NHK-FM マイ・セレクション('87.8.24)

  • (『終りなき疾走』が終わって)・・・・・
    1980年、27歳。『HOME BOUND』というアルバムから『終りなき疾走』でした。
    このギターソロはスティーヴ・ルカサーでね。
    で、ギターも凄い疾走感のあるギターで、伊藤銀次さんというギタリストのかたがいらっしゃるんですが「ルーカサーのテイクの中でもベストに近いもんだなぁ」と言ってたのが、我ながら・・・というか、自分のことのように嬉しかったのを覚えています。

    えーしかし、このアルバムを出した後も、自分では凄いいい物を作った。やっと自分らしいものを作った、という自負があったんだけど、相変わらず業界は冷たく、えージャーナリストも冷たく、ほとんど無視された形で・・・
    で、コンサートはその頃、ツアーをやり始めて1年で100本以上やってたのかなぁ。
    でも熱狂的なね、支持をしてくれるお客さんはいたんだけど、やはりホールは一杯にも、半分にもならないっていう感じで、何とかしなきゃいけないなぁと思ってたら、ある突飛な発言があって。
    「武道館でやろうぜ!」
    「俺達これだけのステージやってんだったら、もっと多くの人に見てもらわなきゃだめだよぉ、浜田!」
    なんていうんでね。その時は「え〜〜」って言ってたんだけど・・・
    だって当時は東京で一番大きなホールと言っても日本青年館くらいでね。

    で、ラジオの番組で確か山本コータローさんだったと思うんだけどこんなこと言うのよ。
    「え〜〜浜田ほんとにやるのぉ?俺の観た武道館のコンサート、一番入ってなかったのゲスフォーかなんかで、アリーナ前から2列目しか客いなかったぜ」
    とか、そんな話ばっかりするのね。「本当に大丈夫かなぁ?」って不安に思った。
    でも、例えアリーナだけのお客さんでもいいステージやって、もっと多くの人に見てもらって、コンサートツアーにも来てもらえるような体制にしたいなぁ、っていうことで思いきって武道館やったの。
    で、今でこそ武道館ていうとね、何時間でチケット売り切るか、新人が何時間で売り切るか・・・みたいなとらえられ方なんだけど、その頃まだほんとにビッグな外タレ、日本のアーティストだと5,6人しかやったことがない時代で、結構あの、新しい奇抜なスタイルだったのは確かです。

    いよいよ武道館の当日。赤坂のね、小さな喫茶店があるのね。朝の11時くらいじゃないかなぁ。板倉とか、町支とか、ドラムの俊ちゃんとかが顔面蒼白でね、「だめ、一睡もできなかった。」とかね。
    で、楽屋に入って、みんな何か食べなきゃ体が持たないって知っていながら、口に入れようとするともどしそうになるわけね、緊張で。
    今考えてみるとねぇ可愛いなぁと思うんだけど・・・。
    1万人クラスのコンサートってやったこと無いわけだから、それまで800人くらいの前でしかやったこと無いわけだから、もうみんな「吐き気がする」とかね、「このまま家に帰りたい」とかね。
    そうしてやった武道館コンサートっていうのは、ま、僕の思い出の中のステージ、良かったステージの一つじゃないかと思います。

    その頃ステージでやった曲っていうのは『愛の世代の前に』という81年の秋に出したアルバムからが中心だったんだけど、その中から『ラストショー』という曲を選びました。これを聴いてください。

    ・・・・(「ラストショー」がかかる・・・・)

  • 「ラストショー」が終って・・・・

    1981年、僕は28歳でした。『ラストショー』。
    えー、ある男がいた。そこで、その男はずっと30くらいになるまで役所で簿記係をやってたのね。ところが遠い親戚の人が死んで、纏まった遺産が入った。
    それでその男はね、船を買ったのね。で、船、ヨットに乗って、もともとヨットがすごい好きで本は読んでたんだけど、・・・ヨットに関する本をね。自分で操作するのは初めてなんだけどスッタモンダしながら。あちこちの島を巡って、最後にアフリカの近くセイシェル諸島の小さな島にたどり着いたのね。
    その頃船はもうボロボロでね。男は島にたどりついて自分は今度は、自分で落ち着いて船を造ろうと。昔ながらのスタイルで船を造って暮らしていこうと決めたわけ。
    その島はほんとにいい人たちばかりでね、その男は島の人達から見れば異邦人なんだけど、凄い気に入られて、ま、女の子にはもてるし、島の人には大切にされるしっていうんでね、島の老人に船の造り方を聞きながらコツコツコツコツ船を造っていたわけ。
    で、いよいよ船ができあがって、完成したっていうんで、明日は進水式というんで、島の人たちが大パーティーをやってくれたのね。
    飲めや歌えで、女の子と踊ったりひょっとしたら女の子とひとりちょっとフケて砂浜で楽しんだりなんかしていたら、ある島の若者が「大変だぁ〜」とかって走ってきた。

    行って見るとできたばかりの船が燃えてたわけよ。
    で、すごくがっかりして、島の人もがっかりして・・・。「でもいいじゃないか。また船を最初から作り直せば。木はいっぱいあるし」 てうことで。
    半年位かけた船は灰になってしまったけど、またコツコツ造り始めた。
    そしてまた船ができあがったのね、そしてまたパーティーをやってると、また船が燃えたの。だけど、今度は誰が火をつけたかわかった。何故ならばその…、火をつけられちゃいけない、きっと放火だっていうんでね、それを当番で見張ってた若者がいたからね。
    そして船に火をつけたのは実は作ってた男本人だった。彼は泣きながら船に火を放ってた。
    その男っていうのはつまり、その島から出て行きたくなかったわけ。その島が凄い好きだったからね・・・。
    でも、船が出来あがったら、「島を出て行かなくちゃいけない。旅立たなくちゃいけない」、と思うようなタイプの男だったという物語があるんだけど・・・。

    その男は結局、島のみんなに「そんなに島が好きだったらここにいればいいじゃないか」といって止められるという結末なんだけど・・・。
    俺もなんか同じようなタイプで、船ができあがったら、そこがどんなに気に入ってても、出て行かなきゃいけないと思うようなタイプの男なんで、その物語が凄い好きなんだけど。
    さて、次の曲は『ON THE ROAD』

    (『ON THE ROAD』がかかる・・・)

    ⇒⇒ 続く⇒⇒

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