様が持っていることは疑いえないのですが、少年と少女の出会い、孤独からの解放、海岸、秘密基地、夕日、少女の消滅、などといった作品を構成する要素が、すべて極めて陳腐に感じられてしまって、高い評価はできそうもありません。手垢に塗れていない素材や表現を探そうとする意思を、この作品は決定的に欠いていたように私には思われます。

28 腐臭 (採点:1)
 あまりにも未熟。知らぬ間に日常を侵蝕する非日常という主題自体はある程度評価できるものですが、それも人肉嗜食を暗示する結末を持ってきた途端に安っぽくなります。

29 衛星軌道上のありす (採点:4)
 主人公の漠とした内省、程よく郷愁の漂う雰囲気、空や宇宙への憧憬を背後に忍ばせた壮大なSF的世界観、幻想小説的な、しかし見事なまでにその不可思議さがスルーされる鬼と猫。作品を構成するそうした要素が悉く好みなのですが、しかしこの設定であれば、単に好みであるという領域を超えて、有無を言わさぬもっと美しい文章表現を生み出すことも十分に可能だっただろうと感ぜられたのが残念です。軌道エレベータで上昇していくシーンなどはとても良いと思うのですけど。

30 はたらくぼくら (採点:5)
 可笑しいのに格調高くて物悲しいのに乾いている独特の文体が、かなり面白いです。とはいえ全体像の不明瞭さも相俟って、いささか牽引力に欠けていた感はやはり否めません。

31 不確定性の彼女 (採点:1)
 不確定性原理は小説の素材としては食傷気味になって久しいと思います。加えてこの小説の場合、それを作中に導入する手付きが、ドイツ語と老人とサイコロというキーワードのみからいきなり不確定性原理のことを話し始めるのにしても、アインシュタインの怨念の籠もったサイコロという落ちにしても、極めて無理矢理っぽいです。もっと地に足のついた形で書けなかったものかと。

32 消滅した地球 〜alien cross road〜 (採点:4)
 設定も物語もとても好みなのですが、全体を眺めるとやはり厚みを欠くかなという印象が強いです。二十枚ではまず不可能でしょうが、最低でもあと二話は欲しいと思いました。それと題名には一考の余地がある気がします。

33 車輪つきベビーパウダー (採点:5)
 適度に圧縮された説明調の語り口が、普通の描写にはない魅力を湛えていると思います。語り手の立ち位置が不明瞭で一寸戸惑いましたが。

36 もし人生が一篇の掌編だったら (採点:1)
 その成否はともかくとしても、媒体の特性を最大限に生かすという姿勢は大切だと思った次第です。

37 二兎を追うものは一兎を逃す? (採点:1)
 薄いです。無論のこと極限まで薄さを突き詰める書き方が秀作として結実する瞬間もあるわけですが、この作品がそのような高度な試みをおこなっているとはとても思えません。

38 まんぷくアリの行進 (採点:7)
 不条理感たっぷりの物語が不条理なままに進行していくのがとても楽しかったです。不可思議な設定を導入しておきながら、描写をいささかも曖昧に濁すところのない文体がまた、その不条理さを際立てるのに大変効果的だったと思います。

40 ボクの日常、そして七夕とヴォーグ・モント・メンソール1 (採点:8)
 いかにも平板そうな筋立てなのですが、一人称の話者の屈折気味な語りが世界を巧みに捻じ曲げて、平板とは程遠い豊饒な表現の数々を作り上げていると思います。面白かったです。

42 SARUSAWA CHAINSAW (採点:7)
 様々な先行作品を引用しているようですがそれらは私にはまったくわかりませんでした。未熟な読者で申し訳ない。
 イメージを次々とつないでいく手付きは見事だと思います。そのことによって補いえている気はしないでもないのですが、あからさまに普通じゃない小説である割には文章が結構滑らかに読めてしまうことが不満でした。引用すらも一人称の話者の語りの中に回収されている印象で、そうして語り手が語り手自身の言葉をのみ静かに語っていくのであれば、それは極めて一般的な小説のありようなのではないかと感じます。もっと迫力というか膂力というか鬼気というか強靭さというか、そういう類のものが欲しかったです。

44 蟲毒 (採点:3)
 二人の話者が分裂を抱え込んだ異常な人間に設定されているのに、その語りがどういうわけか淀みなく読めてしまうものであるため、小説でのみ書きうる異常性がほとんど書けていないと思います。狂ったり殺したり切断したりという事柄をただ普通に書くだけではあまり面白くないし、さほど強烈でもない、というのが正直なところです。

45 八月水晶 (採点:3)
 八月水晶の発見者の物語にはさほど魅力を感じなかったというのが正直なところです。下手に一人の人間の内省に焦点を合わせることによって、水晶という硬質なモチーフと、描写よりも説明に比重を置いた文体とによって得られた、この作品独自の幻想的イメージが損なわれている印象でした。序盤はとても好きだったのですが。

46 青空 (採点:2)
 単に引っかからなかったという以上の問題として、そもそもこの誤導に掌編小説一本を支えるだけの強度があるとは思えません。

47 光学概論 (採点:5)
 完成度は高いと思うのですが、文章の細かい粗や、後半に目立つ主題に関する直截な物言いが、一寸駄目だなと思います。この手の掌編は極限まで完成度を上げないと過去の名作に太刀打ちできないので、荊の道だったかもしれません。題名は今回一番好きでした。

48 佐竹、飛べ!! (採点:4)
 ユーモラスな場面とシリアスな場面とを巧みに融合しえた作品であると思います。しかしながら後半の展開がなだらかに過ぎて、勢いのあった前半と比して見劣りしてしまうのが残念です。

49 ゆりかごの歌 (採点:2)
 全体的に粗雑さがとても目立ちます。『ママ』の子から三十五年間にたった一人の犯罪者も生まれなかったという非現実的な設定。一人の犯罪者が生まれたために世界中の育児ロボットすべてが破棄されるという同じく非現実的な設定。西暦2539年であるにもかかわらず育児ロボットの有無を除いては現代とまったく変わりない社会。上司との定型的な問答。物語の流れを断ち切って長々と入る世界観の説明。唐突過ぎて不自然なハッセルの登場。なんの前触れもなくハッセルが主人公の知り合いになっていること。と挙げれば切りがありません。尤も話自体はちゃんと完結しているので、こうした細部の造形を欠かさなければ普通に良い話になるとは思います。

50 少女暗殺者とオルセイユの悪夢 (採点:3)
 設定や世界観といったものは陳腐だし、前半と後半が著しく乖離した構成も、掌編としてのまとまりが損なわれるという意味において褒められたものではないと思います。しかしながら全編を通じた特異な文体や表現はなかなか面白かったです。設定を全部すっ飛ばしていきなり本筋に入ったほうが優れた掌編になった気がします。

53 体育館を燃やす (採点:2)
 こうしてノスタルジー系のパーツを適度に配置しておけば自然とそれなりに読めるものにはなりますが、それを超える達成がこの作品にあったかと問われれば、ない、と答えざるを得ないと思います。

54 彼女への笑顔 (採点:1)
 駄目な理由として特定の何かを名指すことができないほどに何もかもが駄目です。あえて申し上げるならば、威力だけが悪戯に高い粗雑な設定を、陳腐な表現と文体で塗り固めようとした結果、俗っぽい醜悪さが露呈している、ということになります。悪い描き方になってしまい申し訳ありません。

55 時は過ぎてしまっても (採点:3)
 結末で決定的に駄目になったと思います。序盤から中盤へ至る流れは、冗長さや平板さがないわけではないにせよ面白かったです。

56 飛べない鳥 (採点:2)
 着想も筋立ても文体もいささか貧困に過ぎるのではないかという気がどうしてもしてしまいます。

57 夏を見逃すな (採点:4)
 物語を放棄して表現のみで小説を書こうという姿勢は個人的には小説の王道であるとすら考えているので大歓迎ですが、それは困難すぎる荊の道でもあって、この小説の場合も成功しているとは言いがたいかと思います。紋切り型の流用にとどまっているのが何よりも駄目だと感ぜられました。

58 夏の扉を開けて時を駆け抜けていく少女のきのうとあした (採点:3)
 一人称の話し言葉による語りとしては比較的完成されているほうだと思いますが、それ以上の何かが見出せなかったのが残念なところです。この様式でないと書けない何かを書かない限りは、悪い言い方になりますが小手先でしかないでしょう。

59 プルシャの後裔 (採点:6)
 こんな社会がそもそも成立しうるのかなという根本的なところで躓いてしまいました。稀少価値が高いにもかかわらず女性が殺されるというのは矛盾してないか、とか。
 その辺を棚上げすれば、奇怪な世界の中でだんだんと狂っていく話者の歪んだ語りが、完成度の高い、それでいて強烈な文体を生み出していて、なかなか面白かったです。

60 黒猫侍・片牙小太郎 (採点:8)
 大変良いエンタテイメントです。王道的な筋立て、時代劇風の文体、猫視点、などといった個々の要素それ自体は別に目新しいものではないですけれど、それらを組み合わせることによって互いにずれや剰余が生じ、今までにない魅力的なものに仕上がっていると感じました。

61 缶コーヒー (採点:2)
 それなりに上手な小説だとは思いますが、にもかかわらず高評価できないのは、極端なノスタルジー重視とその結果としての後ろ向きっぷりとが、小説全体から緊密さを奪い、甘たるい安心感をしか残していないからです。

62 5人以内のごろつき (採点:4)
 わけがわからないですがそのわけのわからなさが妙に面白かったです。

64 花盤 (採点:6)
 筆致が高いレベルで一貫しており良かったと思います。テーマとしては割とありふれていることなんてこの際どうでもいいです。むしろ気になったのは、極度の不明瞭さや、繊細を通り越した虚弱っぽさなど、幻想小説の悪い面も同時に出ている点でした。それがなければもっと高い点数付けたかったんですけど。

65 ハイブリッドアンビエント (採点:4)
 設定が持つ可能性を、文章が殺している印象です。主人公の耳は「木々には沢山の命が集っていた。鳥や虫の鳴き声が夜でも響いている。」とかいう並みの描写ではとても表現し尽くせない凄まじい音を聞いているはずで、それを捨象せずにそのままに描きえたらとても面白い文章が出来上がったのではないかと想像します。「緑が二酸化炭素を吸い込み」以下の部分は一寸面白かったので余計に残念です。
 あと「それから僕は彼女と共に」以降、文章の速度が急に上がりすぎて、本来この物語はそこが一番ダイナミックだったはずだと思うんですけど、さらりと流されてしまっているのが不自然だと感じました。

66 サルベージ (採点:3)
 タイトルがとても秀逸です。
 内容のほうは、よくできた短編だとは思いますが、個人的に引っかかったのは二点で、一つは主人公の語りが一寸濃すぎて小説全体の滑らかさを損なっている気がすること、もう一つは「またなのかっ?!」という悲鳴は読者である私も上げたいことです。この長さの小説で理由もなく展開が被っているのはあまり褒められたことではないように感じます。

67 純 (採点:1)
 物語的にも文体的にも工夫を欠いていて退屈ですし、何より二十枚でセクシュアリティの話をするのはかなりきついでしょう。

68 七夕 (採点:4)
 知らぬ間に雑音が紛れ込んでいくが如き結末はなかなかよいものだと思うんですが、全体としてはテキストを読むという行為が、こういった作品が本来目指すべきであった快楽よりは、普通に苦痛につながってしまった感じでした。

69 神の子と魔女の子 (採点:3)
 様々な様式の小説に対する皮肉というか批判というかがいたるところに見られて、とりわけさらりと説明を省略したり仰々しい修飾語を中略したりするところなどはとても面白かったのですが、全体を見渡すとやはり完成度が低いなという印象が先立ちます。

70 ばべるの図書館だより (採点:4)
 四つの節すべてが異なる様式で書かれているというのは多様性があっていいと思います。第三節には美しいセンテンスが幾つもありましたが、残念なことに作品全体が何か一つの像を形作っている様子は私の目には映りませんでした。尤もそれが読者たる私の未熟さに依る可能性はまったく否定しませんが。

71 幸せの処方箋 (採点:2)
 不確定性原理は飽きた、というのが正直な感想になってしまいます。靴の伏線から「弟が、いたんだ」という台詞へと至る流れが持つ不穏さは、なかなか見事なものだと思います。

72 雨の日の忘れ物 (採点:5)
 全体を眺めると、何気ない単発のエピソードを豊かな表現と共に凝縮した上質な掌編に仕上がっている、と言っていいと思います。その点は優れた達成として素直に認めた上で、にもかかわらず高評価できないのは、ノスタルジーの有り様が極めて陳腐に感じられるからです。加えて、中盤におけるその表現(「しかし、今ではかつて……」「今日家に帰ったら……」「自分自身の現状について疑問を抱くたびに……」)が過度に説明的過ぎて、上述した掌編としての完成度を損なっていると思います。ここは、説明ではなく描写を、という古典的な小説作法に従うのが正解だったのではないでしょうか。

73 あかんぱにい (採点:1)
 幾らなんでもこれでは厳しいです。

74 ヴァンパイア狩り (採点:2)
 文体も物語も紋切り型に陥っていると思います。自らが紋切り型であることに対する自己言及もないので単に滑稽に見えるだけです。ただ戦闘シーンは、壮絶さがよく出ていて悪くないと感じました。

75 ムーンサルト・ブルース (採点:3)
 プロレスの知識をまったく持っていないので半分以上何が書いてあるのかわかりませんでした。駄目な読者でごめんなさい。
 プロレスを好きな人が書いてプロレスを好きな人が読む、という自問自答にも似た円環の中でのみ読まれうる作品であって、その外側において勝負できる完成度ではなかったと思います。「今からプロレスリングを貴様にレクチャーしてやる」という台詞は、狙いすぎな感が多分にありますが格好良かったです。

76 シャーベット (採点:2)
 人間の感情を機械的に捉える作業と、普通の文体で小説を書く行為とが決定的に噛み合っておらず、悪い意味での不自然さが拭いがたい小説になっていると思います。

77 ナイチンゲール・メール・サービス (採点:2)
 それなりによくできているとは思いますが、面白いかと問われると微妙です。テーマ的な部分は満足に掘り下げることが出来ておらず、文体は安定しているけれど普通の日本語過ぎて面白みに欠けます。唯一、湖の比喩には、その成否は別として、可能性を感じました。

78 音響室B (採点:2)
 一寸変わったキャラクターやあえてここで切る結末などといった美点がないわけではないですが、総体として評価すると普通に面白みが足りていないとしか言えません。

81 ずっとずっと前から (採点:7)
「正統派ラブ」の謳い文句に反して恋愛小説的なダイナミズムの生じる要素がほとんどないわけですが、そういう静的な物語を用意したからこそ書きえた、「絶対、私のことが好きだと思ってた。ていうか、思ってる」という気軽に発話される台詞や、「それは、ずっとずっと前から、分かり切っていたことだった。」という当たり前のことを述べる一文は、その気軽さ、当たり前さ故に、恋愛小説的恋愛小説の言葉よりも力強く響きます。この響きに濁りを生じさせているのが主人公が設けた半年間の遅延で、これがなければほとんど完璧だったと思います。書くのが恐ろしく難しくなるでしょうが。
 ところで以上は割合好意的な見方だと自分でも思いまして、実際は、静的な物語を退屈させずに読ませるだけの文章力、表現力は十分にあるものの、そこに目を見張るような、いささかの揺るぎもない静謐な豊麗さが存在するかと言えばやはりそんなことはなく、無難さ、都合の良さ、構成の拙さ、などが散見される印象ではあります。

85 童話 (採点:2)
 結論がいささか陳腐だと思いました。加えて、作中での言及により多少軽減されているにせよ、作中作の矛盾っぷりは一寸酷いと思います。そのせいで結論が余計響かないものになっている感じです。とはいえ兎の物語は、それ単体なら美しくて良いと思います。青と赤の対比とかさりげなく綺麗です。

86 NEET (採点:3)
 ニートっていう言葉自体が弱いんだよなあ、比較的新しい語だし、などと思っていたら、最後の最後で意味が書き換えられてとても納得してしまいました。尤も直後に泣くのはいささか感傷に流れすぎだろうとは思いますが。それと火事というイベントがなんの脈絡もなく起きるのがいけないと感ぜられました。部分は光っているのに、ストーリー全体は意味なくだらだらと続いている印象になってしまっています。

88 探偵は誰だ? (採点:2)
 派手な道具仕立ての割に物語に動きがなく、ではその動きのない物語を支えるだけの美しさが文章にあるかと言えばそんなこともないので、アイデア自体はともかく全体としてはつまらない出来だと言わざるを得ません。

90 R・P・G (採点:3)
 神視点さんを導入することによって普通の小説の限界は軽々と突破しているはずなのですが、そうした他の作品にない武器が一発ネタ的にしか使用されていないのが残念です。いや、「どの神視点さんも、何か大きな事件が起こる直前に突然現れたと思ったら、その事件が幕を閉じて少しすると、パタリと声が聞こえなくな」るとかは、物語なるものの作為性をさりげなく暴露していて一寸面白かったりするので、惜しいところまで行っているとは思うのですが。

91 鈴の音 (採点:2)
 平凡な着想だとしか言いようがないですが、再会を予感させる書き方をしつつ、結末であえてそのことに禁欲的になって、新たなる物語を発動させずに終わる、というところには何がしかの可能性を感じなくもないです。

92 神の子 (採点:5)
 無限に落下していく垂直方向の運動はとても魅力的です。しかしながら霊魂やそれ以上の超越的な何ものかが出てくると、唐突すぎるし地に足がついていなさすぎる、という印象が強まってしまいました。無限の落下なる現象それ自体から聖なるものが顕現する様を描かなければ、この小説の設定は殺されてしまうのではないかという気が個人的にはします。

93 妖精離れ (採点:3)
 冒頭や末尾に不思議な魅力があることは否定しがたいのですが、全体像が散漫すぎなのであまり評価できません。

94 Eternity (採点:1)
 人生の一回性を非一回性の中から掬い上げる手付きとか、仲良し三人組の中での三角関係とか、妹とか、どこかで見たことあるものばかりすぎる気がします。小説としての完成度が高くない以上、これは致命的な欠陥だと言わざるを得ません。

95 何かの間違い (採点:1)
 突っ込みどころがあまりにも多すぎてギャグと化しています。

96 走るッ! (採点:3)
 警官に追われるというシチュエーション自体は、疾走のスピード感も出ていないしオチも腰砕けっぽいしであまり面白く感じられなかったのですが、変なキャラクターたちによるギャグの応酬は良いと思います。その辺をもっと威勢のある文体で執拗に描いていけば傑作になった予感がします。

97 やさしい猫 (採点:2)
 退屈なほどに普通です。猫視点なのだから、猫視点でないと書けない様々な表現を書きうると思うのですが。

98 足跡 (採点:1)
 つまらない、と申し上げる他ありません。

99 繋がっているものたち (採点:5)
 いじめと屋上が出てきたところで陳腐ルートへ行きかけましたがなんとか踏みとどまった感じです。たぶん作中では登場人物たちを悩ます問題は全く解決していないのだけれど、だからこそそんな渦中にあっての、刹那的な、僅かばかりの救いといったものが、鮮やかに描き出されていると思いました。

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