○PFR さん
- 01 道標は出会いの中に (採点:5)
- 文章にこれといって問題はなく、物語の結構も過不足なく整っていて、好感を持てるキャラクターがいて、素直によい話だと思える結末で幕を閉じる。目に見える欠点は背景の弱さくらいで、全体的によく出来ていると言っていいと思います。ただ、だからこその物足りなさは確実にあります。悪く言えば小さくまとまってしまっているわけで、何処かでもっと突き抜けてほしいという思いが残りました。
- 02 旅人と人形師 (採点:5)
- 硬めの幻想小説によくありそうな道具仕立てで、それは既視感を覚えるということでもあるのですけれど、好みです。しかし推敲が足りていないのか、あまり完成度は高くない印象があり、とりわけ人形の纏う雰囲気とか存在感とかを十全に表現できていないことは致命的だと思います。軽さを狙う筋立てでもない気がするのでもう少し重厚な感じで仕上げてもよかったのではないでしょうか。
- 03 君に届け→ (採点:2)
- 真摯な姿勢が裏目に出て、小説が面白さを欠いた退屈で凡庸なものになってしまっていると思います。「タフで優しく」て、「いつも杉本ファミリィの一員として恥ずかしくないようやっていく」や「だから、きっとこれからも大丈夫に決まってる」と言えてしまう人物を語り手に据えたフィクションは、語り手が実在の人物として倫理的にどうかという、フィクションを読む上ではさほど本質的でない問いに正しく答えられるものにはなりえるかもしれませんが、たとえば葛藤や懊悩や分裂や衝突や紆余曲折といった要素から導き出しうるであろうダイナミズムを抹消しているため、非常に平板な語りとその語りを通した非常に平板な世界像をしか持ちえないのだ、ということです。
- 04 動物園 (採点:6)
- どう感想を書いていいものかとても困っています。とりあえず、なんとも言えない独特の雰囲気を結実させているという一点だけでも価値のある作品だと思います。とこんなことしか言えない自分がもどかしい。場面の転換点を空行で区切っていますがここはむしろ混交させてしまったほうが凝縮された感じになってよかったのではないかとふと考えました。
- 05 それがすべて (採点:4)
- 普通の学園ものだなあという感想が真っ先に出てきてしまいます。
語り手の声が声として書かれない、つまり鉤括弧に囲まれないことによって突き放すような冷たさが全体に漂っているのは上手いと思いました。そのせいで序盤から中盤の会話にあったたくさんの面白い箇所で笑えなかったのですがこれは狙い通りでしょうか。歌いながら帰路について最後には泣き出すという展開は個人的には感動するのではなくて引いてしまいます。最後、主人公を涙目で睨む千佳は正直可愛かったです(笑)。
- 06 USO・800(ウソ・メイドオーオー) (採点:4)
- 語り手の語りに勢いと可笑しさがあってとても面白いのですが、それ単体で小説全体を支えられるほど威力のあるものではさすがにないので、物語の弱さがそのまま小説の脆弱さにつながっていると感ぜられました。「動け! あたしの脳細胞! 活性せよヘモグロビン的な要素!」の勢いを持続させていればなかなかの怪作になって面白かったのではないかと個人的には思います。
- 07 中世におけるある犯罪者の変遷 (採点:4)
- ヴーツとバルバラがいいひとすぎて説得力がないのとハンスの改心が早すぎるのが致命的な欠点だと思いますが、猿や亡霊を描き出す筆致、特に序盤のそれは見事でした。「火が吐き出す心地よい暖かさに包まれて眠りかけていると、不意に自分の隣に誰かが座り込んだのが見えて目が覚めた。背中にナイフが刺さっているから、多分彼が今日後ろから突き殺した相手だろうと考えた。」というところなんかは、異様なものが少しも異様でない自然なものとして登場しているが故に逆に読者にはそれが限りなく異様に感じられる、という離れ業を演じていて素晴らしいと思います。
- 09 眠れない夜に見る夢 (採点:5)
- ささやかな悪意が世界を不気味なものへと一変させる瞬間を描き出す手付きが素晴らしいです。普通に書けば感傷的にすぎたであろう最後の夢想も、その不気味さを経由して書いているのでちゃんと機能しています。ただ回想という形式を不用意に使いすぎかなと思います。現在過去現在過去、と続くのはそれこそ単に形式にすぎなくて、それに無理をして則っているので言葉から瑞々しさが失われているのではないか、と。最後の夢想が上手いのは、現在過去現在過去の形式を守っているのではなしに流れに乗って自然と言葉が出てきているからで、こうした自然さが全体的には欠けていた感じがしました。
- 10 青い鳥はもういない (採点:3)
- 青い鳥が奇蹟的な偶然でもって関係者の手に次々と渡るという展開はどう頑張ってもご都合主義であることから逃れられないわけですが、それをご都合主義のままで終わらせるかそれともカタルシスに転化させるかで、小説はまったくの別物になるはずです。この作品は残念ながら前者だったと思います。素性の明かされた悩める登場人物が先にいて、そこに青い鳥が到来する、という構図ならばパトスからカタルシスへと至る流れができていていいのですが、青い鳥が到来する段になって始めて、登場人物が登場し、実はその人が青い鳥を必要としている悩める人間である、と明かされるのでは、それは後付設定のご都合主義でしかありません。
- 11 流れ星はきっと、恋のはじまりで (採点:1)
- ラノベだ、という言葉を悪い意味で使わせていただきたいと思います。ライトノベル的な類型化と画一化に対する抵抗の痕跡が些かも見られないからです。
- 12 植物の部屋 (採点:7)
- 植物の色と香りを濃密に描いていく文章が、混交していく記憶と夢も相俟って好みです。尤もここまで書ける作者様ならばもっと精度を上げることが可能だったかなと感じますし、何より幾つか脳裏をよぎる似たような描写をおこなっている先行作品の存在を考えると、そうしなければ太刀打ちできないでしょう。
解釈は幾つか試みてみましたが正解らしきものには辿り着きませんでした。正解が存在するのかも怪しいですが。
- 13 夏・ものがたり (採点:4)
- 物語を構築する上でも描写をおこなう上でも必要のない、無駄なキャラクターが多すぎて、小説が大変散漫なものになっている気がします。文章力はあるし「探していた人形が、探し物を探してた」という着想も優れているので、いろいろ惜しいなあと思います。
- 14 天窓の空 (採点:5)
- 「空はどこまでも青く、澄み切っている。」という吃驚するほど紋切り型な冒頭でいきなり躓きましたが、全体としてはなかなか優れたミステリ的構成を持つ作品だったと思います。この手の構成のミステリにしばしば要求される一撃必殺の切れ味はありませんが、代わりにパズルのピースを一つずつ嵌め込んでいく手付きが丁寧で、そのたびごとに世界観が更新されていくのが鮮やかでした。
尤も、過去に無数に書かれたミステリたちと比較して、それでもなお絶賛に値する精度があるかと訊かれると、そうでもないと答えざるをえないのですが。
- 15 虹輪 (採点:3)
- どんな人間なのかほとんどわからないキャラクターがまったく厚みを欠いた世界において裏表のない言葉を直裁に語る、という筋立ては、貧困さを感じさせる一方で、個別性と具体性を捨象しているが故に、近代以前の物語が持つような力強い永遠性を獲得していると思います。とりわけ幸せでしたと語り手が繰り返す場面では語り手自身がほぼ完璧に消失しており、そこで提示されるのは誰が喋っているのでもない普遍的な言葉に等しい。
とはいえこうした論理で褒め切れるかというとそうでもなくて、やはり普通に薄いなあと感じられる部分が多く、なんだか突き抜け切れていない印象です。
- 16 迷い家 (採点:6)
- 凝縮された筆致で夢と現実の狭間を描き出していく手付きが見事なんですが、その試みが突き抜けすぎていて、普通の小説としての枠組みが残っていることが足枷と感じられてしまいました。尤もこれは私の趣味と言えばそれまでの話で、作者の方には大変申し訳なく思います。
- 17 青い小箱 (採点:3)
- 決して悪い小説ではなくて、大切なものを封じ込めた小箱というモチーフは魅力的だと思いますが、全体としては、なんの抵抗もなしにそのまま流れていってしまう平凡な話であるように思われました。何処か一点で突き抜けることが出来ればまた違った印象になったのではないでしょうか。
- 18 君は小説に名前をつけると命名する (採点:9)
- 流麗に横溢する上質な言葉たちが、ある意味空虚さにしかつながっていない点をもって、書くことの困難さの表現と見るべきでしょうか。とはいえ作品全体を覆う、これ以上ないほどに研磨された言葉と比喩とイメージを前にしては、それらそのものが既に「この世界に溢れるフィクションの力」の源なのではないかと言いたくはなります。些か安易にすぎる気はしないでもありませんが、敢えて安易な姿勢を取ることはフィクションを読む上では実は大切だと最近思っていたりもします。
ところで「違うんだよ。この世には本当に取り返しのつかないことがあって、それが今なんだよ。」以下数行についてですが、こうしてクライマックスで内言を全面化させるのは毎度おなじみの手法で、これ自体が悪いわけではないですけど、別の書き方も見てみたいというのが本音です。
- 19 永く遠い旅の終わりに (採点:9)
- SFに関する知識や素養を決定的に欠いている私ですが、それでも、パイオニア10の金属板が実際に異星人の手に渡って解読されたら、という仮定には心躍らされるものがあります。「さすがにそれは擬人化が過ぎるというものだろう。異星人の心理を探るのは時期尚早だよ。」にはにやにやさせられました。また私たちとはあらゆる点で根本的に違った存在であるらしい異星人の特徴が、あからさまに説明されるのではなくて細部の記述に反映される形で提示されるのも上手いです。尤も、この点についてはもう少し工夫の余地があったのではないかとも思います。具体的にどうすべきかとかは正直思い浮かばないので愚痴に近くなってしまうのですが、未来永劫日本語によっては記述されえないし私たちが私たちの認識の枠組みで捉えることもありえない世界を描いている割には、言語および認識と描かれる世界との間の齟齬が存在せず、小説全体が滑らかに書かれてしまっている感じがするのです。
- 20 十字路でっせ (採点:4)
- 巧妙に組み立てられた話だと思います。読者を飽きさせないようかなり計算されて緩急が付けられていますし、何より幻の芸を追い求めて旅をするという筋立てに、表現するということに対する作者の自覚的な姿勢が見て取れます。で問題は文章なんですが、私は左から右まで一杯に文字が詰まった画面を見慣れているので、この改行の仕方は慣れていないぶん印象が悪いのですが、その点を差し引いても力が足りていないと思います。この物語が持つ可能性のほとんどを文章が汲み取れていない、という印象です。
- 21 貴女に素敵な食事を (採点:3)
- 物凄いバランスの悪さを感じまして、原因はたぶん、飛行機事故という五十枚すべてを費やしても語りきれるか定かでない壮大なモチーフが、その壮大さに反して、最終的には夫妻の馴れ初めの切欠以上の物語的役割を与えられていないことだと思います。また文体に力が足りなさすぎて、事故現場の凄惨さも、主人公の心の傷の深さも、いまいち表現し切れていません。
- 22 銀の騎士と緋の魔物 (採点:2)
- ライトノベルの文法に則り切った作品はとても苦手で点数も低くなってしまうのですが、何処かで見たことがある気がするとはいえ意外な展開と、真名がどうとか変なところでリアルな設定を用意することによって、緊密さを維持しえていた気はします。
- 23 達人M (採点:4)
- この結論は他者の許容される余地がなさそうでちょっと怖いです。「めでたしめでたし。」という気の抜けた言葉で〆ているのはそのことに対する皮肉、なのかどうかはわかりませんがそう読めなくもありません。
- 24 見続けた背中と、その先にあるもの (採点:6)
- 「俺の名は立花冬一。」という誰に向かって言っているのかもどうしてここだけ一人称なのかもわからない自己紹介から始まる冒頭、伏線なしに交通事故が発生してしまう物語の結構の弱さ、クライマックスにおける改行連発と内言の過度の前景化、それを含めた文章の洗練されてなさ、といった技術的不足は割と指摘できるわけですが、それでもこの小説を読後感の良い真っ当な成長譚として評価したいのは、一見都合の良さが目立つ主人公の成長ぶりを、いかにもありそうな理由で離婚した両親などに漂う厳しい現実感や、工作機械を取り扱う場面などに表れているリアルさを経由して描くことによって、ぎりぎりのところで地に足のついたものにしているバランス感覚が素晴らしいと思うからです。
- 25 光あふれ降りそそぎ (採点:10)
- 「他人に、無条件に何かを譲らせる魅力を持つことを、自覚している」とか「決して自分と佳奈名の一対一の関係だと錯覚してはいなかった」とか「だから、それを取り上げるのは溶の役目だった」とか、登場人物の行動原理や立ち位置が裏側に至るまで事細かに表現されており、一見一本筋な話に豊かな奥行きを与えていると思います。またともすれば停滞の原因になりかねないそういった説明的な文章を、密度と勢いのある会話文に上手く乗せることによって、冒頭から結末まで流れるような滑らかさを実現しえていると感じました。閉塞的な序盤と中盤から、海に象徴される明るい終盤へと物語を一気に落とし込むことによるカタルシスは並大抵のものではありません。というわけでとても面白かったです。
- 26 ぽいんと・おぶ・のー・りたーん。 (採点:4)
- 凄く既視感があるんですけど(笑)。
文章力は基本的には高いものの、ところどころに不快な生硬さというか不必要に凝ったがための不自然さが感じられます。魔法少女ものとしては過剰なほどに組織や装備にこだわるある種のペダンティズムと合わせて、ファンタジーをファンタジーらしからぬリアリティで武装する効果を上げている、とは言えないでもないですが、やはり普通に直すべき点だと思います。
例の既視感が感じられるおかしな魔法少女的空間に対して、外部の視座を持っているためにそのおかしさを指摘しうる独立偵察隊隊長の独白が、実はこの小説の中で最も面白い箇所なのではないかと思いました。
- 27 Out of Eden (採点:3)
- 文章は完成されていますし主題も明晰です。が、それを上手いことフィクションに仕立て上げることが出来ているかと言われると微妙です。月並みな批判であることを承知で言えば起承転結の起で物語が終わっていますし、物語以外に何かこの小説を支える論理が存在しているようにも見えません。カンパンマンの挿話がかろうじて支えているのみ、という印象です。
- 28 。兄弟への道 (採点:7)
- ネタが好みとは言いがたいので点数を大幅に引き上げることはできないのですが、これは無意味に上手いと言わざるをえません。全編で繰り広げられる馬鹿馬鹿しい言い回しが素晴らしい。欠点は二重に回想を挟み込む形式になっているのがややこしいということくらいでしょうか。
- 29 いつも心に弾丸を (採点:1)
- 読んでみたら本当にC級だった(笑)。というわけであらゆる点でどうしようもありません。頑張ってください。
- 30 August, in the box (採点:3)
- 表側だけ見てもなんてことない話で、しかし何か仕掛けがありそうな予感がするので裏を読んでみようと考えましたが、読み切れませんでした。点数は、特に裏表のない、書かれたままの話だと仮定して付けています。それにしてもどう読んでいいのかひたすら困る話で、私の読み手としての未熟さこそがむしろ露呈している感じで、なんか負けた気分です。
- 31 巫女が征く! (採点:4)
- 俗に言う「人間が書けていない」作品ですが、古典的小説観に則ってそれを素朴に欠点とするよりは、それが可能にしている、軽快で勢いのある文体と、常識的に見ればありえないストーリーと、人命の軽さの描写のほうをこそ評価したいと思います。とはいえ残念ながら、積極的に点数を引き上げるには些か完成度が低いと言いますか平凡な感じです。
- 32 ツニ・ロック・フェスティバル (採点:1)
- 申し訳ないのですが凡庸なファンタジーだとしか感じられません。音楽祭という設定には多分に可能性を感じるので、オークやらゴブリンやらと戦ったりせずにそちらを綿密に描き出してみれば良かったのに、と正直思います。まったく別の小説になってしまいかねませんがご一考ください。
- 33 星の話 (採点:9)
- 煌びやかなイメージと強靭な文体が揃った良質な幻想小説だと思いました。ある種の幻想小説にありがちな陰湿さから距離をとっており、文章に良い意味での軽さが漂っているのも良いと思います。
- 34 クリスタライズ / ドロップ (採点:10)
- 独特のリズムを持った口語の語りを、夢、語り手のキャラクター化、ボケとツッコミ、自己言及、紋切り型の解体、失われた記憶、などという形で執拗に重層化していくことによって、豊饒な記述を可能としている手付きが見事です。蒼穹に草の海に大樹、というのは多少類型化されたイメージで、これは欠点として指摘すべきところだと思いますが、類型からはみ出る細部の描写が鮮烈な印象を残すので看過はできます。最後、落とし方が一寸素直すぎるかなあと感じました。
- 35 前を向くと見えるもの (採点:3)
- 些か粗雑であるように思われます。こんな影響力の強そうな設定が用意されておきながら、登場人物が設定以外の部分では普通の社会を作り上げて普通に生活していることが極めて不可解ですし、一緒に喫茶店に行ったりしておきながら半年間名前を知らないなんてありえないだろうとか物語にも無理を感じます。全体的にもっと丁寧に仕上げて欲しかったです。
- 36 GENJI☆物語 〜YOUたちみんな僕とセックスしちゃいなYO!〜 (採点:3)
- これでは源氏物語それ自体との対峙を避けてネタ化に走っているだけだろうとは強く思いますが、というかそもそも人間関係が源氏物語と違いすぎてあまり源氏物語という感じを受けないのですが、そんな真面目になって読むべきものでもないかもしれません。不覚にもそれなりに面白く読めてしまったのは事実です。
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